第14話 真面目な話をしよう
綺麗な顔をして眠る桃子に一真は悪戯を試みる。
「(眠れる美女を目覚めさせるのは王子様のキッスが定番だよね! ぶっちゅっちゅっちゅ~~~!)」
「ぎええええええええッ!?」
悪夢の上に更なる悪夢を重ねられて、桃子は目を覚ました。
勢いよく頭を上げる桃子は一真の方を見た。
彼は完全にしたり顔で、こちらを見ており、桃子は遊ばれていたことを理解する。
「ぐ、ぐぐぐ、こ、この男は~」
怒りに震え、拳を固く握りしめている桃子に一真はニヤリと笑う。
「ああ、いいのかな~。俺、アメリカに行っちゃおうかな~」
「ッ……!」
知能は低いが無駄に知恵が回る一真に桃子は顔を顰める。
もしも、ここで彼の機嫌を損ねてアメリカにでも行かれてしまえば日本は完全に終わりだ。
何せ、今回の騒動をたった一人で解決し、多くの人々を救った真の英雄なのだから。
「……私に何を求めているんですか?」
その言葉が聞きたかったと一真は不気味な笑みを浮かべて、周囲に結界を張り、幻影魔法で外から見られないようにした。
対談の準備を整えた一真はノリノリで幻影魔法を駆使して、昭和のヤンキーのようにリーゼントヘアー、頬に傷、サラシの腹巻、そして長ランにドカンを履いた格好になった。
器用にサングラスまで再現した一真は、クイッとサングラスを持ち上げて鋭い眼光を桃子に向けた。
「ほな、これまでの清算といきましょか?」
「…………あの、その恰好は?」
「雰囲気作りだ! なんか文句あんのか、ボケェッ!?」
「……役まで作ってるじゃないですか」
「おうおう、自分の立場を理解してねえのか? お前は俺に指図出来る立場じゃねえだろ? こちとら、プライバシー全部監視されてるのを知ってるんだからな? 俺の部屋に監視カメラと盗聴器まで仕掛けやがってよう」
「んぐ……」
「まあ、お前は所詮下っ端の使いッ走りだろうから、命令出したのは別だろうけど、覗いてたのはお前だろ?」
「……は、はい」
一真はふざけてこそいるが、言っていることは全て当たっている。
もしも、これで国家に対して一真が叛逆を起こしても文句は言えない。
桃子も自分達の行いが悪い事だと理解しているからだ。
しかし、それでも不安要素を排除するべくした結果だ。
反省はしていても後悔はない。
「どう償ってもらおうか?」
「……私に出来る事ならなんでもします」
「ほう? それじゃ、俺がお前をタコ殴りにして犯してもいいってか?」
「ッ……はい」
「随分と覚悟が決まってるな~」
腐っても桃子は軍人だ。
国の利益につながるなら、この体を一真に売り払ってもよいと腹を括った。
紅蓮の騎士、白銀の騎士、そして、まだ確かな情報はないが各地に現れた騎士。
それら全てが一真だとすれば、どれほどの利益につながるか。
それが分からないほど桃子も愚かではなかった。
俯いて震えている桃子は震えを止める様に肘を押さえていた。
その様子を見ていた一真は幻影魔法を解き、いつもの格好へ戻る。
「どうやら、相当な覚悟を決めたようだな」
「私も軍人ですから……」
「そうか。正直、国防軍というか日本政府は個人的に気に食わん。だが、運が良かったな。俺の家族にちょっかいをかけていたら、本気でこの国と袂を分かっていたぞ」
その言葉を聞いて桃子は息を呑んだ。
まだ関係者以外知られていないが一部の権力者が、一真の家族及びに知人を脅迫材料に使おうとしていたのだ。
不幸中の幸いにも実行される前に、今回のイビノム襲撃で犯行を企てていた主犯格が全員死んだおかげで首の皮一枚繋がっている。
「ッ……。そうですか」
「盗聴器をアイビーに仕掛けたことを知った時は潰そうかと考えたが、母さんに感謝しておけ」
「そうします……」
長々と前口上を語ってしまった一真だが本命は別にある。
一度、咳ばらいをして一真は本題へと入った。
「んん! 話が逸れちまったが、まず最初に聞きたいことがある」
「私に答えれることなら……」
「じゃあ、スリーサイズを上から順に」
すぐにボケる一真だったが桃子は宣言通り、自分が答えることが出来る事なら口にしようとしていた。
しかし、かなりの抵抗があるようで下唇を噛んでいる。
「ぐっ……上から7――」
「いや、ホントに答えなくていいから」
「ッ~~~!」
羞恥に顔を真っ赤にした桃子は涙目で一真を睨みつけた。
「俺が聞きたいのは、なんで桃子ちゃんがここにいるかだ。確か、代表選手以外は学園で観戦だろ?」
学園対抗戦は甲子園と違って夏休みにするのではなく、冬休み直前で行われる。
それゆえに代表選手以外の生徒は学園の巨大スクリーンで応援するのが恒例行事となっている。
落ち着きを取り戻すように桃子は胸に手を当てて大きく息を吐いてから一真の質問に答える。
「はい。普通はそうですが私は貴方も知っている通り、国防軍の人間ですので上からの命令でこちらに急遽来たわけです」
「その理由を訊いてもいいか?」
「恐らく察しがついていると思いますが貴方のせいですよ……」
「あ~、やっぱり? クラウンバトルのせいか~」
「はい。貴方の実力を知った政府は貴方を何としてでも国防軍及びに国内の企業に確保したいと思い迅速な動きを見せました」
「なるほど。それで心を読む桃子ちゃんが抜擢されたわけね」
「そうです」
「ちなみに桃子ちゃんは軍人らしいけど実年齢は?」
「うぐッ……」
二十歳の桃子は年齢を十六歳と偽って学園に潜入していたことを話したくなかった。
「おやおや~~~? もしかして、かなりサバ読んでたり? もしかして、三十路だったり!」
「そんなにいってません!」
「ほほう。じゃあ、二十代前半とみた! ズバリ、二十二歳だ!」
「も、黙秘権を行使します」
「ということは二十四歳だ!」
「…………」
「ふむ。表情と心拍数から察するに二十四歳ではないと」
「は? 心拍数? なんでそんなことが分かるんですか?」
「ちょっと、集中すれば脈拍とか分かる。流石に脳波までは分からんが」
「わ、私もあまり人のことは言えませんが化け物ですね」
「お前、心を読む云々の前にその口のせいで友達いないタイプだろ」
「そ、そんなことありませんよ!」
桃子二十歳、彼氏はおろか真に友達と呼べる者すらいない。
彼女の周りにいるのは同僚か仕事仲間だけである。
心を読む桃子は友達が作れなかったのだ。
「まあいいや。二十四歳が違うなら二十歳ってところだな」
ドンピシャな正解に桃子は悟られないよう振舞うが、一瞬だけドキリと鼓動を鳴らしたのを一真は聞き逃さなかった。
「二十歳のJK桃子ちゃん。ぷぷぷ~~~」
「(こ、殺す! いつか、絶対に殺してやる!)」
「(まあ、そう怒るなよ。俺は可愛いと思うぜ。桃子ちゃん。制服姿もよく似合ってるよ!)」
「だから、ナチュラルに心の中で会話を成立させないでください!」
「え? これダメだった? 何を考えているかをある程度察して、それっぽい返答してたのにな~」
「なんなんですか! その無駄な高等技能は!」
「無駄じゃないだろ! 今まで楽しかったじゃないか!」
「ストレスで胃に穴が開いたんですよ、こちらは!」
「桃子、普段一人で寂しいと思って俺が会話してやってたのに、ストレスだったんか!?」
「何をどう考えれば円滑なコミュニケーションだと思ったんですか! 常に下ネタのオンパレードだったくせに!」
「男子高校生はそんなもんさ」
「全国の男子高校生に謝れ!」
「お前こそ全国の男子高校生を神聖化してんじゃねえ! みなすべからくドスケベなんだよ! 下半身でしか物事を考えられない生き物なんだ!」
「それはお前だけだ!」
「なんだと! 俺は紳士だろうが!」
「お前みたいな奴が――」
ここで桃子は思い出した。
言われてみれば一真は思考回路こそ下劣極まりない変態であったが、一度も行動には起こしていない。
むしろ、普段は女性を気遣っている素振りすらあるのだ。
実際に一真の評価は高い。
世間一般で言うイケメンである上にノリが良く、お茶らけているが女性からの評判はいいのだ。
「フハハハハ! どうした? 急に黙ったりして! もしかして、思い当たる節でもあったのか~?」
「ぐぎぎぎ……!」
そう、心を読んでいた桃子を嘲笑うかのように一真は心の中でふざけていただけ。
決して、彼は変態などではない。
「ハア~~~。笑った、笑った」
「くッ……」
「大分、話が逸れちまったが元に戻そう」
笑い泣きをしていた一真は目じりを拭うと、真面目な表情を見せる。
先程までの雰囲気と打って変わって桃子はたじろいだ。
「桃子ちゃんよ。俺をお前の上司と交渉させてほしい」
「え……」
「どうやってコンタクトを取ろうかと考えていたんだが、よく考えれば政府の人間である桃子ちゃんがいるじゃないかって思っててな。丁度いいタイミングで現れたのも良かった」
「え、あの……本気で言ってます?」
「本気だ。今まで正体を隠してきたが、もう隠す必要がないと思ったんだ。最初こそ、色々と考えて恐れたんだが、まあ、そんな下らないことで大事なもんを失うところだった。だから、隠すのやめることにしたんだよ」
「そ、そうなんですね……」
桃子としては願ったり叶ったりの展開ではあるが妙に頭が回る一真だ。
一体どのような要求をしてくるか分からない。
とはいえ、交渉するのは自分ではない。
ならば、後は上に連絡を取って自分は指示を待つとしよう。
そう考えた桃子は一真の提案を飲むことにしたのだった。
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