第43話 神絵師ゲットだぜ!

 一真は魔法と科学を融合させた革新的技術をお披露目したまではよかったが、彼にしか出来ない上に彼の血が必要不可欠ということで量産化は難しい。

 とはいえだ。

 今回、開発する新型パワードスーツは完全オーダーメイドであり、量産型ではないため何の問題もない。


「というわけでエネルギー問題は解決。ついでに面白そうな装備を皆で考えようぜ!」


 一真の一言により、男達は効率やコストなど一切考えず、浪漫を追求した武器を各々作った。

 頭の悪い武器ばかりであったが、その性能は凄まじく、既存の兵器を凌駕するほどであった。


 しかし、最初に言ったとおり、コストや効率、重量、使い勝手などを無視したものなので非常に使い辛く、どう運用すればいいかわからないものばかりである。


「うっひょー! すげー!」

「フハハハハ! どうだ! これが浪漫だ!」

「ブオン、ブオン!」

「最高の仕上がりだ!」

「芸術は爆発だ! 昔の人はいい言葉を作ってくれた……」

「オメガ粒子砲……。まさか実現できる日が来るなんて感動だ」

「やはり、ドリル。ドリルこそ男の武器よ……」


 作業員たちが作り出した武器や兵装は間違いなく世に出してはいけないものばかり。

 だが、そのようなことは関係ない。

 今回の件に関しては全て一真が一任されているのだから、彼がOKといえば許されるのだ。


 魔法と科学を融合させ、再現不可能な兵器を作り上げた一真達。

 きゃっきゃっと幼子のように盛り上がり、さらなる武器を求めて開発を続けようとした。

 その時、開発チームのリーダーが研究室から飛び出してきて、ナノマシンの完成を告げたのである。


「ついにナノマシンが完成したぞ!」

『おおおおおおおーーーーっ!!!』


 これでようやく次のステップに進めると作業員達が歓声を上げる。

 いよいよ、新型パワードスーツの創作に移れるのだ。

 その盛り上がりようは異常なものであった。


「一真くん、一真くん」


 作業員達と大盛り上がりしている一真のもとに聖一が寄ってくる。


「どうしたんすか?」

「イラストレーターさんと連絡が取れたんだけど、パワードスーツの開発は国家機密でしょ? どう伝えればいいのかと思って」

「ああ。なるほど。直接交渉とか出来ます?」

「出来ると思うよ。ビデオ通話にする?」

「住所とか知ってます? 俺は行ったことある場所なら転移出来るんで、すぐに向かいましょう」

「だったら、一度僕の家に行ったほうがいいね。そこからの方が近いから」

「わかりました。俺は指示を出してくるんで、少し待っててください」


 聖一の話を聞いて一真は直接出向いたほうが早いと判断し、作業員達に指示を出した。

 そして、放置していた桜儚を呼び寄せて、聖一と三人で彼の家に転移をするのだった。


「よし。じゃあ、ちょっと待っててくれる? 仕事道具を持ってくるから」

「ノートPCとかです?」

「うん。今回は必要そうだからね」


 聖一が仕事道具を取りに行っている間、一真は桜儚と二人きりである。


「そういえばお前は大人しかったな。何かやらかすと思ってたんだが」

「残念ながら私よりも夢中なものが沢山あったからね。彼等には時として譲れないものがあるのよ」

「なるほどな。お前の美しさよりも魅力的なものがあったからか」

「そういうことよ。でも、ああいう人達は見ていて楽しいわ」


 ひたむきに頑張る人間は見ていて気持ちがいいものだ。

 汗を垂れ流し、苦しいはずなのに生き生きとした顔を見せられれば自分も頑張ろうと思うだろう。


「お前は本当に厄介な女だよ。ついつい気を許しちまいそうになる」

「あら? 別にいいのよ。私に溺れても」

「底なし沼に沈むつもりはない」

「退屈はさせないわ」

「アホ抜かせ」


 しばらく桜儚と一真が話していると聖一が仕事道具の入った鞄を持って出てきた。

 聖一の準備が整ったの確認して二人は会話を中断した。


「ごめん! お待たせ」

「そんなに待ってないですからいいですよ。それじゃあ、行きましょうか」

「うん。もう連絡してあるから道案内は任せておいて」


 二人は聖一の案内に従い、後ろを歩いて行く。

 道中、人目を惹く桜儚に多くの通行人が振り返っては呆然としていた。

 一緒に歩いている聖一は後ろにいる桜儚を一瞥し、一真に話しかけた。


「今更なんだけど、彼女とはどういう関係なんだい? 見たところ、一真君とは歳も離れてるみたいだけど……」

「彼女は俺の部下です。政府は俺にハニトラを仕掛けてるんですよ」

「ええ!? まあ、確かに一真君に外国へ行かれては困るだろうけど……そこまでするのか」


 しれっと嘘をつく一真だが、聖一は桜儚の容姿を見て納得してしまった。

 一真の言うとおり、ハニートラップとして送り込まれてきたいうだけあって桜儚はとても美しいのだ。

 何も知らない聖一が一真の嘘を信じてしまうのも無理はない。


「まあ、嘘なんですけど」

「嘘なのかい!? え、じゃあ、彼女はいったい……」

「あ、部下というのは本当です。見た目どおり交渉事には長けてるんですよ」

「なるほど……。久美子さんほどじゃないけど美人なのは確かだしね」

「…………」


 一真からすればどちらも甲乙つけ難い。

 自分を捨てた母親に国家を揺るがした凶悪犯罪者だ。

 どちらも一真にとってはあまりよろしくない女性である。


「ふふ、仲がよろしいですのね」

「アハハ、まあ、僕がゾッコンなだけなんだけどね」

「クソバ……んん! まあ、聖一さんがいいなら俺は何も言いませんよ。むしろ、幸せなのは向こうの方でしょうし」

「僕は充分幸せだから大丈夫だよ、一真君」


 それからも他愛のない会話をしながら、聖一が連絡を取っていたイラストレーターのもとへ向かう。

 電車に乗って三駅ほど移動して、駅からしばらく歩いていくと目的地に辿り着いたようで聖一が足を止めた。


「ここだよ」


 聖一が指を差したのはさほど大きくないマンションであった。

 一真は予想していたものとは違い、聖一に話し掛ける。


「打ち合わせとか喫茶店でするんじゃないんですか?」

「そういうこともあるけど今回の話は人前で出来る事じゃないからね」

「そういえばそうでしたね」

「それじゃ、行こうか」


 聖一が歩き出して二人も後に続く。

 マンションはオートロックになっていたのでイラストレーターに連絡して通してもらい、中へと入っていく。

 イラストレーターがいるのは三階の部屋なので三人はエレベーターを使って昇っていく。

 教えて貰った部屋の前に着いた聖一がインターホンを鳴らして挨拶をする。


「すいませーん。叶聖一です~」

『今、出ます』


 ガチャリとドアがあいて、出てきたのは野暮ったい服装をした男性であった。


「どうぞ」

「すいません。お邪魔します」


 部屋の中へ入った三人はリビングに案内されて、適当な場所に座った。


「これ、どうぞ」

「わざわざ、すいません。渋沢さん」


 渋沢と呼ばれた男は三人にコーヒーを持ってきた。

 テーブルの上に置かれたコーヒーを見て聖一は頭を下げる。


「いえ、お客様を持て成すのは当然のことですから」

「お心遣い感謝します。それでは早速、お仕事の話をさせてもらってもよろしいでしょうか?」

「はい。お願いします」

「それじゃあ、まずは最初に一真君。お願いできるかな?」

「わかりました」


 新型パワードスーツは国家機密事項の為、おいそれと話す事はできない。

 ただし、一真を除いてだ。

 一真がすべての裁量権を得ているので話すも話さないも自由である。


「どうも初めまして。私の名前は皐月一真と言います」

「初めまして。私は渋沢しぶさわ栄治えいじと言います。本日はよろしくお願いします」

「よろしくお願いします。今回、聖一さんのご紹介により渋沢さんのことについてお聞きしました。なんでもメカ系のイラストが得意だとか」

「自慢のようになってしまうのですが、はい。そういったお仕事はよくお願いされています」

「よろしければ拝見することは可能でしょうか?」

「大丈夫です。これまでに描いたものでしたら、どうぞご自由に」


 栄治は立ち上がると部屋を出て行き、戻ってくると手には大きなタブレットが握られていた。

 一真は栄治からタブレットを受け取ると、画面に目を向けて、映っていたイラストを一枚一枚見ていく。


「おお……! すっげ!」


 美麗なイラストの数々に一真は思わず素の口調に戻ってしまった。

 栄治はその反応を嬉しそうに見ており、口元を緩めていた。


「ありがとうございます」

「いえ。それで、どうだったでしょうか?」

「是非、お願いしたいのですが……」

「何か問題でも?」

「今回の仕事は非常にデリケートな問題がありまして」

「はあ。それは一体どういうものなのでしょうか?」

「国家機密に関わる事なので口外しないことを約束し、契約書にサインをして頂きたいのです」

「こ、国家機密!? あの、それは身の危険があるとか?」

「先程も言ったように口外しなければ身の安全は保障されます」

「もしも、喋ったら?」

「命はないと思ってください」

「ひっ……!」

「ご安心ください。秘密を守っていただければ報酬は払いますし、安全は保障しますので」

「…………ど、どれくらい貰えるのでしょうか?」


 喋れば命はないと理解しつつも、国家機密に拘わる仕事だ。

 それゆえ報酬には期待できる。

 好奇心と報酬の魅力に釣られて栄治は一真に問い掛ける。


「相場はどれくらいですか?」

「程度によりますが私の場合は三万から仕事を請けています」

「ふむふむ。ちなみに今までで一番報酬がよかったものは?」

「有名なソシャゲの限定キャラですかね。背景、キャラ、一枚絵、武器デザインなど込みこみで六十万ほど頂きました」

「よろしい。国家機密ですので口止め料も含めて一千万で如何です?」

「は? 一千万? あの冗談ではなく?」

「イラストを拝見させてもらいましたがそれだけの価値はあると思います」

「そう言っていただけると嬉しい限りですが……一千万は流石に」

「安かったか……。そうだよな。命が掛かってるもんな。じゃあ、三億でどうだ?」

「さ、三億!? ちょ、ちょっと待ってください! 本当に払えるんですか?」

「払えるとも」


 自信満々に告げられて栄治は疑ったが、隣で首を横に振っている聖一を見て確信した。


「まさか本当に三億も?」

「払う」

「た、たかが絵ですよ?」

「されど、絵だ。かの有名なゴッホやピカソの素人には良く分からん絵でも何十億とするだろう?」

「それはそうですが、彼等の価値と私の価値は天地ほどありますよ!」

「戯け! お前の価値観で俺の価値観を図るな! 俺にとってはお前の絵に三億の価値はあると言っている! むしろ、もっと出してもいい!」


 口調は荒々しくなる上に雰囲気も相まって栄治は完全に沈黙してしまう。

 しかし、そこまで評価してもらったことについては心底嬉しかった。


「ひ……引き受けます。死にたくはありませんが今回の仕事について話さなければ大丈夫なのですよね?」

「ああ。大丈夫だ。俺が保障する」


 そう言って一真は紅蓮の騎士に変身して栄治を安心させるのであった。


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