第42話 とりあえず、こんな感じで!
「貴方が神か!!!」
驚いていたのも束の間、開発陣の一人が紅蓮の騎士に変身している一真の手を取り、狂信者のように目を輝かせていた。
キングや覇王、太陽王と世界の名だたる強者が出来なかった深海に潜んでいる海洋生物型のイビノムを捕獲してきたことを心から称賛している。
なにせ、無理難題を突き付けて実現したのだから彼が一真を神の様に称えてしまうのは無理もないことであった。
「お、おう。それでこいつで問題はないんだな?」
「ふむ」
瞬時に切り替わる思考に一真は呆気に取られたが頼もしい男であることは間違いないと感心していた。
「サンプルとして生きた細胞を採取したいのですが」
「どれくらい必要だ?」
「ほんの少しで構いません」
「わかった」
本来ならば専用の道具を用いてイビノムの肉体を解剖し、構造を解明するのだがここには一真がいる。
彼は開発陣の指示に従ってイビノムを生きたまま解体し、開発陣が用意していた特殊な液体が入ったカプセルに放り込んでいく。
「これでいいのか?」
「素晴らしい……! まさか、これほど綺麗に解体できるとは! しかも、まだ生きている! 見てください! この命の脈動を!」
「お、おう。分かったから近づけるのはやめてくれ」
まだ死んでいない新鮮なイビノムの肉を一真に見せつける開発者。
ドクンドクンと不気味に鳴動しており、流石の一真も気色悪いと感じて遠ざけた。
「いやはや……。まさか、ここでこのような幸運に恵まれるとは」
「え~っと、それでナノマシンの開発は進められるのか?」
「時間はかかりますが、必ずやご期待に応えてみせましょう!」
「どれくらいかかる?」
「一年から三年といったところでしょうか……」
「それは長いな。よし、俺が環境を作るから、そこで思う存分研究してくれ」
「はい? 一体何を?」
すぐにでもパワードスーツが欲しい一真は一年も待てない。
それゆえに時空魔法を惜しみなく使い、時間の流れを変えた研究室を作り出した。
「ここで作業してくれ」
「特に何の変哲もない部屋ですが……」
「必要な道具や機材はすぐに運び込もう。リストを作ってくれないか?」
「わかりました。少々、お待ちください」
開発者はメモ帳を取り出して、必要な機材と道具、それから薬品などを書いたリストを一真に手渡した。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「わかった。すぐに用意する」
「よろしくお願いします」
渡されたリストをもとに一真は他の作業員たちと協力して、道具や機材を揃えていく。
リストの書かれていたものを全て揃えたので一真は久方ぶりに自身の異能である置換を使い、開発陣の働くスペースに配置した。
「これでいいか?」
「はい。ばっちりです。あ、一つ聞きたかったんですけど、随分ノロノロ動いてましたけど嫌がらせですか?」
「いや、違う。お前達が加速してるんだ」
「……もしや、先程妙なことをしていたのはそれですか?」
「ああ。具体的な説明は省くが、この作業部屋もとい研究室だけ時間の流れが外とは違う。だから、お前達からすれば外にいる俺達は遅く感じるんだ」
「つまり、ここでは時間を気にせず研究に没頭できると?」
「理解が早くて助かる。勿論、拡張する予定だ。俺としてはクリスマスまでにパワードスーツを完成させたい」
「おおお……おおおおお! やはり、貴方が神か! 時間という概念すらも操ってみせるなど神の所業! もはや、世界に存在する全ての異能者など塵芥に等しい!」
「そこまで大層なものじゃない。これは限定的なものだ。ちょっと、あそこの時計を見てろ」
「はい!」
「…………」
妙なことになってしまったと一真は内心溜息を吐きつつ彼の体感時間を停止した。
一分ほど経ってから一真は魔法を解除して、彼に声を掛けた。
「どうだ?」
「なるほど。私だけが止まり、世界自体は動いていたと。時計の針が先程よりも違う事を見れば一目瞭然です」
「そういうわけだ。だから、それほど万能ってことはない。ただ、自身の時間を加速させたり遅延させたりすることが出来るから便利ではあるけどな」
「ああ、要は事故の寸前にスローモーションになる、あの現象を自在に使えるということですね」
「まあ、分りやすく言うとそんな感じかな」
「ふむ。しかし、それを限定的とはいえ、一定の空間を現実時間と隔離出来るのはやはり破格ですね。出来れば、ずっとしていてもらいたいです」
「それはなんでだ?」
「当然、研究の為です!」
「……そうか」
やはり、人と言うものは変わらない。
向こうの世界でも時空魔法を使って研究や研鑽に励んでいた。
当然、俗世のことなど興味もなく自分だけの世界に没頭している変人ばかりだが、こちらの世界も大して変わらないことを一真は知るのであった。
「話は戻るが、これで思う存分研究は出来るな?」
「はい! 必ずや、ナノマシンを完成させてみせましょう!」
「よろしく頼む」
開発陣にナノマシンの開発を任せて一真は手持無沙汰になっている作業員たちのもとへ戻る。
ナノマシンが根幹になるが兵器はまた別である。
一真は近距離、中距離、遠距離とオールマイティに戦うことの出来るパワードスーツを作りたいのだ。
腕にブレード、肩からバルカン、背中からビーム。
とりあえず、男の子が喜ぶようなものを一真はふんだんに盛り込もうと考えていた。
「ナノマシンでそこまで可能か?」
「可能だな。だが、どういうものにしたいかをこちらで考えなければならない。流石に脳波を読み取って、その場で兵器開発など出来るのなら話は別だが戦闘中にそのような真似は余程の天才しか出来ないだろ」
「つまり、ナノマシンを使った兵器を作っておかないといけない訳ですね」
「そうだ。とはいってもナノマシン自体は完成していないから原形をこちらで作っておくということだな」
「でも、確か実弾や燃料をどうするかという課題がありましたよね?」
「それが一番の難題だ。既存のパワードスーツは小さな電池で問題ないが……今回新しく開発するものは莫大なエネルギーを消費するだろう? ナノマシンが無限にエネルギーを回復すると言っても、その回復時間は別だ。必ずエネルギー切れが起こる」
「ふむふむ……」
いくらナノマシンを用いたとしてもエネルギー問題だけは避けては通れない道だ。
現在、太陽光、風力、空気中の窒素や二酸化炭素を利用した画期的なエネルギー装置はあるがパワードスーツに組み込むことが出来るかと言われれば無理としか言えない。
まず重いし、場所を取るのだ。
小型化しても冷蔵庫くらいはするので背中に背負って戦う訳にはいかないだろう。
「エネルギーの問題ですか……」
「ナノマシンを完成させたとしても長時間の戦闘を考慮したら足りないな。別で補わないと短期戦しか使えないものになってくる。流石にそれは限定過ぎるだろう?」
「そうですね」
「ところで一つ気になったんだが」
「なんです?」
「それだ。口調は素のままでいいぞ。時折、敬語になっていたりするがあまり慣れていないのだろう? なら、気楽にしてもらって構わない」
「あ、そうすか……」
「話は戻すがエネルギー問題をどうするかだ。兵器開発は問題ないだろうが、そのエネルギーをどこからもってくるかだ……」
「う~む……。イビノムを捕まえてきてもなんとかならないか?」
「すでに試している。デンキナマズを元にしたイビノムを解剖して発電器官を研究したおかげで現在のパワード―スーツや兵器が作られたのだから」
「うむむ……」
完全にお手上げであると一真は考えるのを止めようとしたが、かつて異世界の賢者と話していたことを思い出す。
「太陽光発電はあるけど月光と星の光は?」
「ある。だが、太陽光に比べれば微弱なもので兵器運用には向いていない。家庭用家電くらいならば可能だが……」
それを聞いて一真は自身の魔力について一から思い出す。
一真は異世界に召喚された際に魔力の生成器官を体に埋め込まれた。
これは現代の医学では確認することが出来ない特殊なものであり、一真はレントゲン検査も普通に取っているが判明していない。
その生成器官があるおかげで一真は魔力を扱う事が出来るのだが、やはり限界と言うものはある。
そこで一真は賢者と話し合って、どうにか出来ないかとあらゆる実験を行ったのである。
それが一真の知識に合った太陽光や地熱、風力、水力、火力、原子力といった現代で使われている発電方法だ。
賢者にそれらのことを大雑把に説明して、魔法でどうにか再現できないかと試行錯誤した結果、一真はほぼ無限の魔力を手に入れた。
そのおかげで元の世界に帰ってきても魔力不足に陥ることなく、思う存分魔法を使えているのだ。
「(魔力を電力に変えればいいのでは? 魔法陣を通して太陽光や月光を魔力に変換し、さらに別の魔法陣で電力に変換。クソジジイと考案した魔法陣なら太陽光や月光、それから星光の魔力変換効率なら莫大な電力を生み出せる! とはいえ、この方法はな……)」
一つだけ問題があるとすればとても危険であること。
一真が勇者であり、元々莫大な魔力を有していたから問題はなかったが常人が試せば間違いなく木っ端みじんに破裂する。
要は一真の許容量と常人の許容量に大きな差があるということだ。
とはいえ、解決策がないわけではない。
変換効率を落として、使用者の許容範囲内にすればいいだけ。
ただし、個人で許容範囲が違うので魔法陣の調整が非常に難しく非効率なので一真と仲間内でしか普及していない。
しかしだ。
今回は魔力ではなく電力に変換するものだ。
であれば、消費電力さえ把握すればいいだけなので楽な作業だろう。
一真は新型パワードスーツに搭載する兵器を厳選し、どれだけのエネルギーを消費するかを計算してもらった。
「(ふむふむ……。てか、携帯みたいに充電が満タンなら充電しないように魔法陣で調節すればいいだけじゃん……)」
あっさりとエネルギー問題は解決することとなる。
一真は適当な部品に自身の血を混ぜ合わせた塗料を使い、魔法陣を刻み込んでいく。
ちゃんと作動するのかどうかを試すために一真は太陽のもとに放置し、魔力が貯まっているかを確認した。
「何をしてるんです?」
「実験さ。とりあえず、効果が確認できたからこの後、話そう」
魔法と科学を融合させた革新的技術であるが一真にしか出来ない上に、彼の血が必要不可欠なので量産化は難しい。
今後、量産化に向けて改善の余地ありということで纏められるのであった。
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