第6話 トイレ休憩行くと連荘止まるんだって! いや、ホント!

 空を飛んで、一真は地上にいるイビノムを次々と殲滅していく。その間も、召喚したゴーレム騎士と同調しており、別のエリアでも一真は暴れていた。


 第一から第八まで広くカバーしている。そのおかげで今回起こった未曽有の大災害も少ない被害で幕を閉じるだろうと予想されていた。

 しかし、各地に現れたイビノムは小型、中型が大半を占めており、そこまで脅威ではない。


 真に脅威なのは海からやってくる超大型である。海岸沿いには国防軍の零番隊が勢ぞろいである。


 国を守護する最強の異能者集団だ。零番隊ならきっと超大型もどうにかしてくれるに違いないと、多くの人が思っていた。

 現実は残酷である。零番隊は勝てない。国内最強の異能者は真田信康であり、彼等は彼に負けず劣らずの存在ではあるが超大型を相手にすることは出来ない。


 そもそも今回のケースは想定外であり、初めてなのだ。大型までしか相手をしたことがないため、どれだけの戦力が必要なのかもわかっていない。

 少数精鋭の零番隊では超大型を相手にするには厳しい。出来れば、数百人規模の戦力は必要だろう。


「……戦艦並みにデカいイビノムが向かってきているって悪夢だろ」

「言うな。俺達は最後の要だ。ここを突破されれば日本は間違いなく終わる」

「決死の覚悟で挑めってか……」

「それだけ勝てる相手ならいいが……。まあ、無理だろう」


 見据える先は水平線の彼方。あそこから超大型イビノムがやってきている。刻一刻と迫るイビノムに零番隊の隊員は死ぬ覚悟を決めて、いつもと変わらぬ態度を崩そうとしなかった。


「見えた……」


 視線の先には今まで見たこともない大きさのイビノム。この距離からでも、その異質さが見てわかる。アレはきっと破滅そのものだ。日本に上陸させてはならないと零番隊は気合を入れ、戦闘態勢へ入った。


「全員、構え! ここは死んでも通すな!」

「「「おう!!!」」」


 と、その時、一つの影が超大型イビノムへ向かって飛んでいく。それを見た零番隊の隊員は指を差して叫んだ。


「アレはなんだッ!?」


 内陸の方から真っ直ぐにイビノムへ向かって飛んでいくのは蒼銀の騎士。太陽光に反射され、煌めく甲冑を身に纏った蒼銀の騎士が超大型イビノムと接敵する。


 超大型イビノムはクジラの何倍もある体をしており、まさに災害そのものと言えるような大きさであった。

 そして、凶悪な見た目をしており、背中には戦艦の様に大砲が乗っている。その大砲から砲撃が放たれた。

 ドオンッという音に零番隊の隊員が耳を塞ぎ、突然の砲撃に目を見開いた。


「あのイビノム! 砲撃までするのか!」

「そんなことより、先程のアレは!?」

「確認できました! アレは……紅蓮の騎士じゃない! 蒼い……? いや、銀色か?」

「蒼銀か?」

「多分そうです! 新たな騎士みたいです!」

「……ハハハ! 紅蓮の騎士、白銀の騎士に続いて蒼銀の騎士ときたか! どこまでも非常識な存在だが今はこれ以上ないくらい心強い!」

「俺達はどうします?」

「恐らくだが俺達が介入できるレベルの戦いじゃない。ゆえに俺達は最悪の場合に備えておく」

「つまり、傍観ですか……」

「まあ、そう拗ねるな。これから神話が見れるかもしれないんだぞ」


 男の言う通り、海上では変態の作ったゴーレムと超大型イビノムの一大決戦が幕を開けた。


 空を自在に舞い、魔法で超大型イビノムを傷つけるが大したダメージはなく、超大型イビノムは負けじと反撃を行った。

 背中に生えている砲台から何百もの砲撃を放ち、ゴーレムを消し炭へと変えようとする。

 しかし、一真の作ったゴーレムは並大抵のことでは破壊出来ない。それに加えて一真自身が同期しているのでその操作には変態性が宿っていた。


 弾幕ゲーを避けるがごとく、ゴーレムは砲撃の嵐を掻い潜り、接近すると肉弾戦でイビノムを沈めに掛かる。

 ドンドンッと和太鼓でも叩いているのかというくらい轟音が鳴り響き、空気が震えていた。


 流石のイビノムもこれには堪らないと悲鳴を上げる。不気味な叫び声に遠くで見ていた零番隊が鳥肌を立てた。

 しかし、それ以上に恐ろしいのは騎士の方だ。あれだけの攻撃を無傷で掻い潜り、尋常ではない威力のパンチや蹴りを放っているのを見ていた隊員達はゾッとしていた。


「化け物かよ……」

「敵も敵だが、騎士もやばいな」

「てか、なんで騎士なのに剣を使わないんだ」

「さあ? 慌ててたから武器を忘れたとかじゃね?」


 騎士の姿をしているのに肉弾戦がメインなことに疑問を抱いていた。

 まあ、実は武器類は全て元の持ち主に返し、国へ献上し、仲間へ引き渡して持ってないなど口が裂けても言えないだろう。

 何故、持って帰ってこなかったのかと罵倒されるのは目に見えているのだから。


 イビノムとゴーレムの戦いは佳境に入った。

 圧倒的なゴーレムにイビノムが我武者羅に砲撃を繰り返し、時には口から全てを蒸発させるかのような極太の熱線を放ち、怪獣と呼んで差し支えのない攻撃を繰り出していた。


 対して、ゴーレムも同じように魔法で光線を放ち、イビノムの熱線を押し返し、爆発させたり、近づいては肉を抉るような拳や蹴りを放っていた。


 傷つき、体のあちこちから血を流しているイビノム。そして、無傷で空に佇んでいる蒼銀の騎士。もはや、勝敗は目に見えていた。


「す、すげ~……!」

「お、おお!」

「俺等いらなかったっすね」

「最後まで気を緩めるな。何が起こるか分からないんだぞ」


 と言うが、勝負はもう着いているも同然。蒼銀の騎士の勝ちだ。イビノムはやがて動かなくなるだろう。

 誰もが終わったと確信していた時、イビノムは最後の抵抗とばかりに全身から煙を上げて姿を消した。


 遠くで見ていた零番隊の隊員だけはイビノムが海の中に潜ったのを見た。

 しかし、それを伝えようにも距離が離れすぎている。大声で叫んでも届かないだろう。

 これではイビノムに逃げられてしまう。折角、蒼銀の騎士が瀕死寸前まで追い詰めたというのに全てが水の泡だ。


「(逃げるのは本能なのかね? それとも知能があるから選んだ行動なのか……。まあ、どっちにしろ、逃がしはしないさ!)」


 蒼銀の騎士と同調していた一真は深海へ逃げていくイビノムに対して巨大な光の刃を形成し、天高く振り上げると、思い切り振り下ろし、海を真っ二つに割り、イビノムを斬り裂いた。


「(魔力消費は……一割もないな。超大型だから警戒はしてたけど、竜王や巨人王に比べれば雑魚だな)」


 本当に神話を再現した一真。真っ二つに割れた海はやがて元に戻り、二枚におろされたイビノムがぷかぷかと浮いている。

 それを目の当たりにした零番隊の隊員たちは夢でも見ているのかと、頬を引っ張り、最後には笑った。


「は、ははは、はっはっはっは! なんだよ、アレ! 無茶苦茶すぎるだろ!」

「キングや太陽王なんて目じゃねえだろ……」

「凄い! 日本にアレだけの能力者がいてくれたなんて!」

「……本当に神話だな」


 役目を果たしたと言わんばかりに蒼銀の騎士は陸の方へ戻っていく。引き返していく蒼銀の騎士を見て味方で良かったと隊員たちは、浮かんでいるイビノムを眺めるのであった。


 ◇◇◇◇


 超大型イビノムの撃破を確認した一真は街を歩いていた。

 上空から見る限りのイビノムは既に殲滅している。残っているのは目に見えない建物内に潜んでいるイビノムだけだ。

 魔力があれば索敵など簡単に行えるのだが、生憎イビノムには魔力がないため、視認する以外はない。


「面倒だ……」


 飛び出して来たイビノムを軽く一蹴する一真が辿り着いたのはいつぞやパチ屋であった。


「む? そういえばここでクソ親父と遭遇したんだっけ……」


 まさかな、と一真はパチ屋に足を踏み入れると中ではイビノムが街中で暴れているというのにも拘らず、必死にパチンコのハンドルを握って奮闘している須野崎賢人がいた。


「うおおおおおおおおッ! イビノムがなんぼのもんじゃい! こちらとら、命懸けてるんだ! たかがイビノム! やらいでかッ!」


 正真正銘の屑であったが、その気概だけは評価に値しよう。他の客は命惜しさに逃げ出しているというのに、たった一人だけ残ってパチンコを打っている。ある意味、素晴らしい精神だ。


「いけーッ! 俺が世界最高の出玉を更新してやる! 二十二万発を出してやるんだ! しゃああああああッ!」

「クソ親父……」


 これには一真も呆れてしまう。しかし、自分も身ぐるみはがされるまでのめり込んでいただけあって、血は争えないと笑い出した。


「ハハハ……血は争えないか」


 その時、ドアを突き破ってイビノムが賢人に襲い掛かる。僅かに遅れて一真が飛び出した。

 イビノムがその凶悪な顎で賢人を噛み千切らんとした時、彼は上皿から落ちた球を拾うために屈んだ。

 そのおかげで九死に一生を得る。とてつもない悪運の持ち主に一真は可笑しくて堪らず、大笑いする。


「ハーッハッハッハッハッハ! もしかしたら、アンタの悪運が俺にも宿ってたのかもな!」


 イビノムを撃退し、一真は賢人のもとへ近寄る。そこには表記二十一万発と書かれていた。本当に後少しで世界記録を塗り替えるかもしれないところである。


「俺は死んでもこの手を離さーんッ!」

「それが終わったら、さっさと逃げろ。クソ親父」

「ん? おお! お前はいつぞやの我が息子じゃないか! 見ろ、後少しで俺が世界記録だ! 焼肉でも寿司でも奢ってやるぞ!」


 キュイン、キュイン、と賢人の脳みそを解かすかのように確定音が鳴り響き、ついに世界記録を更新した。しかも、台の不具合でもない、正真正銘の引きの強さで達成したのだ。


「ガハハハハハハ! うんこを我慢すれば大連チャンするとか言って試したことあるが効果はなかった! しかし、命を賭ければこの結果よ! やっぱり、人間死ぬ気になれば何でも出来るんだな! なあ、息子よ!」

「クックック……そうだな。でも、調子に乗ると終わるのもギャンブルだぞ?」

「今の俺は無敵だ! 負ける気がしねえ!」


 そのすぐ後に賢人のパチンコはうんともすんとも言わなくなり、大連チャンは終わりを告げるのであった。


「貯玉して後で交換すっか……」

「ガハハハハハハ! 逞しい奴だ!」


 イビノムの襲撃により、街は混沌と化しており、球を交換してくれる店員もいなかったので賢人は貯玉して後日交換に来ることを決める。

 そのタフな精神に一真は腹がねじ切れるのではないかというくらい笑い転げるのであった。


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