第37話 夢は無限大!!!

 沖縄本土のイビノムを殲滅し終えた一真は慧磨に電話を掛ける。

 コール音が数回ほど鳴ってから慧磨が電話に出た。


『もしもし』

「もしもし、斉藤さん。沖縄のイビノムは殲滅完了したよ」

『本当か!?』

「嘘つかないって。それよりも、沖縄の離島はどうする? 結構な数あるけど」

『あ、ああ。出来ればそちらもお願いしたい』

「わかった。じゃあ、俺は離島のほうにいるイビノムを狩ってくるから調査隊でもなんでもいいから沖縄に寄越して。大量にイビノムも生け捕りしておいたから、科学班とかもよろしくね」

『ハ、ハハハ。本当に君は規格外だね……。しかし、実に有り難い存在でもある』

「こっちもお世話になってるからね。報酬分の働きはさせてもらうさ」


 一真は電話を切って空に浮かび上がる。

 上空から見下ろす先に見える離島の数々を確認した一真はミサイルのように飛んでいき、離島にいたイビノムを次々と殲滅し、何体かは生け捕りにしていくのであった。


 一真からの連絡を受けた慧磨はすぐさま国防軍に連絡を取り、沖縄本島へ調査隊及びに研究者達を送り込む。

 一真の言う事を疑ってはいないが万が一があってはならないため、まずは無人機で主要都市を調査し、安全を確かめた。

 それから小型の無人機を使い、家屋の中までしっかりと確かめた国防軍は一真の言うとおり、安全であると結論を出し、調査隊と研究者達を送り込んだ。


 護衛、調査班、科学班と三つのチームが沖縄に上陸する。

 彼等は一真が捕まえた山のように積み上げられたイビノムを見て息を呑んだ。


「これ全部生きてるのか?」

「見ての通りだろ……」

「まだ動いてるな……」


 信じられない光景に兵士達が喉を鳴らしていると、その横で研究者達が歓声を上げていた。


「素晴らしいッ!!! 貴重なサンプルがこんなにも! ああ、なんという僥倖! 紅蓮の騎士は神の使いに違いない!」


 山のように積み上げられている生け捕りされたイビノムを見てはしゃいでいる研究者達に呆れたように目を向けた。


「アレはどうするんです?」

「放っておけ。科学者というのは酔狂な人間の集まりだ。常人には理解できんさ。それよりも俺たちは俺たちの仕事をするぞ」

「はい。分かりました!」


 調査班は無人機では調べられなかった場所に調査へ向かい、科学班は一真が捕らえたイビノムに夢中で護衛はそんな彼等を遠くから眺めるのであった。


「一体、どうなってるんだ?」

「さあ? 見たところ、光の鎖みたいなもので拘束されているが……」

「手も足も出ないどころか口すら封じられてるぞ」

「つくづく恐ろしいものだ。紅蓮の騎士とやらは……」

「他にも白銀、蒼銀、漆黒、黄金、翡翠とバリエーション豊かな奴らもいるぜ?」

「同一人物って噂だがホントなのか?」

「知らねえよ。でも、これ以上ないくらい心強い味方なのは確かだろ」

「違えねえな!」


 周囲の警戒をしつつも護衛の兵士達は会話に花を咲かせる。

 いつ何時、イビノムが襲ってくるかもしれないというのに呑気なものであるが、一真がイビノムを殲滅、捕獲したのでその危険はない。

 地中から上空にかけて沖縄はもっとも安全な場所となっているのだ。


「うちの子供、紅蓮の騎士のファンなんだよ。サインとかもらえないかな」

「うちは白銀だ。DXソードも買ってやってるぞ」

「紅蓮の騎士バージョンとか出ないのかな。白銀の騎士だけだからうちの子供は文句言ってるぞ」

「そんなの玩具メーカーに言ってくれ」

「戦隊モノとして出してくれないかな~~~」


 彼等は知らないが水面下では玩具メーカーに加えてテレビ局が動いている。

 紅蓮の騎士と唯一コンタクトの取れる人間が内部にいるのだから、当然そのような美味しい話を商売人が逃すはずがない。

 いつか、紅蓮の騎士を筆頭にした戦隊モノが生まれることは間違いない。


「ふう……。ざっと、こんなところか」


 パンパンと手についたゴミを払うように一真が手を叩いている。

 彼の前には山のように積み上がっているイビノムとゴミのように散らかっているイビノムの死骸があった。


「沖縄の離島って結構多いんだな。初めて知ったぜ……」


 疲労はしていないが離島の多さに苦労したようである。

 有人島から無人島含めて沖縄にある離島を全て解放した一真は再び慧磨に電話をかけた。


「もしもし、斉藤さん」

『一真君か。何かあったのか?』

「沖縄の離島も多分全部終わった。また派遣お願いできる?」

『お、おお! わかった! 大至急、こちらのほうで手配しておこう!』


 一日足らずで沖縄の全てをイビノムから解放した一真に驚きであるが、それ以上に経済的に莫大な利益を見込めることが確定して慧磨は非常に喜んだ。

 かつてリゾート地として人気であった沖縄を蘇らせる事ができる上にアメリカ軍の基地も存在していたのでアメリカにも恩を売ることが出来るだろう。


「じゃあ、後はお願いするね。あ、そうだ。倉茂工業のほうに素材はちゃんと卸してね。勿論、無料タダで」

『それは勿論。そういう約束だからね。君が生け捕りにしたイビノムに倒したイビノムの死骸は全て君に権利がある。当然、どうするかは君の自由だ』

「うっし! それじゃあ、後はよろしく!」

『ああ。任せてくれたまえ』


 後のことは慧磨に任せたので一真は自身がやるべきことやる。

 とりあえずは倉茂工業へ向かい、パワードスーツの開発の着手である。

 資金こそあるがまだ開発に向けて何もしていない。

 しかし、今回ようやく素材の目処も立ち、開発に向けて前進したのだ。

 これでようやく一真は念願の専用装備を手に入れることが出来る。


「それじゃ、早速行くとしますか~」


 善は急げとばかりに一真は転移魔法で倉茂工業へ転移しようとするが、まずは報連相が大事であると勉強したばかりなので倉茂社長の昌三に電話をかけた。


『はい。もしもし』

「もしもし、昌三さん。これからそっちに行くけどいい?」

『ああ、一真さんですか。勿論、大丈夫ですよ。もしかして、例の件でしょうか?』

「そうそう。ようやくそっちに集中できそうな時間出来たんだ」

『おお! ようやくですね! では、お待ちしております!』

「ういうい~」


 電話を終えた一真は特に意味はないがかっこいいポーズを決めて転移魔法で倉茂工業へ移動した。


 倉茂工業に着いた一真は昌三に遭うべく、事務所であるプレハブに向かうと工場のほうから昌三と部下の三人が出てきた。

 どうやら、昌三達も一真が来ると聞いてプレハブに移動していたようだ。

 タイミングがいいのか、悪いのはさておき、目的の人物である昌三を見つけた一真は彼に近付いた。


「どうも。しばらくぶりですね」

「そうですかね? 割と最近のような気もしますが」

「まあまあ、そんな事は置いておいて設計とかどうです?」


 資金は充分であるが素材がないので進まない。

 なら、先に設計図だけでも一真はある程度の要望を彼等に伝えていた。

 まだそんなに時間は経っていないが彼等の情熱は凄まじい。

 恐らく設計図はかなり進んでいることであろうと一真は話を進めた。


「グフフフフ……」


 まるで悪徳商人のように不気味な笑い声を零す昌三に一真はゾクゾクと興奮した。


「おお! もしや、完成したので?」

「ご期待に添えるかどうかは分かりませんがこちらについてきてください」


 どこぞの密売人のように工場の中へ案内する昌三。

 彼の後に続いて一真は工場の中へ入り、昌三の連れられて設計図の置いてある現場へと辿り着いた。

 大きな作業机の上に一杯に広げられた設計図には一真が伝えていた要望以上のものが描かれていた。


「お、おお……! こ、これが俺のパワードスーツ!」


 設計図は正面、背面、横の三面図となっており、一真の要望に合わせたパワードスーツの概要が描かれていた。

 事細かに装備品や装飾についても記されており、素人である一真にも一目でわかるものであった。


「ちなみに予算はどれくらいかかりそう?」

「……最低でも百億はいくかと」


 非常に言い辛そうに昌三は指を一本立てながら一真のパワードスーツを作るのに掛かるコストを伝えた。

 従来のパワードスーツは高くても数千万から数億程度だ。

 それを考えると一真の要望を叶え、倉茂工業の考案したパワードスーツは控えめに言ってもバカとしか言えない。


 だがしかし、国家の一大プロジェクトになっており、資金に関しては無制限ときた。

 それに加えて本来なら数百万、数千万以上はかかるイビノムの素材を全国どこからでも調達してきてくれる紅蓮の騎士がついている。

 もはや、不可能はない。

 外部からの圧力がかかるかもしれないが倉茂工業のバックには日本政府及びに一真がついているのだ。

 世界有数の大企業が本気で潰しに来ても物理的に覆す事のできる一真がいる限り、誰も手を出せないだろう。


「最低でもか……」

「やはり、厳しいでしょうか?」

「そこんところは俺が斉藤さんと交渉するから好きなようにやってほしい。ついでに言うと俺の使える技術は惜しみなく使うから共同開発だ」

「一真さんの技術ですか? 一体どのようなものを?」

「それは秘密。これから忙しくなりそうだな」

「そのことに関してなのですが、人が足りません。出来れば人材の確保をお願いしたいのですが……」

「任せといて。政府直属の研究員とか引っ張ってくるから!」

「……ほどほどにお願いしますね?」


 一真が頼もしいのは間違いないのだが、少々手におえない部分もある。

 むしろ、暴走機関車のように走り出したら止まらないと言ったほうがいい。

 有り難い存在であると同時に厄介な存在でもあるが、一真と一緒ならば退屈はしないだろう。

 昌三はこれから訪れる驚天動地の未来に思いを馳せるのであった。

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