第41話 歴代最高の売り上げは達成されたも同然

 学園祭二日目。今日はいつも以上に人が多い。

 それはなぜか。原因は一つ。

 一真達の喫茶店に執事服を身に纏ったアイドルすら霞むイケメンの男が二人。イギリス最強の異能者集団、円卓の騎士のベディヴィアとトリスタン。

 さらにはメディアにも滅多に出て来ないフランスの聖女シャルロット・ソレイユ。何故か、ウサ耳をつけているメイド姿だ。

 そして、極めつけはアメリカの魔女アリシア・ミラー。こちらは猫耳をつけているメイドだ。


 もうやりたい放題である。一応、学園側は許可を出しているが、撮影禁止となっており配慮されているが、既にSNSで話題になっていた。おかげで大盛況を超えて大混乱である。


「や、やばい。お客さん多すぎる……」

「まあ、聖女の護衛さんも皿洗いや客の整理とかしてくれるし、なんとかなるだろ」

「人手はなんとかなるけど、キッチンが足りないわ」


 そう、幸助の言う通り、現在キッチンはガスコンロが四つしかない。つまり、どれだけ頑張ってもパンケーキは一度に四枚しか焼けないのだ。

 ただ、今日は混雑することが予想されていたのでホットプレートの追加を申請している。

 まだ届いてはいないが、昼前には届くようになっている。


「ところで東雲さんはどうしたんだ?」

「んあ? ああ、なんか昨日のことで色々とあったらしい」

「ああ……。そりゃ、情報量半端なかったからな」


 それはそうなのだが、桃子の場合はまた別の問題である。魔女、聖女、円卓の騎士。一真がまさかの提案により、上記四名が学園祭に参加及びに日本への滞在。もう桃子だけでは処理しきれなかった。


 そのせいで先日はやけ酒をしてしまい、二日酔いて頭痛が酷いのだ。頭を抱えているのはその所為である。勿論、その事については一真も知らない。ただ、酒臭いということだけは分かった。


「(うぅ……。飲みすぎた……)」


 後悔ばかり募るが、それも仕方のないことだろう。一真のせいで余計に仕事が増えたのだから、桃子が酒に逃げてしまうのは何もおかしくはない。ただ、飲みすぎには注意するべきだった。


「ねえ、ねえ、一真! 見て見て、似合う~?」


 一方、アリシアはノリノリで今の状況を楽しんでおり、一真に自分の格好を見せつけ感想を求めていた。


「うん。似合ってる、似合ってる。可愛いよ、アリシア」

「えっへへ~」


 臆する事もなく、恥らう事もなく、一真はアリシアを褒めた。

 それを横で見ていた幸助は目を丸くしていた。


「お前、凄いな……。躊躇ったりしないのか?」

「こういう場合は素直に褒めるのがベストなんだ。変に取り繕ったり、うろたえたりするよりマシなんだよ。俺の場合は」

「あー……」


 一真の言葉を聞いて幸助は納得した。一真の場合は本当に褒めないとアリシアに何をされるか分からない。勿論、褒め言葉の一つも一真が言わなかった程度でアリシアも本気でどうこうするつもりはないが、少なくとも念力で頭を締め付けるくらいはするだろう。


「苦労してるんだな……」

「代わるか?」

「遠慮しておく。アイドルのように遠くから眺めておくのが一番だって理解したわ」

「聖女の方は?」

「お近付きになりたい」

「素直でよろしい」


 ウサ耳メイドこと聖女シャルロットはアリシアに絡まれており、困っているように見えるが割りと楽しんでいる様子であった。なにせ、彼女も普通とは違う人生を歩んできたせいで学園祭というものを知識でしか知らなかったのだ。

 ひょんなことから参加する羽目になってしまったが、シャルロットも満更ではなかったというわけだ。


「シャル、貴女、意外と着やせするタイプだったのね」

「ひゃッ!? 急に揉まないで下さい~」

「え……! 結構あるわね……」

「は、離して~!」

「もしかして、これで一真を篭絡する気だったのね! そう思うと許せないわ!」

「あ~~~ッ! やめて~~~!」


 ウサ耳メイドは巨乳であった。自堕落系聖女は男の理想のような体型をしている。自室でB級映画を見ながらスナック菓子を食べている彼女はほんのりむっちりとしていたのだ。


「くッ! ま、負けないんだから!」

「な、なんの話ですか~! そんなことより、胸から手を離してくださ~い!」


 非常に眼福な光景に男達は鼻の下が伸びている。ただし、円卓の騎士であるベディヴィアだけは顔を逸らして見ないようにしていた。流石は騎士であり、英国の紳士だ。相棒のトリスタンは見習って欲しい。


「アリシア。そろそろ開店するから離してあげなさい」

「は~い」

「ようし、いい子だ~。こっちにおいで~」

「わ~い!」


 シャルロットを解放したアリシアは一真のもとへと近付き、彼に頭を撫でられる。猫のようにゴロゴロと鳴くアリシアによしよしと頭を撫でる一真。本当にペットと飼い主のように見えるが、それ以上に魔女と言う存在を知っている円卓の騎士と聖女は目を見開いていた。


「これは……驚いたな~。まさか、あの魔女がああも隙を見せるなんて」

「それよりもあの関係でしょう。恋人でもないと聞いてますが……」

「す、凄い。アリシアのあんな姿見たことない!」


 三人の発言にクラスメイトも同意見だと言わんばかりにうんうんと頷いていた。


「オホン!!!」


 と、ここで委員長でありメイド長の呉羽が大きく咳払いをして全員の注目を集めた。彼女も度胸がついたようで円卓の騎士、聖女、魔女がいようと関係ない。自分の仕事をやり遂げるだけだと意気込む。


「えー、本日は大変混雑されることは既に分かっていると思いますが! 皆! 気合入れていこう! どうせなら、第七異能学園の歴代最高の売り上げ出すぞーッ!!!」

『おーッ!!!』


 クラス一丸となって二日目の学園祭に臨む。呉羽は恐らく歴代最高の売り上げは必ず達成されるだろうと予想していた。なにせ、円卓の騎士、聖女、魔女の四人がついているのだ。

 アイドル、女優、俳優、芸人、といった人気者達と同等かそれ以上の知名度を誇り、人気を有しているのだ。人が来ないわけがない。


 そして、予想通り、ほとんどの客がここに来ているのではないかというくらい、列が出来ていた。聖女の護衛たちが最後尾の看板を持って、列を整えており、撮影器具を異能で破壊していた。

 当然、客からはクレームが入るのだが事前に撮影禁止ということは触れ回っており、万が一の場合は保証しないということも告知されていた。


 その客は謎の黒服集団に両腕を掴まれて、どこかへと連行されていく。その様子を見ていた他の客は絶対に撮影をしないことを誓うのであった。


 もっとも、教室内には微弱な電波を発して通信機器や電子機器を一時的に使えなくする聖女の護衛を務めている異能者が潜んでいるので問題はなかったりする。


「いらっしゃいませ、お嬢様」

「は、はひ……」


 教室内では執事服を着たベディヴィアとトリスタンが女性客を相手にしており、圧倒的な人気を誇っていた。おかげで接客係の男子生徒は肩身が狭い。


「俺らいる?」

「いらんべ」

「んだ」

「言っておくけど、逃げ出そうなんて考えないでよ」


 隙を見て、こっそり抜け出そうとしていた男子生徒に釘を刺す呉羽。彼女もメイド長として走り回っていたが、きっちりと周囲に目を配っている辺り、彼女はとても優秀なのが分かる。


「おかえりなさいませー、ご主人様! にゃん!」

「お、おかえりなさいませ、旦那様。ぴょ、ぴょん!」

「おうふ……でゅふ! あの、いくら払えばいいんですか?」

「ここはそういうお店ではないので、普通にご注文していただいてもらえれば充分です」

「あ、はい」


 いったい、どこで覚えてきたのかアリシアはノリノリでメイドを演じている。それにならったのか、アリシアの仕草を見てシャルロットも妙な喋り方をしていた。

 念のために二人のサポートとしてついている桃子が客をテーブルへと案内していった。


「(ネコ耳メイドにウサ耳メイド! あざといが、だがそれがいい! 高評価でござるぞ~。それにクールなメイドもポイントが高い。これが五百円で味わえるなんてここは天国でござるか?)」


 思わず、心を読んでしまった桃子は後悔した。一真ほどではないが、やはり男など碌な生き物ではないと再認識する。これ以上は心を読むのはやめておこうと桃子は自身の心を守る為、読心を止めた。


 そして、厨房は大量の注文によりパンク寸前であった。いや、パンクしていた。幸助が腱鞘炎けんしょうえんになるのではないかというくらい必死にパンケーキを作り、機械よりも機械をしている配膳ロボットの一真は今日も魚のように目が死んでいた。


 残念な事に桃子はその様子を見ることが出来ない。もし、一真が死んだ魚の目をしながらパンケーキの盛り付けと置換で配膳作業をしている様子を見れば、ざまあみろ、と嘲笑っていた事だろう。

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