第21話 お前達に明日はない

 国防軍が騒いでいるのなら、当然こちらも騒がしくなっていた。


「おいおい、マジかよ! 今度は白銀の騎士様だとよ! 一体何人いるんだ? もしかして、黒、青、緑、黄色が控えてるんじゃないだろうな?」

「冗談はよせ。アレほどの実力者がそうポンポンといてたまるか」

「だけどよぉ! 見ただろ、あの出鱈目な動き! 一瞬、瞬間移動かと疑ったがアレは純粋に目にも見えない速さで動いただけだ! 中華の覇王ですらあんな真似は出来ねえのに!」


 あんなものは到底信じられないといったように大袈裟な反応を見せるアズライールに対してルナゼルは酷い頭痛にでも襲われているかのようにこめかみを押さえていた。恐らく、厄介なネタが増えた事に頭を抱えているのだろう。


「お~い、解析終わったよ~」


 気だるそうな声を発しながら、自身の身の丈よりも大きな白衣を着た少年が二人の前に現れた。


「結果は?」

「分かんなかった~」

「あんだよ、そりゃ! もっとなんかあるだろ!」

「仕方ないじゃんか~。携帯で撮った映像しかないんだからさ~」

「ちッ……。じゃあ、異能の方は解析出来たのか?」

「そっちはバッチリ~。まず身体強化でしょ? 空間系、恐らくアイテムボックスでしょ? で、強化の異能に治癒の異能に~飛行の異能まで兼ね備えた反則チート野郎だった」

「なんじゃそりゃ! 紅蓮の騎士並みじゃねえか! どんだけ異能持ってんだよ!」

「話を聞く限りでも五つか……。ふッ、眩暈がするな」


 紅蓮の騎士だけでも厄介だというのに今度は白銀の騎士と来た。しかも、同様に異能を複数持っている上に空間系の異能まで所持している。下手をしたら転移といった強力な異能まで持っているのではないかと考えると、頭痛がしてきたルナゼルは目頭を揉み始めた。


「あと~、国防軍が監視してる皐月一真って奴が今回も現場にいたよ~」

「なに? それは本当か?」

「なんでルナゼルが知らないの? 一応、報告くらい上がってきてるでしょ?」

「報告書は確かに届いたが、まだ全部目は通していなかったんだ」

「あ~、まあ、今回は色々と報告する事一杯あっただろうからね。それじゃ仕方ないか~」

「んなことよりもよ、その皐月一真って奴がクロなんじゃねえのか?」


 と、二人の会話を黙って聞いていたアズライールがそう言うので二人は話を聞いてみる事にした。


「だってよ~、偶然にしちゃ出来すぎじゃねえか? そいつは確か人型イビノムの時も今回も、そして、アムルタートの時も現場にいたわけだろ? その度に所属不明の異能者だ。スパイを名乗る謎の男、紅蓮の騎士、白銀の騎士。その三人が現れた現場にはいつもそいつがいた。なあ、どう考えてもそいつがクロだと思うんだが――お前らはどう思うよ?」

「すご~い。アズライールもちゃんと考えてたんだね~」

「お前、俺のことバカにしてんのか?」

「いや、そんなことはないけど、そんなまともな意見を出すとは思わなかったから少し意外だと思って~」

「俺がどんな目で見られてるか、ようく分かったぜ。いっぺん、締め上げとくか」


 指をポキポキと鳴らせるアズライールは少年へと近づく。そこへルナゼルが割り込み、物々しい雰囲気を放っているアズライールを止めた。


「その辺にしておけ。アスモディ、お前もアズライールを煽るな」

「は~い。ごめんなさ~い」

「ちッ。分かったよ」


 一触即発の雰囲気だったがルナゼルの介入により事なきを得た二人。ただ、どちらも不満そうであったが。


「やれやれ……」


 二人共優秀な仲間ではあるのだが、少し個性が強いと言うか、我が強いというか、少々協調性に欠けている。そのせいでどれだけ苦労してきたか。ルナゼルは溜息を吐きつつ肩を竦めていた。


「話は戻すが、アズライールの言う通り、皐月一真については国防軍で監視をしているところだ。正直なところ、あと一手欲しい。紅蓮の騎士、白銀の騎士とつながる証拠がな」

「じゃあ、今僕が開発してる新薬を皐月一真の友人、もしくはクラスメイトに投与するのはどう?」

「ふむ。アレの改良版か?」

「うん。まだ完成はしてないけど、近いうちに試作品は出来ると思うよ」

「そうだな。なら、その手でいこう。今度は尻尾をつかめればいいのだが……」

「そこは僕の仕事じゃないからね~。他の誰かに依頼してよ」

「わかっているさ。まずは、皐月一真の交友関係を洗い出し、入念に準備をしておこう」

「さ~て、忙しくなるな~。怠惰のアスモディって名前なのに僕ってば働き過ぎだよね~」

「その仕事が終わり次第、しばらく休むつもりだろう」

「まあね~」


 次に狙われるのは一真の友人たちと決まった。果たして、一真は友人たちを守り切ることができるだろうか。


 ◇◇◇◇


 イヴェーラ教で新たな作戦が始まろうとしていた時、国防軍の方では市街地で暴れ回った二人について話し合っていた。


「異能が二つに増えていた?」

「はい。容疑者二名を尋問したところ、シルクハットをかぶっていた怪しげな男から薬を貰ったとのこと。その薬を飲んだ結果、身体強化の異能が発現し、元々の異能が強化されたとのことです」

「検査はしたのか?」

「検査の結果、血液からイビノムの血液が確認されました。恐らくですが、それが原因かと」

「凶暴性に新たな異能の発現か……。確かに、イビノムの血液を取り込めばそうなるだろうが、常人には耐えられまい」

「そうですね。現在は遺伝子操作をせずとも先人たちがイビノムの血液を体内に取り込み、何代もかけて馴染ませてくれたおかげで我々は命の危険なく異能が発現しますから」

「そうだ。しかし、まだこの時代にそのような危険な実験をしている輩がいるとは……」

「イヴェーラ教でしょうか?」

「あのオカルト集団か……。可能性は高いが、正直分からん。もしかすると……」

「まさか、大陸の者達が?」

「そちらの可能性もある。はあ……やれやれ、厄介なことだ」

「頭痛の種ですね……」

「容疑者の二名においては病院で検査後、収容所に入れておけ。処罰については裁判の後だ。まあ、今回は運よく死者が出なかったから罪は軽いだろうが……実験台行きは免れないだろうな」


 現在、少年法は改定されており、年齢が十歳にまで下がっている。つまり、十歳以上は犯罪を犯せば普通に捕まるし、最悪死刑もあり得る、異能が存在する現代ではたとえ子供といえど容赦はしないという事だ。


「研究所行きですか……」

「当たり前だろう。イビノムの血液が採取された上に新たな異能を発現した貴重なサンプルだ。あのマッドサイエンティストが聞いたら喜ぶこと間違いなしだ。犯罪者だから人権も糞もないと言って生きたまま解剖するかもしれんぞ」

「それは、なんともまあ、可哀そうな話ですね……」

「いい教訓になるだろう。知らない人からお菓子を貰ってはいけませんというやつだ」

「代償があまりにも大きすぎましたね~」


 これから井上と田村はモルモット生活である。運よく二つ目の異能を手に入れることは出来たが、その結末は悲惨なものだ。流石に生きたまま解剖されることはないが、少なくともまともな生活は望めそうにない。


 次があれば、知らない人について行くのをやめ、お菓子や玩具を貰うのはやめることだろう。残念ながら彼等に次はないが。

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