第9話 いざ、アメリカへ!
やっと静かになったアイビー。落ち着いたことで、ようやく話し合いが出来ると穂花は一真に向き直る。
「色々と言いたいことはあるけど、ありがとう、一真。おかげで助かったわ」
「気にしなくていいよ。むしろ、ごめん。俺がもっと考えてれば……」
申し訳なさそうに顔を伏せる一真。自分がくだらないことで悩んでいたせいで家族に迷惑をかけてしまったことを後悔していた。
穂花が一真に近付き、両頬を手で挟むと無理矢理顔を上げさせる。しっかりと目を見て穂花は一真に優しく語り掛ける。
「貴方がバカなのは知ってるわ。くだらないことで悩んで、私達に迷惑をかけたことを死ぬほど後悔してるんでしょうけど……それこそくだらないわ。力があるからってなんでもできると思わないの。人間なんだから取り零すことだってあるわ」
「……でも、そのせいで母さんが」
「そうね。確かに私は怪我をしたけど、こうして無事でいられる。貴方が来てくれたから」
「それは結果論であって……本当ならもっと俺が」
「それは傲慢よ。貴方は確かに万能ともいえる力を持っているわ。今回のことでよく分かったけど、所詮貴方も人間なの。全知全能じゃないわ」
「…………じゃあ、もし取り返しのつかないことが起きたら俺はどうすれば?」
「どうすることも出来ないわ。その時が来ないように必死で足掻いてもどうしようもない時は必ず来る。だからね、私達は一生懸命生きるの」
「後悔することになっても?」
「そうよ。後悔のない選択なんて絶対にないわ。だから、それさえも受け入れて最後は笑って死ねるように生きるの。良い人生だったって心の底から思えれば、それはきっと素敵な事よ」
「いい人生……」
人間いつかは必ず死ぬ。それは勿論、理不尽な目で死ぬときもあるだろう。病院のベッドの上で眠るように死ぬことが出来る人間など極稀だ。
それでも人は生きていく。後悔しない為に生きようとしても、どこかで必ず後悔は生まれる。
だから、最後の最後にいい人生であったと笑えるように生きろと穂花は語った。
「病気や事故で死ぬこともあるだろうから、とても難しいことだけどね。それでも前を真っすぐ見て、しっかり歩いていきなさい」
「…………わかったよ、母さん」
「よし! 分かったのならいい! ところで一真。貴方、こっちに飛んで帰って来たのはいいけど、向こうの人達が心配してるんじゃないかしら?」
「そうだった……ッ! ごめん、母さん! 俺、一旦向こうに戻る!」
「はいはい。全くせっかちなんだから……」
呆れる様に溜息を零した穂花の前から一真は転移魔法で第一エリアへと戻っていった。
◇◇◇◇
学園対抗戦が開催されていた会場に戻って来た一真は周囲を確認する。人がいないのを確認した一真はホッと息を吐く。
しかし、抜け出していた間の状況が分からない。もしかすると、自分がいないことに気がつき、大騒ぎになっているかもしれないのだ。
「やっべ~~~……」
会場の廊下をコソコソと移動する一真はキョロキョロと周囲をくまなく確認する。他に人がいないことを確認して、会場へ向かおうとしていた時、向こう側から人が歩いてきた。
咄嗟に身を隠そうとしたが、物陰も見当たらないので一真は覚悟を決めた。実に無駄で無意味な覚悟だがアホなので仕方がない。
ゴクリと喉を鳴らし、曲がり角から曲がってくる人と一真は直面する。
曲がって来たのは宗次であった。彼は一真を視認するとギョッと目を見開き、駆け出した。
「おい、一真! お前、今までどこに行ってたんだよ?」
両肩を掴まれ、行方の知れない一真を本当に心配していた宗次は問い詰める。
「あ~、えっと、お腹が痛くてトイレに籠っていました」
「そうなのか? でも、トイレも探したけどいなかったぞ?」
「そ、外の見回り中だったんで、外にあった仮設トイレの中にいたんですよ!」
「ああ、それで見つからなかったのか。それにしても無事でよかった。お前がいなくなって大騒ぎだったんだぞ」
「そうだったんですね。それはなんというかすいません」
「無事だったなんならいいさ。それより、外のイビノムは紅蓮の騎士が片づけてくれたからここら辺は安全だ」
「観客はまだ残ってるんですか?」
「いいや、ほとんど帰ったよ。俺達は最後に逃げ遅れた人がいないか確認してたんだ」
「なるほど……」
「それよりも第七の奴らが心配してたから戻った方がいいぞ」
「うっす。そうします」
という事で一真は宗次と一緒に会場へと戻る。そこには学園対抗戦の代表選手たちが集めって情報交換を行っていた。
その中にいる第七異能学園のメンバーは宗次と一緒にいる一真を見えて目を見開く。
いつの間にか行方知れずとなっていた一真が無事なのを知った第七異能学園のメンバーは二人のもとへ近づいた。
「一真君! 一体どこに行ってたんだい!?」
「大丈夫なの!? どこも怪我とかしてない?」
「無事だったんですね! 良かった……」
「心配させないでよ、もう!」
怒涛の勢いに押される一真。
「ご迷惑をかけたようで申し訳ないです」
「やっぱり、一真には私がいないとダメ」
「そんなことは……」
「でも、いなくなった」
「……うす」
楓に指摘された一真は言い返したが、事実を言われてしまい何も言えなくなってしまった。
一真も見つかったことなので学園対抗戦の代表選手たちはこれからどうしようかと話し合う。
何せ、街のイビノムは既に紅蓮の騎士が殲滅しており、けが人も回復しているのでやる事がない。
手持無沙汰である。出来ることがあるとすればイビノムが破壊した街の復旧作業を手伝う事くらいだろう。
家族や友人、知人の安否を確かめたいところでもあるが紅蓮の騎士の目まぐるしい活躍により、恐らくは大丈夫だろうと分かる。
勿論、確証はない。もしかすると、死んでいるかもしれないが確認する方法がないので無事を信じるしかないのだ。
「俺達も会場から出て、街の方へ行こうか。警察も国防軍も忙しいだろうから、こっちから出向いた方が早い」
そう言う訳で代表選手たちは外へ出て行く。一真は暁を背負って他の人達についていく。
会場の外では国防軍や警察にボランティアの団体が忙しなく働いていた。街はイビノムにより半壊しているのでインフラが機能しておらず、ほとんど人の手で行わなければならないので、人手を探していたようだ。
代表選手たちも加わり、瓦礫の撤去や、飲料水、食品などの配給及びに収集を手伝い始めた。
一真は国防軍のもとへ向かい、暁の事情を話す。内容が内容なので国防軍は顔を顰めたが、一応は救助者として受け入れてくれた。
これで一安心ということはないが、打てる手は打っておくべきだと一真は動いた。
電話がまだ繋がらないので、直接出向かなければならない。先程、心配をかけたばかりなので一真は一言残してから一人転移魔法で移動を始めようとする。
その時、電話が鳴った。
まだ電波が繋がっていないはずなのに、電話が鳴ったことに疑問を感じたが鳴っているのなら出なければならない。
一真はポケットにしまっていた携帯を取り出して見知らぬ番号からの電話に顔を顰めたが、通話ボタンを押して電話に出た。
「もしもし」
『ミスター皐月!』
「んあ? その声はスティーブンか。久しぶりだな」
『恥を忍んで頼みたいことがある!』
切羽詰まったようにスティーブンが声を絞り出した。
『アリシアを……アリシアを助けてくれ……!』
「何があった?」
電話の向こうですすり泣くスティーブンの声を聞いて一真は事態が急を要することを察した。
『
あのアリシアが敵の攻撃を受けたという事だけでも衝撃だったのに、危篤状態と聞いて一真は放心してしまう。
しかし、すぐに正気を取り戻し、一真はスティーブンに告げる。
「スティーブン。今すぐお偉いさんに伝えろ。謎の飛行物体が飛んできても攻撃するなと。まあ、攻撃してきても構わんが返り討ちにあうだけだ」
その言葉を聞いてスティーブンは希望を見出した。
『助けてくれるのか?』
「今度は俺の番だ。それよりもアリシアがいる場所を教えろ。俺は英語が分からんから地図アプリで分かるように……すまん。なんで電話が繋がってるんだ?」
『あ、ああ。それは軍用のを使ってるからだ。えっと、場所を地図アプリで送ればいいんだな?』
「そうだ。すぐに頼む」
それからすぐに一真の携帯にスティーブンから住所が送られる。地図アプリで確認すると病院であることが分かった。
確認した一真は最後にスティーブンに声を掛ける。
「スティーブン。さっき言ったこと頼むぞ。これからすぐにアメリカへ向かう」
『OKだ。たとえ、上官をぶん殴ってでも説得する』
「そいつは頼もしい」
電話を切って一真は駆け出した。友であるアリシアの為に。
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