第19話 喋る! DXダイナミックソード!
◇◇◇◇
ほんの少しだけ時は戻り、一真が店の外に出て、四人の戦いを見ていた時、彼は動けないでいた。
「(ダメだ。助けに入りたいけど周囲に人が多すぎる。これじゃ、変身も出来ない!)」
平穏に暮らしたいと願っている一真は自身の正体を隠している。異世界を救った最強の勇者であることを。
一真がすぐに動けば確実に井上と田村の二人は止められるだろう。しかし、そうなれば一真は間違いなく国に身柄を抑えられる。
当たり前のことだが人は未知のものを恐れる。それがどういう存在であろうと、自身に少しでも牙を向けられる可能性があるのなら人は何としてでも排除したがるのだ。
だから、もし、一真が正体を明かせば国どころか世界が敵になるかもしれない。勿論、そうなるとは限らないが、その可能性は大きいだろう。
「(一旦、店の中に駆け込むか? でも、俺の姿が監視カメラに映っている可能性が高いんだよな。そしたら、今度は間違いなく正体がバレる。でも、だからって見てるだけなんて出来ねえ……!)」
一真の視界の先ではマリンと詩音が懸命に戦っているが、井上と田村の力は圧倒的だ。二人は手も足も出ず、一方的に蹂躙されている。
しかし、それでも彼女達は後ろにいる暁達を守るために臆することも逃げ出すこともなく戦っているのだ。
それを見て我慢できるはずがない。一真は異世界で何度も同じ光景を見てきた。圧倒的な力を持つ敵を前にしても人々を守るために散っていった戦士を。
彼等は誇り高かった。彼等は気高き戦士であった。誰が為に力を振るい、他者を守らんと命を燃やし、最期の最後まで戦い続けて来た戦士たち。
そんな彼等を彷彿とさせる彼女達を見捨てることなど一真には出来なかった。
一真はどうにか正体がバレずに二人を救う方法を足りない頭をフル回転させて編み出す。
「(地面下に雷魔法を流して設置されている監視カメラを破壊。監視カメラを破壊した後、一旦店内に戻って幻影魔法で変身だ! もうこれ以上いい策は思いつかん!)」
と言う訳で早速実践。一真は器用に足の裏から雷魔法を地下へ流し、街に設置されている監視カメラを破壊。その後、周囲の人間が戦闘に目を奪われている間に店内へ逆戻り。
それから、店内を見回して誰もいないことを確認し、一真は幻影魔法で変身。前回は紅蓮の騎士だったので今回は白銀の騎士である。意味は特にない。
それから、ついでに店内に転がっていた玩具の剣を拝借。
その間に二人は敗北していた。マリンと詩音は地面に横たわっており、井上と田村は暁達に手を出そうとしていた。これは急がねばならないと一真は足に力を込めていた時、倒れていたマリンと詩音が二人を挑発して引き付けたのだ。
遠くにいた一真だが身体強化魔法を使っていたので二人の会話を耳にしていたのだ。
「(ああ……。彼女達は向こうの世界で見た戦士たちと同じだ。己の命を賭してでも他者を守らんとする崇高な精神。それを今持ってるなんて……どれだけ凄いんだ。俺がその覚悟を得るのにどれだけ時間が掛かったか)」
一真の場合は選択肢がなかった。いきなり異世界に飛ばされて、戦う事を余儀なくされた。だから、戦うしかなかったし、死なない為に死に物狂いで鍛えるしかなかった。
しかし、彼女達には他にも選択肢があった。確かに戦うだけの力は得たが、戦わないと言う選択肢もあったのだ。それなのに彼女達は戦う事を選んだ。それも誰かを守るという意思のもとでだ。
だからこそ、彼女達は臆することもせず、逃げることもなく、勇敢に立ち向かっているのだ。そこに守るべき存在がいるから。
「(死なせるものかよ! あの気高き戦士たちを!)」
一真は走った。風の如く戦場を。目にも留まらぬ速さで一真は井上と田村の手からマリンと詩音を救い出したのだ。
◇◇◇◇
時は戻り、井上と田村の二人と向かい合う一真。幻影魔法で顔を兜の中に隠している一真の瞳には憤怒の炎が宿っている。久方ぶりに感じた怒りを一真はどうぶつけてやろうかと考えていた。
「死ね! 物真似野郎が!」
物真似とはどういう意味だろうかと一真は首を傾げながら、井上の放った火球を上空へと弾き飛ばした。
「なら、これでどうだ!」
井上の火球が弾かれたのを見て、田村は戦法を変える。一真の背後で眠っているマリンと詩音に攻撃を仕掛けたのだ。先程の行動から察するに
目の前の
だが、それは悪手であり、全く意味がなかった。むしろ、余計に一真を怒らせるだけだ。
「は?」
ポカンと間抜けな表情を浮かべる田村。彼の視線の先にはマリンと詩音に向かって放った攻撃が見えない何かに弾かれて消える瞬間であった。
一真は懲りずに二人を狙った田村を見てさらに怒りを増幅させる。一体どこまで人を怒らせればいいのかと一真は怒りを溜め込んでいく。
「まだ彼女達を狙うか……! 卑劣極まりない下衆共め!」
「は! 勝てばいいんだよ! 大体、そんな雑魚なんて庇うお前が悪いんだろ!」
「言うに事欠いてあの気高き戦士たちを雑魚だと……!」
「ギャハハハハッ! さっきから聞いてれば気高き戦士だの誇り高き戦士だの言ってるが厨二病かよ! あのブス共が雑魚なのは見れば分かるだろうが! 頭おかしいんじゃねえか?」
「笑止ッ! お前達に彼女達を愚弄する資格など一切ない! 誰が為に力を振るい、他者を守らんと己の命を賭ける者は誰であろうと私は敬意を払い、尊敬しよう! それをお前達が嘲笑っていいはずがないだろう!」
割と本気で怒っていた一真はかなり饒舌であった。無論、正体を隠しているので声を変えており、喋り方も堅苦しい感じになっているが、その言葉一つ一つに怒りが込められている。
「バッカじゃねえの!? 結局、守れてねえし、無様に負けてんじゃん!」
「だとしても、彼女達は守り通した! 見よ! 彼等を!」
バッと手を広げて周囲を見る様に叫ぶ一真。井上と田村は一旦動きを止めて素直に言う事を聞いた。キョロキョロと周囲を見渡し、一真に視線を戻して何が言いたいのかと見詰める。
「分からぬか! 彼等が無傷なのは彼女達が懸命に戦い、必死に守った結果だ! お前達は勝ったと豪語しているが……真の勝者は彼女達だ」
二人を指差して真の敗北者は他の誰でもないお前達だと一真は突きつけた。
「でも、お前が来なければあいつ等は何も守れず死んでたぜ!」
「だが、そうはならなかっただろう。だから、お前達はここで負けるのだ」
「ぐ……! うるせえんだよ! 鬱陶しい野郎が! 死ねよ、テメエ!」
激昂する二人は異能を連発し、一真を攻め続けるが全く通じない。どれだけ火力が上がろうとも、どれだけ攻撃範囲が広がろうとも、どれだけ必死に足掻いても一真には傷一つ付けられなかった。
「お前達はやりすぎた。覚悟しろ」
「ッ! ふざけんな! 田村ッ!」
「おう!」
一真は異空間収納から玩具の剣を取り出す。武器を取り出したのを見て井上は田村の名を叫ぶ。田村は井上が何を言いたいのかを察しており、すぐに逃げる準備をした。
地面を操作して一真を包み込み、自分達の逃げ道を確保して逃げ出そうとする二人は全速力で走った。
しかし、逃げる事は叶わない。相手が一真であったが為に。
「逃がさん」
玩具の剣を横に一閃。ただそれだけで田村が作った土の檻を破壊した。その光景に周囲にいた見物人は度肝を抜かれる。
「う、嘘だろ!? あれはそう簡単には壊れないのに! 現に今だって警察や国防軍も押さえてるんだぞ!」
この騒動で未だに警察や国防軍が介入してこないのは田村の土操作で作られたバリケードのせいだ。そのせいで多くの人が逃げ出せないでいるし、警察や国防軍も手が出せないでいた。
それほど強固な田村の異能を一真は玩具の剣を一振りしただけで破壊したのだ。田村が動揺してしまうのも無理はない。
もっとも、一真が持っているのが玩具の剣だということは誰も知らない。もし、玩具の剣だと知ってしまえば、さらに驚くことになるだろう。どうやって、そんな玩具で土の檻を破壊出来たのだろうかと。
「田村! いいから走れ! 捕まったらお終いだぞ!」
「わ、分かってる! でも、アイツ――」
と、走りながら二人が喋っているところへ一真が一瞬で追いついた。
「随分と余裕だな。お喋りしている暇があるのか?」
「なッ!?」
「はや――」
「安心しろ。殺しはしない。だが、それ相応の痛みは受けてもらうか!」
片手に握り締めていた玩具の剣を一真は二人に向かって振り下ろす。本気で一真が剣を振るえば、玩具といえど二人は死んでしまう。それゆえ、一真は最小限の力で剣を振るい、二人をその場に切り伏せるのであった。
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