第25話 プロデュースは任せておくれ!
穂花と談笑を終えたシャルロットが一真に近付く。
「一真さん。これからよろしくお願いしますね!」
満面の笑みでシャルロットは可愛らしく一真に軽く頭を下げる。
最初はピンク色の想像していたが蓋を開けてみれば一真が育った児童養護施設での生活。
落胆こそしたが一真と同じ屋根の下で暮らせると知ったシャルロットは内心大喜びである。
しかし、悲しいかな。
彼女の淡い期待は水泡に帰す。
「シャル」
「はい! なんですか?」
「俺は君を鍛えようと思う」
「へ?」
「大丈夫。安心して。俺が手取り足取り優しく教えてあげるから」
その発言は聞き手側からしたら厭らしい響きなのだがシャルロットは一真が言っているのは本当の意味なんだろうと理解した。
「あ、あの一真さん?」
「フランス大統領からお許しは貰ったから、君を世界最強とまではいかなが少なくとも一人で逆境を打破できる力は与えるつもりだ」
「ねえ、待って! 待って、一真さん! 私の話を聞いて!」
「俺を信じてくれ。シャル。きっと、君を世界があっと驚く聖女にしてみせる」
「あの! 私、別にそんなの望んでないから!」
「わかってる。聖女である君はそんな力は必要ないだろう。でも、今回の一件で分かったと思うが、最後に頼れるのは自分なんだ」
「そ、それは……」
実際、一真がいなければシャルロットは助からなかった。
あの時、もしも自分に一真程とはいかないが力があればとシャルロットも考えていた。
それゆえに一真の言葉は否定できない。
「と言う訳で、俺が君を立派な戦士に鍛え上げてみせる」
「え…………」
抵抗も言い訳すらも許されずシャルロットは一真に手を引かれて、見たこともない場所にやってきた。
「あ、あのここは? さっきまでアイビーにいたはずなのに……」
「ここは俺が作り出した異空間だ。体感時間が外とは違うから、ここでの修業はとても効率がいいんだ」
「笑顔で言ってますけど、訳が分からな過ぎて困るんですが……」
「細かい事は気にしなくていいさ。とりあえず、まずは軽い運動から始めようか」
「ふええ~~~……」
まずはシャルロットがどこまで動けるのかを把握する為、一真は彼女を走らせることにした。
何もない空間でシャルロットが走り始める。
その光景を目にしていた一真はいい事を思い付いたとシャルロットを一旦放置して転移魔法で移動。
そして、政務に勤しんでいた桃子を拉致。
そのまま、シャルロットと同じ空間へ連行。
「なんですか!? なんなんですか!? 何が起きたんですか!?」
「桃子ちゃ~ん。シャル一人じゃ可哀想だから君も鍛錬しましょうね~」
「へ、は? わ、私は貴方の秘書としての仕事が忙しいので肉体労働は――」
「上司命令や。黙って言うことに従え」
「ふざけんな、こんちくしょう!!」
せめてもの抵抗と言わんばかりに桃子は一真に向かって跳躍。
跳び膝蹴りを放つもヒラリと避けられてしまい、首根っこを掴まれてしまった桃子は猫の様に一真の手にぶら下がっている。
「元気があってよろしい! それじゃ、シャルと同じように限界まで走ってきてね~」
「いつか、ぶっ殺してやる!!!」
もう一真の扱いに慣れてきたのか、桃子は取り繕うとはしない。
ありのままの姿を見せて猫のように毛を逆立てさせて怒り狂っていた。
「出来たらいいね~。いや~、ホント桃子ちゃんは可愛いな」
理不尽な上司命令に振り回されながらも桃子は命令に従い、シャルロットの後に続いて走り始めた。
桃子が一緒に走るようになってシャルロットは仲間が出来たと喜んだ。
彼女の横に並んだシャルロットは新たな仲間に挨拶をする。
「えへへ、これからよろしくお願いしますね」
「そうですね。一緒にあのクソ野郎をぶっ倒しましょう」
「え、え~! 一真さんのこと嫌いなんですか?」
「むしろ、アレのどこを見て好きになる要素が?」
「よく分からないところもありますけど、優しいですし、頼り甲斐がありますよ」
「その点は貴女の言うとおりですが……すいません。私と貴女とでは出会い方が違いますから」
「あ、そうなんですね。初めて一真さんと出会った時の印象とか聞いてもいいですか?」
「ええ、いいですよ。私が彼と出会ったのは監視任務のために学園に潜入した時です。私は心を読める異能を持っていますから彼の傍に近付きました」
「学生さんだったんですか?」
「……いえ、年齢を偽っての潜入です」
「おいくつなんですか?」
「……二十歳になります」
「わ~、私よりも年上だったんですね」
悪気はないのだが天然ゆえに痛いところをついてくるシャルロットに桃子は苦虫を噛み潰したように顔を歪ませた。
「話を戻しますが、私は彼の心を読みました。内容は最悪です。下ネタのオンパレードでした。まあ、実はそれも全て嘘だったというのが、つい最近判明しましたが……」
それでも弄ばれていた事実は消えない。
盛大にネタバラシをされた日などは悪夢に何度もうなされたのだ。
そう簡単には許せる事ではない。
とはいえ、今では上司であり、日本最強どころか世界最強の男だ。
間違いなく将来は約束されている超絶優良物件だ。
認めたくはないが結婚するなら一真以上の男はいない。
なにせ、自分は人の心が読めてしまう。
隠し事などなんでもお見通し。
結婚など出来るはずもない。
それゆえに親しい友人の一人も出来なかったが、一真だけは別。
心を読まれたところで痛くも痒くもないと豪快に笑い飛ばしたのだ。
腹立たしいが異性に初めて期待したものである。
「ただ、まあ……嫌いではありませんよ」
嫌いではないが好きと言うことではない。
ただ、悪くはない。
そう思っている桃子の顔はほんの少しだけ赤らんでいた。
「ふふ、そうなんですね」
素直ではない桃子に思わず笑みを浮かべてしまうシャルロット。
年上ではあるが可愛らしい反応を見せる桃子をシャルロットは好ましく思った。
「む、無駄口を叩いてないで今は走りましょう」
なにやら、背中がむず痒いと感じた桃子はシャルロットの生暖かい眼差しに耐えれず、少しだけ走るペースを上げた。
シャルロットは遅れてはいけないと慌ててペースを上げるも、軍人としてある程度鍛えられた桃子と自堕落な彼女とではどんどん差が開くのであった。
まず最初にシャルロットが音を上げて倒れ、次に桃子が限界を迎えて地に伏せた。
両者共に息も絶え絶えで喋る事すら出来ない。
今はただ何もしたくないと倒れたまま、胸を上下に揺らしていた。
「ふむ。まあ、こんなもんか……」
二人の体力と気力を知れた一真はどの程度鍛えるべきかを考える。
政治や勉学には疎いが戦闘においては才覚を発揮するのだ。
「とりあえず、シャルには治癒と再生を用いたゾンビ神拳をマスターしてもらって、桃子ちゃんは心を読めるからそれを活用してもらうか。問題は肉体面だけど、そこは科学の力で補おう」
二人の異能は完全に後方支援に特化しているものだ。
治癒と再生に読心。
そして、二人は女性であり、その肉体は当然一般女性と変わらない。
どれだけ鍛えようとも一真のように鍛え抜かれた男性には及ばないだろう。
であれば、肉体を強化するべきである。
だが、一真のように魔法が使えるわけでもないので頼るべきは科学の力。
すなわち、パワードスーツだ。
一真は知己の一人である弥生に連絡をと考えたが、彼女に協力を求めるなら紅蓮の騎士だということを明かさなければならない。
無論、絶対という訳ではないが彼女の実家である天王寺財閥がただの友人程度の人間に協力などしてくれるはずもない。
紅蓮の騎士が国防軍に入隊したという報せは既に全国に知れ渡っている。
しかし、その正体まではごく一部の者を除いて秘匿されていた。
これは一真が平穏を望んでいる故の処置だ。
それなのに本人が正体を明かすようでは意味がないだろう。
「斉藤さんに頼むか~」
持つべき者はやはり友である。
友人関係とまではいかないが慧磨は現在の日本においては最高権力者と呼んでも過言ではない。
前総理は今回のイビノム襲撃事件で亡くなっており、内閣府の大臣も全員が亡くなっているのだ。
そのおかげで慧磨はなし崩し的に日本のトップである内閣総理大臣に着任した。
敵対していた派閥も頭を失った事で弱っていたこともあり慧磨は内閣府に自身の手下となる者達を引き入れ磐石な布陣を築いている。
少なくとも彼が存命の間は一真の願いは成就されるだろう。
「もしもし、斉藤さん。俺、俺、俺だよ、俺」
『今時、オレオレ詐欺は流行らないと思うが、どうしたんだい?』
「いや~、実はお願いがあって~」
『先日のように無茶なお願いじゃないだろうね?』
「それは大丈夫。今回はパワードスーツについてお願いがあるんだ」
『パワードスーツ? 君には無縁の代物なんじゃないか?』
「それがそうでもない。今、シャルロットを鍛えてるんだけど、流石に肉体面まではカバー出来ないからパワードスーツで補おうと思ってるんだ」
シャルロットというのは聖女の事だろうかとこめかみを押さえる慧磨は一真に問いただそうかと考えたが、神の考えが分からないようにバカの考えている事も分からないので何も知らない振りをして話を再開させた。
目頭を揉みながら慧磨は一真の欲しがっているパワードスーツについて尋ねる。
『事情は分かった。パワードスーツを用意すればいいのかね?』
「まあ、そうなんだけど今の最新パワードスーツの強化値はどれくらいなんだ?」
『日本製は七倍、中華製が七.二倍、アメリカ製が七.五倍だ』
「物足りんな……」
『…………』
慧磨は一真の発言に頭を抱える。
パワードスーツは身体強化を持っていない人間の身体能力を底上げするものであるが危険性は当然ある。
あまりにも身体能力の向上を目指すと使用者の負担が大きくなり、自壊してしまう恐れがあるのだ。
先程、慧磨があげたのは現在の限界値であり、各国が努力した成果だ。
後遺症を残すことなく、使用者の負担も最小限に留めている。
「せめて十倍は欲しい」
『無茶を言わないでくれ……。これでも頑張っている方なんだ』
「……それなら仕方がない。どこか紹介してくれ。俺も開発を手伝おう」
『なにッ!?』
政務に勤しんでいた慧磨は思わず立ち上がってしまった。
「なんだ? やっぱり、ダメだったか?」
『いや、そうじゃない。君はもしかして兵器開発も可能なのか?』
「得意じゃない。ただ、まあ、素材の提供とかは可能かと思って」
『素材? もしかして、イビノムか』
「そう。俺なら生け捕りも出来る」
『……わかった。こちらで信用できる企業をピックアップしておこう』
「なるはやで頼む」
『最優先でやっておく』
「サンキュー!」
こうしてシャルロットと桃子の強化の目途が立った一真は満足そうに頷いてから、二人を本格的に鍛えていくことを決めたのである。
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