第40話 あいつらに課金させたらええんや!
一真と幸助の友情のヒビが入ってから、しばらくして思わぬ客が訪れた。
教室の外から女性陣の黄色い歓声と共に円卓の騎士が現れたのだ。
「アイツ等、帰ったんじゃ?」
円卓の騎士はアリシアの登場に不利だと判断して帰ったはず。それなのに、どうしてここにいるのだと一真が首を傾げていると、円卓の騎士たちが近づいてくる。
「やあ、御機嫌よう」
「貴方達……どんな面してここに来たの?」
「いや~、ハハ。そう言われると厳しいですね」
トリスタンとベディヴィアはアリシアの手厳しい言葉に苦笑いである。彼等はアリシアの登場により、あっさりと引き下がったくせに厚かましくも再び顔を見せたのだ。アリシアが厳しい言葉をぶつけてしまうのも当然だろう。
「で、何しに来たの?」
「実を言うと意図してきたわけではないんだ。貴女が来た時点で我々は手を引いた。しかし、ただ帰るだけではつまらない。折角の日本だ。どうせなら、楽しもうということで学園祭を回っていたんだ」
「トリスタンの言う通りです。私達はそこの皐月一真くんを勧誘するつもりはありません」
「ふ~ん。一応聞いておくけど、円卓の騎士に加える気だったの?」
「それについては分かりませんね。我が王であるアーサーが決める事ですから」
「あっそ。もういいわ」
興味を無くしたアリシアは残っていたパンケーキを食べていく。
これまた混沌とした状況に桃子がどうやって収拾をつけばいいのかと頭を抱え込んでいると、今度は聖女の護衛隊が現れた。
「ご無事ですか、聖女様ッ!!!」
「んぐッ!?」
パンケーキを頬張っていたシャルロットは護衛の叫び声に驚いてしまい、パンケーキを喉に詰まらせた。
いつの間にかシャルロットの横にいた一真が彼女にジュースを渡して背中をさすった。
「おう、よしよし」
「ケホッ、ケホッ……。ありがとうございます」
「お、お前ぇぇぇッ! その汚い手を聖女様から――」
愚者は経験から学ぶものだが彼は人よりも記憶力が低いせいで何も学んでいなかった。
「うぐあッ!?」
「はあ……。シャル~。こいつ、私の方で処分しておこうか?」
「か、勘弁してあげてください。彼も悪気はないんです。ただ、少し真面目過ぎると言うか、融通がきかないというか……少々面倒くさい方ですが根はいい人なので」
「はあ……。相変わらず、甘いんだから」
「すいません……」
むせていたシャルロットは護衛の男を庇い立て、アリシアを説得することに成功した。
しかし、現実は残酷であった。
「それじゃ、バイバーイ」
「うわああああああああッ!?」
「えッ、ええええええええ!?」
念力で持ち上げられていた男は窓の外へ放り投げられた。一真達の教室は一年生なので一階にあるおかげで護衛が落下死することはない。だが、そこはアリシア。抜かりなく護衛の男を上空数メートルほど持ち上げて学園の外へ投げ飛ばしていた。
「おお~~~」
花火でも見ているかのように一真は飛ばされた男を眺めていた。遠くで情けない声を上げながら、落ちていく男を見て一真は合掌した。
「(来世では真面目に生きるんだぞ)」
「(貴方がそれを言いますか……)」
「(心外だな~。俺は至極真面目だぞ?)」
「(だから、ナチュラルに返答しないでください!)」
幸助が作ってくれたパンケーキを食べている途中だった桃子は一真の心の声に突っ込みを入れると、彼は普通に返事をするので危うくパンケーキをのどに詰まらせるところであった。
キッと一真を睨みつける桃子。睨まれている一真はどこ吹く風でよそを向いていた。どう足掻いても勝てそうにはない。物理的にも精神的にも一真は無敵に近いのだ。
ただし、ハニトラに弱かったりするのでつけ入る隙はいくらでもある。とはいっても、本能レベルで危険な相手だと勘づくことも出来るので、やはり桃子が一真に勝つのは厳しい。
一方、護衛の一人をふっ飛ばされてしまったシャルロットは他の護衛にすぐさま助けに向かうように指示を出した。勿論、怪我をしているのならすぐに連絡することも忘れずにと言い聞かせる。
「これで……大丈夫ですかね」
「あれって身体強化の異能者でしょ? 多分、打撲程度よ」
「だといいんですが……」
心配そうに呟くもののシャルロットはアリシアの言う事を信じているので、気にすることなく残りのパンケーキを食べ始めた。案外、強かな聖女様なのかもしれない一面であった。
「ちょ、ちょっと、皐月君、伊吹君!」
「「ん?」」
いつの間にか、近くにまで来ていたクラスメイトの一人、
そんな彼女がちょいちょいと招き猫のように手を振っているので二人は呉羽のもとへ近づく。
「どしたん?」
「いや、皐月君。どしたんじゃないよ。このままだと私達、売り上げ最下位だよ?」
「え!? な、なんでッ!?」
「一真。見ればわかる」
「え、どういうことなんだ?」
幸助に言われて一真は教室を見回すが、特におかしな点は見つからない。これの何が一体問題なのかと一真は疑問に思う。
「あのね、お客様がいないの。午前中は大盛況だったけど、今は見ての通り」
そう言われて、一真はようやく理解した。今、教室内にいるのはアリシア、シャルロット、円卓の騎士、聖女の護衛が数名。はっきり言って少ないのだ。
学園祭に訪れているお客様は千人は超えている。午前中はその恩恵を受けていたが、午後はアリシア達が占領している為、売り上げが少ない。
「あ、アイツ等に課金させてくる!」
「ちょ、ちょっと待って! そりゃ、あの人たちなら一億円とかポンと払いそうだけど多分学園側が許してくれないと思う……。ていうか、皐月君実行委員でしょ。不正になるんじゃないの?」
「強制しているわけじゃないからいける。お願いだから学園側も黙認してくれるさ」
「魔女が出てきたら黙認せざる得ないだろ……」
幸助の言う通りであると呉羽はぶんぶんと首を縦に振った。
「それじゃあ、どうするんだ? このままだとうちのクラスが最下位だろ?」
「うん。だから、明日頑張るしかない」
「二日目か……」
異能学園の学園祭は土、日と二日にかけて行われる。そのおかげで一般人や他校の生徒も多く参加できる。
「だけど、今日の午後の売り上げを考えたら結構厳しくないか?」
「伊吹君の言う通りなんだけど、やれるだけやってみるしかないでしょ?」
「まあ、そうなんだけど……」
と、この時、一真に天啓が舞い降りた。
「アリシア達に手伝わせよう!」
「「は?」」
こいつは一体何を言っているのだと幸助と呉羽は開いた口が閉じなかった。
「ほら、OBやOGといった卒業生が手伝ってるところあるけど、アレって厳密にいえば部外者だろ? 一応、学園側の許可さえ下りれば部外者の協力はOKなんだよ。だから、アリシア達にメイド服着させて接待させれば間違いなく売り上げ一位だ!」
言っていることは分かる。だが、大前提として世界に名を轟かせる魔女や聖女をメイド服を着させて、たかが学園祭の、しかも学生がやっている喫茶店の手伝いをさせていいのか。
「あのさ、とんでもないこと言ってるの分かってる?」
「大丈夫。アリシアに説明すれば分かってくれる」
「そういう問題じゃない! そういう問題じゃないの……!」
悲痛な叫びを呉羽は絞り出す。しかし、一真には伝わらない。もはや、この男を止める術はないのだ。
「じゃ、行ってくる」
「あ、待って!」
「お、おい、一真!」
二人の制止を振り切り、一真はアリシア達のところへ戻る。
「お話は終わったの?」
「ああ。アリシア、実は頼みがあるんだが……」
「何? もしかして、デートして欲しいの?」
「それも魅力的な話だが、そうじゃない。実はこの学園祭で俺達生徒は売り上げの勝負をしているんだ。で、今、俺のクラスは最下位らしい」
「OK。任せて、私のポケットマネーで一位にしてあげる」
「違う。そうじゃないんだ」
「え? じゃあ、一体なんなの?」
「メイド服を着てくれ」
「え! もしかして、一真……そういう趣味なの?」
「いや、明日一緒に俺達と働いてほしいんだ」
「あ~……。そういうことね」
恐らく、メイド服を着て迫れば一真を動揺させることは出来るだろうが、籠絡することは出来ないだろうとアリシアは理解した。一真が女性に興味がないわけではないと分かっているが、どうすればいいかアリシアは分からないでいる。
手応えはある。しかし、どこか溝があるのだ。一真との間に。だからこそ、一真は誰に対してもフレンドリーなのだろう。実際、聖女と持て囃されており、世界でも希少な治癒能力者のシャルロットとも普通に会話しているのだ。
どうにかして、その溝を埋めたいのだが、それが全く出来ないのがもどかしい。
「無理だったら別にいいんだけど……」
突然、黙り込んでしまったアリシアに一真は今更無理があったかと不安になってしまう。
「あ、いや、ちょっと別の事考えてたの。メイドになるのはOKよ! うふふ! ちょっと、楽しみかも!」
「え! マジでいいの? 上からなんか言われたりしない?」
「私に文句を言えるのはキングだけよ!」
「おおー! ありがとう、アリシア! もし、俺にできることがあったら遠慮なく言ってくれ! その時は力になるから!」
「言質取ったわ! 嘘ついたら承知しないからね!」
「おうよ!」
と言う訳でアリシアの説得に成功し、彼女がシャルロットと円卓の騎士を巻き込み、学園祭二日目は大波乱を迎えることが確定するのであった。
そして、その日、学園祭が終了し、一真はアリシア達が協力してくれることを担任の田中先生に報告した。田中先生は真っ青になり、泡を吹いて倒れたが聖女によって復活し、やけくそ状態で学園長へアリシア達が学園祭に参加することを報告するのであった。
ちなみにその晩、メイド服を着たまま桃子はやけ酒で二日酔いが確定した。
「ちくしょう! やってられるか、バカヤロー! こんちきしょう!」
彼女が文句を言うのも仕方がないことであろう。一升瓶を抱えて桃子は爆睡を始める。その目じりには光るものがあった。ご苦労様である。
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