第24話 喋るDXソード! 白銀の騎士Ver
数日後、一真はいつものように登校していた。特に変化もなく、支援科の教室はいつも通りである。強いて言えば、一真の横に座っている桃子の顔色が悪いだけだ。予想はつく。ここ数日、白銀の騎士や一真の動向について色々と探っており、疲れ果てているのだろう。ご愁傷様である。
「お~っす」
「おっす。国防軍に呼び出されてどうだったよ?」
「いや、特に大したことなかったぞ。あの時のことを軽く聞かれただけだ」
元気良く挨拶してきた幸助に一真も同じ感じで挨拶を返し、国防軍に呼び出されて何を話していたのかと尋ねた。返ってきたのは特に何もなかったと言う凡庸な答え。ひどくつまらないが、彼等は一真と違って一般人だ。それも仕方がないことだろう。
「そうなんか……。俺の時は激エロ美人さんが来たけど、幸助の時は来なかったのか」
「詳しく聞こうか」
キリッとした表情で幸助は一真の横に座る。まだ登校してきてないので空席になっていた。
「いや~、悪いな。守秘義務ってやつで話せないんだ」
「嘘つけ! 簡単な質問に答えるだけだったから守秘義務もなにも言われなかったぞ!」
「俺の場合は違うのよ。特殊だからさ」
「だからってずるいぞ! 俺だって激エロ美人さんが良かった!」
「担当してたのは誰だったんだ?」
「普通のおっさんだよ! 優しそうな感じのな!」
「ふ~ん。どんなこと話したんだよ」
「さっきも言ったけど、大したことじゃない。あの時、何してたとか、何かおかしなことはなかったのかとか、そういったことを聞かれただけだ」
「そっか~。普通だな」
「お前の方はどうなんだよ!」
「だから、秘密だって」
「じゃあ、せめて激エロ美人さんについて教えてくれ!」
「それならいいぞ! まず、胸が大きかった!」
「おお!」
「もうボン! キュッ! ボン! だったぜ!」
「おおお!!!」
朝から下品な話で盛り上がっている二人の横でへとへと状態の桃子は目を閉じ、耳を塞いでいた。見ざる、言わざる、聞かざるの状態である。頑なに彼女はその姿勢を解こうとはしない。勿論、異能である読心も使わないでいた。
とはいっても、席が隣である上に二人は桃子を気遣う様子もなく、げらげらと大きな声で話しているので耳を塞いでいても会話の内容が聞き取れてしまう。
「(朝から元気ですね……)」
ここ数日の激務に桃子は完全に力尽きており、悪態を吐く元気すらなかった。今はただ朝から元気な二人が羨ましかった。出来る事なら、その若さと元気を分けて欲しいとさえ願っている。しかし、それは叶わない。
「(はあ……。久しぶりに授業中に寝ましょうか)」
本来であれば一真の心の声を聞くのが仕事なのだが、どうせ下らないことばかり言ってるので聞く価値はない。これ以上起きていても辛いだけだと桃子は朝のHRが始まるまで寝るのであった。
◇◇◇◇
あっという間に放課後が訪れ、桃子は茫然としていた。
「(目が覚めたら、放課後だったなんて……)」
かなり深く眠っていたので誰も起こさなかったのだ。普通は起こすのだろうが、そこは常識外れの一真がいる。彼があの手この手を使って教師が桃子を起こすの防いだのだ。異世界を救った勇者にとって教師の一人や二人相手ではなかった。
「(桃子、君の安眠は俺が守ったよ!)」
読心をオンにした途端、聞こえてくる一真の声。横を見てみると爽やかな笑みを浮かべて親指を立てている一真の姿がある。
それを見た桃子は全て理解した。何故、誰も注意してこなかったのかを。横にいる男が余計な気を利かせていたのだと分かった桃子はお礼を言うべきか、それとも殴り倒すべきかを悩んだ。
結果、少しだけ感謝の意を込めて頭を下げた桃子は颯爽と帰っていった。
「感謝されたのかな?」
「お~い、一真。帰ろうぜ~」
「おう」
いつもの面子が集まり、今日は真っ直ぐに帰ることにした。先日のような事件に巻き込まれてはいけないからと、寄り道をせずに真っすぐ帰る。
その道中、普段と変わらず他愛もない会話で盛り上がっていたら、暁が思い出したかのように携帯を取り出した。
「そういえば、これ知ってるか?」
暁が携帯の画面を全員に見える様に向けると、ある動画が流れ始めた。
『笑止ッ!!!』
動画を見た一真は思わず吹き出しそうになった。暁の携帯で再生されている動画はとある玩具会社のCMだ。
その内容は白銀の騎士が剣をカッコよく振るっている姿で、最後には白銀の騎士が振るっていた剣が玩具として販売されるといった宣伝であった。
しかも、面白いことに白銀の騎士が井上と田村の二人と戦っていた時の一部セリフがそのまま流用されているということだ。ちゃんと声も同じと言う徹底ぶりである。
『誰が為に力を振るい、他者を守らんと己の命を賭ける者は誰であろうと私は敬意を払い、尊敬しよう!』
『覚悟しろ』
『逃がさん』
『安心しろ、殺しはしない。だが、それ相応の痛みは受けてもらおうか!』
次々と再生されるセリフに一真は顔から火が出そうであった。
「(ひ~~~! やめてくれ~~~ッ!)」
これはとんでもない辱めであった。あの時は怒っていたから、特に何も感じなかったが冷静になって聞いてみると、これ程恥ずかしいことはない。黒歴史といってもいいくらいだ。
「おお~。凄いな。あの事件からまだ数日なのに玩具になってるんか」
「へ~。そっくりというかそのまんまの声だね。携帯で録音してたとは思えないね」
「俺もこれ見た時はビックリしたぜ。予約出来るらしいけど、完売だって話だぜ」
「……そ、そうなんだ~」
一刻も早く部屋に戻って一真は枕に顔を埋めたかった。異世界で色々な責め苦にあったがこれは別次元である。恥ずかしくむず痒い一真は全身を掻き毟りたい衝動に襲われていた。
「(あ~~~~!!!)」
異世界で一真は武勇伝や英雄譚を吟遊詩人に謳われていたので慣れているはずなのだが、実を言うと彼は全く耐性がないのだ。恥ずかしいからと吟遊詩人の歌は聞いておらず、どのように歌われていたのかすら知らないのだ。
その為、今回のような客観的に自分を見る機会がなかったせいで耐性が低く、とても恥ずかしいのだ。それなら最初から言わなければいいのにと思うが、それはそれで難しい。
向こうでそういうキャラを求められ、長い事演じていたせいですっかり染みついているのだ。今更、やめられるわけがない。
「ちなみにお値段は?」
「なんと税込み2980円! 良心的なお値段だろ?」
「子供のおもちゃにぴったりだね」
幸助の問いに暁が答え、値段を聞いた太一が子供の玩具に丁度いいくらいの値段だと言う。それを横で聞いていた一真は渇いた笑みを浮かべることしか出来なかった。
「ハハハ、そうだな~」
自宅に帰る暁達と分かれて一真は幸助と一緒に寮へと帰る。道中、先程のおもちゃについて色々と話したが、一真は終始恥ずかしそうにしていた。その様子を見ていた幸助はこっそり買うつもりなのだろうと勘違いするのだった。
◇◇◇◇
桃子は定例会議に出席しており、いつものように一真の言動を報告するのだが今回は半日以上寝ていたので報告できるようなことがない。そのため、彼女は嘘をつくことにした。
「今日の報告はとくにありません。普段どおりでした」
「そうか。今日も変わらずか……」
「健全といえばいいのか、お猿さんと言えばいいのか、微妙な所ね~」
桃子の嘘の報告を聞いても一切疑う事はなかった。日頃の行いが良いからというよりかは、一真の評価が性欲旺盛の男子高校生という残念極まりないものだからだ。そのおかげで桃子は助かっている。
「(今だけは感謝します……)」
もっとも、一真は今日も心が読まれていいように下ネタのオンパレードであったが、桃子は知らないので誰も不幸にはならなかった。今日も平和な一日である。
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