第56話 認めよう! 君達は戦士だ!!!

 新たな弟子を迎えた一真は三人に隼人と同じように防具を着用してもらう。全身を覆うプロテクターを着用してもらい、安全性を確保するが打撲、最悪骨折までは覚悟しなければならないだろう。

 一真も一応は手加減をするが、打ち所が悪ければ骨にヒビが入るのは免れない。その場合はこっそりと回復魔法を施すようにしている。


「よし! 準備出来ましたね!」


 一真の目の前には完全防備の四人。対して一真は防具類を一切身に着けていない。流石にそれは危険なのではと指摘される。


「あの、流石に四人も相手にするんだから危ないんじゃないの?」

「アッハッハッハ。そう言う事は俺に一撃入れてから言ってください」


 火燐が一真の身を案じて忠告しているが、彼からすればド素人の攻撃などどれだけ数が増えようとも被弾しない自信しかない。目の前の四人は学生の中では優秀なのは間違いない。学園対抗戦に選ばれるのだから当然だが。


 だからといって、四人が戦闘のプロかと言われると違う。あくまでも学生レベルだ。それゆえ異世界で命懸けの戦いを繰り広げていた一真には遠く及ばない。


「朱野さん。君の言っていることは正しいんだけど、一真君は異常だから平気だよ」

「平気って……。そういえば、会長は異能を使って模擬試合してるんですよね? それって本当なんですか?」

「本当も何もさっき詩織が電撃を一真君に向けて撃って避けられたじゃないか。アレがすべてだよ」

「まさか、本当に皐月君は会長でも勝てないレベルなんですか?」

「うん。氷室さん。僕が全力でやっても傷一つ付けられないのが現実さ」

「信じられませんと言いたいですけど。確かにさっき電撃を避けましたもんね……」

「はいはい。時間は限られてるんですから、お話はここまでです」


 一真が手を叩いて会話を終わらせると、彼はトレーニングルームの中央へ歩いていき、四人の方へ振り返る。


「では、早速始めましょう。ルールは簡単です。先輩方は異能を使って本気で戦ってください。目潰し、金的、なんでもありです。こちらは素手のみと言いたいですが、この模造刀を使わせていただきます。金的、目潰しなどの行為は禁止しますのでご安心を。ですが、それ以外は容赦なくやらせていただきます」


 と、そこで一度一真は四人を見渡して「わかりましたか?」と問いかける。一真の問いかけに四人は理解したと首を縦に振ってみせた。


「じゃあ、最後に注意事項というか、なんというか、その……俺は戦闘すると口が悪くなります。その点は容赦してください。それでは、始めましょうか。先攻はそちらに譲ります。誰からでも来てください」


 ちょいちょいと手で招く一真に隼人以外の三人が戸惑っていた。いの一番に動いたのは隼人だ。

 彼は三人よりも早く一真と訓練をしていたので、もう慣れている。一真に全力で攻撃をしても問題ないという事を体で覚えている隼人は一切の手加減なく糸の異能を駆使して攻撃を仕掛けた。


「はあッ!!!」


 全身を絡めとる糸。常人であれば、抜け出すことすらできずに切り刻まれるだろう。しかし、相手は一真。隼人の糸など彼にとっては玩具に等しい。一真は模造刀を振るい、隼人の糸を断ち切った。


 その光景を見た詩織と雪姫に火燐の三人はギョッと目を見開き驚いて固まってしまう。


「こんなナマクラで斬れる糸など俺に通用すると思ったか! もっと精度を上げろ! 絶対に斬れないという糸を出してみろ!」


 怒鳴り声を上げた一真はその場から飛び跳ねた。一気に距離を詰めてくる一真に対して隼人は綾取りのように指を巧みに動かすと糸で手足を縛ろうと試みる。が、そのようなことは想定済みの一真からすれば意味はなかった。


 模造刀を振るい、糸を断ち切り、隼人の懐へと侵入した一真は隼人の腹部に強烈な膝蹴りを入れる。防具で守っているといっても衝撃は防げない。隼人は体をくの字に曲げると、床に膝を着いた。

 そこを一真は容赦なく顔面に拳を叩き込み、完全に隼人を床に沈めるのであった。一連の動きを見ていた三人は一体何が起きているのか理解できなかったが、隼人が一真によって倒されたと言ことだけは理解した。


「雪姫、火燐! ぼーっとしてる場合じゃないわ! 私達も攻撃するのよ!」

「「は、はい!!」」


 三人は同時に異能を発動する。電撃、氷、炎、と強力な異能が一真を襲うが、真っすぐに飛んでくるものなど彼には通じない。


「阿呆共めッ!!! 三人揃って真っすぐにしか攻撃できないのか! この程度で勝てるわけがなかろうがッ!」


 飛んできた三人の攻撃を避けた一真は棒立ちの三人のもとへ詰め寄り、容赦のない蹴りや拳を叩き込んだ。


「がッ!?」

「ぐぅッ!」

「あぐッ!」


 想像していた数倍の衝撃が体を襲い、三人は耐えることが出来ずにその場へ倒れ込んだ。


「お三方、今から抜けてもらっても構いません。今、体験したように俺は女性であっても手を抜かないという事は痛いほど理解できたでしょう。出口はあちらです」


 冷たい眼差して三人を見下ろした一真はトレーニングルームの出入り口を指差した。そして、踵を返して彼女達に興味を無くしたように背を向けて立ち上がろうとしている隼人のもとへ向かった。


「待ち……なさいよ……」

「まだ……終わってないでしょ……」

「どこへ……行こうと言うのですか……」


 背後から聞ける苦しそうな声。一真は振り返ると、そこには震える膝に鞭を打ちながら立ち上がろうとしている三人の姿があった。彼女達の目は死んではいない。まだやれると火が灯っている。


「失礼。俺は貴女達の事を所詮口だけだと侮ってました。どうせ、訓練を始めればすぐに音を上げて逃げていくだろうと……。非礼を詫びます。会長同様、貴女達を戦士と呼ぶに値する人間と認めましょう」


 ペコリと頭を下げる一真。彼女達は逃げなかった。一真の一撃を受けても尚、立ち上がった。ならば、それが意味するのは一つだ。彼女達も隼人同様に真に覚悟を決めた戦士である。


「えっと……それは喜んでいいのかしら?」

「アハハハ……。どうかな。一真君に認められたら、どうなるかは僕を見れば分かるよ」


 いつの間にか回復していた隼人が三人のもとへと寄っていた。彼はまだお腹が痛いようで、苦しそうな表情をしている。


「再開しましょうか」


 ニッコリと微笑む一真は悪魔か天使か。この時ばかりは四人も理解していた。悪魔であると。優しい面もあるが悪魔にしか見えなかった四人は夕食の時間までみっちりとしごかれるのであった。


 ◇◇◇◇


「ご飯は沢山食べましょうね! 今日は沢山汗をかきましたし! 沢山動きましたから!」


 ニコニコと満面の笑みを浮かべている一真は大量のご飯とおかずが乗ったお盆をテーブルの上にドカッと置いた。その目の前には疲れ果てて廃人になっている隼人たちがいる。


「一真。会長達どうしたの?」


 一真が夕食を食べていると、その横に楓が座ってきた。彼女は一真の目の間で屍の様に動かない四人を見て不思議そうに首を傾げている。何があったのだろうかと、事情を知っていそうな一真に尋ねた。


「めっちゃ訓練して疲れてるんだよ」

「会長は一真としてるんだよね? なんで副会長達まで疲れてるの?」

「俺と会長がどんな訓練してるか気になってたから一緒に訓練したんだ」

「そうなんだ。私も明日一緒にいい?」

「俺はいいよ。でも、結構きついよ? 四人がこうなってるんだから」


 目の前の四人みたいになるよと教えて上げる一真に楓は問題ないと伝える。


「大丈夫。私、頑張るから」

「そっか。楓が頑張るなら俺は何も言わない。多分、会長達もダメって言わないから、明日は俺の所においで」

「うん、そうする」

「あ、でも、俺、訓練中は口悪くなるから、嫌だったらやめてもいいからね」

「それは面白そう」


 普段はお茶らけてばかりの一真が自ら口が悪くなると言っているのだ。楓はとても興味深いと笑っていた。その様子を見ていた女性陣は新たな犠牲者の来訪に嘆くのであった。


「(ああ、また犠牲者が増えるのね……)」

「(楓ちゃん、皐月君の事嫌いになりそう……)」

「(二人の仲が悪化しなければいいのですが……)」


 一真の訓練時の姿を知っている三人はただただ楓の安否を心配していた。


 ◇◇◇◇


 その晩、一真は自室にある浴槽ではなく大浴場に入っていた。やはり、日本人である一真も風呂が好きだ。それゆえに大浴場は最高の場である。


「ふい~~~」


 軽く体を洗い流し、大浴場に浸かる一真は一日の疲れを癒すように足を伸ばしていた。


「う~む……。なんでみんな大浴場利用しないんだろ?」


 周りを見れば学生の姿はどこにもない。一真が泊まっているホテルは学園対抗戦の代表選手以外は利用していないので学生しか客がいない。

 しかし、残念ながら大浴場を利用している学生がいないのだ。勿論、ゼロというわけではない。一真がゆっくりしている時、大浴場の入り口から肩にタオルを掛けた宗次が現れたのだ。


「お? 俺以外にも大浴場に来てる奴がいたのか!」


 そちらへ顔を向ける一真は驚きの声を上げる。


「な、なんだと……ッ!」


 彼の股間には立派なイチモツがついていたのだ。恐らく戦闘力53万はあるかもしれない。

 しかし、こちらとて負けず劣らずの魔剣だと一真は湯船から立ち上がり、宗次と相対する。


「おお! ふっふっふ! 中々だな」

「そちらこそ!」

「しかし、一真。お前、いい体してるな! しっかりと鍛えられてる。その体を作るのに眠れぬ夜もあっただろう!」

「それはそちらも同じこと! 筋肉が物語っているぜ!」

「「ワッハッハッハッハッハ!!!」」


 豪快な笑い声をあげる二人。その時、女風呂の方では二人の会話を聞いて鼻血を流していた女性がいたとか、なんとか。

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