第34話 学園祭! なにも起こらないはずがなく……
人の噂も七十五日という言葉もあり、
それよりも、今は別件で忙しかった。第七異能学園の生徒達はひっきりなしに走り回っている。一真を追い掛け回しているのではなく、とある行事の為だ。
そう、学園祭である。生徒達は明日に迫る学園祭の準備に大忙しである。
一真は実行委員という事もあり、他の人よりも忙しい。相棒の桃子と一緒に実行委員の仕事とクラスの出し物である喫茶店の準備で大忙しである。目まぐるしく働いている一真と桃子はオーバーワークで倒れそうであった。
「(ひいひい……死んじゃうよ~)」
「(い、今だけは同意見です……)」
予算の確保や資材の確保など実行委員の仕事は多岐に渡る。それに加えてクラスで出す喫茶店の準備まであるのだ。いくら、一真が常人より動けるといっても限度はある。桃子はさらに疲労が激しい。
一真の監視に加えて、学園祭の準備、実行委員の仕事。ブラック企業の戦士並みに彼女は働いているのだ。それゆえに桃子は帰宅後、いつも爆睡である。いつ過労死してもおかしくはない。
「お~い、一真~」
幸助に呼ばれた一真はノロノロと足取りで向かう。一真のクラスは喫茶店を出す事になっており、厨房組と給仕組で分かれている。
一真は厨房組で幸助と一緒に喫茶店のメニューであるパンケーキを担当する事になっている。調理は幸助で盛り付けが一真である。ついでに置換の異能を持つ一真は運搬も担っていた。
「当日のシフトなんだけど、一真。お前はどうする? 俺は基本どこでもいいんだけど、一真は実行委員の仕事があるだろ?」
「ああ。見回りがあるから、そこだけ外してもらえれば充分だ」
「友達と学園祭を見て回ったりしないのか?」
「あ~、忘れてたな……」
一真は相変わらず友人が少ない。正確に言えば支援科の友人だ。戦闘科には妙に多いのに、自分の所属している支援科のほうが少ないと言う稀有な存在である。
幸助に言われて一真は戦闘科の友人と学園祭を一緒に回ることを思い出した。アリスと楓、他にも俊介や
「あ~っと、伊吹君と皐月君はうちのエースだから出来れば人が入りそうな時間帯は出来ればいて欲しいんだけど……」
厨房組の女子生徒が申し訳なさそうに二人の顔を窺った。
「俺はさっきも言ったけど、どこでもいいよ。でも、一真がどうするかだな」
「皐月君、駄目かな?」
幸助も一真と同じく友人達と学園祭を回る約束をしているが、一真ほど約束が多いわけではないので、シフトに関してはどこでもよかった。しかし、一真は実行委員も担っているのでスケジュールが詰まっており、幸助ほど融通が利かない。
「ちょっと、待ってて。とりま、いつ回りたいか聞いてみるから」
と、一真はポケットにしまっていた携帯を取り出して、戦闘科の友人達へメッセージを送る。すると、すぐに返事が来た。ポップな音が鳴り、一真は画面を見てみると、そこには約束の時間を指定している友人たちのメッセージが書かれている。
一真が実行委員及び喫茶店のエースにされていることを加味した上での時間指定であった。感謝の言葉を贈り、一真は問題ないことを伝えた。
「向こうが都合をつけてくれたから、こっちはオーケーだよ」
「ありがとう、皐月君! 正直、伊吹君と皐月君にはずっといて欲しいんだけど、流石にそれはだめだろうからね」
意外な事に幸助はパンケーキを作るのが上手かった。試食で作ったパンケーキが大反響だったのだ。そのおかげで喫茶店のメニューで一押しとなり、幸助は厨房のエースとなった。
そして、一真は盛り付けだがエースなのは異能のおかげである。置換の異能で出来上がった商品を瞬時に届けることが出来るのだ。
提供
ちなみに桃子は給仕なので当日はメイド服着用が義務付けられた。その日の晩はヤケ酒と決めている桃子である。
◇◇◇◇
体育祭と同じように学園祭は開幕の祝砲と同時に始まる。正門から多くのお客様が訪れ、校舎まで続く道に数多くのお店が並んでおり、生徒達は声を張り上げて集客をしていた。
多くのお客様は学園祭前日に配られたチラシを持っており、お目当てのお店や展示へと向かう。中には友人、知人の娘、息子のもとへと向かう者もいる。
そして、学園祭が始まって数十分。一真達のクラスは大盛況であった。メイド喫茶ではないのだが、女子生徒はメイド服を着用し、男子は燕尾服である。比較的容姿に優れている生徒達が喫茶店を盛り上げていた。
「こちらメニューになります~」
桃子は猫なで声を出しながら接客に励んでいた。その恰好は可愛らしいフリフリのメイド服である。桃子ちゃん、二十歳。本日の晩酌はゲソてんに焼酎だと決めていた。
「ご注文入ります! 五番テーブルにパンケーキセットを二つ! 三番テーブルにフレンチトースト、ホットコーヒー一つ、オレンジジュース一つ!」
「あいよー!」
「了解!」
教室の奥に設置された厨房で幸助率いる料理人がそれぞれの担当メニューを作っていく。一真は幸助から受け取ったパンケーキに生クリームやフルーツを盛り付けると、給仕からもらった番号札と商品を置換で置き換えた。
「おお! さすが、異能学園だ。異能の使い方が上手だね~」
「お父さん! 早く食べようよ!」
どんどん注文が増えていき、厨房が忙しくなる。ほぼ一人で配膳を担当している一真は無我の境地へ至っていた。流れ作業で極限の集中状態に入ってしまったようだ。
一真は機械の様にパンケーキの盛り合わせを行い、置換でどんどん運んでいく。あまりの正確さにドン引きであるが、今は頼りがいの塊だった。
「(…………)」
「(彼の心の声が聞こえませんね……)」
いつもなら、下ネタでも叫んでいるはずなのに、今日に限って大人しい一真に桃子は首を傾げていた。食べ終わった客のお皿を回収して、洗浄室へ向かい、お皿を引き渡して厨房を覗くと、そこには感情を失った一真が驚異的な速度でパンケーキの盛り合わせを終わらせていた。
「(す、すごい……)」
これには桃子も罵倒ではなく、素直に称賛した。現在、一真達のクラスはかなりの人気を誇っており、ひっきりなしにお客が来ている。廊下の方に渋滞が出来ているほどだ。
普通なら、行列に並ぶのが億劫で引き返す人間が出てくるはずなのだが、幸助のパンケーキが口コミで宣伝されており、一真が置換をフルに使い、お客を待たせることなく店を回しているおかげで客足は途絶えない。
「(…………)」
「(な、なるほど。だから、静かだったのですね)」
普段からは想像できないほど、一真が沈黙をしていたことに驚いた桃子であったが原因がわかればどうという事はなかった。
「桃子さん! お客さんが待ってるから早く!」
「あ、は、はい!」
厨房で一真を観察していた桃子だったが、忙しくてそれどころではない。彼女はクラスメイトにせかされて、お客様のもとへ向かう。厭らしい目を向けられながらも、桃子は不満をいうことなく仕事を全うする。
それから、しばらくして昼時になり、一真達の喫茶店は落ち着いてきた。やはり、お昼はがっつり食べていという事で、露店の焼きそばやお好み焼きといった飲食店に人が流れて行ったのだ。
そのおかげで一真と幸助は休憩が出来る。
「「ふい~~~」」
喫茶店のメニューは主に三種類だ。パンケーキ、フレンチトースト、サンドイッチ。そこに飲み物であるコーヒーやジュースといったものである。一番の人気はパンケーキセットだ。おかげで一真と幸助は人一倍疲れていた。
「いや~! ありがとう、伊吹君、皐月君! 二人のおかげで大盛況だったよ!」
「あ~……そりゃよかった」
「んだ……」
返事をする気力もないのか二人はだるそうにしていた。
「それじゃあ、二人共休憩してて。多分、三時くらいにまた人が集まると思うから、それまで自由にしてていいよ!」
「あいあい~」
「りょ~」
一真と幸助はノロノロと立ち上がり、休憩を取りに行くのであった。
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