第47話 桃園の誓いはどこにいったの!

 ◇◇◇◇


 四人分のパワードスーツに加えて対超巨大イビノム用ロボットまで完成させた一真は無事クリスマスパーティに参加することになった。

 現在は、クリスマスパーティで行われるプレゼント交換で用意するプレゼントを選んでいる。

 予め、上限は決められており、一人三千円までだ。

 高校生なのだから、もう少しあってもいいのだが家庭の事情もあるだろうということで三千円となっている。


 一真は参加予定のアリシア、シャルロット、桜儚の三人と一緒に街へ出かけていた。

 ちなみに桃子はパワードスーツを受け取ったら、さっさと自宅に帰ってしまい、クリスマスパーティまでは休むと豪語したので一真は彼女の意向に従った。


「マフラーとかどう?」

「無難ね。悪くないと思うわ」

「いいと思いますよ。男女混合のプレゼント交換会なのですから、あまり奇をてらったものよりも全然いいです」

「私としてはネタ枠でもいいと思うのだけれど?」

「個人的にはネタに走ってもいいんだが、折角のクリスマスパーティなんだから真面目なのがいいだろ」


 意外な答えであるが、そもそも一真は施設で育ったため、クリスマスではプレゼントをもらい、上げていたりもしていた。

 それゆえにプレゼント選びは真面目にやっているのだ。


「ねえねえ、一真! 私達にプレゼントはあるの?」

「何か欲しいものでもあるの? アリシア達はお金に困って無さそうだからいらないと思ってたけど」

「あ~、まあ、そういう認識よね。でも、やっぱり女の子だからさ」

「それはごめん。気が利かなくて。なにかリクエストでもある? 俺が用意できる範囲でならプレゼントするよ」

「え、そう言われると困るわね……」


 アリシアもシャルロットも金は持っているので限定品でもない限り、手に入らないことはないので欲しいものはないのだ。


「そういうことでしたら、私は一真さんの一日が欲しいです!」

「え、どういうこと?」

「一日だけ私に付き合って欲しいんです。他の人抜きで」

「つまり、それってデートということか!」

「まあ、そうですね」


 思ってもいない展開に一真は警戒をするもシャルロットが何かを企んでいるはずもなく、悪意を感じられなかった。


「俺なんかでいいの?」

「一真さんがいいんですよ~。それに責任を取ってもらわないと」


 赤面して恥ずかしそうに両頬を押さえているシャルロットに一真は動揺していた。

 シャルロットの口から放たれた責任という言葉に一真は身に覚えがなく、非常に困惑しており、先ほどから視線が右往左往している。


「(えっ、えっ、えっ? 責任? もしかして、知らない間にヤッたの、俺? いや、そんはずはない。でも、シャルロットは責任を取れって……)」


 自覚していないがシャルロットの身も心も一真が変えたということは言い逃れようのない事実である。

 ただ、一真はそのことについて自覚していないだけで他の者達はシャルロットの発言を理解していた。


「(あ~、そっか。一真は自分が何をしたか理解してないんだ……)」

「(ふふ、面白いことになってきたわね~。これからどうなるのかしら?)」


 しかし、彼女の発言の意味を理解しているが先を行かれるわけにはいかないとアリシアも一真の時間が欲しいと強請ねだる。


「それなら、私も一真とデートがしたいわ!」

「アリシアも? それなら、午前と午後に分けてもいいかな?」

「私はいいですよ。アリシアはどうします?」

「私もそれでいいわ」

「じゃあ、日時を決めるか~」


 アリシアがどういう魂胆なのかは分からないが、とりあえず話を逸らすことが出来たので一真はその期に乗じてシャルロットの発言を頭から消した。


 全く解決していないが、ひとまずは保留ということにして一真はクリスマスプレゼント選びを真面目にやり、無難なものを選んで終わった。

 それから、ショッピングを続けて適当に切り上げてからアイビーへ帰る。


 アイビーに帰ってきた一真は荷物を自分の部屋に運ぼうかと考えて玄関を潜ると、見覚えのない靴が目に映った。


「あれ? 誰か来てるのか?」

「お客さん?」


 一真の横から顔を出すアリシアは客が訪れたのだろうかと尋ねた。


「さあ? とりあえず、荷物を部屋に運んでから確認してみるか」

「じゃあ、私達は部屋に戻ってますね」

「おう。また後で」


 シャルロット達と別れて一真は部屋へ向かい、荷物を片付けると、すぐに三人と合流した。

 そして、一真は気になっていた客人が誰なのかを確かめる為、応接室に向かうと、中から懐かしい声が聞こえる。


「うん? この声は……兄さんだな」

「兄さん? 貴方、兄がいたの?」


 応接室から漏れた声を聞いて一真は声の主が兄である事を確信した。

 一真の呟きに反応した桜儚は兄がいることを初めて知り、オウム返しのように尋ねた。


「義理のだけどな。ていうか、養護施設なんだから分かるだろ」

「そういえばそうだったわね。挨拶しないの?」

「応接室での話が終わったら会いに行くさ」


 ということで一真は三人を連れて、食堂へ向かい、おやつを食べる事にした。

 とはいえ、一真達におやつが用意されているわけではないので自分達で用意することになる。

 一真はキッチンにある材料を見て、パンケーキを作ることに決めた。

 他の三人は一真が一人でパンケーキを作るということでテーブルに座り、適当に雑談をして時間を潰す。


「出来たよ~」


 呑気な声と共に出されたのはふわふわのパンケーキであった。

 お店に出されているようなクオリティのパンケーキに三人は思わず目を見開き、一真に顔を向けた。


「一真。これって……」

「え? 見て分からない? パンケーキだけど」

「それは分かりますけど、これお店に出ているような出来ですよ?」

「あー、それはほら、前に学園祭で俺の友達がパンケーキ作ってただろ? 俺も負けられないって思ってこっそり練習したんだ」

「貴方って多才ね~。これなら、お店を出せるんじゃない?」

「そう言って貰えると嬉しいが、手間暇かかるから無理だな~」


 などと口にしつつ、一真は作ったパンケーキを頬張り、三人と談笑を続ける。

 パンケーキを完食した一真は食器を回収し、さっさと片付けると、またパンケーキを焼き出した。


「まだ食べるの?」

「いんや、これは子供達の分。材料が残ってたからついでに焼いておこうかなと」


 その言葉に三人は顔を見合わせる。

 どうして、そこまで気が利くのに彼女が出来ないのか。

 それは身をもって彼女達は知っているので、嘆かわしいと溜息を吐いていた。

 何故、三人がこちらを見て溜息を吐いているのか分からない一真であったが今はパンケーキを焼くのに集中しなければと思考を切り替えた。

 残っていた生地を全て使い果たし、子供達と職員の分まで作った一真は職員室へ向かい、パンケーキを焼いた事を伝えた。


 職員から御礼を貰い、一真は三人を引き連れて応接室のほうに向かうと、丁度話が終わったようで中から人が出てきた。


「あ、やっぱり兄さんだったか」

「おー! 一真じゃないか! 元気にしてたか?」

「元気、元気。それより兄さんはいつ帰ってきたの?」

「あ~、そのことについてなんだが……」


 なにやら歯切れの悪い様子だ。

 応接室にいたということは、あまり人には言えないような話をしていたからだろうと一真は見切りをつけた。


「兄さん……。自首しよう」

「なんでだよ! お前が想像しているようなことじゃないわ!」

「じゃあ、応接室で何を――」


 と、一真が尋ねようとした時、応接室から見慣れた女性が出てきた。


「夏目さん?」

「皐月くん?」

「ん? なんだ? 二人は知り合いだったのか?」

「いや、知り合いというか同級生だよ」

「そういえば一真は第七の一年生だったな。任務で忙しかったから忘れてたわ」

「それはいいんだけど、なんで夏目さんがいるの?」

「えっと、それは……」


 一真の問いに恥ずかしそうに俯く香織はチラチラと横の男を見ている。


「あ~~~……一真。落ち着いて聞いて欲しいんだが、実は俺、婚約する事になったんだ。香織と」

「…………はへぇ?」


 兄の口から信じられない台詞が飛び出し、一真は口から魂が零れ落ちそうになってしまった。

 そして、追撃とばかりに香織が口を開いた。


「えっと、辰己たつみさんと婚約したのは本当なの。それで今日は辰己さんの義母様おかあさまである穂花さんに挨拶しに来てたの。その……これからよろしくね」

「そういうわけなんだ。まあ、同級生が義理の姉っていうのは慣れないだろうけどよろしくな」

「…………に、兄さんは孤独死するものだと思ってたのに! 裏切り者め!」


 食って掛かる一真であったが、応接室から最後に出てきた穂花にアイアンクローで止められる。


「止めなさい。みっともない」

「あががが!」


 穂花にアイアンクローを決められた一真はまるでゴミのように投げ捨てられるのであった。

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