第53話 全ての物事は大体力技で解決できる
突然、現れた蒼依のせいで肝心の異能を聞き出すことが出来なかった一真。しかし、彼は諦めることなく再度チャレンジする。蒼依と戯れている宗次に一真は声を掛けた。
「あの~、それで何を今は模倣してるんです?」
「ん? ああ、それはな――」
一真の質問に答えようとする宗次の頭を蒼依がスパコーンと叩いた。
「だから、何を言おうとしてるのよ! それと君も! 変な事聞かないでくれるかしら!」
「変な事ではないと思います! 敵情視察という言葉がある通り、自分は情報収集しているだけであります!」
「む! だからって、こんな公の場ではやめてくれるかしら。敵は貴方だけじゃないのよ」
負けじと蒼依も一真を睨みつける。彼は美女に睨まれようとも毅然とした態度を崩さない。かに思われたが、一真は上司に胡麻をするサラリーマンの様に下手に出た。
「そこをなんとかなりませんかね~?」
「さっきの勢いはどこに行ったのよ……」
「ハッハッハッハ! まあ、いいじゃねえか。知られたところで俺が負けると思ってるのか?」
その一言に会場にいた全員が殺気立った。誰も負けるつもりはないのだ。全員が優勝するつもりでいる。宗次の発言はこの場にいた全ての人間を敵に回したのだ。
「わお……」
思わず感心してしまう一真。宗次の絶対的な自信は過去の栄光から来るものだろう。一年生の頃から学園対抗戦に出場し、二年連続で彼が第一学園を優勝へ導いた実績があるからこその発言だ。
「それはどうかな……」
「隼人か。悪いが文句は言わせないぜ」
「ああ、わかってるよ。君の実力は嫌と言うほど知ってるからね」
「楽しみにしてるぜ? 唯一、俺に土をつけたのがお前なんだからよ。きっと、去年よりも強くなってるんだろ?」
「勿論さ。必ず、君に敗北の二文字を刻んであげるよ」
「フハハハハハ! 今から楽しみで仕方がねえな……」
と、隼人と宗次が睨み合っているところへ第二学園の天王寺弥生と同じく第二学園の
「ちょいちょい、何を二人で盛り上がってるんや? ウチらも混ぜてえや」
「ホンマどす。
去年準優勝の第二異能学園。当然、第一学園とは因縁があった。しかも、第二学園は二年連続準優勝だ。ここまで言えば分かるだろう。彼女達は剣崎宗次によって毎回優勝を阻まれたのだ。隼人以上に宗次をライバル視しているのは当然のことであった。
「おお、お嬢か。悪いが今回もウチが優勝いただくぜ」
「何を勝手に言っとんのや。今年は負けへんで」
「神奈。私のセリフを取らんといてくれる?」
「ハハハハ。俺は誰からの挑戦でも受けて立つぜ?」
大胆不敵な笑みを浮かべる宗次に誰もが笑みを浮かべる。上等だ、今度こそ吠え面かかしてやると、選手たちはやる気に満ち溢れていた。
「(うひょ~~~。闘志ビンビン。みんな、やる気に満ち溢れてますね~)」
会場の空気がピリついていることを感じた一真はゾクゾクと興奮していた。誰も彼もが勝利に飢えた獣。しばらくの予行演習を過ごした後、覇をかけて競い合う好敵手たち。平穏を望んでいる一真だが戦うこと自体は嫌いではない。命のやり取りのない比武ならば大歓迎だった。
とはいっても、残念ながら一真の出番はクラウンバトル以外ない。
◇◇◇◇
翌日、朝食を済ませた一真達は第七学園に与えられたミーティングルームにいた。
議題は学園対抗戦のスケジュール確認とクラウンバトルのフォーメーションの確認だ。
学園対抗戦はオリンピックのように複数日で行われる。一真が出るのは目玉の種目であるクラウンバトルだ。基本は学園で行われている訓練と同じで仮想空間を用いたバトルロイヤル形式だ。
「それじゃあ、僕と皐月君は先に行かせてもらうね」
「え?」
特に何の説明も受けていない一真は立ち上がる隼人を見て間抜けそうに口を開いていた。
「アハハ。驚くのも仕方がないね。学園対抗戦の本番まで各学園の生徒は練習だね。残り二日で全体を通しての予行演習なんだ。といっても、最終日は休日。ベストコンディションで挑むためにね」
「はあ。なるほど」
「まあ、大体は前半各種目の練習を行って残りの後半はクラウンバトルの予行演習さ。AIを使った実戦形式のね」
「へえ。それで、どうして僕はいきなり呼ばれてるんです?」
「そんなの簡単な話じゃないか。君が今回の要だからさ」
いい笑顔だが一真からすればいい話ではない。他の支援科の生徒は観光に向かう事を話していたのに、まさか自分は会長と付きっきりで訓練とは聞いていなかったのだ。
「異議あり!」
「却下。認めません」
「うおおおおおおおん……」
「それじゃ、VR装置のところへ行こうか」
肩を掴まれた一真はそのまま隼人に連行される。予定していた観光旅行は完全に潰えた。
隼人に連れて来られた部屋には大量のVRマシンが設置されていた。しかも、最新型である。流石は第一エリア。第七エリアのような田舎とは金の掛け方が違うと、一真は格差を思い知った。
「本番もこれに乗るんですか?」
「ううん。これよりもさらに最新型だよ」
「うえ、マジっすか」
そんなに開発して意味があるのだろうかと不思議に思うが意味はあるのだ。一真が知らないだけで大人の世界には色々とあるのだ。
「じゃあ、とりあえず本番と同じフィールドに設定するね」
「うっす!」
というわけで早速、仮想空間へダイブ。
一真は細かい設定を無視していつものように学生服のまま仮想空間へと降り立った。
クラウンバトルで使われるフィールドは孤島だ。ただし、普通の孤島ではない。火山エリア、廃墟エリア、密林エリア、砂漠エリア、荒野エリアの五つに分かれている。
仮想空間では現実と時間の流れが違う。そのおかげで心置きなく選手たちは戦うことが出来る。しかも、クラウンバトルはバトルロイヤル形式なので最後の最後まで戦えるのだ。
「やあ、皐月君」
「あ、どもっす。ここがクラウンバトルのフィールドなんすね」
「うん。広いでしょ?」
「広すぎません?」
一真達がいるのは廃墟エリアにそびえ立つビルの屋上だ。見渡す先には教えてもらったエリア。火山、砂漠、廃墟、密林、荒野。この五つのエリアでバトルロイヤルをするのだ。
「まあ、参加選手が減ってきたらエリアは縮小するんだけどね」
「どこかのゲームを彷彿とさせるシステムですね」
「それは仕方ないでしょ。最初こそ、第一から第八の代表選手十三名の合計百四人がいるんだからエリアが広くないとすぐに試合終わっちゃうよ」
「まあ、そうですね。各地でバトルって感じが面白いですもんね」
「そうそう。戦略性も重要になってくるからね」
「漁夫の利とか狙えたりしますからね~」
「うん。だからこそ、大番狂わせとかあって一番盛り上がるんだけど……」
「ここ二年は宗次先輩の無双ですもんね」
「そうなんだよね~……」
「でも、会長が後少しだったじゃないですか!」
隼人が学園対抗戦に出たのは二年になってからだ。一年のころは糸使いということで周囲から見下され、蔑まれていたが血の滲むような努力で彼は一年生の終盤で学年最強に上り詰めて、二年の時に代表に選ばれた。
初参加の学園対抗戦では糸使いと言う珍しさから注目されたが、当時から現役高校生最強として名を馳せていた剣崎宗次には勝てなかった。しかし、唯一宗次に土をつけたのは隼人なのだ。
糸と言う戦闘に不向きな異能を巧みに扱い、宗次を翻弄し、後少しと言うところまで追い込んだのだが、彼が隠していた最後の異能によって隼人はあと一歩及ばずといったところで負けた。
「結局、勝てないと意味ないよ」
「会長……」
「ま、暗い話はここまでにして。もう一度、ルールを確認をしておこうか」
パンと手を叩いて話を打ち切り、隼人はクラウンバトルのルールを確認する。
「クラウンバトルは文字通り、
「本物の王冠と
「そう。今回は皐月君に本物の王冠を持って逃げてもらいたい」
「時間は無制限。ルールはバトルロイヤル形式。緊張しっぱなしですね!」
「そうだね。一瞬たりとも油断は出来ないよ」
「ところで、支援科の生徒も武装はOKなんですよね?」
「うん。銃火器はハンドガンまでだけど、刃物類は割となんでもありだよ。過去の参加者には支援科の生徒が戦闘科の生徒を返り討ちにした例もあるからね。まあ、でも、遠距離から一方的に蹂躙されたりするけどね」
「ふむふむ。武装は今確認できますよね?」
「出来るよ。システム画面を開いてごらん」
言われて一真はシステム画面を開いた。そこには服装から武装の変更画面や身長、体重といった基本的な数値も変更できるようになっていた。これは練習モードなのでかなりの自由度がある。女の子になることも可能だ。色々な楽しみ方で遊べるようにもなっていた。
「ほうほう……。武器はと」
武器の画面には銃火器も大量にあるが本番では全く使えないので一真は候補から外す。大量の武器をスクロールして確認する一真は多様な種類の武器に興奮し、一つ一つ選んでいく。
「皐月君。興奮するのは分かるけど、君の役目は一秒でも長く生き残ることだ。武器はハンドガンで盾を装備するといい。あとはパワードスーツだね。それが無難な選択だよ」
「会長」
丁寧にアドバイスをしている隼人に一真は声を掛ける。
「ん? なんだい?」
「確認なんですけど……ここの戦闘データって
「うん。全部残るよ。でも、閲覧できるのは僕達だけだよ。練習してるデータを閲覧されたら不利になるからね」
「つまり、外部には漏れないってことですか?」
「そうだよ。以前、管理人に賄賂を渡してデータを盗むような事件があってからは完全にロックされてね。参加選手しか見れないようになってるんだ。あと、一応、最近のは生体認証とか必要になってくるから本人以外閲覧禁止とかあるね」
「ほほう……! それはいい事を聞きました」
一真は隼人の説明を聞いて閃いた。閃いてしまった。第七異能学園を勝利に導く冴えたやり方を。
「会長。俺と戦いませんか?」
「え? 本気で言ってる?」
「本気も本気、超本気ですよ」
「えっと、流石にそれはどうかと思うよ? 確かに皐月君を選んだ理由は支援科らしくない戦闘力に運動神経の良さだ。でもね、いくらなんでも僕と戦うのは無理だと思うよ? 異能抜きならいい勝負はすると思うけどさ」
「大丈夫ですよ、会長。俺強いっすから」
その一言は流石に温厚な隼人でも見過ごせなかった。軽い冗談ならば、まだいい。しかし、一真は本気で言っている。これは一度先輩として教えておくべきだろう。どちらが偉いのかを。
「皐月君。流石に僕も許せないことはある。君のその不用心な発言は多くの異能者を侮っている! 少しばかり先輩として教えてあげよう」
「十分後にはどちらが上か分かりますよ」
武器を選んだ一真は苛立ちを浮かべている隼人と向かい合う。
「躾のなってない後輩を躾けるのも先輩の役目だからね」
「本気で来てくださいよ? そうじゃないと、すぐに終わります」
◇◇◇◇
時同じくして第一異能学園のミーティングルームでは蒼依が仕切って会議が行われていた。
「今年注意するのは第二と第七ね。第二は毎年優勝争いしてるから分かると思うけど、第七は桐生院隼人がいるわ。不屈の糸使い。去年、唯一宗次に土をつけた相手よ」
ミーティングルームに設置されたモニターに映し出されているのは第二異能学園の代表選手と隼人だ。蒼依は彼等を指差して説明を続けようとしたら、宗次が制した。
「いや、待て。隼人も警戒するに越したことはないが一番は皐月一真だ」
「皐月一真って支援科の子でしょ? クラウンバトルでしか出て来ないになんで警戒する必要があるのよ?」
「お前も知ってるだろ? 第七異能学園に斉天大聖、魔女、聖女、円卓の騎士が来たことはニュースになっただろ」
「それは知ってるけど、まさか彼がそうだって言うの?」
「ああ。間違いなく奴には何かがある。アイツはただの支援科なんかじゃねえ」
「でも、クラウンバトルは代表選手が全員参加するバトルロイヤルよ? いくら、普通の支援科じゃないからって、そこまで警戒する必要はないでしょ」
「その油断が命取りになる。実際、俺はそれで痛い目にあってるからな。隼人の糸が凄い事は知ってたが、所詮糸使いなんて大したことないと高をくくっていた。結果、どうなった? あと一歩間違っていれば負けていたのは俺だった」
「……そうね」
「だから、俺はもう油断はしねえ。たとえ、相手が支援科であっても徹底的に調べ上げて対策を練るぞ!」
ただでさえ、最強と名高い宗次が油断も慢心もしないのだ。もはや、第一学園の選手たちは勝利を確信していた。しかし、宗次だけが不安な気持ちが拭えなかった。得体の知れない恐怖が彼の本能に訴えている。
皐月一真は只者ではないと。
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