第48話 異世界は怖い所なんだな~

 穂花のアイアンクローで顔が変形している一真は兄である辰己たつみに香織との出会いについて尋ねた。


「ところで兄さんは夏目さんとはいつから?」

「まあ、つい最近だな。でも、昔から付き合いはあったんだ」

「昔からとはいつぐらいのころから?」

「お前が小学生くらいだよ。ほら、俺が身体強化の異能に目覚めて道場に通ってただろ? そこの道場に香織がいたんだよ」

「へ~。そうなんだ」

「なんかあんまし興味なさそうだな」

「まあ、ぶっちゃけ……」

「そうか。ところでいくつかお前に聞きたいことがあるんだが」


 辰己の目線は一真の背後にいる三人に向けられた。

 アリシアとシャルロット、そして桜儚を見てから一真に目線を戻すと辰己は動揺を抑えるように深呼吸してから質問をする。


「魔女アリシア・ミラーに聖女シャルロット・ソレイユ。そして謎の美女。お前、後ろの三人とは一体どういう関係なんだ? それから、学園対抗戦で見せたあれはマジなのか?」

「ここでは言えないかな。ちょっと、二人きりになれる場所に移動しない?」

「わかった。香織、悪いけど少し一真と話してくるから、しばらく待っててもらえるか?」

「あ、はい。わかりました」


 一真と辰己は応接室へ戻り、二人っきりの状態になる。

 一真は辰己に気付かれないように防音結界を張り、外へ音が漏れないようにしてから先程の質問に答えた。


「えっと、さっきの質問なんだけど、その前に兄さんには伝えておく。俺が紅蓮の騎士なんだ」


 突拍子もないことを言い出したと思ったら、目の前で一真が幻影魔法を使い、紅蓮の騎士に姿を変えた。

 それを見た辰己は驚きのあまり、ソファから立ち上がって大声を出した。


「うわあああああああああっ!?」

「どうどう」

「え、は? なんで一真が! いや、そんなことよりもお前が紅蓮の騎士だったのか!?」

「とりあえず、落ち着いて。簡単に説明すると俺はトラックに引かれて異世界に召喚されたんだ。そんで異世界で魔王を討伐した勇者で、その褒美としてこっちの世界に帰ってきたんだけど、こっちの世界でも魔法が使えるんだよ」

「マ、マジか……! ところで異世界って獣人とかエルフとかいた?」

「勿論」

「おお……! って感動してる場合じゃなかった。じゃあ、学園対抗戦で見せた皐月流とかいう出鱈目な殺人術は嘘でいいんんだな?」

「そうそう。で、最初の質問に戻すけど、アリシアとシャルは友達で、もう一人の女は夢宮桜儚って言う名前で俺の部下なんだ」

「そういうことか。紅蓮の騎士が政府所属だから部下を貰ったんだな」

「一応、補足しておくけどアイツは元凶悪犯罪者。迂闊に近付かないでね」

「とんでもない奴を部下にしてるんだな……。大丈夫なのか?」

「俺が負けることはあり得ない!」

「それなら安心したわ……。まあ、そもそも紅蓮の騎士なんだし負けるはずがないか~。しかし、一真が紅蓮の騎士だったとはな~。俺の上司になるのか?」

「兄さんも国防軍所属だけど、俺は特別扱いだから違うんじゃない?」

「ふ~ん。まあ、なんにせよ、もし一緒に働く事になったらよろしくな」


 あっさりと受け入れるあたり、さすがは一真の兄であった。

 一緒に悪ガキトップスリーとして育ってきたゆえの信頼度である。


「そういえば兄さん結婚って婿養子なの?」

「そりゃあな。俺は婿入りだ。だから、苗字も皐月から夏目に変わる」

「そっか~」

「お前はどうなんだ? まだ学生だけど、あんな美人が三人も一緒なんだからそういうのは興味あるだろ?」

「あるけど、あの三人は違うよ。友達と部下だし」

「お前、マジでそれ言ってるのか? 俺なら多分誘惑に負けるぞ」

「まあ、異世界で散々な目にあってきたからね~。迂闊に手を出すと死ぬかもしれん」

「異世界怖いな……。じゃあ、今の所彼女を作る気とかないのか?」

「いや、それは作りたいんだけど中々難しくて」

「どっちなんだよ!」


 矛盾しているような発言をする一真に可笑しくて腹を抱える辰己。

 ひとしきり笑った辰己は目元を拭ってから一真に真剣な目を向ける。


「なあ、一真。お前にこんなことを頼むのはどうかと思うんだけど、香織のことを守ってやってくれないか? ここの所、物騒な事件が続いてるだろ? 出来るだけ傍にいてやりたいんだが俺は国防軍だから難しいんだ」

「あ、それなら問題ないと思うよ。俺が作ったお手製のお守りがあるから」

「お守り? それってどんなやつなんだ?」

「危険が迫ったらバリアを張って守ってくれるんだ。キングや太陽王の攻撃でも防げると思う。試したことはないけどね」

「そんな代物があるのか。それなら安心だな。ところで、香織はお前が紅蓮の騎士だってことは知ってるのか?」

「知らないよ。でも、俺が普通の支援科じゃないってことは理解してると思う」

「まあ、学園対抗戦を見てたならそうだよな。俺もあとで公式から配信された動画見たけど、映画を見てる気分だったわ。なんだよ、あの動き。CGでも再現できるか怪しいぞ」

「簡単に再現されたら困るわい」


 しばらくの間、雑談で盛り上がっていたが他の人達を待たせているので適当に切り上げると二人は応接室から出て行く。

 廊下に出ると、女性陣も何か盛り上がっていたようで笑い声が聞こえてくる。


「ごめん。少し待たせたか?」

「ううん。私達も色々と話してたからそんなに待ってないよ」

「そうか。それならよかった」


 辰己と香織は穂花への報告が終わったので、これから実家へ戻るそうだ。

 そちらでも婚約の件について報告をするようで今日はそちらで泊まることになっている。


「結婚式はいつすんの?」

「う~ん。香織が卒業してからと俺は考えてるが……」

「私は今すぐにでもしたいです。こういうご時勢ですし」

「学生結婚か……」

「辰己さんは国防軍だし、お母さんとお父さんも許してくれると思うんだけどな~」


 将来性の全くない職業ではなく、国防軍という信頼も実績もある仕事に就いている辰己なので香織の両親からは太鼓判を押されている。

 それゆえに、学生の香織との挙式も問題なく許されるのだ。

 世間一般から見れば時期尚早と思われるが相手が国防軍であれば、むしろ羨ましく思われるだろう。


「ハ、ハハ……。その辺については話し合って行こうぜ」


 とはいえ、辰己は大人で香織はまだ子供だ。

 かつては法律が改定され、男女共に十八歳から婚姻関係を結ぶことが出来たがイビノムにより人口が減少した結果、現在は十五歳から結婚が可能となっている。

 つまり、今すぐにでも式を挙げて夫婦の契りを結ぶことは可能なのだが、そうなると年齢差がある辰己は間違いなく友人、知人から謂れのないレッテルを貼られる。

 ようはロリコンだと批難されるかもしれないのだ。

 その可能性がある以上、簡単に辰己は首を縦に触れないのである。


「兄さんをバカにする奴がいるなら俺が消し炭にするけど?」

「やめんか、バカタレ! あと、ナチュラルに俺の心情を読むな」

「ごめんて。でも、力にはなるから」

「ああ。その点だけは助かるが、あんまり無茶はするなよ」

「当人同士の問題に口を挟むような奴がいなければね……」

「……連れに言っておくか」


 一真の黒い笑みを見て辰巳は友人達には忠告を出すことにした。

 死にたくなければ妙な真似はしないようにと、辰巳は友人達に忠告して回るのであった。


 辰己と香織が出て行き、やることもなくなった一真はどうしようかと悩んだ。

 アリシアとシャルロット、それから桜儚を連れて自室に戻り、これからどうしようかと相談する。


「なあ、これから何する? もうやることないんだ」

「では、訓練はどうですか?」

「俺はいいけど、アリシアは?」

「もう充分よ。一真がパワードスーツ作りに励んでいる間、猛特訓したんだから」

「そっか~。しかし、暇だな」

「それなら簡単なゲームでもしてみたら? 幸い、ここには遊べるものが沢山あるんだから」

「そうするか」


 桜儚の提案で一真達は人生ゲームをすることになった。

 人生ゲームの最中に一真が結婚マスに止まり、誰が結婚相手になるのかと壮絶な戦いをアリシアとシャルロットが繰り広げたが、普通にルーレットで桜儚が選ばれて二人は落ち込んだ。

 その後も意外と盛り上がり、ゲームを楽しんで時間を潰すのであった。


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