第20話 そりゃ、みんなカメラで撮るよね

 二人を切り伏せた一真は玩具の剣を異空間収納にしまうと、足元に倒れている二人をどうしてやろうかと悩み始めた。

 ここが異世界であったなら、容赦なく首を切り落として晒し首にし、死体は魔物の餌にでもしていたが、生憎ここは法治国家の日本である。そのような事をすればお尋ね者だ。


 いくら怒っているとはいえ、流石に警察のお世話になりたくない一真は二人を引き摺っていく。適当なところにポイッと無造作に二人を放り投げて、一真は周囲にいる人たちへ何か縛るものはないかと尋ねた。


「すまないがロープか何かないか?」

「え、あの……すぐそこにお巡りさんがいますけど」


 質問に答えてくれた人が親切に教えてくれた。一真は後ろを振り返ると、そこには特殊警備隊と国防軍が勢揃い。どうやら、田村の異能で作られた土の壁が消えたせいだろう。一真が田村を気絶させたことで解除されたようだ。

 そのおかげで警察も国防軍も救助に来たようだが、タイミングは悪い。一真にとってはだが。


「……さらばだッ!」

「あッ! 待てッ!!!」


 一目散に逃げ出す一真に向かって警察と国防軍は捕縛系、拘束系の異能を放つが全く通用しない。そこで身体強化の異能者が一真を捕縛しようと試みるも追いつけず、最終的には取り逃がしてしまった。


「逃げられてしまったか……」


 別に捕まえて拷問をするつもりはない。詳しい話を聞き、最終的には味方に引き込みたいだけだったのだが、話も聞いてもらえず逃げられてしまった事に少し落ち込んだ警察官。


「どうしますか? 追いかけますか?」

「いや、いい。それよりも通報のあった容疑者二名を連行しろ。幸い、あの騎士様が気絶させてくれたおかげで仕事は楽だろう」

「は! 了解であります!」


 部下が敬礼してから元気良く井上と田村の逮捕に向かうのを見て隊長は嘆息をもらす。


「はあ……。今回の件で警察も叩かれるだろうな」


 以前、一真が人型イビノムを撃退した時、国防軍は世間から叩かれた。一真こと紅蓮の騎士はヒーロー扱いだが、国防軍は何をやっていたのだと国民から非難の言葉を浴びたのだ。


「無能な警察だと罵られるか……」


 後々のことを考えると憂鬱になる。世間からは叩かれて、上層部からも嫌味を言われる事になるだろう。今回の事件を解決した白銀の騎士を逃しただけでなく、現場に到着する事も出来なかったのだから罵られるのも当然であろう。


 その一方で白銀の騎士こと一真は光魔法で光学迷彩を再現してフラ・フラ・フラミンゴの店内へと戻っていた。

 一真は楓をどうやって運ぼうかと考える。完全に意識を失っている彼女を運ぶのは骨が折れるだろう。鍛えている一真にとっては簡単だが普通は意識を完全に失っている人間を運ぶのは大変である。


 なので一真は考えた結果、店の外へひとっ走り。最初に目についた国防軍の兵士に店内に楓がいることを伝えた。


 こうして、無事に楓は国防軍の兵士に保護されて救急車に乗せられ病院へと運ばれるのであった。

 これで自分の役目は終わりだと一真は踵を返した時、肩を掴まれる。もしかして、正体がバレたのかと焦る一真は錆びた玩具のようにギギギと振り返る。


「な、なんでしょうか?」

「君、学園生でしょ? あっちでお友達が待ってるよ?」


 そう言って兵士は後ろのほうで保護されている暁達を指差した。どうやら、彼は親切に友達が待っていると教えてくれただけだったらしい。無駄に緊張してしまったではないかと逆切れをしていたが、バレていないことを思い出してホッと息を吐く一真は兵士にお礼を言ってから暁達のもとへ合流する。


 暁達と合流した一真は帰路に着こうとしたが、警察から事情聴取を受ける事になったので家に帰るのが遅くなってしまった。こうなったのも全部あのバカ二人のせいだと四人は帰り道の文句を言うのであった。


「そういえば、あの三人は大丈夫なのかな」


 ふと暁が二人によって怪我を負ってしまった三人を心配する。白銀の騎士こと一真によって怪我は治ったが心までは治らないだろう。一応、救急車に運ばれ病院についている頃だろうが、彼女たちのことが気になって仕方がない様子の四人。


「大丈夫なんじゃないか? あの白銀の騎士様がなんか異能で治してたっぽいし」

「そうだね。衣服は破れたままだったけど切り傷や火傷を完全に治してたから問題はないと思うよ」


 一真は何も言わない。何故ならば、彼は店の中で隠れていたという設定になっているので現場を見ていないわけだ。それなのに、ここであたかも近くで見ていたかのように答えると疑われてしまうだろう。

 勿論、三人は国防軍でもないので捕まえたりすることはないが、現場にいなかったのに知っている素振りの一真を妙に感じてしまうことは間違いない。


「へ~。そうなんだな~」


 唯一できることは相槌を打つことだけ。一真は二人の話を聞いて適当にあわせるだけだった。

 そして、一行は二手に分かれる。暁と太一は住宅街へ、一真と幸助は寮へと帰っていくのであった。


 ◇◇◇◇


 一真達が寮に帰った一方で、国防軍のほうは大慌てである。今回の事件に関しては大したことないのだが、問題は白銀の騎士についてである。

 以前、人型イビノムの件で姿を現した紅蓮の騎士に続いての国内未登録異能者だ。しかも、能力の全容は不明であり、尚且つ国内どころから海外の強力な異能者を上回る実力。


 今の所、そのどちらも敵ではないことだけは確かだ。もっとも、今後の対応でどう転ぶかは不明だが、それでも味方に取り入れたいと国防軍は躍起になっていた。


「東雲君、小野田君。相葉君。君達には皐月一真少年の監視任務についてもらっていたわけだが……東雲君。何故、現場にいなかったのだね? 確か、君にはクラスメイトとして監視対象に接触するように命じていたはずだが?」

「それに関しては申し訳ありません。あまり迂闊に距離を詰めすぎると不審に思われると判断した為、今回は同行することが出来ませんでした」

「ふむ。まあ、確かに君の言う事は一理あるが……いや、よそう。今回は少々運が悪かったとしか言い様がない」


 桃子は一真のクラスメイトとして潜入しているので一番距離は近いが、あまりにも露骨に距離を詰めると不審に思われてしまう。そのため、桃子はある程度の距離を保っていた。それゆえに今回の事件の際に傍にいられなかった。

 本来であれば懲罰ものであるが桃子の言う事も間違っていないと上司は判断し、不問にする事にしたのだった。


「しかし……ハア。紅蓮の騎士に続いて白銀の騎士と来たか。しかも、異能は空間系と身体強化系。紅蓮の騎士と似ているが空間系は未確認だ。別人物という話も上がっている。そこで君達に聞きたい。この映像を見てどう思うかね?」


 上司が流した映像は現場にいた人達が撮っていた映像だ。白銀の騎士の登場と戦闘シーンが映っている。


「私のマーキングで対象を追っていましたが、現場付近にいたことは確かです。しかし、白銀の騎士かどうかは分かりません。この映像を見ても判断できないというのが私の意見です」

「自分も同じです。衛星カメラで対象を監視していましたが店内に逃げ込んでいるのは確認しましたが白銀の騎士と同一だという証拠はありませんでした」

「私は監視対象と戦闘訓練を受けましたが、平均的な生徒よりも多少運動が出来る、戦闘が行えるといったくらいで、紅蓮の騎士や白銀の騎士とは程遠い存在かと」

「そうか……。わかった。一先ず、このまま監視は続けてくれ。こちらは別の者達に当たらせようと思う」


 ビデオ通話は終わり、真っ暗な部屋に明かりが戻った三人はドッと疲れたようで大きく息を吐いた。


「ふううう……。まさか、こんな日に限って事件が起きるとは」

「ホントよ! てか、白銀の騎士ってなんなのよ!」

「こっちが聞きたいくらいだ。全くどうなってるんだ……」


 頭を抱える雅文とぎゃあぎゃあ喚く麻奈美。そして、間一髪で懲罰を免れた桃子は精魂尽き果て真っ白になっていた。

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