第44話 作ろう! 新しい戦隊モノを!

 栄治が仕事を引き受けてくれることになったので、一真は契約魔法で彼を縛り付けて本題へと移った。


「それじゃあ、仕事の話をするけど、そう緊張することはないって」

「い、いやでも、まさか紅蓮の騎士が目の前にいると思うと……」

「もしかして、怖い?」

「そんなことじゃなくて自分みたいなただのイラストレーターが恐れ多いと言うかなんというか……」

「そんな大層なもんじゃないから気楽にしてていいよ。第一、俺はそこにいる聖一さんの義理の息子だし」

「え、えええっ!? マジですか?」

「うん。一真君の言うとおりだよ。僕の奥さんの元旦那さんの息子なんだ。それに話してて分かると思うけど、そんなに怖い人じゃないって」

「ま、まあ、そうですね……」


 とは言うものの、先ほどは圧倒される雰囲気を放っていたので信用は出来ないが安心感は凄まじい。

 たとえ、今ここにイビノムが現れても紅蓮の騎士がいる限り、地球上で一番安全なのは間違いないのだから。


「それじゃあ、気を取り直して仕事の話をしよう。渋沢さんには俺が現在携わっている新型パワードスーツのデザインを頼みたい」

「新型パワードスーツのデザインですか? それは一体どういったものをご希望で?」

「渋沢さんのこれまでの仕事は見せてもらった。具体的に言えば女の子がメカのような鎧を身にまとって戦うやつ!」

「なるほど……」

「数は四枚お願いしたい。それぞれ独自のものにするから」

「使用者が決まってるんですね。よろしければ参考にしたいので聞いてもよろしいですか?」

「アリシア・ミラーとシャルロット・ソレイユ」


 一真の口から飛び出してきたとんでもない有名人の名前に栄治は驚きに固まる。


「…………いやはや、さすが紅蓮の騎士。まさかそのようなビッグスターが出てくるとは」

「出来る?」

「前者のアリシア・ミラーのならすぐにいい案が出そうなのですが、後者のシャルロット・ソレイユはあまりメディアに出てこないのでいまいちピンと来ませんね……。出来れば写真とかありませんか?」

「ちょっと、待ってて」


 栄治に資料が欲しいと言われたので一真はシャルロットにメールを送る。

 その内容はシャルロットの自撮りが欲しいというもので、あまりにも直球な内容であった。

 彼女がそれを読めば勘違いをしてしまうだろう。


 それから数分後、シャルロットから画像が送られて来たので一真は確認の為に画像を開くと、そこには目線だけを隠した下着姿のシャルロットが写っていた。

 非常にけしからない画像であったが男としては大変有り難いものだったので一真は心の中で御礼を言いつつ、シャルロットに事情を説明した。

 それから程なくしてシャルロットから画像が送られてきて、正面、背面、横の三面が写ったものであった。

 勿論、今度は普通の格好であったので一真はこれなら問題ないと栄治にデータを渡した。


「これは有り難いですね。ところで先ほどは四枚と言いましたが残りは?」

「一人はこの子、そんで最後はこいつ」


 一真は慧磨から貰っておいた桃子の写真を栄治に渡し、隣にいる桜儚を指差した。


「わかりました。次に納期についてなんですが」

「最速で頼む」

「最速といわれましても一からですので……少なくとも一、二ヶ月はかかるかと……」

「そんなに待てん。渋沢さん。作業部屋はどこですか?」

「隣の部屋ですが何をするつもりですか?」

「ほんの少し改造するだけだ。案内してくれ」

「わかりましたけど、なるべく壊さないようにしてくださいね」


 誰にとっても作業部屋は大事なものであり神聖なものだ。

 イラストレーターである栄治もそれは変わらない。

 高価なPCに高級オフィスチェアなど壊された日には発狂ものだろう。


「こちらになります」

「ほう……」


 案内された部屋には綺麗に整理整頓されており、仕事部屋には見えなかったが中央に大きなデスクとPCが設置されているので間違いなく仕事部屋であった。


「よし、早速で悪いが改造させてもらうぞ」

「ちなみにどのような改造をするかお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ぶっちゃけ、何も変わらん。変わるのは渋沢さん、貴方だ」

「え?」


 それは一体どういうことなのかと栄治が尋ねる前に一真は時空魔法を発動した。


「あの、何かしましたか?」

「もう終わった。時計を見てくれ」

「は、はあ」


 紅蓮の騎士を疑うわけではないが何一つ変わっていないことに疑心を抱きつつ、栄治は時計を確認した。

 すると、どういうわけかいつもより時間の流れが遅い。

 はて、この時計は壊れてしまったのだろうかと栄治は一真に顔を向ける。


「壊れてはいない。渋沢さんが早くなってるんだ」

「どういうことですか?」

「この部屋に入ると体感時間が早くなるようにしたんだ。だから、一時間が一日のように感じるようになっている」

「そ、そんなバカな!」

「まあ、実際に試してみたらいい。しばらくここで作業しててくれ」

「……分かりました。流石に信じれそうにないですがやってみます」

「じゃあ、俺はしばらくそこの漫画を読んでてもいい?」

「私は絵を描いてますのでご自由にどうぞ」


 と言うわけでしばらく栄治は作業に入り、一真は待っている間、暇だったので部屋に置いてある本棚から漫画をとって読み始めた。

 一真が五冊目を読み終えて次の巻へ手を伸ばした時、栄治が作業を終えたようで顔を上げた。


「え……。まだ十分も経ってない」

「言っただろ? この部屋だと体感時間は早くなってるって」

「す、すごい! これなら一日か二日もあればイラストが出来そうです!」

「期待してるぜ。それじゃ、一旦リビングに戻ろう」

「はい!」


 一真と栄治はリビングに戻り、今後のことについて話し合う。


「とりあえず、前金で半分払っておこうか?」

「いえ、後払いで大丈夫です。ご期待のものが出来てからの方がいいでしょうし」

「俺としては信用してるんだがな……。そういうことなら、そうするよ」「それでは完成次第、叶さんにご連絡をすればよろしいですか?」

「いや、俺にして。連絡先を渡しておくから」

「わかりました。あと、ご希望は先程言っていたものでいいんですね?」

「うむ! エロさとかっこよさを合わせた奴がいい!」

「ご希望に応えれるかは分かりませんが出来るだけ頑張ります。ところでご本人達には許可を貰っているので?」

「貰ってない」

「……大丈夫なんですか?」

「大丈夫。多分、死ぬのは俺だけだから」

「それは大丈夫とは言わないんじゃ……」


 一真の身を案じる栄治だが、そもそも彼は紅蓮の騎士であり、世界最強と呼んで差し支えない実力者だ。

 心配するだけ無駄である。


「あ、そうだ。シャルロットのだけど、彼女日本文化が好きだからくのいち衣装とかいいかも」

「参考にします。他には何かありませんか?」

「う~ん……」


 首を捻り、腕を組んで考えるがアリシアも桃子も特に拘りはないだろう。

 そして、隣にいる桜儚はどのようなものでも構わないと言っているので考えるだけ無駄であった。


「注文は特にないな。あとはそっちに任せる」

「わかりました。では、期待に応えれるよう頑張ります」

「おう!」


 商談は成立し、一真は満足げに栄治の家を後にした。

 転移魔法で倉茂工業へ戻ろうとした時、聖一が意を決したかのように声を掛けてくる。


「一真君。大切な話があるんだ」

「なんです?」

「今回四人のパワードスーツを作るんだよね? それで思いついたんだけど……一真君。新しい戦隊モノになってみる気はないかい?」

「それはつまり俺がニチアサにデビューするってことですか?」

「そういうことになるね。知り合いにテレビ局の人がいるからすぐに企画は作れそうだけど、どうする?」

「うむむ……」


 とてつもなく面白そうな話であり、尚且つ男の子としての心が揺れ動く話だ。


「それとついでに巨大ロボを作ったりしてみるのも面白そうだとは思わないかい?」


 聖一は一真のことを理解し始めていた。

 良くも悪くも調子に乗りやすく、煽てれば即座に動くと言う事を。


「それはいいアイデアですね! やりましょう!」

「そうこなくっちゃ! それじゃ、僕は早速掛け合ってみるね!」

「はい!」


 いてもたってもいられないと一真は慧磨に電話をかける。


「もしもし、慧磨さん。今大丈夫?」

『一真君か。何か用かね?』

「慧磨さん。巨大ロボット欲しくないですか?」

『……何をするつもりだ?』

「以前、戦艦並みに巨大なイビノムが現れたでしょ? その対策として巨大ロボットを作って見てはどうかと思いまして」

『君が考えたとは思えない話だな。誰の入れ知恵だ?』

「パパでしゅ」

『義理のほうか……。確か玩具メーカーに勤務していると聞いていたが、そういうことか。上手く乗せられたようだな』

「ダメッスか?」


 残念そうな声色の一真に慧磨は聞こえないように溜息を吐くと、本音を告げた。


『……本音を言えば海岸部に対巨大イビノムの防衛システムを作ればいいだけだ。巨大ロボットなど非効率なものよりいいだろう』

「まあ、そうですね……」

『だが、君には多大な恩がある。好きにしたまえ』

「え! いいんですか?」

『構わない。ただ一つだけ注文がある。誰が乗ってもいいようにしておくんだ』

「もしかして、乗りたいんですか?」


 一真の問いに慧磨はニヤリと口角を吊り上げた。


『巨大ロボットは男の浪漫だろう。嫌いな男はいるかね?』

「わかりました! お任せください!」


 電話を終えた慧磨に秘書の月海が声を掛けた。


「ご機嫌ですね。何かいいことでもありましたか?」

「子供の頃の夢が叶うかもしれないと、そう思っただけさ」

「それはよかったですね」


 慧磨も立派な大人ではあるが、幼い頃には夢見てきたのだ。

 巨大なロボットに乗って悪と戦うというものを。

 叶うことなどないと思っていたものが、叶うかもしれないと分かれば思わず頬が緩んでしまうのも仕方がないことであった。

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