第46話 ついに始まるよ! 学園対抗戦!

 実の母親と和解し、実の父親と再会した一真は普段と変わらず、平穏に学園生活を満喫していた。

 いつものように昼休み、食堂へ向かおうと幸助と教室を出て行こうとした時、学園内放送で一真の名前が呼ばれる。


『支援科一年生、皐月一真君、皐月一真君。生徒会室まで至急お越しください。繰り返します――』


 と、呼び出しを受けた一真は無視して友達と一緒に食堂へ向かおうとしたが幸助が彼の肩を掴んで止めた。


「いや、呼ばれたなら行けよ」

「やっぱり?」

「当たり前だろ。てか、生徒会の呼び出しは無視すんなよ」

「生徒会ってそんなにやばいっけ?」

「まあ、この学園を代表する生徒だからな。割と重要なんだよ」

「そうか~。じゃあ、ちょっと行ってくるわ」

「おう」


 という訳で一真は早速、生徒会室へ向かう。途中、迷子になったので端末に登録されている学園の地図を確認して、ようやく生徒会室に辿り着いた。


「腹減ったから帰ってもいいかな……」


 しかし、ここまで来たのだから帰るのも勿体無いと一真は意を決して生徒会室の扉を開けた。


「失礼します。支援科一年生、皐月一真でーす」


 軽く頭を下げて生徒会室に入った一真は視線を上げると、そこには社長室にありそうな高級オフィスに高級チェア。そして、背景には大きな窓ガラスから差し込んでくる光。

 如何にもどこかでみたことありそうな雰囲気作りである。しかも、抜かりなく、生徒会長の傍には副会長がタブレットを持って控えており、部屋の壁際に生徒会役員がビシッと気を付けをして立っていた。


 その光景を見た一真は思わず興奮してしまう。漫画やアニメでしか見たことにない光景に一真は胸をトキめかせていた。現実では決してあり得ない光景。この生徒会長出来ると確信して一真は足を踏み入れた。


「初めまして。皐月一真君。君の噂はかねがね聞いてるよ」


 肘をつき、手を組んで口元を隠している姿は悪役のようだ。しかし、かえってそれが様になっているので一真はますます興奮する。このシチュエーションは堪らないと口元が緩んでいた。


「自分を呼び出した理由は?」

「まあ、そう焦らないでくれたまえ」

「…………」

「…………ふ~、もういいかな?」

「作戦は大成功だからいいと思うわ。ほら、向こうも笑いをこらえるのに必死で肩を震わせてるもの」


 やはり、役を作っていたようで生徒会長の桐生院きりゅういん隼人はやとは限界を迎えて、大きく息を吐いた後、傍に控えていた副会長である西条さいじょう詩織しおりに顔を向けていた。


 そして、詩織の言葉通り、作戦は大成功で一真はテンションが最高潮になっている。今は笑いをこらえるのに必死だ。


「いやー、まさか、生徒会長がこんなにも愉快な人だとは知りもしなかったですよ」


 笑いをこらえていた一真は目じりに涙を浮かべており、それを拭いながら口を開いた。


「アハハハ。そう言われると、頑張った甲斐があるよ。さて、それじゃ、本題の前に……皐月一真君。お腹減ってないかい?」

「まあ、昼飯前なんで減ってはいますけど……」

「ふふ、それじゃあ、大事な話の前にまずは腹ごしらえといこうか」


 隼人がそう言うと、壁際に控えていた生徒会役員がテーブルを用意して、重箱の弁当をテーブルの上に広げた。

 そして、生徒会役員と椅子に座り、隼人が一真も座るように促した。言われるがままに一真は席に着き、割り箸を受け取る。


「では、いただきます」

『いただきます』

「フルネームで呼ぶのは疲れるから、一真君と呼んでもいいかな?」


 既に弁当へ手を伸ばし、から揚げを口に頬張っていた一真は「モグモグ」と咀嚼しており、隼人の問いに返事が出来ない。それを見た隼人は目を丸くしていた。遠慮という言葉を事故で失ったという噂は間違いなかったかと隼人はクスリと笑う。


「いや~ハハ。ホントに遠慮しないんだね」

「出されたものは全部食べる主義なんで」

「ハハハ、確かに残されると用意していた側としては悲しいからね。うんうん、遠慮なく食べてくれ。まあ、偉そうなこと言ってるけど、僕が作ったわけじゃないんだけどね」

「あざっす! お言葉に甘えていただきやす!」


 許可を貰ったことなので一真は重箱の中にキレイに並んでいる色とりどりのおかずを食べていく。おにぎりを片手にアスパラの豚肉巻き、卵焼き、ミートボールと次々おかずを食べた。


 遠慮という言葉を知らず、パクパク食べていく一真に生徒会役員は笑みを浮かべていた。弁当を用意したのは詩織で、彼女は正直はりきりすぎてしまったと思っていたが一真の食べっぷりを見てそれも杞憂に終わった。


「ごっつぉさんでした!」


 腹いっぱい食べた一真はパンと両手を合わせてお辞儀をした。そして、顔を上げて隼人を見据える。


「腹は膨れました。本題に入っていただいても大丈夫です」

「わかった。まず、最初に聞きたいのは一真君は十二月に行われる学園対抗戦についてどこまで知ってるのかな?」

「えっと、先生から聞いた話でしか知りませんが、学園の代表となる生徒が覇を掛けて競い合う催しだと聞いてます。参加人数は十人、そこに補欠と支援科の生徒を含めて十五人が代表者として学園対抗戦に臨むってことですね」

「うん。概ねその通りだ。補足しておくと補欠は二人、支援科は三人となってるね」

「そうなんですね。という事は、もしかしてですが……」

「察しがいいね。そう、君を支援科の代表者として参加してもらいたいんだ」

「先生から聞いた話だと毎年最上級生が選ばれるはずでは?」

「まあね。例年通りならば最上級生である三年生を選ぶ予定だったんだけど……今年は君がいた」

「……もしかして、普段の訓練を見られてます?」

「生徒会の権限で各生徒の成績や訓練データは閲覧可能でね。君は座学こそ平均以下だけど……実践及びに戦闘面に関しては戦闘科すら上回っている。はっきり言ってこれは異常だよ」

「母が厳しかったもので」

「ああ、それは聞いてるよ。学園祭では君が女性にぶん殴られた話も有名だからね。というか、君は話題に事欠かない人物だし」

「いや~、有名人は辛いっすわ」

「で、どうかな?」


 真剣な眼差しで隼人は一真を見詰める。

 一真は目を瞑り、しばらく長考する。


「(多分、断っても問題なさそうだけど……理由聞いてから考えてみるか)」


 まずは何故自分を選んだかだ。一真はそれが気になって隼人に話しかける。


「会長。返事をする前にまずは理由を聞かせてもらっていいですか? どうして経験豊富な三年生ではなく一年生である俺を選んだか。それを教えてもらえないでしょうか?」

「まあ、気になるよね。さっきも言ったけど、君の戦闘能力が素晴らしいという点だよ。学園対抗戦は基本は戦闘科の生徒が様々な競技で競い合うものなんだけど、一番の目玉は君も知っていると思う」

「あー、学園対抗戦の名物と言えば、クラウンバトルですね……」


 クラウンバトルとは学園対抗戦の一番の目玉である。そして、同時にそれがすべてと言われている。王冠クラウンをかけて参加者全員が広大なマップでサバイバルを繰り広げるというものだ。


「ルールは知ってるね?」

「支援科の生徒三名の内、一人に王冠を持たせて、それを奪い合う競技ですよね?」

「そう。支援科が参加する理由がそれ」

「理不尽すよね~。ぶっちゃけ戦闘科だけでいいじゃんって思いますもん」

「公平さを求めた結果だからね……」

「まあ、確かにウチだと会長が王冠持ってたら奪うのは至難の業ですもんね」

「そういうこと。そこで、今回は君に王冠を持ってもらおうかなと思ってるんだ」

「一番重要な役ですね。でも、ダミーとかもありましたよね?」

「そうそう。支援科三人には王冠を持たせるけど、そのうち二つは完全なダミー。戦略が重要になるね」

「なるほど。そこで俺なわけですか……」

「うん。クラウンバトルは王冠の奪い合い。だから、そこで君には台風の目になってもらいたい」

「合点がいきました。普通の支援科らしくない俺なら相手を出し抜けるということですね」

「ごめんね。どうしても君の力が必要なんだ」

「それはどういうことです? 正直、失礼な言い方になるんですけど……ウチの学園って毎年ビリ争いじゃないですか。就職に影響するわけでもないんですし、俺じゃなくてもいい気がするんですが?」

「アハハハ。本当にズバッと言うね~」


 ひとしきり笑った後、隼人は目じりを拭ってから一真へ真剣な目を向けた。


「一真君の言う通り、ウチは万年ビリ争いだ。でも、いつだって優勝を夢見て戦ってきた」

「それは、まあ、わかると思います。でも、正直、今回も厳しいと思いますよ。会長は強い。ですけど、第一学園には天才、剣崎けんざき宗次そうじがいます」

「そうだね。彼は僕と同い年だけど、実力は天と地ほど差がある。そして、何よりも今年唯一の異能二つ持ち、身体強化と模倣コピー。制限はあるけど複数の異能を使いこなす天才。未だ無敗の最強だね」

「そんな相手にどうやって勝つんですか?」


 厳しい現実を突きつける一真に隼人は何も言わず、ただじっと一真の目を見ていた。


「勝つ気はない」

「え?」

「でも、負ける気もない」

「訳が分からないんですが……」

「具体的な作戦があるんだ。そのキーマンが君なんだよ、一真君」

「まさか、俺をぶつける気じゃないですよね?」

「一応、支援科の戦闘は許可されてるけど、流石に剣崎相手は難しいよ」

「ですよね。その作戦ってのはどういうものなんです?」

「クラウンバトルの基本的な陣形は知ってるよね?」

「はい。支援科の生徒を含めた四、五、四の三チームを編成してその中に本物の王冠を紛れ込ませるんですよね」

「そう。普通はそうなんだけど……今回は特殊な編成にするつもりなんだ」

「…………あ~、キーマンってのは俺の役割が重要ってことなんですね?」

「正解。一真君には本物の王冠を持って逃げ回ってもらいたいんだ」

「すいません。辞退させていただきます」


 冗談ではないと一真は椅子から立ち上がり、生徒会室を出て行こうとしたが両脇に座っていた役員に肩を掴まれてしまう。強制的に席へ戻された一真は不満げな顔を隼人に向ける。


「嫌ですよ、俺! 剣崎宗次に追い回されるとか嫌です!」

「まあまあ、落ち着いて。僕たちの作戦は至ってシンプルさ。君を狙ってきた敵をチーム全員で一網打尽する。ね? 簡単でしょ?」

「俺の負担は半端じゃないですよ!」

「でも、君、支援科の体育祭では百人以上の生徒から逃げ延びてるじゃないか」

「それは支援科だからですよ。戦闘科が相手だったらすぐに捕まってます」

「大丈夫。身体強化が来ても君の身体能力なら、そう簡単に捕まらないさ! それに反撃だって許されてるんだから戦闘に陥ったとしても、君ならすぐにはやられないだろう?」

「まあ、そうですけど! でも、だからといって注目の的になるのは嫌ですよ」

「魔女アリシア・ミラー。聖女シャルロット・ソレイユと懇意にしてる時点で今更だと思うけど?」

「ぐむ…………」

「正直、羨ましいし」

「隼人? それ、どういう意味?」

「あ、いや、これは!」


 突然のカミングアウトに詩織がギロリと鋭い視線を隼人に向けた。隼人はしまったと言わんばかりにあたふたとしていたが、もう言い訳もできない。


「ゴ、ゴホン。話は戻すけど一真君、どうかな?」

「いや、普通に無理ですって。優勝が悲願かもしれないですけど、クラウンバトルに勝ったからって優勝は出来ないでしょ?」

「そうとも限らないんだよ」

「え? なんか新ルールとか追加されたんですか?」

「実を言うと今年から新ルールで一人倒す度に一ポイント入るんだ。そして、リーダーは五ポイント」

「それって……大番狂わせもあるってことですか?」

「そう。そして、クラウンは十ポイント入る! 偽物はゼロ点だけどね」

「なるほど。それなら確かに点数次第では優勝もあり得えそうですね」

「わかってくれたかい! じゃあ、参加の方を」

「いや、それとこれは別でしょう。俺にメリットがありません」

「学園対抗戦に参加すれば期末テストは免除されるよ。冬休みの課題もね」

「俺でよければ是非とも!」


 流石は生徒会長である。一真の弱点を的確につき、見事に言質を取ってみせたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る