第35話 お祭りだよ! 沢山のお客様が来訪されるね!

 休憩と言う事で一真は学園祭を一緒に回る約束をしている友人達のもとへ向かう為、幸助と分かれる。


「じゃあ、俺こっちだから」

「おう。時間になったら連絡するから携帯落としたりするんじゃねえぞ」

「ういうい。わかってるって」


 別に携帯を落として連絡が取れなくなったと言う事は一度もないのだが、今日は学園祭なので落し物は多い。そのことを懸念して幸助は一真に注意したのだが、彼はあまり理解していなかった。


 幸助と分かれて一真は携帯で友人に連絡を取る。数回のコール音の後に、友人ことアリスが電話に出た。


「もしもし」

『もしもし、一真か。電話してきたって事は休憩か?』

「そうそう。今から三時前まで休憩なんだけど、そっちは大丈夫?」

『問題ない。アタシらの出番は終わったから、今からいける』

「じゃあ、どこで合流する?」

『時計塔でいいだろ。そこなら目立つから分かりやすい』

「おけ。時計塔ね。すぐ行く」


 早速、移動を始める一真は人混みを避けながら時計塔を目指していく。その背後にはメイド服を着た桃子が一真を追いかけようとして、ナンパをされていた。一真はそれに気がつくことなく、桃子の視界から消えるのであった。


 ◇◇◇◇


 学園祭が盛り上がっている中、怪しげな二人組が校舎をうろついていた。サングラスをかけて、ホストのようなスーツを着こなしているモデル体型の男が二人、校舎を歩き回っている。


「う~ん……。これだけ人が多いと見つからないな~」

「そこのお嬢さん。この写真の男を知らないかい?」


 困った、困ったと唸っている男の傍らで写真を片手に女性へ話しかける男。話しかけられた女性はサングラス越しではあったがイケメンなのが分かると、露骨に声をいつもより高くして質問に答えていた。

 残念ながら女性は知らなかったが、男はこれも何かの運命だと口走ってナンパをし、女性の腰に手を回す。


「何やってるんですか」

「イタタッ!」


 女性とどこかへ行こうとしたナンパ男の耳を引っ張る男は呆れたように息を吐いていた。


「全く。油断すると、すぐこれなんだから……」

「いや~ハハ。ごめんごめん。どうも女性を見ると、ついつい」

「ついついじゃない! 次やったら承知しませんからね!」

「は~い。と言うわけで、すまない。お嬢さん。こちらの我が友がこう言っているのでお茶の機会はまた今度に」

「あ、あの、また会えますか?」

「ふふ、大丈夫。私と君はこうして縁が出来た。いずれ、また会えるさ」


 不安げな女性であったが、ナンパ男の言葉を聞いてパアッと明るくなり、嬉しそうに頷いた。


「は、はい! また会いましょう!」


 顔を赤く染めて女性は走り去っていく。完全にホの字である。ナンパ男に心を奪われてしまったようだ。


「ふふ、可愛いな。ジャパンの女性は」

「……変な気は起こさないで下さいよ」

「私は節度を弁えているとも!」

「どこがですか!」

「あいたーッ!」


 すでに複数の女性を口説き落としているナンパ男に拳骨を落とした男はやれやれと肩を竦めると、懐から携帯端末を取り出した。


「皐月一真。一体どこにいるんだろうか……」


 一真が通っている教室にはいった。しかし、彼はいなかった。クラスの子に聞いてみると、今は休憩中らしく、友人たちとこの校舎のどこかにいるとのことだが、異能学園は広い。

 そして、何よりも今日は学園祭。いつも以上に人が多いのだ。その中から一人の人間を探すのは一苦労だろう。


「まあまあ、そんなに焦らなくてもいいじゃないか。今日はお祭りなんだから、私たちも楽しもうじゃないか」

「任務で来てることをお忘れですか?」

「勿論、忘れてるわけじゃないさ! でも、ずっと気を張り詰めていても疲れるだけだろう? それなら、今の状況も楽しまなくてはね!」

「はあ……。あまり羽目を外しすぎないでくださいね」

「わかってるとも!」


 そのような愚行は犯さないと言わんばかりに自身の胸を叩いているナンパ男だが、これまでの行動を踏まえると全く安心できない男は心配でたまらなかった。


 その光景を偶然にも見ていた雅文は戦慄に震えた。戦闘科の教師である雅文は校舎内の警備を担当しており、たまたま通りがかったところに彼らがいたのだ。サングラスだけかけて顔を隠しているのだろうが、雅文は彼らを知っていたため、すぐにその正体を看破した。


「円卓の騎士、ベディヴィア卿にトリスタン卿……ッ!」


 イギリスの異能者であり、かのアーサー王伝説にあやかってつけられたイギリス最強の軍団、円卓の騎士である。彼等は全員がアーサー王伝説に出てくる十三の騎士の名前を冠している。

 勿論、伝説に語られている騎士と同じ人間ではない。ただ、その強さを称えられ、その名を冠しているのだ。それゆえにイギリスに存在する異能者の中では最高の名誉となっていた。


「私達の名前を呼ぶのは君かな」

「ッ!?」


 先程まで十数m離れていた場所にいたトリスタンが雅文の後ろに立っており、気軽に肩を組んでいた。

 突然の出来事に雅文は全く反応が出来ず、ただ驚愕に体を震わせることしか出来なかった。


「い、いつの間に……」

「そんなことはどうでもいいじゃないか。それより、私の質問に答えてもらえないかな?」

「た、確かに名前を呼んだのは私だ。しかし、敵意があったわけでなはい。驚きのあまり、口にだしてしまっただけだ」

「なるほど。嘘ではなさそうだ」

「トリスタン。彼を離しなさい」


 雅文がトリスタンに気を取られている間にベディヴィアまでもが近くに来ていた。だが、彼は雅文に興味があるということはなく、面倒事を起こしそうになっているトリスタンを回収しに来ただけだ。


「別に取って食おうとしてるわけじゃないんだけどね」

「普通の人が貴方に肩を組まれたら驚くに決まってるじゃないですか。それよりも、早く彼を離してあげなさい」

「はいはいっと」


 ベディヴィアに叱られてトリスタンは雅文から離れる。やっと解放された雅文は、一歩後ろへ下がり二人と距離を取った。意味は大してないが、警戒するに越したことはない。


「ほら、見なさい。警戒されてるじゃありませんか」

「え~、私の所為なの?」

「貴方が無闇に絡んだせいです。少しは反省してください」

「釈然としないな~」


 不満そうに口をとがらせているトリスタンを尻目にベディヴィアは雅文へ目を向ける。流石にこのような公の場では騒ぎを起こすはずはないと分かってはいても、相手はイギリス最強の異能者集団の一人だ。雅文は警戒しながらも、しっかりと向き合った。


「お初にお目にかかります、東洋の戦士よ。私は知っていると思いますが、円卓の騎士が一人、ベディヴィアです。どうぞ、お見知りおきを」


 礼儀正しく頭を下げるベディヴィアに雅文は驚かされるも「こ、こちらこそよろしくお願いします」と日本人らしく丁寧にお辞儀をするのであった。


「ところで貴方の首から掛けているものはこの学園のIDですよね? ということは、学園の関係者でしょうか?」

「え、ええ、はい。ここの教員をさせてもらっています」

「おお! それはよかった。実はこちらの学生を探しているのですが、どこにいるか知りませんか?」


 思わぬ出会いにベディヴィアは喜びの表情を浮かべると、持っていた携帯端末に映し出されている一真の写真を雅文に見せた。

 それを見た雅文はやはりかと奥歯を噛み締める。このような島国に、しかもこのような場所に円卓の騎士が来る用事としたら一つしかない。紅蓮の騎士についてだけだろう。

 現在、もっとも怪しい人物として挙げられている一真に接触をするのは当然だ。まだ国家に所属していないフリーの異能者を勧誘するのは国としておかしくなはい。


「教室にはいませんでしたか?」

「ええ。伺ったのですが休憩中ということでしたので」

「でしたら、私も分かりません。恐らくは友人と学園祭を回っていると思いますので、しらみつぶしに探してもらうしか……」

「そう……ですか。わかりました。ご迷惑をおかけしました。それでは、私達はこれで失礼しますね」

「はい。あ、なるべく目立つような行動は控えてくださいね。今日は大勢のお客様が来ておりますので」

「肝に銘じておきます」


 ペコリと頭を下げてベディヴィアは目を離していた隙にナンパをしていたトリスタンの耳を引っ張って人混みの中へ消えていく。

 残された雅文はドッと疲れが滲みだし、大量の汗をかいていた。そして、すぐにでもこの事実を伝えなければならないと麻奈美と桃子に電話を掛けるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る