第17話 アホ、大体現場にいない

 自己紹介も終わり、一真達はカラオケを楽しんだ。緊張していた男子達もカラオケを通して戦闘科の女子と仲良くなり、今ではすっかり友達になっていた。


「まあ、槇村さんと宮園さんみたいな人じゃなければ暁達も平気なんだろうな~」


 一真は暁達が楓やアリスを苦手としているのは知っていた。まあ、確かに傍から見れば暴力的な二人だ。二人からすればスキンシップではあるのだが、支援科の生徒からすれば異能によるコミュニケーションは暴力と同義であることは間違いない。


「私は別に悲しいとは思ってないよ?」

「いや、それは見ればわかる」

「酷い。女の子は感情を隠すものなんだよ?」

「そう言われたらそうなんだろうけど、槇村さんの場合はホントに傷ついてない感じがする」

「えーん、えーん」


 泣き真似をする楓はチラリと一真を一瞥して泣き真似を再開させた。


「全く感情が籠ってない……。演技にしても下手くそ過ぎる」

「…………」

「あだだだだッ! 無言で念力するのやめて! 頭がトマトみたいにつぶれちゃうよ!」

「大丈夫。手加減してるから」

「万力で締め付けられる痛みを知らないくせに!」

「うん。知らない」

「うごごごごごご……ッ!」


 二人掛けのソファで一緒に座っている一真と楓。いつものようにじゃれ合っているが、やはり傍から見ればカップルにしか見えない。

 イチャイチャと言っていいかは分からないが仲良さそうに話している二人を見ていた五人は心の声が一致していた。


「もうカップルじゃん……!」と。


 何度も言うようで悪いが二人はカップルではない。ただのお友達である。しかし、将来どうなるかは誰にも分からない。


 その後、カラオケを一通り楽しんだ一真達は夕暮れ時の街を歩いていた。


「そうだ。皐月師匠!」

「え……何、その呼び方」


 皆で歩いていたら詩音が一真に向かって師匠呼びをした。突然の事に一真は驚き、妙な呼び方に顔を歪ませる。


「あっと、ダメだった?」

「いや、ダメとかじゃなくて……まさか、本気で弟子入りする気なん?」

「え!? もしかして、嘘だったの?」

「いやいや、嘘とかじゃなくて槇村さんの冗談だから!」

「私のせいにする気なの? 一真もノリノリだったくせに」

「そりゃ冗談だと思ってたからね! でも、支援科の俺に戦い方を教わりたいってのは……流石にさ」


 困ったように眉を寄せる一真に詩音は大きな声を上げる。


「支援科とかそんなの関係ないよ! 楓がここまで推すんだから、私は友達を信じるの!」

「おう……」


 詩音の勢いに一真は押され気味である。カラオケの時には乗り気ではあったが、アレはリップサービスと言うかただのジョークの類だと思っていた。しかし、今の彼女は冗談を言っているようには見えない。どう見ても本気である。


「その……皐月君がどうしても嫌だって言うなら諦めるけど……」

「……あのさ、どうしてそこまでするの?」

「進級が危ないってのもあるけど、やっぱり私も国防軍に憧れてるからさ。だから、頑張りたいの。なれないかもしれないけどね。えへへ……」


 ニへッと力なく笑う詩音を見て一真は息を呑む。彼女の立派な目標に一真は感銘を受けたのだ。


「…………わかった。俺でよければ力を貸すよ」

「え!? ホントに?」

「ああ。どこまで力になれるかは分からないけど、最大限力を貸すよ」


 穏やかな表情で詩音を見詰める一真に彼女はプルプルと震えると、その場で勢いよく跳び上がった。


「やった!!! ありがと、皐月君! これから、よろしくね!」

「うん、よろしく」


 歓喜のあまり跳び上がってしまった詩音は一真の両手を取って満面の笑みを浮かべてお礼を言うのであった。


「よかったね。詩音」

「うん! 楓もありがと! 皐月君を紹介してくれて!」

「別に大したことじゃないからお礼はアイスでいいよ」

「アハハハ! 大したことないって言う割にはアイス欲しいんだ! いいよ、奢ってあげる! あ、皐月君もどう?」

「いいの? それなら俺も奢ってもらおうかな」

「いいよ、いいよ! これからお世話になるんだし、アイスくらいいくらでも奢ってあげるよ!」

「え、それならあーしも欲しい! 39サーティナインのアイス買って!」

「39は無理! 流石に高すぎるよ~!」


 39とはアイスクリームの全国チェーン店。フレーバーの種類が39もあることで有名だ。小さな子供から大人まで大人気のアイス屋さんである。ただし、少々値段は高いが、それでも全国展開出来るほどの人気を誇っている。


「コンビニ! コンビニのアイスまでだから!」

「え~! じゃあ、あーし、あの高いやつね! 新しいの出たから丁度食べたかったんだよね~! ありがと、詩音!」

「いや、駄目だから! もっと、普通のだけだから!」


 ワイワイ騒ぎながらコンビニを目指して歩いていると、一真はとある店を見つけて一人そちらへ向かう。


「おい、一真。どこに行くんだ?」

「悪い、幸助。俺、ちょっと買い物してくるから、先に行っててくれ」

「わかった。遅くなるようだったら連絡しろよ」

「おう!」


 グループから抜け出して一真は激安堂のフラ・フラ・フラミンゴへと入っていく。日用品から家電製品といった幅広いものが売られており、海外の謎の商品なども売られているお店だ。

 一真はお目当てのものを探し回る。パーティ用の仮装グッズが置いてあるコーナーを歩き回った一真は目的のものを発見した。


「お、これこれ!」


 一真が手に取ったのは白の付け髭とカツラ。何故、そのようなものを買ったのかと疑問に思うだろうが彼はバカであった。


「(これつけて師匠面しよう!)」


 なんということはない。ただ、雰囲気つくりの為とウケ狙いの為だけに買ったのだ。救いようのないアホであると罵りたいところだ。まあ、どの道、あとで全員から総ツッコミを受けるのは間違いないだろう。


 お目当てのものを手に入れた一真はレジに向かうと、外から悲鳴が聞こえてくる。何かあったのだろうかとレジのところから外に顔を覗かせると楓が吹き飛んできた。


「え……ッ!?」


 気付いた時には遅かった。一真の正面に飛んできた楓は彼ごと吹き飛び、商品棚を薙ぎ倒していく。やっと、止まって商品棚に身体をぶつけた一真は受け止めた楓の安否を確かめる。


「いてて……。一体、何が? あ、槇村さん! 槇村さん、大丈夫か?」

「か、一真……。に、逃げて……」


 それだけ言い残すと楓は意識を失ってしまった。良く見ると彼女の制服は所々焦げており、顔の方には火傷を負っている。それを見た一真は外の方で異常が起きているのだと気がつき、すぐに監視カメラの有無を確認した。


「(ラッキー! さっきの衝撃で壊れてる! これならバレないな!)」


 先程、楓が店内に吹き飛んできた時の衝撃で監視カメラも壊れていたようだ。そのおかげで一真は気にすることなく魔法を行使できる。早速、楓に回復魔法を使おうとした時、予想外はことが起きた。


「は!?」


 なんとこちらに向かってとんでもない大きさの火球が飛んできていたのだ。これは、不味いと一真は大声を張り上げた。


「全員、逃げろぉッ!!!」


 店内にいた店員、客を含めた数十人が一斉に逃げ出す。蜘蛛の子を散らすように逃げ出したのを見て一真は、これで盗撮される恐れもなくなったと障壁を自身と楓を包み込むように張って火球を防いだ。


「外で何が起こっているんだ?」


 楓に回復魔法を施しつつ、一真は外で何が起こっているのだろうかと、大きな穴のあいた店内から外を見るのであった。


 ◇◇◇◇


 時は少し遡り、一真が買い物をしている頃、暁達はアイスを買いにコンビニを目指していた。

 すると、その時、たまたま進行方向の先から井上と田村が歩いて来る。二人の姿を確認した戦闘科の女子達が怪訝そうに顔をしかめた。


「ねえ、アレって井上と田村じゃない?」

「あ、ホントだ。学校サボって何してたんだろ」


 マリンが端整な眉をひそめながら詩音に話しかけた。無視しようかと考えていたが、進路上にいるのでそれは出来ない。結局、顔を合わせてしまう羽目になってしまった一行は二人と向き合うこととなった。


「アンタ達、学校さぼって何してたの?」

「ああ? なんだ、二階堂に一之瀬か。しかも、槇村までいやがんのか」

「あのさ、学校サボって何してたのかって聞いてんの。あーしの言葉分かってる?」

「うるせな。俺らがどこで何してようが関係ないだろ!」

「マリン。こんな奴らほっといて行こ。相手にするだけ時間の無駄」


 捲くし立てる二人と一触即発のマリンに楓が服を引っ張って止めた。少々、発言に問題はあるが、概ねその通りなのでマリンは素直に従う。


「ま、楓の言うとおりか。ごめんね、皆。こんな奴らほっといてアイス買いに行こ!」


 その言葉に従って一行は二人を避けて進もうとしたら二人に呼び止められる。


「おい、お前ら、俺らのことバカにしてんのか?」

「別に? そっちが勝手にそう思ってるだけなんじゃない?」

「そうかよ。どうやら、テメエらにはどっちが偉いのかを教えてやらなきゃダメみてえだな」

「なにそれ。アンタ、頭おかしいんじゃない?」

「すぐにその口黙らせてやるよ!」


 切れた井上が振り返って火を放つ。咄嗟に楓が前に出て念力で火を防いだ。市街地でいきなり異能を発動した事に驚く一同が動揺している中、楓が二人に話しかけた。


「街中で異能を使う意味分かってる? 捕まるよ?」

「ハハハハ! 勿論、知ってるに決まってるじゃねえか! でも、それは弱え奴の話だ! 俺達は最強なんだよぉッ!」


 血走った目を楓に向け、口から大量の唾を撒き散らしながら井上は叫んだ。自分は最強だ。だから、絶対に捕まることはないと妄言を吐いた彼は異様な雰囲気を放っている。まるで、以前とは別人のようだ。


「何、こいつら、やばいんですけど」

「警察呼んどくね!」

「とりま、ボコる。先に仕掛けてきたのはアッチだから正当防衛は成立する」

「あーしも手伝うわ!」


 狂ったように笑っている二人と戦闘科の女子達が向かい合い、戦いが始まろうとしていた。

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