第7話 一真の進撃はまだまだ続く
一真はクソ親父を引き連れてアイビーへ戻ろうかとしたが、あそこにはパパ活ママの久美子がいることを思い出した。
もしも、二人が会ってしまえばどのようなことになるかは目に見えている。確実に修羅場だ。
それは流石に不味いと息子なりに気を遣い、クソ親父を近くのシェルターへ放り込んだ。
シェルターに放り込む直前、最後に交わした言葉はクズであると再認識されるものであった。
「なあ、息子よ。いつ、ラーメンを奢ればいい?」
「さっき、焼肉でも寿司でもいいって言ってたじゃねえか……」
「いや、なんか惜しくなってな。すまん」
「流石だぜ、パパ~……」
やはり、クズはクズであった。
あれだけ大勝ちしたというのに、今更惜しいからと言って渋るとはビックリだ。しかし、それでこそクソ親父であろう。
再び、一人になった一真は騎士の様子を確かめる。一応、同期しているが視界の端に小さなモニターが映っているような感覚なので、集中しなければ現場の状況がよく分からないのだ。
異世界では賢者ルドウィンが使い魔を通して複数の場所を覗き見をしていたが、一真にはそこまで情報処理できる演算能力はない。
もっとも、仲間の女性たちにバレて袋叩きにされていたが賢者の名は伊達ではない。ちゃんと偵察や情報収集を行っていたのである。
恐るべきスケベジジイではあったが尊敬できる賢者でもあった。
「目に見えるイビノムは殲滅完了か……。後は建物内、地下施設にいるイビノムの殲滅だな」
日本各地に現れたイビノムを一真は一人でほとんど殲滅したが、それは目に見える範囲まで。建物内や地下などに潜んでいるイビノムはまだ駆除できていない。
「どうするか……。これ以上は正直、俺の情報処理能力を超えるからな~。クソジジイは小鳥や小動物使ってたけど真似出来るもんじゃねえわ。いや、やれば出来るんだけど……あれ一気に情報が頭に入ってくるから嫌なんだよ……」
どうしたものかと頭を抱える一真は立ち止まっている。こうしている間にも犠牲者は増えているが、すでに救うべき人達は救っているので他がどうなろうと構わない。
冷たいと思われるだろうが、一真にはそこまでの義理はない。勇者時代であったなら違ったかもしれないが、今はちょっと特別なだけの一般市民である。
「仕方ない。近くにいる国防軍から情報貰って適当に潰して回るか」
ここは優秀な国防軍様に手を貸してもらおうと一真は決めた。
ゴーレムを操作し、現場の指揮にあたっている国防軍の幹部を捕まえて、イビノムの出現場所を教えてもらう。
◇◇◇◇
第二エリアでイビノムの駆除にあたっていた隊長は突如現れた漆黒の騎士に拉致された。
「な、何をする!?」
「…………」
一真は音声機能で話かけようとしたが、声で特定されるのは嫌なので地面に文字を書いて、知りたいことを伝えた。
「イビノムの居場所を知りたいのか……?」
コクコクと首を縦に振る漆黒の騎士に怪訝そうな顔をするも隊長は、猫の手も借りたい状況だったので、すぐにイビノムの居場所を教えた。
「この地区……はすでに貴方が殲滅しているからここの地下街だな。もしや、建物内や地下などの視認できない場所は分からないのか?」
再び、首を縦に振り、漆黒の騎士は肯定してみせた。
「なるほど……。目視できればいいというわけか」
考える素振りを見せた隊長は漆黒の騎士のもとから離れていくと、一緒にいた隊員を連れて来た。
「なら、こちらの部下を連れて行くのはいかがでしょう?」
首を傾げる漆黒の騎士。連れて行くのはいいが理由が知りたいといったポーズをしている騎士に隊長が部下の異能について教えた。
「彼は探索の異能を持っていますのでイビノムを見つけるのにピッタリです」
なるほど、といったジェスチャーを漆黒の騎士は見せて隊長が連れて来た部下を脇に抱えた。
「あ、あの隊長! これは一体どういうことでありましょうか! 説明をお願いします!」
「すまない。今は説明をしている暇もないんだ。漆黒の騎士殿。情けない話ですが、どうかお願いします」
任せろ、とサムズアップした漆黒の騎士は探索の異能を持つ隊員を脇に抱えたまま、空を飛んでいく。
豆粒の様に小さくなった漆黒の騎士と、連れて行かれた隊員に隊長は敬礼をするのであった。尊い犠牲である。
「うわあああああああああッ!!!」
とんでもないスピードで空を飛んでいる隊員は悲鳴を上げている。遊園地にある遊具の様に安全装置がついているわけでもなく、生身で、しかも脇に抱えられているという不安定な状態だ。怖くて堪らない。
「いやだああああああああ! お母さぁぁぁぁぁん!」
騎士と同期している一真は煩わしい隊員を黙らせようかと考えた。
気絶でもさせるかと考えたが、そのようなことすれば誰がイビノムの場所を教えるというのか。
うるさくてかなわないが、探索の異能を持つ貴重な人間である。多少は我慢をしようと一真は拳骨を一発喰らわせた。
すると、黙ったので次に騒いだら同じように拳骨を喰らわせようと決めた。
「(うるさくしてたら殺される……!)」
隊員の方は唐突な暴力に理解したのである。相手は圧倒的な存在。自分のような人間などいつでも始末できるだろう。今は有用性があるからこうして保護されているのだ。
少しでも機嫌を損ねれば、次は命がないかもしれないと隊員は顔を青ざめるのであった。
隊長から大まかな場所を訊いていたので、一真はその場所まで着くと低空飛行へ切り替えて、ビルの中やショッピングモールの中を窓の外から覗き込んでいく。
「あ、あの!」
その時、脇に抱えていた隊員が声を上げた。見下ろすと、一瞬ビクリと肩を震わせたがすぐに的確な情報を伝えてくれる。
「この建物内の地下二階にイビノムが複数います!」
その情報を訊いた一真は隊長にしてあげたようにサムズアップを見せて、建物内へ侵入し、地下へ向かった。
言われた通りに地下二階へ向かうと、そこには逃げ遅れた人達とイビノムがいた。
恐らくは結界か、防壁か、どちらかは分からないが必死でイビノムの猛攻を耐えている男性がいた。
それを見た一真はすぐに飛んでいき、イビノムを魔法で焼き払い、安全を確保する。その光景をすぐ傍で見ていた隊員は、恐ろしくもあり、素直に凄いとも思っていた。
キング、覇王、太陽王のような規格外の存在がどれだけ理不尽で、どれだけ頼りになるかを再認識したのだ。彼もその一人になるのだろうと思うと、少しだけ優越感が生まれた。
自分は一緒に仕事をしたのだというちっぽけなものであるが、それでも大半の人間が羨むに違いない。
「(へへ……他の奴らに自慢できるな!)」
人とは本当に愚かな生き物であるが、それでこそ人間と言うものだ。
隊員がそのような浅はかな事を考えている時、漆黒の騎士が拳骨を落とした。
「いで! え?」
「…………」
何故、殴られたのかと顔を上げる隊員だが騎士は答えてくれない。ただ、ジッとこちらを見詰めているだけだった。
「えっと……」
教えを乞うような目で隊員が見詰めると騎士は地面に文字を書いた。
「次はどこだ?」
地面に書かれた文字を読んでハッとする隊員はすぐに探索を行う。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
慌てふためき、探索で付近のイビノムを捜す隊員。その様子を横で見ている騎士は何故、そのように焦燥感溢れる雰囲気を出しているのか分からなかった。自分のせいだというのに、他人事である。
しばらくして、隊員がイビノムを発見。指示された場所に向かい、イビノムを撃退及びに救護の必要な人を助けたりと八面六臂の活躍を見せる騎士。
「(この人、とんでもないな……)」
戦闘から支援までたった一人でこなす騎士に隊員は、ただただ感心している。
しかし、ボケッとするたびに拳骨を入れられて、無理矢理働かせられていた。
「(うう、自分が悪いのは分かってるけど、もう少し手加減して欲しい)」
心の中で嘆きつつも隊員は騎士と一緒に第二エリアのイビノムを殲滅していくのであった。
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