第41話 熱くなれ!

 工場が一真の魔法で広がり、狭く感じていた空間が一気に広々としたものとなって、昌三は指示に従って全員を一箇所に集めた。

 作業員及びに開発陣が一箇所に集まり、これから何が始まるのだろうかとざわついている時、一真が注目を集めるように高台へ上がり、腹の底から大きな声を出した。


「全員注目ッ!!!」


 ビリビリと空気が震えるような大声に工場内にいた者達は全員が一真に顔を向けた。


「本日は良く集まってくれた。俺のような若輩者の我が侭につき合わせるようで悪いが、諸君らの時間をもらいたい。今回の件について話は聞いているだろうが、改めて言わせて貰う。諸君らには新たなるパワードスーツの開発に携わってもらう。既存のものとはまるで違うものを作ろうと考えている」


 一度、息を吐き、吸って一真は見下ろす先にいる者達の顔を眺めてから話を再開する。


「もしかしたら、俺達は世紀の大馬鹿者だと罵られるかもしれない。世間からは指をさされ、嘲笑の対象になってしまうかもしれない。だが、それでも俺はこの新パワードスーツのプロジェクトをなんとしてでも成功させたい。俺のような若輩者が何をと侮っている者もいるだろう」


 一真はもう一度全員の顔を見回し、不敵に笑うと大きく息を吸い込み、怒号を放つ。


「俺は本気だ!!! てめえらが考えている以上に俺は本気で新たなパワードスーツを作ろうと考えている! 既存のものを遥かに凌駕し、技術革命すら起こして見せる! だが、俺には知恵もなければ技術もない! だけども、やる気と根性だけはこの中で一番だと自負している! 若輩者の俺に従うのは癪だろうが、どうか俺に力を貸して欲しい」


 ペコリと頭を下げる一真。

 紅蓮の騎士であることを告げれば、有無を言わさず力を貸してくれたに違いないだろうが、それでは本当に心の底から協力してくれるとは限らない。

 上からの命令で仕方なく協力するという形では真に仲間とは呼べないだろう。

 これから一緒に新パワードスーツの開発を共にするのだから一真は本当の仲間を欲していたのだ。


「……ふっ。青臭いことを言うガキだが熱意は伝わった」


 一真のもとに集まった作業員の一人が一歩前に出てくる。

 男の勲章のような髭面をしており、不敵な笑みが似合う作業員が一真を見上げた。


「口先だけじゃねえってことを俺達に証明してみろ」


 挑戦状を叩きつけるように男は一真を見上げて指を差した。


「勿論だ。俺の持てる全てを使ってお前等の期待に応えてやろう」

「ククク……! つまらない仕事だと思ったが面白くなりそうだ!」

「フフフ、楽しみにしておけ!」


 これからが楽しみだとばかりに男達が盛り上がる。

 上に命じられるまま連れて来られたが、中々に楽しめそうな仕事に男達は胸を高鳴らせるのであった。


 一真は高台から降りて、作業員の中心メンバーを集め、大きな作業机を囲んで話し合いを始める。


「それじゃあ、まずは役割分担……いや、そうだな。どうせなら他の専門家も雇おう」

「他の専門家? そいつはどういうことだ?」

「とりあえず、この設計図を見てくれ」


 一真が作業机に広げたのは昌三が彼の指示を聞いてデザインした新型パワードスーツの原型である。

 それを見た作業員及びに開発陣は首を傾げ、一体どういうことなのかと一真に尋ねた。


「デザインはまあ、悪くはないと思うが何か不満でもあるのか?」

「うむ。これは素人の俺が昌三さんにデザインしてもらったものだが……いかんせん想像力に欠けている」

「そうですね。見る感じ、これはゲームやアニメのものをそのまま代用したものとなっていますね。これでは全くのオリジナルとは言えませんな」

「やはり、そう思うよな。だから、専門家を雇うという話だ」

「まさか、漫画家やイラストレーターでも雇うってのかい?」

「そのまさかだ。こういったものは専門のプロの任せるのがいい」

「なるほど。一理ある。しかし、当てはあるのですか?」

「無論ある。少し待っててくれ」


 話し合いの場から一真は抜け出して、以前連絡先を交換していた義理の父親こと玩具メーカーに勤めている聖一に電話を掛けた。


「もしもし、聖一さん?」

『もしもし、一真くんかい? 君から電話が来るなんて珍しいね。あ、もしかしてクリスマスプレゼントのおねだりかな?』

「ハハハ、当たりです。聖一さん、貴方のお力を借りたい」

『僕の? 言っておくけど、僕は強くなんかないよ?』

「いえ、俺がお借りしたいのは聖一さんの人脈及びにその発想力です」

『おや? なにやら面白そうな感じだけど……何をする気だい?』

「これは国家機密なので口外出来ませんが、話を聞けば聖一さんも乗り気になると思いますよ」

『国家機密か~……。ちょっと、やばい感じ?』

「いえ、全く。ただ、出るところだとやばい感じかもです」

『う~ん……。わかった。一真君には今度ウチに協力してもらう事を約束してもらったからね。僕でよければ力を貸すよ』

「ありがとうございます! それじゃあ、詳しくお話をさせて頂きたいんで、これから迎えに行ってもいいですか?」

『うん。丁度、会社も仕事納めしたから問題ないよ』

「わかりました。すぐ行きます!」


 電話をきると一真は言葉通り、すぐに聖一のもとへ向かった。

 転移魔法で聖一の家に転移した一真は久美子達に事情を話して聖一を倉茂工業へと連れて行く。


「やっぱり、一真くんは凄いね~」

「それほどでもないですよ。じゃあ、ついてきてもらっていいですか」

「うん。いいよ」

「あ、それとこれからする話は国家機密だから口外しないでくださいね。一応、口外できないように出来るんですけど……」

「するつもりはないけど、それだけの話ならした方がいいよ、一真君。たとえ、家族であろうと話しちゃいけないことはあるからね」

「わかりました。それなら契約魔法で口外できないようにさせてもらいますね」


 道すがら、一真は聖一に契約魔法を施して新型パワードスーツのことを話せなくなるように縛り付けた。

 それから一真は聖一を引き連れて話し合いをしていた場所へ戻り、集まっていた人達に聖一を紹介した。


「この人は聖一さんと言って俺の義父とうさん。玩具メーカーに勤めていて、開発チームのリーダーをやっている。今回、連れて来たのは先程話したようにプロの専門家を雇うためだ」

「なるほど。確かに玩具メーカーの人間ならメカニック系のデザイナーと繋がりがありそうですね」

「聖一さん。俺達は、新型パワードスーツの開発を行っているんだ。それでどういったものを作ろうかと話している所なんだけど、いい案が浮かばなくてね。そこで聖一さんの意見と人脈を貸してもらいたい」

「へえ~! 面白そうだね。うん、僕でよければ喜んで手を貸そう! 早速だけど、テーブルの上に広がっているのがデザインかな?」

「そうそう。どう思う?」

「う~ん。コンセプトはいいと思う。だけど、肝心のデザインが既存のものを流用してるね?」

「はい。アニメやゲームを参考にしました……」

「着眼点は悪くないと思うよ。新規のものよりも親しみはあるし、馴染みやすいとは思う。でも、完全新規という点を考慮するなら減点かな」

「ですよね~……」

「大丈夫。そのための僕だからね。こういうメカニック系が得意なイラストレーターの知り合いがいるから掛け合ってみるね」

「お願いします!」


 ということでデザインは聖一に任せておいて、パワードスーツに組む込む兵器開発の話に変わる。


「近接、中距離、遠距離、オールマイティにこなせるものにしたい」

「では、腕にブレードを仕込むとかはどうでしょうか? 他にも肩に砲台を装備させたり、背面から着脱可能の自動砲台など面白そうではありませんか?」

「技術的には可能だが、そうなるとエネルギーや実弾をどうするかだ。熱光線ビーム系の兵器は搭載できるだろうが肝心の燃料をどうする?」

「それにこの小さな兵装にどれだけの兵器を搭載する気だ。身体強化に加えて兵器の搭載など使用者には負担しかないぞ」

「その点に関しては解決方法がありますよ。ナノマシンによる自己増殖機能や自律式兵器の組み立てなどが可能です」

「現実的じゃない。コストが莫大な上にまだ運用すら出来ない代物だろう。アメリカや中華も開発に苦労していると聞いているぞ」


 わいわいがやがやと話は盛り上がり、ああでもないこうでもないと白熱していく。

 話し合いから殴り合いに変わりそうになっていた時、一真が手を叩いてパンと大きく音を鳴らし、全員の視線を集めた。


「とりあえず、分りました。まず一番に必要なものは新技術であるナノマシンですね?」

「そうですね。ただ、先程もありましたがこれは現実的ではありません。現在、ナノマシンの開発は各国で行われていますが難航している状態です。将来的には運用可能でしょうが今現在は不可能です」

「それはどうしてですか?」

「燃料もといエネルギーに関してはクリアしています。太陽光、風力、そして元素を取り込み、ほぼ無限に稼働は可能です。ただ、ナノマシンを繋ぎ合わせ兵器としてはあまりにも脆く、そして一度破壊されれば修復不可能という点で滞ってます。自ら修復し、増殖すら可能になれば運用は可能でしょうが中々難しく……」

「何が必要だ?」

「イビノムです。出来れば海洋生物型、昆虫型。どれもが再生や自己増殖可能な個体が望ましいです。構造を解明し、ナノマシンに応用できれば……とはいえ、これは難しいです。紅蓮の騎士が今回多くのイビノムを生け捕りにしてくれましたが、海洋生物型は浅瀬にいれば深海にまでいます。流石の彼でも難しいでしょう。それに伝手つてがありません」

「わかった。俺が取ってこよう」


 一真の発言にポカンと口を開けた開発者の一人は数秒ほどして正気を取り戻した。


「ゴホン。大変ありがたいお話ですが、どのようにしてイビノムを?」

「それについては後ほど説明する。先程言っていたイビノムがいればナノマシンの開発は進むんだな?」

「……確実にとは言えませんが少なくとも今よりは進むかと思います」

「よろしい! では、準備を始めろ! イビノムの捕獲は俺に任せておけ!」


 そう言うと一真は紅蓮の騎士に変身して全員を驚かせると、すぐにその場から消え去った。

 勿論、行先は決まっている。

 深海に潜んでいる海洋生物型のイビノムの捕獲だ。

 一時間もしないうちに一真はあらゆる海域から海洋生物型のイビノムを生け捕りにし、倉茂工業に運んできた。

 当然、言うまでもなく作業員が驚きに腰を抜かしたのであった。

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