第49話 ネームドは出てきても活躍するかは分からんよね

 お守りを渡し終えた一真は昼休みをアリスたちと過ごし、昼休みが終わった後、一真は支援科の教室へと戻った。

 支援科の教室へ戻った一真は睡魔と戦いながら、午後の授業を乗り越えるのであった。


 ◇◇◇◇


 放課後、一真は学園対抗戦のミーティングがあるので友人たちに挨拶を告げて会議室へと向かう。

 会議室に辿り着いた一真は扉を開けて、そのまま中へ入ると、中には生徒会メンバーと学園対抗戦の出場メンバーが揃っていた。どうやら、一真が一番最後だったらしい。


「あ~、遅れてすみません」

「いや、まだ始まってもないから気にしなくていいよ。それに、ここは支援科一年生の教室からは遠いからね」

「あざっす! 今度は重役出勤してきますね!」

「アハハハ、流石にそれは許されないかな」


 優しい隼人の言葉を聞いて調子に乗ってしまった一真だが、流石に許されないことと許されることは別であった。


 空いてる席に一真は座る。横には同じ支援科の生徒がいる。一真と同じく学園対抗戦に選ばれた支援科の代表選手だ。役割は一真と同じなのでクラウンバトル以外では観客とほぼ同列であるが。


「うっす! お久しぶりです、先輩!」

「皐月は元気だな……」

「羨ましい限りだよね~」


 一真の横に座っているのは二人の男子生徒。片方は丸刈りの坊主頭で一真よりも身長が高く、ガタイもいい男だ。名前を網走あばしり蓮人れんとと言う。彼も一真と同じで身体能力の高さから選ばれた一人だ。

 そして、その横にいるのは片目を前髪で隠して特徴的な髪形をしている男だ。彼も同じく身体能力の高さを買われて選ばれた選手だ。名前を山中やまなかつかさと言う。ちなみにあだ名は山中という名字からサンチュ―と呼ばれている。二人共、隼人と同じ三年生だ。


「そうですか? こういうのってワクワクしません?」

「するわけないだろ。俺達はか弱い一般市民役だぞ。クラウンバトルではあらゆる敵から狙われるのに……」

「あ~、嫌だー! 他の生徒より少し足が速いからって、やられ役なんてごめんだよ~」

「そんなこと言ったら、俺なんて護衛もなしで一人ぼっちで逃げ回るんですよ?」

「まあ、それを言われたら確かに俺達はラッキーだ」

「だね。毎年、学園対抗戦に選ばれている先輩達可哀想だったもん。格闘技の経験者もやっぱり、身体強化や炎、氷、雷といった異能にはなす術もなくやられてたもんね」

「でしょ? 前年度の先輩達は守られてたのに、俺はソロプレイですよ!」


 そうは言うが一真の場合は例外中の例外である。戦闘科よりも戦闘が得意な支援科生徒など日本中を探し回っても一真くらいだろう。もしかしたら、他にもいるかもしれないが一真以上の人材は間違いなくいない。


「ごめんね。君達には辛い思いをさせてしまって」


 三人の会話を聞いていたというより、普通に会議室の中にいる全員に聞こえるような声で話しているので隼人も聞いていた。無理強いをさせてしまったことを隼人は謝罪する。


「いえいえ、俺は期末試験の免除に冬休みの課題の免除に釣られただけですから会長が謝る必要なんて一切ないですよ!」

「一真君には謝ってないよ?」

「ようし、喧嘩だな。いいぞ、買ってやる!」


 腕捲りをして一真は椅子から立ち上がろうとするが、横に座っていた蓮人に押さえつけられた。


「バカ! いくら、お前が強いと言っても相手は学園最強の生徒会長だぞ! 勝てるわけないだろ!」

「そんなことは百も承知だ! だけど、やる前から諦めてどうするよ! それじゃあ、一生勝てないままだ! 男には負けると分かっていても戦わなきゃいけない時があるんだ!」

「かっこいいこと言ってるけど、それって絶対今じゃないよね!」


 蓮人の制止を振り切り、隼人へ飛び掛かろうとする一真。蓮人一人では一真を押さえきれないと司も参戦し、二人掛かりで一真を押さえつけた。


「一真。めっ」

「はい……」


 先輩二人に押さえつけられてジタバタしていた一真を代表の一人に選ばれた楓が叱る。

 叱られた一真はシュンと眉を下げて大人しくなった。念力で押さえられているわけではなく、単に怒られてしまったので大人しくなったのだ。


「すまない。槇村さん」

「ありがとう、助かったよ」

「いえ、同じ一年生なので当然です」


 学園対抗戦は三年生が五人、二年生が三人、一年生が二人の計十人が代表選手である。そこに補欠として二人。この二人は学年を問わない。要は実力はあるが代表には選ばれなかった者だ。そして、支援科の三人。

 合計十五名が学園対抗戦の出場メンバーである。もっとも、支援科の三人はクラウンバトル以外は観客も同然である。


「皐月君ってホント命知らずっていうか、なんというか……」


 呆れているのは楓と同じ戦闘科一年生にして学年最強の身体強化を誇っている獅子堂ししどう烈王れおである。彼以外にもアリスや香織や毅といった猛者が候補に挙がっていたが、最終的に判断したのは隼人である。

 烈王は身体強化の倍率も前者の三人よりも高く、また格闘技を習っているので選ばれたのだ。他の三人が劣っていたわけではないのだが、残念ながら今回選ばれたのは彼である。

 ちなみにアリスたちとは別クラスなので一真との面識がない。一応、合同授業で何度か顔を合わせているが、アリスたちのような親しい間柄ではない。


「分かってて生徒会長に喧嘩を売る支援科一年生って多分世界中探しても一真くんだけね」

「他にもいるかもしれませんよ? 会長の異能を聞いて見下すバカは数え切れないくらいいますから」

「もし、そんな奴がいたら俺がぶっ飛ばす。会長は俺らの憧れなんだ。戦闘に不利だと笑われていた糸の異能を駆使して最底辺から頂点にまで昇り詰めた偉大な先輩だぞ」

「それくらい第七異能学園の生徒ならみんな知ってるわよ」


 怒りを露わにしているが別に一真に怒っているわけではない。もしもの

 話をしているのは二年生代表の一人、虎頭ことう太我たいがである。彼は二年生最強の身体強化の異能者であり、同時に剣道部のエースでもある。


 そして、太我と同じく二年生代表に選ばれているのは生徒会役員の一員である氷室ひむろ雪姫ゆき朱野あけの火燐かりんだ。書記と会計を担当している。将来は会長と副会長とも言われているが、まだ決まったわけではない。


「ゴホン。それでは時間になったのでミーティングを始めます。皆さん、お静かにお願いしますね」


 ようやく始まる会議。今回は日程の確認及びに注意事項だ。もっとも、すでに全員資料に目を通しているので特に説明することはない。強いて言えば当日の日程を調整するくらいだ。


「えー、では来週より始まる学園対抗戦ですが、必ず制服で来るように。ふざけて私服で来るようなことはしないでください。学生証も忘れないように。それから携帯端末もです。当日は絶対に遅刻しないでください。向こうに着き次第、出場選手の登録をしないといけませんので」

「はい。質問いいですか!」

「貴方はダメです。皐月君」

「なんでですか!?」

「ふざけた質問をしそうなので。今は黙って説明を聞いていてください」

「解せぬ……」


 言われた通り、一真はその後、説明を黙って聞いた。特に聞くようなこともないので一真は質問をすることはなかった。

 しかし、おやつは何円までなのかを聞いておくべきかと、一真はいつも通りバカなことを考えていたので黙らせたのは正しかった。


「では、次に当日のスケジュールを確認します。朝九時に駅に集合。第一エリアに到着後、バスでホテルまで移動。ホテルに着き次第、荷物を部屋に置いたらロビーまでお願いします。出場選手の登録を行いますので。それが済み次第、夕食まで自由行動です」


 特に質問もないので会議は進み、学園対抗戦の競技などを説明していく。一真はクラウンバトル以外、役割はないのでずっと黙ったまま説明を聞いていた。

 全ての説明を終えたところで解散となる。一真は鞄を背負って楓と烈王と一緒に下校していく。


「学園対抗戦楽しみ」

「俺も今の自分がどこまで通用するか楽しみだ」

「二人はいいな~。俺なんてクランバトル以外暇そうだ」

「皐月君は支援科だから仕方ないじゃん。でも、一番重要な役割でしょ?」

「まあ、うん。クラウン持って逃げ回る役」

「俺なら辞退するね。いくら、期末試験や冬休みの課題が免除でも割に合わないよ。第一から第八学園の代表生徒に追い掛け回されるなんてごめんだ」

「一真なら大丈夫」

「槇村さんの、その皐月君への信頼はどこから来てるんだ……」

「戦闘データは見たでしょ?」

「見たけど、下手な戦闘科よりも強いだけだよ。代表に選ばれた人たちには通用しない」


 烈王の言う事が普通なのだ。一真は確かに支援科生徒としては並外れた身体能力を持っているが、戦闘科の、それも学園の代表に選ばれるような生徒と比べたらそこまでではない。


「まあ、獅子堂の言う事はわかる。俺もぶっちゃけ厳しいと思ってるけど……それでも、あの人たちの期待には応えてやりたいさ」

「あの人たちって……会長の事?」

「そう。最底辺から頂点へ這い上がった不屈の糸使い、桐生院隼人。あの人が本気でただ勝ちたいと俺に頼んで来たんだ。同じ男として応えてやりたいじゃないか」

「…………そう言われると、何も言えないな~。俺も会長の凄さを知ってるから」


 誰もが認める生徒会長、桐生院隼人。彼に頼まれたのなら仕方ないと第七異能学園の生徒は頷いてしまうのだ。それだけ彼は後輩たちにとっては偉大な人物なのである。


「景気づけにかつ丼でも食って帰るか!」

「ん、いいよ」

「賛成。早速、行こうぜ!」


 三人は寮に戻らず、すぐそこまで迫っている学園対抗戦に向けてかつ丼を食べに行くのであった。

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