第50話 来るよ、そりゃ各学園の最強が

 ついに十二月がやってきた。一真は学園対抗戦のため、いつもより早く起きて荷物のチェックをしていた。


「よし、準備完了だ!」


 忘れ物がないことを確認した一真はスーツケースを持って寮を出る。寮から駅まで時間は結構あるが余裕を持って一真は出発した。


 やはり、肌寒い時期になってきたので一真はマフラーを装着する。穂花お手製のマフラーである。なんとお値段はプライスレスだ。お返しは第一エリアのお土産が決まっていた。


 道中、一真は携帯端末で天気予報を見ていた。今年の冬は例年よりも寒くなるとのこと。そのようなニュースを見ながら一真は駅まで歩いていく。


 駅に辿り着くと、そこには一真と同じようにマフラーを巻いている隼人がいた。その隼人の周囲には学園対抗戦の代表メンバーが固まっている。

 ただ、まだ来てないメンバーもいる。今、確認できるのは十人だ。あと、五人来ていない。


「おはようございまーす」


 挨拶をして近づく一真。隼人たちはマフラーをしている一真を見て挨拶を返した。


「おはよう、一真君。昨日はよく眠れたかい?」

「ばっちりです。そもそも、今日は移動だけなんで緊張とかしませんて」

「そう? 修学旅行みたいでワクワクしない?」

「そう言われるとワクワクします。しまったな……。もっと、楽しんでおくべきだった」

「アハハハハ。まあ、一真君の言う通りでもあるんだから、そう気を落とさないでよ」

「うっす!」


 挨拶を済ませ、軽く言葉を交わした一真は同じ支援科の先輩たちのもとへ向かう。蓮人は両手を組んで目を瞑っており、司はヘッドホンをして完全に自分だけの世界に浸っている。

 一真は癖の強い先輩を見て、自分が一番まともだと勘違いをするのであった。見てくれは確かに一真はまともであるが、中身は特級のバカであるので勘違いも甚だしい。


 十数分後、残りのメンバーがやってきた。全員が集合したことで点呼を行い、遅刻者、欠席者がいないことを再度確認してから新幹線に乗り込む。


 イビノムが現れて新幹線も変わった。まず頑丈になった。そして、速度が上昇した。以前のものよりも遥かに向上しており、安全性も高くなっている上に快適さも増しているのだ。

 勿論、イビノム対策として電磁バリアを搭載し、万が一の為の異能者も乗っている。というよりも運転手が完全にAIなのでかつての運転席に異能者が前後に待機しているのだ。


 割と人気な職業である。実力も求められるが電磁バリアを突破してくるようなイビノムは滅多にいないのでとても楽な仕事なのだ。そのため、毎年かなりの応募者が来ていた。

 とはいえ、求められる人材は条件が厳しいので中々就職できない。なにせ、緊急事態に対応できる実力がなければいけないのだから。


「いや~、俺、新幹線って初めて乗りましたわ」

「何? それは本当か? 中学の頃に修学旅行で乗らなかったのか?」

「俺んところは近場にバスで三泊四日の旅行だったんですよ~」

「そうなのか。ちなみに初めて新幹線に乗った感想はどうだ?」

「まあ、普通ですね。揺れも感じないし、窓の外見ても予想してた通りですし……」

「そうだろうな。特に面白みはないだろうな」

「あ、そう言えば売店とかあるんですよね?」

「一応あるが大したものは売ってないぞ」

「そうなんですね……。なんかイビノムでも襲ってこないですかね!」

「怖い事を言うな。言っておくが仮にイビノムが襲ってきても電磁バリアや迎撃システムがあるから、新幹線が止まるようなことはないぞ。それに最前列と最後尾には異能者も待機している。余程の事がない限りは安全だ」

「つまらないですね~」


 蓮人と話していた一真は椅子を倒して寝ることにした。特にやる事も話すこともなくなったので一真は第一エリアに着くまで眠るのであった。


 ◇◇◇◇


 特にこれと言ったアクシデントもなく一真は第一エリアにやってきた。

 駅からバスターミナルへ向かい、バスへ乗り込んだ第七学園代表一行はホテルへと向かう。その道中、一真はバスの窓から外を眺めて田舎者丸出しのような反応を示していた。


「うひょ~! でけ~! 第七エリアと違って色々と豪華ですし、発展してますね~」


 一真の隣に座っているのは新幹線でも隣であった蓮人である。特に理由はない。ただ、一真がお喋りなのでヘッドホンをして自分の世界に閉じ籠っている司では相手が出来ないから、仕方なく蓮人が相手にしているだけだ。


「落ち着け、皐月。子供じゃないんだから」

「僕は子供ですよ?」

「年齢的にはそうなのだが……もう落ち着いてもいい頃合いだろう?」

「でも、この一瞬は二度と訪れないんですよ!」

「鬱陶しい奴だな、お前は……」

「うす。すいません。静かにします」

「あ、いや、少し言い過ぎた」

「いえいえ、これ以上調子に乗ると先輩ガチギレしそうなんで黙っておきます」

「従順なんだが生意気なんだか……。まあ、ホテルまで景色を見ながら静かにしててくれ」


 一真の反応に何とも言えない蓮人はアイマスクをつけて、ホテルまでの道のりを寝て過ごすのであった。


 喋る相手もいなくなってしまった一真だが、別に寂しいとは思っていない。むしろ、一人だけでも楽しめる性格をしている。バスの窓から見える第一エリアの街並みに一人大はしゃぎだ。


「(おお~。スカイツリーはイビノムに破壊されたらしいけど、東京タワーは残ってるんだよな~。やっぱり、小さいから残ったのかな? まあ、どっちでもいいか!)」


 かつては日本一の高さを誇っていたスカイツリーだが、悲しいことにイビノムが侵略してきた時に折られている。もう百年以上前の話である。ちなみに今はスカイツリーよりも高いムラクモタワーというものが建っている。なお、高さは世界で二番目だ。


「(にしても、人多いな~。交通量も第七エリア以上だ。やっぱり、第一なだけあるか)」


 第一エリアは日本が最初にイビノムから奪い返した土地だ。昔は関東地方と呼ばれ、東京都という日本の首都があった場所である。今は第一エリアと呼ばれている日本一の都市だ。

 そして、一真がいる第七エリアは名前の通り、日本が七番目にイビノムから奪い返した土地であり、人類の安全圏である。その他にもエリアが分けられており、第一から第八まである。


 第一はかつての関東地方、第二は近畿地方、第三は中部地方、第四は北海道、第五は東北地方、第六は九州地方、第七が中国地方、第八が四国地方である。ただ、全ての都道府県が人類の生存圏とは言えない。

 今でもイビノムがひしめき、危険な地帯も多くある。それゆえに国防軍は日夜戦い続け、日本の完全奪還を掲げているのだ。


 ちなみに一真が国防軍に入隊すれば二日と経たず、日本の完全奪還は成し遂げることが出来るだろう。


「(いや~、見てるだけでも楽しいな~! ホテルに着いたら、確か参加選手の登録だっけ? それが終わったら、近場を散策しようっと!)」


 ホテルに着くまで一真はずっと窓から見える第一エリアの景色を楽しんだ。


 ホテルに着いた一真達は荷物を持って各自用意された部屋へ向かう。全員一人部屋なので他を気にしなくていいので気が楽である。一真は荷物を部屋に置くと、すぐにロビーへ向かった。


 ロビーにはすでに隼人や生徒会役員が揃っている。まだいない者もいるが、すぐに集まってくることだろう。一真は隼人たちに合流して、他の者を待った。


 すると、その時、ホテルの正面口から学生服を着た団体が入ってくる。一真はそちらに目を向けて、団体の顔ぶれを確認する。一番目立つのはドリルのように髪を巻いている金髪のお嬢様だ。一真は彼女を見て大層驚く。


「(すっげ! この世界にもやっぱいるんだな!)」


 異世界でもよく見かけたドリルのように髪を巻いている女性。通称、ドリルお嬢様だ。大体がお金持ちで高慢ちきなので一真は勝手にお嬢様を呼びしているのだ。もっとも、向こうの世界では本物のお嬢様しかいなかったが。


「あら、どちらさまかと思えば第七エリアの方々ではありませんか」

「久しぶりだね。天王寺さん」

「ええ、久しぶりやね。桐生院さんも元気にしとりましたか?」


 挨拶を交わす隼人と天王寺と呼ばれたドリルお嬢様。いつの間にか、彼女は扇子を手にしており、お上品に口元を隠していた。それを見て一真は眉を顰める。


「(もしかして、本物のお嬢様なのか?)」


 ジッと見詰めていた一真に副会長の詩織が近づき、肘で一真の脇腹を突いた。


「あんまり見ないの。あの人は第二異能学園の生徒会長、天王寺てんのうじ弥生やよいさんよ」

「へ~! あの人が第二異能学園の?」

「知らないの? 去年の学園対抗戦にも出てたのよ? もしかして、渡したデータは見てないのかしら?」

「いや、見ましたけど参加選手全員の名前と顔を覚えるなんて出来ませんて」

「それもそうね」


 学園対抗戦は毎年、第一から第八異能学園の十五人の代表が集まるのだ。全員の名前を覚えるのは難しいだろう。それこそ、何度も見返さなければ大体の人間は忘れてしまう。


「で、あの人は会長とどういう仲なんです?」

「勝った負けたの相手よ」

「因縁があるわけじゃないんですね」

「隼人の方はね……」

「あーね。はいはい、わかりました」


 なんとなく察した一真は今年の学園対抗戦は楽しくなりそうだと内心微笑むのであった。

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