第39話 しょうがないな~

 その頃、自室へ戻った一真はクリスマスパーティに参加するかどうかを悩んでいた。

 本音を言うならば参加をしたいのだが、いかんせん今はパワードスーツの開発が忙しい。

 とはいえ、秘策である時空魔法を使えば大幅に短縮することは可能だ。

 つまり、一日くらい遊んでも平気なのである。


「(メールには十二月二十五日の一日だけクラスの皆で遊ぶって書いてあるから問題はないな……。そもそも俺のクラスは支援科なんだが?)」


 俊介は戦闘科で一真とは別クラスどころか学科すら違う。

 しかし、一真のあまりにも高すぎる戦闘力は学園対抗戦で公になった。

 そのおかげで一真は支援科ではなく戦闘科という認識になっているのだ。

 おかしな話ではあるが第七異能学園どころか全国にある学園の中で一番強い学生が支援科というのだ。

 それゆえに実は戦闘科という認識になってもおかしくはない。


「(とりあえず、幸助たちに……)」


 クリスマスパーティについてクラスメイトであり友人である幸助に一真はメールを送ろうとしのだが、ここであることを思い出してしまう。


「(そういえば暁ってどうなったんだ? やべえ! 今の今まで完全に忘れてた!)」


 学園対抗戦の閉幕式を襲撃し、イヴェーラ教に騙され、魔改造されてしまった暁。

 無力化し、国防軍に引き渡した時に一言伝えているが、その後の状況は一切知らないのだ。

 一真は慌てて暁がどうなったのかを慧磨に確認するのであった。


「もしもし、斎藤さん!」

『どうしたんだ? そんなに慌てて』

「いや、思い出したんだけど俺のクラスメイトの暁がどうなったかを知りたくて」

『ああ。彼か……』

「も、もしかして、死刑とかです?」

『ハハハハ。そんなことはないさ。ただ、彼は罪を犯している。未遂とはいえ多くの人を殺そうとした。それに学園対抗戦で使用したドームも彼の異能でライフラインはボロボロだ。流石に無罪放免と言う訳にはいかない』

「そ、それじゃあ、監獄行きとかです?」

『本来ならね……。しかし、彼の場合は事情があるから政府の監視下において奉仕活動だよ』

「奉仕活動? それは俺がやってるようなことですか?」

『いいや、違う。彼の異能は浮遊だ。資源の調達や運搬に励んでもらうのさ。ただ、学園にはもう行けないがね』

「え……」


 当然の結果である。

 暁は騙されたとはいえ、選んだのは自身の意思だ。

 その結果、大勢の人々を殺しかけたのだ。

 到底許されることではない。

 それでも暁が死刑にならず、牢獄で囚人生活も送らなくて済んだのは一真のおかげだ。

 一真が一人の犠牲も出さず、暁を無力化した上に後始末までしっかりとしていたおかげで彼は決定的な罪は犯さなかった。


『これが私達の出来る最大限の譲歩だよ……』

「……そうですか。今、暁はどうしてます?」

『政府の研究所で実験の毎日だ。彼は浮遊の異能に加えて身体強化まで身に着けている。それに異常なレベルの浮遊について調べてもらっている最中だ』

「…………わかりました」

『止めろ、とは言わないのかね?』

「随分と酷い事を言いますね……」


 そもそも暁が暴走した原因の一端は一真にある。

 そのことは暁本人の口から聞いているのだ。

 だからといって、どうすることも出来ない。

 確かに一真のせいでもあるが最終的に選んだのは暁だ。

 ならば、罪を償うのは一真ではなく暁である。


『まあ、気休めになるかどうかは分からないが悪いようにはしない。最低な言い方になるがこれからは政府の為、国の為、死ぬまで働いてもらうつもりだ』

「…………会う事は可能なんですか?」

『それは勿論』


 顔を合わせることは出来る。

 だが、その後のことまで保証は出来ないだろう。

 お互いにどのような顔をすればいいかわからない。

 暁は勘違いで暴走したが、実際は勘違いではなく正しかったのだ。

 そして、一真は正体を隠すことをやめて、今は国防軍特務部隊として活動している。

 暁がそれを知ればどうなるかは分りきったものだ。


『会うのかね?』

「……時が来れば」

『そうか。わかった。その時は教えてくれ。こちらの方で準備しておこう』

「ありがとうございます」

『それで聞きたいことはそれだけかね?』

「そうですね。暁についてだけです」

『では、こちらからも一つ』

「何かあるんですか?」

『本日、倉茂工業の方にイビノムの素材及びにパワードスーツ開発に必要な人員を送った。君の都合が良ければ今日から存分に開発できるぞ』

「お、おお! それは朗報ですね! 早速――」


 と、意気込んで倉茂工業へ向かおうとした一真であるが、まずはクリスマスパーティについてだ。

 しかし、一真は思い悩む。

 暁は現在、政府預かりの身となっており、いつものメンバーは幸助と太一の二人しかいない。

 その二人も暁の不在に関しては疑問を抱くだろう。

 もしも、暁のことについて聞かれたら一真はどう答えればいいか分からない。

 正直に今は政府のもとで保護されていると言う訳にもいかない。

 何故そうなったかを聞かれるからだ。

 それにどうしてその事を一真が知っているかを知りたがるはずだ。


「(う~ん……。聞かれたら知らないの一点張りしかないか)」


 結局、一真が出来るのははぐらかすことだけであった。


 慧磨との電話を終えて一真は幸助と太一にチャットアプリで連絡を取る。

 二人共すぐに返信してくれた。


「え~っと、幸助は実家に帰ってて地元の中学の奴らと遊ぶから無理で、太一はクリスマスから正月まで祖父母の家に行くと……」


 一真は返って来た内容を読んで先程まで悩んでいた自分は何だったのかと肩を落とす。

 とはいえ、これで心配事がなくなった一真は俊介にクリスマスパーティに参加することを伝えた。


 丁度一真が俊介にクリスマスパーティの参加を決めたところにアリシア達がやって来た。


「一真~。入っていい?」


 ドアの向こうからアリシアの声が聞こえて、一真は返事をする。


「いいよ~」


 許可を得たアリシア達はドアを開けて一真の部屋にゾロゾロと入っていく。

 アリシア、シャルロット、桃子、桜儚の四人に加えて一真がいるので部屋は窮屈なものとなってしまった。


「全員来たんか……」

「丁度、義母様おかあさまからのお仕事が終わってね」

「あ~、そっか。ご苦労様。それで何の用で来たんだ? 特訓用の空間は作ってあるから出入り自由のはずだけど」

「そのことについてなんですけど、一真さん。クリスマスがそろそろ近くなってきましたよね?」

「え、あ、そういうことか」


 シャルロットの言葉で一真は四人が休暇が欲しいのだと察した。

 勿論、間違ってはいないがそこに自分がいないことを忘れている。


「わかった。まあ、シャルも桃子ちゃんも十分成長したから問題ないし、アリシアは最初から十分強いから大丈夫。そこの……」


 一真はいつまでも桜儚のことを悪口で呼ぶのをやめることにした。

 確かに彼女は凶悪な犯罪者であるが現状は無害な一般人に近い。

 しかも、四人の中で一番か弱い女性でもある。

 ならば、警戒はこれからも必要だが彼女を蔑むようなことは自分にも他の人にとっても不愉快なだけであろう。


「桜儚はまあ、今後鍛えるが問題ない。ただし、どこかへ出かけるなら必ず桃子ちゃんの監視のもとだ」

「何故、私に彼女を押し付けるのですか……」

「適任だから?」

「疑問形で答えないでくださいよ……!」


 一真と同等かそれ以上に厄介な存在を任される桃子は勘弁してもらいたかった。

 ただでさえ、一真の部下というだけで多方面から色々と押し付けられていると言うのに、そこへ桜儚という存在まで面倒を見ろと言われたのだ。

 桃子がノイローゼになってしまうのもそう遠くはないのだが、上司である一真が常に回復魔法をかけているので健康面については最良である。

 ただし、精神面はとてつもない負担がかかっているので元気な鬱病間近であった。


「まあ、いいじゃない。仲良くしましょうね」

「くッ……! せめて、貴女がもう少しまともな人間であったのなら私も気が楽だと言うのに」

「まるで私が異常みたいな言い方ね~」

「どこからどう見ても異常でしょうが! 全く……」


 上司、部下共にマイペースで人の話を聞かない、理解しない、と桃子にとって頭痛の種でしかない。

 頭を抱える桃子だが、所詮は社蓄なので一真の命令には従うのみ。

 不承不承ではあるが彼女は桜儚の面倒を見ることにした。


「ところで、一真に聞いておきたいことがあるんだけど」

「ん? なんだ、アリシア」

「クリスマスの予定は?」

「ああ。それならさっき決まったよ。学園の友達とクリスマスパーティをすることになったんだ」

「「え……」」


 さっき決まったという事実に落胆を隠せないアリシアとシャルロットは顔を見合わせる。

 クリスマスの何も予定がなければ一真をデートに誘って洒落込もうとしていた計画がパーだ。

 こうなったら仕方がないと二人は頷き合い、一真を落とすために結託する。


「ねえ、一真。そのクリスマスパーティには私達も参加していいの?」

「え? 多分いいと思うけど、ちょっと確認してみるわ」

「お願いしますね」


 一真は俊介にチャットアプリで女性四人が増えても問題ないかと伝える。

 すぐに返事か来て、予約してある会場にはまだ余裕があるということでアリシア達の参加は容認された。


「大丈夫だって」

「へえ~。私も参加していいの?」

「言っておくがうら若き少年達を味見しようとかするなよ」

「私のようなおばさんなんて興味ないでしょ」

「……いや、恐らく大好物だ。スタイル、美貌、共にお前はトップクラスだからな。それに大人の色気というのは学生にとっては眩しいもんだ」

「ふふ、そう言われると悪い気はしないわ」

「あの……もしかして、私も参加しなければいけないのですか?」

「当然だよ、桃子ちゃん! 俺と君は一蓮托生、一心同体じゃなか!」

「休暇をください……」

「じゃあ、クリスマスパーティまでまだ数日あるから休んでていいよ。とりあえず、桜儚は俺が見ておくから」


 冗談半分で言ったが、まさか本当に休暇をもらえるとは思っていなかった桃子は驚きつつも、ゆっくり休める事に涙を流して喜んだ。


「やった……。久しぶりに休める」

「でも、休暇中にパワードスーツが完成したら連絡するから」

「…………」


 上げて落とす一真。

 桃子は恨めしそうに一真を睨みつけるのであった。

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