第38話 ハーレムも夢じゃないんやで?
夢は広がり、可能性は無限大ときた一真は昌三に近付いてこっそりと耳打ちをした。
「ところであちらのほうは?」
「一応、設計図のほうは完成していますけど本当にアレでいいんです?」
「男の浪漫だろ!」
「いや、気持ちはよく分かりますが相談はされたのですか?」
「いんや、当日お披露目しようかと……」
「確実に軽蔑されますよ。私もデザインしておいて言うのもなんですが……」
「でもでも、やっぱり、男としてはどうしても見たいって思うんだよ」
「まあ、こちらは命令されれば作るだけですから。怒られても知りませんよ」
「大丈夫だ。全ての責任は俺が取る」
ドンと自身の胸を叩いて頼もしい事を言っているが彼の頼んだ内容はシャルロットや桃子の為に用意しているパワードスーツについてだ。
昌三が懸念している通り、一真の要望はスケベ要素がつまったものである。
具体的に言えば肌の露出が多めのパワードスーツだ。
贅沢を言えばダメージを受ければ卑猥な格好になるパワードスーツを作って欲しかったのだが、それでは防御面が疎かになるということで断念した。
とても悔しいが概ね満足するデザインになっているので文句は言えない。
「じゃあ、俺のより先にそっちを優先してくれる?」
「構いませんけど、いいんですか? ご自身のも欲しかったんでしょう?」
「まあ、そうだけど俺はなくても平気だから。でも、彼女達は違う。肉体的に弱点が多すぎるからね。先に強化しておくべきなのさ」
「分かりました。進めておきますけど……本当にいいんですね?」
「さっきも言ったが俺が全ての責任を取る。思う存分やってくれ!」
「そこまで言うのならこの倉茂昌三、全身全霊を尽くしましょう!」
という訳で優先して作られることになったのはシャルロットと桃子の専用パワードスーツである。
なお、デザインについては美少女ゲーに出てくるような肌の露出が激しいメカのようなものとなっている。
彼女達がそれを知れば恐らく、いや、間違いなく怒り狂うだろう。
だが、それでも一真は男の浪漫を求めて突き進むと決めたのである。
丁度話が纏まった時、一真の携帯が鳴った。
誰からの電話だろうかと携帯を取り出すと慧磨からであった。
これは丁度いいと一真は上機嫌に電話に出る。
「はい。もしもし」
『もしもし。一真君』
「はいはい。なんですか?」
『先程、沖縄の解放を確認したとの報告があってね。君に御礼をと思って電話をかけたんだ』
「その件だったら別にお礼なんていいですよ。それよりもちょっとご相談があるんですけど」
『なんだね? 私に出来る事ならなんでも言ってくれたまえ』
「パワードスーツの開発にこれから入ろうと思うんで慧磨さんのほうから人材を用意してもらえません?」
『それは構わないが人数についてはどれくらい必要なんだ?』
「ちょっと待っててください」
電話を保留状態にして一真は昌三に何人くらいいれば足りるのかを尋ねた。
「昌三さん。どれくらい人がいればいいですかね?」
「そうだね。少なくとも四、五十人以上は欲しい。今回作るパワードスーツは各部品ごとに分けて作るものになってるから、専門の人間もいれば有り難い」
「オッケー。相談してみる」
昌三からの要望を聞いた一真は保留を解除して慧磨と再び電話で話す。
「もしもし、斉藤さん。四、五十人くらいと専門職の人が欲しいんだけど可能です?」
『ふむ……。だったら、いっその事そちらに国防軍の開発部と研究者を寄越そう。国防軍の装備や武器を開発から製造まで行っている者達だから力になるだろう』
「そんなことしても大丈夫なんです? 国防軍の装備や武器は問題ないんですか?」
『予備は沢山あるし、君のおかげで消耗も少ないからね。そちらに割いても問題はないさ』
「おお! でも、斉藤さんの権限でそこまで出来るんです?」
『ああ。国防省のほうには私の部下がいるからね』
「じゃあ、マジでいいんですね?」
『いいとも。こちらとしても悪い話ではないからね。新たなパワードスーツが開発されたとなれば、その利益は計り知れないだろうから』
「完全に俺の趣味全開でオーダーメイドですよ?」
『ハハハハ。確かにそうだが、そのノウハウは残るだろう? 量産型に仕様変更すれば投資分を回収するのはわけないさ』
「なるほど……。俺は専用の装備を作れるし、そちらは新技術を取り込めるということですか」
『まあ、そういうことになる。あまりいい気分はしないかね?』
「いえ、構いませんよ。それを悪用さえしなければですけど」
『それは約束するさ。ただ、人間とは業の深い生き物だ。悪用する者は遠からず出てくるだろう』
「その時は俺が潰しますよ。まあ、余程のことじゃなければ目を瞑りますが」
『それは心強い。では、準備が出来たらまた連絡する』
「よろしく」
電話を切って一真は一息ついた。
これから本格的にパワードスーツの開発に尽力することになるので忙しくなるだろう。
アリシアの訓練も気になるところだが、彼女はシャルロットや桃子と違って戦闘系の異能者だ。
すでに基礎が出来上がっているのでほんの少しアドバイスをするだけでいい。
おかげで彼女に掛かりっきりになることはない。
「(問題はイヴェーラ教だが……あの二人に大きな動きはない。何か作戦会議でもしてるのか、それとも俺を警戒しているのか。何にせよ、これからも監視は続けておこう)」
アズライールとルナゼルにマーキングをしている一真は二人の動きを常に把握している。
今の所、大きな動きは見られないのでイヴェーラ教は水面下で何かを企んでいるという予想だ。
一真は知らないがイヴェーラ教は今後行われる国際会議を襲撃する為に下準備を行っている。
勿論、戦力の増強に時間を費やしており、順調に勢力を伸ばしているのだがたった一人の変態のせいで台無しになることは確かであった。
考えても仕方がないので一真は思考を切り替え、昌三に顔を向けると満面の笑みを浮かべる。
「さあ、それじゃあ、始めようか!」
「まだ素材も何もないんですが……」
「…………よし! 解散!」
資金はあっても開発に必要な物資が不足していたため、結局その日は解散となった。
◇◇◇◇
それから翌日。
一真はアイビーにて朝食を取っていた。
現在、第七異能学園は冬休みの真っ最中なのでほとんどの生徒が帰省しており、一真もその一人である。
とはいえ、何も用事がないわけでもなく一真の携帯に一通のメールが届いた。
「ん?」
「ご飯を食べている最中に携帯を見ないの。行儀が悪い」
「いでッ!」
メールの着信音に気がついた一真はポケットから携帯を取り出して、受信先は誰かと確認していると穂花に頭を叩かれた。
一言詫びて一真は素早く朝食を済ませるとメールに目を通す。
「クリスマスパーティ?」
メールを送ってきたのは俊介で、その内容は皆でクリスマスパーティをしようというものであった。
随分と呑気なものであるが、そもそもここ最近の一真が忙しいだけで本来の学生は冬休みを満喫している頃だ。
少し前にイビノム襲撃事件があったがすでに紅蓮の騎士により被害は最小限に収まっているので世間はクリスマスムードという訳である。
「むむむ……」
是非とも参加したいのだが、今の一真は多忙な身である。
とはいってもパワードスーツ関連だけなのでそれほどでもない。
だが、パワードスーツの開発は一朝一夕で出来るようなものではない。
一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月、一年、二年と膨大な時間をかけて行われるものだ。
しかし、一真には秘策がある。
そう、シャルロットたちの修行で使っていた時空魔法である。
時空魔法を使い、作業員の体感時間を大幅に縮小させれば短期間での開発は可能となるだろう。
ただし、作業員は気が狂ってしまう恐れがある。
「斉藤さんから連絡があればな……」
時空魔法を使うのはいいとしてもまずはスケジュールを立てなければならない。
現在、倉茂工業では設計図は完成していてもパワードスーツの開発に必要な素材が一切ないのだ。
それに人材も不足していて作業できない状況である。
一応、慧磨に一真が話を通しており、人材は確保しているのだがまだ連絡が来ておらず、スケジュールも立てることが出来ない。
「催促するか……」
「一真。貴方が忙しいのは分かるけど、食べ終わったのなら食器を片付けて部屋に帰ってから考えなさい」
「あ……ごめん。すぐに片付けるよ」
穂花に注意されて一真はまだ食卓であったことを思い出し、すぐに言われたとおり食器を片付けて自室へ戻った。
「完全に私達のこと忘れてるわね」
「見ての通り、忙しい方ですから」
「一緒に朝ごはん食べてるのに……」
「仕事してる時の男はそういうものよ」
部屋へ一人戻っていった一真の背中を見ていた四人。
アリシア、桃子、シャルロット、そして桜儚はアイビーの子供達と一緒に朝食を済ませる。
「申し訳ないのだけど、朝食が終わったら子供達の洗濯物を一緒に干してくれるかしら?」
「わかったわ。任せて」
「わかりました」
「お任せください!」
「お世話になってる身だし、そのくらいは当然よね~」
「(……この子達の誰が一真のお嫁さんになるのかしら? 一人、歳が離れてるけど、関係ないわね。一応、日本も一夫多妻制、一妻多夫制を導入してるから全員とも可能だけど……)」
かつてイビノムによって人口が激減した時、日本も一つの措置として一夫多妻制、一妻多夫制を導入している。
ただ、現在は人口の増加により安定しているので滅多にないが今も一夫多妻制、一妻多夫制は残っているのだ。
とはいえ、簡単には出来ない。
複数人の妻や夫と結婚しても生活できるレベルの収入と聖人君子とまではいかないが複数の妻や夫を愛することができ、尚且つ人格者でなければ認められない。
要は人格に問題があると夫婦生活や育児に支障が出ると判断されて国から認められないのである。
「(あの子にそれだけの甲斐性があるかしら? それなりに躾てきたから問題はないと思うけど)」
穂花は目の前にいる誰が一真の嫁になるのだろうかと真剣に考えていた。
昔にも女の子を連れてきたことはあるが、女の子だけをアイビーに連れてきたことは一度もない。
男女混合の所謂友人という枠でしかなかったのだ。
それが今はハーレムといっても過言ではないくらい女性をアイビーに連れてきている。
一真も十六歳で年頃の男の子だ。
彼女の一人や二人くらい出来てもおかしくはないだろう。
「(う~ん。でも、あの子って変に拗れてる部分もあるから大丈夫かしら? この子達に愛想つかされて振られないか心配ね~。異世界でも変な目にあってるから余計に苦労しそうよね~)」
母親だけあって一真の性格を完全に理解していた。
今までも多くのフラグを叩き折ってきたのを知っているので穂花はただただ心配であった。
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