第31話 これで君も僕の仲間だね!
職員に案内されて一真はついに桜儚が収監されてる部屋の前にやってきた。
厳重なセキュリティで彼女は収監されており、職員のIDカードでしかあけることが出来ない部屋に通された一真は桜儚と二人きりで対面することになる。
いざ往かん、と意気込んで一真は部屋に入ろうとした。
その時、一真をここまで案内した職員が彼を呼び止める。
「待ってくれ」
「ん? まだなにか?」
「君が紅蓮の騎士だというのは知っているが洗脳はされないでくれよ?」
「心配ないさ。大船に乗ったつもりでいるといい」
そう言って心配している職員をよそに一真は桜儚のもとへと向かった。
囚人とは思えない優雅な生活をしている桜儚の目の前に一真は辿り着いた。
「久しぶりだな。女狐」
「フフフ、ええ、久しぶりね。一真君。それとも紅蓮の騎士様と呼んだほうがいいかしら?」
「どっちでも構わんが、俺はお前に下の名前で呼ぶように許したつもりはない」
「あら、そうなの? ごめんなさいね。つい癖で」
「別に怒ってはいない。次からは好きなように呼ぶといい」
「そう。それじゃあ、一真君と呼ばせてもらうわね」
と、二人の軽快なノリで会話が始まった。
それを
紅蓮の騎士である一真が洗脳されれば世界は最悪の結末を迎えることになる。
一応、彼に洗脳は効かないことが証明されているものの心配なものは心配なのだ。
この世に絶対という言葉がないと誰もが知っている。
「で、俺を呼んだ理由は?」
「それよりも私は紅蓮の騎士を呼んだのだけれど、素顔を晒しているってことは、もう隠すのはやめたのかしら?」
「話題を逸らすな。俺を呼んだ理由を聞いている」
「別にこれくらいは答えてくれても罰は当たらないんじゃないかしら? それともこんな簡単な質問にも答えてくれないほど、貴方は狭量な男なの?」
「随分とぺらぺら回る舌だな。引っこ抜いてやろうか? 何度も言わせないでもらいたい。俺を呼んだ理由を話せ」
語気を強め、鋭い目で桜儚を睨みつける一真。
並大抵の人間なら一真に凄まれた時点であっさりと折れるだろうが桜儚は普通ではない。
「舌を引っこ抜くよりは絡めたいと思わない? 私、キス好きなの。どう? 一回試してみないかしら?」
「そいつは魅力的な提案だが、生憎お前のような女狐とは死んでもゴメンだね」
「つれないことを言うのね。私は本気で貴方と溶け合いたいのに」
「俺にその気はない。それとこれで三度目だ。これ以上の問答はしない。俺を呼んだ理由を言え」
殺気を放ち、次におかしな言動をすれば首を刎ねるつもりでいる一真は桜儚を見つめた。
桜儚はここが潮時だと理解し、降参だと言わんばかりに小さく両手を挙げて息を吐いた。
「もう少し話していたかったのだけど、流石に殺されるのは御免だから、正直に話すわ。貴方を呼んだのは単純に興味があったから。私の洗脳が効かない人間は初めてだったからよ」
「…………」
一真は桜儚の心音や脈拍などに異常がないかを確かめたが、何の異常も見られなかった。
つまり、彼女の言葉が上辺だけだが真実である事は確かなのだと一真は内心で悪態をついた。
「(桃子ちゃんを呼んでくればよかったな。まあ、この女はもしかしたら俺と同じ芸当が出来るかもしれんが……)」
読心の異能を持つ桃子を連れてくればよかったと後悔する。
だが、もしかすると桜儚も自分と同じく心を読ませない術を身につけているかもしれない。
そう考えると、やはり目の前にいる桜儚は一筋縄ではいかない相手であると一真は嘆息を漏らした。
「理由はわかった。それじゃあ、本題に入ろうか」
「イヴェーラ教の教祖、神藤真人の異能についてかしら?」
「そうだ。知っているんだろう? 詳しく話せ」
「嫌と言ったら?」
「殺す」
「それじゃあ、嫌」
「…………」
この手の人間は恐らく本当に脅しても意味がない。
一真が思いつく限りの拷問を行ったとしても桜儚の精神は化け物だ。
恐らくは決して口を割らないだろう。
とはいえ、試してもないのに判断するのは早い。
よって一真は炎魔法を発動し、彼女を火達磨にしてみせた。
「フフフ……まさか、こんな芸当が出来るなんてますます興味深いわ」
「火達磨になりながら笑うとはな。見上げた根性だ」
「このまま死んでも私は別に構わないわ。あ、でも、これから先、貴方を見ることが出来ないのは残念ね」
監視ルームで火達磨になりながらも笑みを崩さない桜儚に誰もが戦慄していた。
常人ならば悲鳴をあげて転げまわっているだろう。
異能者でもあっても最初こそ気丈に振舞うだろうが耐えられず泣き叫ぶ。
火という原始の時代から続く根源的な恐怖を一体どれだけの人間が桜儚のように耐えられることが出来ようか。
恐らくは世界全体を見ても片手で数えるほどいないであろう。
「出来ればお前が取り乱す姿を見たかったが死なれでもしたら困る。大事な情報源なんだからな」
呆れたように一真がため息を零すと桜儚の全身を覆っていた炎が消えて、火傷跡も一切残らない綺麗な身体に戻った。
「もしかして、衣服を脱がすのが面倒だったから焼いたの? だったら、最初からそう言ってくれればいいのに」
「惚けた事抜かしてないで。さっさと服を着ろ」
「服を焼いたのは貴方じゃない。それなら責任もってほしいわ。あっちにクローゼットがあるから私に似合いそうな服をとって来てくれないかしら? それとも服を着替えるシーンをお望み?」
「出来るだけ色めかしく、そんでこっちに尻を向けながら着替えろ、とでも言えば満足か?」
「その目と声だけでゾクゾクしちゃう。お望みであればサービスするけど?」
「バカ言うな。お前の裸体なんぞ見たところで喜ぶのはクソ以下の人間だけだ」
一真は知らないが監視ルームにいた男性職員の七割は桜儚のシミ一つない身体を見て興奮していた。
残りの三割のうち、二割は見ないようにしており、残った一割は同性愛者である。
「ホントに勃起していないの?」
「確認しようとするな」
桜儚は一真が勃起してないかと下半身に視線を向けた。
すると、そこには平然としている一真の下半身があっただけ。
彼の息子はピクリとも反応していない。
その反応に監視ルームの男性陣は一真が勃起不全なのではないかと疑い始めた。
一真がそれを知れば、恐らく自分は普通に勃起すると宣言し、ネットのエロ画像を見て勃起させるだろう。
「女としてのプライドを傷つけられたわ。これでもスタイルには自信があるのだけれど?」
「そうだな。プロポーションを見ればよく分かる。お前は本当にスタイルがいいんだろう。それこそ世界でもトップクラスには。だが、俺は一度でも敵と認識した相手はたとえ絶世の美女であろうと殺す」
「なるほど。プロ精神みたいなものね。でも、初対面の時は動揺していたはずだけど?」
「あの時は国防軍がハニトラを仕掛けてくるとは思っていなかったのと、単純にお前が綺麗だったからだ」
「あら? さっきは罵倒していたのに普通に褒めてくれるのね」
「お前の事は嫌いでも認めてないわけではないからな」
「そう言われると嬉しいわね。贅沢を言えば好きになってもらえると、もっと嬉しいんだけど」
「無理だな。お前という人間と俺は相性が悪い。ずっと敵対関係のままだ」
「そう。それは残念」
溜息を零して桜儚はクローゼットのほうへ向かい、適当な衣服を選んで素早く着替えを済ませた。
一真を待たせてはならないという気遣いと、もう少し彼と話していたいという乙女心からの行動である。
「ごめんなさい。少し待たせちゃって」
「話を続けるぞ。神藤真人の異能を教えろ」
「いいわ。でも、条件がある」
「ほう? なんだ、言ってみろ」
「私を貴方の部下でもマネージャーでも秘書でも肉便器でもいいから、外の世界に連れ出して欲しいの」
「そうか」
「あら? 驚かないのかしら?」
「呆気にとられた顔でもして欲しいのか? それとも鳩が豆鉄砲食らったような顔でもすれば満足か?」
「もしかして、ある程度予想してたのかしら?」
「当たり前だろう。お前が難癖をつけてくることは想定済みだ。そもそも、最初から素直に教えてくれるとは思ってなかったからな」
「私の事を知っててくれたのね。嬉しいわ」
「気色悪いこと言わないでいい。それよりも、その条件でいいのか?」
「ええ。私としては貴方の傍でこれから変わっていく世界を眺めるのも面白そうだからね。それに貴方の傍がこの世で最も安全でしょうし」
「どうだろうかな。生殺与奪を握っている俺の傍は地獄かもしれんぞ?」
「その時はその時よ。それでどう? この条件が呑めるなら話してもいいわ」
踏ん反りかえるようなことはしないが自信たっぷりに桜儚は腕を組み一真を見据えている。
一方で一真はスティーブンから彼女の処遇について全ての許可を得ているので桜儚を自身の部下にして外へ連れ出すことも可能だ。
しかし、彼女をそのまま外に出してしまえば何をするかは明白。
十中八九、一真に迷惑を掛けるだろう。
情報だけ聞いて外で始末すればいいのだが洗脳は役に立つ。
痒い所に手が届く異能を持っている桜儚を一真は受け入れる事に決めていたのである。
ただし、完全に自身の制御下に置く前提であるが。
「いいだろう。その条件を呑もう」
「口約束だけじゃダメよ。情報だけ聞いて外で殺されたくないから、何か制約が欲しいわ。たとえば、人質とかね」
「抜け目ないな」
洗脳した人質を取られれば一真はそう簡単には自分を殺せないだろうと桜儚は交換条件を持ち出した。
しかしだ、人質とは一真にとって有効な人物でなければならない。
たとえば、家族や友人、恋人などが人質としては有効だ。
だが、一つだけ問題があるとすれば一真の大切な人達に手を出せば確実に殺されるということ。
「悪いが却下だ」
「じゃあ、私のほうも話さないわ」
「まあ、そうなるか……」
暴力でどうにもならない相手は面倒であると一真は肩を竦める。
やはり、契約書を持ってきて正解であった。
一真は異空間にしまっていた契約書を取り出して彼女に差し出した。
「これは契約書? もしかして、こんな紙切れ一枚で私を縛れるとでも?」
「ごちゃごちゃ言ってないでサインしろ」
「まだ読んでもないのに急かさないで」
桜儚は一真から受け取った契約書をよく読んでいく。
隅から隅まで目を通し、不備がないことを確認した桜儚は契約書から一真へと視線を戻した。
「ここに書いてあるのは本当なの?」
桜儚が驚いているのは契約書の内容についてだ。
事細かに書かれているが要約すれば一真こと紅蓮の騎士の監視下のもと、自由を認めるということであった。
「大雑把ではあるが俺の要望をスティーブンに伝えて詳細を纏めたやつだ。何も間違ってはいない」
「騙されてるとしか思えないわ」
「まあ、信じるも信じないもお前次第だ。どうする?」
「私にデメリットはなさそうね……。でも、何かあるんじゃないかしら?」
怪訝な目で一真を見つめるが彼は一切表情を崩さない。
桜儚は再び、契約書に目を落とし、もう一度内容を確認した。
やはり、書いてあることは変わらず、桜儚にとってメリットしかないものであった。
「いいわ。これが罠だとしても私はどの道、後がないもの。それなら、貴方の傍で屈辱的な日々を送ることになっても構わない」
不敵な笑みを浮かべて桜儚は契約書にサインをする。
桜儚のサインが書かれた契約書を受け取った一真は三日月のように笑みを浮かべた。
「ここに契約は交わされた! これでお前は俺の
「え……ッ!?」
一真の手にあった契約書は宙に浮かぶと、突然燃え出して灰になって消えた。
そして、契約書の灰が二人を包み込むように舞い散り、渦を巻いて収束すると桜儚の身体の中に吸い込まれた。
「な、なにこれ!?」
「フハハハハハハッ! 驚くの無理はないな。これは隷属魔法と契約魔法を使った契約だ」
「隷属魔法? 契約魔法? 一体なにを?」
「まあ、これからは俺の下僕だ。一応、説明しておいてやる」
笑いながら一真は桜儚が使っているベッドに移動すると腰を下ろした。
「そこに正座をして座れ」
「え、な、なに!? 身体が勝手に!」
一真の言葉に桜儚は逆らうことが出来ず、勝手に身体が動き出して言われたとおり正座をする。
この一連の流れだけで大抵の人間は理解した。
一真が常識外の力を持つ悪魔である事を。
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