第60話 本番はっじまるよ~~~

 ◇◇◇◇


 学園対抗戦、本番、三日目。第七異能学園は総合順位五位と健闘していた。一位第一、二位第二、三位第四、四位第三、と続き五位である。基本、学園の序列は若い方が上なのだ。日本が奪還した順であるので歴史が長いために、そうなっている。


 それゆえ、第一と第二は別格であるとされており、毎年どちらかが学園対抗戦の優勝争いをしている。ただ、ここ二年は剣崎宗次という類を見ない天才が現れ、第一の天下となっていた。


 今日までは。


「僕達は五位。百ポイントほど取れば一位になれる。もう分かるね? ただ、この時の為に僕達は力を隠してきた。まあ、ぶっちゃけ僕達が頑張ったのって対人戦だからね。競技となると、また別だし……」


 申し訳なさそうに頬をかく隼人は苦笑いをしている。実際、彼の言うとおり、第七異能学園の生徒は奮闘はしたものの、結果は振るわず、順位を上げることが出来なかったのだ。


 それも仕方がないだろう。第一や第二は設備に環境も良く、さらには人口も第七に比べたら遥かに多いので、才能のある人間が多く集まるのは必然だ。

 それに第七異能学園よりも生徒数が多く、そこからさらにふるいを掛けられ、代表に選ばれるのだからその実力は高い。


 第七異能学園が弱いというわけではないのだが、やはりより厳選されている第一と第二は別格なのだ。


「でも、今日僕達は全ての常識を引っくり返す! 幸運な巡り会わせがあったおかげで僕達は強くなった! 断言しよう。間違いなく僕達は歴代最強の第七異能学園の代表メンバーだ! 僕達なら勝てる! 絶対に優勝するぞ!」

『おー!!!』


 みんなの気持ちが一つになる。隼人の気合の入った言葉に全員が頷いた。

 それぞれの用意されたVRマシンに乗り込んでいき、一真もVRマシンに乗り込もうとした時、隼人から声を掛けられる。


「一真君。会長としては情けないけど、もしも、僕達が負けた時は君に託してもいいかい?」

「無論です。会長達はどんと胸を張り、何も気負わず戦ってください。後ろには俺がいます」

「ふふ、本当に頼りになる後輩だよ。僕は日本一、いや、世界一幸せな生徒会長だ」


 隼人に憂いはない。やれるだけのことはやった。出来る限りの努力をしてきた。後は本番でそれを発揮するだけ。以前の隼人ならば、自分は会長だからと余計な事を考えていただろう。

 だが、しかし、今回は違う。何も気負わなくていい。何も考えなくていいのだ。たとえ、自分が何一つ成し遂げることが出来ずに倒れたとしても心強い後輩がいてくれる。


 今日、誰も彼もが驚く事になるだろう。もしかしたら、世界がひっくり返ってしまうかもしれない。皐月一真という存在がついに公けの場で暴れ回るのだ。


 この先の展開が容易に想像出来てしまう隼人は、たまらなく嬉しそうに笑い、VRマシンへ乗り込んだ。


「(きっと、君は僕の予想を遥かに上回るんだろうな~)」


 世界は本当の意味で知る事になる。皐月一真という変態の名を。


 ◇◇◇◇


 第一異能学園から第八異能学園までの代表メンバーがVRマシンに乗り込み、クラウンバトルの準備は完了となった。

 学園対抗戦もいよいよ大詰め。最終種目であり、もっとも人気を博しているクラウンバトルが幕を開けようとしている。


 今年は初の三連覇がかかっている第一異能学園を見に、会場は大きな盛り上がりを見せていた。勿論、ネット中継もされているので各学園、携帯端末、PCからも観戦できる。


 当然、海外からも注目を集めていた。ただし、第一異能学園の三連覇ではなく皐月一真にだが。


「んもう! 早くしてよ! やっと、一真の活躍を見れるんだから!」


 アリシアは部屋に備え付けられている巨大なスクリーンで学園対抗戦を観戦している。しかし、まだ始まらないことにイライラしており、不機嫌そうに口を尖らせていた。


「何の為にリアルタイムで起きてると思ってるのよ! 早く一真を映しなさいよ!!!」


 現在、アメリカの自宅にいるアリシアは生中継を見ている。日本との時差でアメリカは深夜だ。彼女が怒ってしまうのも無理はないのだが、流石に日本側は悪くない。


 それに対して、フランスは朝方であった。まだ眠たいが、起きれないほどではないのでシャルロットはベッドで横になったまま、タブレットで学園対抗戦を見ていた。


「フワァ……。うぅ、まだ眠たいですね~。開始時間までまだ少しありそうだから眠っておこうかな」


 不摂生な自堕落聖女は欠伸を噛み締め、タブレットを離さずに画面を眺めていた。


 無論、一真を注目しているのは彼女達だけではない。イギリスのアーサー王、中華の覇王、エジプトの太陽王といった数々の有名人が一真を一目見ようと画面を眺めている。


 画面の向こう側、会場の方ではクラウンバトルが始まるまでの時間を進行役を務める司会が稼いでいた。


「さあ、学園対抗戦もいよいよ大詰め! 最後の競技は、皆さんお待ちかねのクラウンバトル! 今年はどこが優勝をするのでしょうか!」

「やはり、注目株は第一でしょうね。現在も総合一位であり、初の三連覇が掛かっているのですから。気合の入り方が違いますね」

「しかし、第二も負けてはいませんよ。総合順位二位であり、クラウンバトルで結果を残せれば、逆転もあり得ます! 勿論、それは他の学園にも同じ事が言えますけどね!」

「そうですね。今年からクラウンバトルはルールが一つ加わりましたからね。それがどのように作用するか、それも見ものでしょう」

「そうです! 今年からはポイントがつくようになりました! クラウンを倒せば二十ポイント、エースなら十ポイント、リーダーなら五ポイント、それ以外ですと一ポイントとダミーのゼロポイントですが、より多くの選手を撃破すればポイントが追加され、一気に大逆転も可能となりました! 漁夫の利を狙った下克上もありえますよ~!」


 と、ついでに分かりやすく新ルールについて説明を終えると、クラウンバトルの準備が整ったと司会のほうに連絡が入る。


「皆さん! 大変お待たせしました! クラウンバトルの準備が整ったそうです! ついに始まります! 学園対抗戦、最終種目、クラウンバトルが!」

「いや~、年末はこれが毎年の楽しみなので待ちきれませんな」

「それでは、皆さん! ご一緒に! 3、2、1! スタートッ!!!」


 ブォンと会場の真ん中にモニターが現れ、クラウンバトルの中継が始まった。


 ◇◇◇◇


 クラウンバトルでの初期位置は各学園ランダムだ。すぐには会戦しないように配慮されているので、いきなり脱落とかはない。

 一真達、第七異能学園が配置されたのは荒野。十三人が荒野の中心に現れて、周囲を見渡す。


「敵から丸見えですね」

「まあ、荒野だからね。でも、すぐに敵と遭遇する事はないよ。それじゃ、作戦通りに行こうか」


 最初から決めていた通り、六、六に分かれ、一真を一人荒野に残して代表メンバーは左右に消えていく。ポツンと荒野に残された一真は、せめてもう少し会話を楽しみたかったと寂しそうに呟くのであった。


「もうちょっと、いてくれても良かったじゃん……」


 とはいえ、今回新しく追加されたルールのおかげで第七異能学園は優勝することが出来る。なら、迅速に動いてポイントを稼ごうというのは何も間違っていない。一真という個人の感情などどうでもいいのだ。


「まあ、いっか。とりあえず、廃墟エリアの高層ビルに行こうっと! 高い所から見下ろして強キャラムーブや!」


 馬鹿は高いところが好きという言葉がピッタリ当てはまるのは、この男くらいだろう。


 廃墟エリアへ移動を始める一真。彼は上空を見上げて、手を振った。現在、生中継をされているので全国、世界に公開されているのだ。

 忍者の装束に頭巾を被って目元以外隠している一真は、両手に槍、背中に剣を四本、腰には刀を四本、指輪を十個嵌めた奇抜な格好をしていた。


 それを見ていた大半の観客は盛大に笑っている。何年かに一人は大体一真のように奇抜な格好をする者が現れるのだ。存在感はあるがそれだけ。基本はすぐにやられるのがオチである。


「ぶはははははは! なんだよ、こいつ! ふざけてんのか」

「出た出た。いるよなー、たまにこういう奴。少しでも有名になろうって魂胆が丸見え」

「恥ずかしくないのかしら」

「嫌ね、こういう人って他の人の事考えてないんでしょうね」

「国防軍に少しでも取り入ろうとしてるんだろうな~」

「忍者のコスプレとか古すぎだろ。まあ、かえって目立つからいいのか?」

「他の学生達が本気でやってるのに、こいつお祭りだと思ってるのか? さっさと、やられればいいのに」


 酷い言いようではあるが、それが当たり前だ。確かに学園対抗戦は一種のお祭り騒ぎだ。だが、それは観客にとってであって選手にとっては違う。甲子園と同じで本気なのだ。決して遊びなどではない。

 その中に今の一真みたいにふざけたコスプレをした者が現れれば、不愉快に感じてしまうのは当然であろう。


 とはいえ、観客全員が一真に対して悪感情を抱いているわけではない。中には好ましく思っている者もいるがごく少数だ。どちらかと言えば異色なキャラである一真を見て面白がっている者の方が多い。


「いやー、久しぶりに見たな~。ああいう面白い選手は」

「いたよな~。昔は」

「まあ、大体すぐにやられてたけどね~」

「懐かし~」


 賛否両論、少し否に偏りがちだが一真は良くも悪くも目立っていた。


 そして、ネット中継で見ていた一真の母親こと穂花はピクピクと頬が引き攣っていた。忍者のコスプレをしている一真を一目見て、間違いなくバカ息子であると見抜いていた。


 実はほんの少し前に一真から電話があり、あることを穂花は伝えられていたのだ。


『母さん。悪いんだけど迷惑かけるかも』

『何をするつもりか知らないけど、いくらでも迷惑かけなさい。貴方のお尻を何度も拭いてきた私からすれば今更よ』

『ん、ありがとう。愛してるよ、ママン』

『お母様とお呼び!』

『は~い』

『伸ばさない! 返事は、はい、でしょう!』

『はい! じゃ、行ってきます!』

『行ってらっしゃい!』


 と、事前に一真から伝言を預かっている。迷惑をかけると言っていたのは、これのことかと穂花は子供達とテレビを見ながら考えたが、どうも違う気がする。

 恐らくではあるが、もっとアホで間抜けなことだろうと穂花は予想する。それこそ、紅蓮の騎士だということを盛大にバラしたりとか。そういったことを穂花は想像するのであった。


「全く……」


 呆れたように溜息を吐く穂花であったが、その顔はとても優しかった。息子を思う母親の慈悲深い笑みを浮かべながら、テレビの向こう側にいる一真を見詰めるのであった。


 クラウンバトル真っ最中の一真は廃墟エリアに向かって歩いている。まだ敵とは遭遇していないが、エリアを移動すれば間違いなく接敵するだろう。

 敵からすれば一真などネギを背負ったカモである。クラウンを所持しており、ただの支援科。奇抜な格好と派手な装備をしているが、はっきり言って的でしかない。


「(む……。前方から複数の気配。仮想空間の再現度が高いおかげで人はすぐ見つけれるな。数は四人。恐らくは基本編成のダミー、もしくはクラウンを含めた四人編成。先手必勝……いや、見敵必殺にするか。盛り上げるなら、会敵してからの戦闘だよな~。よし、方針は決まった。一番最初の撃破は俺が貰おう)」


 敵の気配を察知した一真はゆっくりと歩いていく。敵がいる方向へ向かって歩いていく一真の姿は観客から丸見えであった。

 このまま進めば一真と第二異能学園の石動いするぎ神奈かんな率いるパーティとぶつかる。観客は最初の戦闘が酷くつまらないものにならないことを期待するのであった。


 道化なら道化らしく観衆を笑わせてみせるが、一真は道化の皮を被った人外の変態である。これより先、観客は、日本は、世界は皐月一真という変態を知ることになるだろう。

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