第15話 心の狭い奴やな~!

 夜遅くまで国防軍との熾烈な争いを繰り広げていた一真は寝不足であった。


「ふわぁ……ねむ」


 欠伸を噛み締める一真は涙目である。それも仕方がない。昨夜は深夜テンションで謎の奇行を繰り返していたのだ。いくら。国防軍に対しての嫌がらせとはいえ、やり過ぎであった。


 教室へ辿り着いた一真は自身の席へ着き、机に突っ伏して朝のHRが始まるまで寝ようとした。しかし、そこへ思わぬ刺客が現れる。


「おはようございます。一真さん」


 眠りを妨げられて若干不機嫌な一真は重たい頭を上げて、憎い敵である桃子を見上げる。


「おはよう……東雲さん」

「あら、どうしたんですか? とても眠たそうですけど、昨日はちゃんと眠れませんでしたか?」

「いや~、ハハ。昨日は色々あって」


 眠たいが相手にしない訳にもいかないので一真は睡魔と戦いながら桃子とも戦う。


「(くそ、眠たいから話しかけないで欲しいんだが……)」

「(ふっ。どうやら、昨日はまともに眠れなかったようですね。よかった。早々にモニターを切っておいて)」

「(てか、空気読めよ。人が机に突っ伏しってるってことは話しかけないでくださいアピールだろうが!)」

「(いつものお返しです。わかりましたか? 私の気持ちが!)」

「(心の狭い奴やの~!)」

「(声に出してませんよね? なんで的確に文句を返してくるんでしょうか……)」


 一真に読心術はない。勿論、異世界で習得もしていない。一真が習得したのは読心術の対策だけである。つまり、会話が成立しているのは単なる偶然である。ある意味で奇跡ともいえよう。


「色々とは何があったのですか?」

「SNSで見た面白い動画があったから、それを見てたんだよ」

「(だから、あんなおかしなことをしてたのですね……)」

「(くそぅ……さっさと寝ればよかった)」

「(後悔するくらいなら最初からしなければいいのに……)」

「(俺には使命があるんや……ッ!)」


 奥歯でも噛み締めて言ってるのかというくらい覚悟の決まったセリフを吐いているが、恐らくはそのようなものはないだろうと桃子も短い期間で学んでいた。


「(はいはい。いつもの妄言ですね)」

「(世界を救うために日々の努力は欠かせないんやで!)」


 あながち間違ったことは言っていない。一真は異世界を救うために日々努力していたのだ。そういう意味ではその通りかもしれないが、この世界を救う必要は一真には無いので、やはり意味はないかもしれない。


「どんな動画だったんですか?」

「ん~、これ」


 桃子にどんな動画だったのかを聞かれた一真は端末を操作して、SNSで発見した謎の健康法を披露しているアカウントを見せる。


「なんですか。これは?」

「異能ではなく己の生命力を燃やして強くなるっていう健康法」

「修行とか鍛錬ではなく健康法ですか……」

「そう。他にもいくつかあるんだけど面白いから見てる」

「そ、そうですか……。あまりのめり込まないようにしたほうがいいですよ」

「アハハハ~。まあ、程々にしておくよ~」


 それから桃子は一真との会話をやめて読書に勤しむ。読書を始めた桃子を見て一真は睡眠を再開しようとしたが、ここでいつもの面子が揃う。これで眠れなくなった一真は桃子に恨み言を内心で吐きながら朝のHRまで睡魔と戦い続けるのであった。


 ◇◇◇◇


 あっという間に放課後である。本日は特にこれと言った連絡事項もなくHRを終えた田中は早々と職員室へ帰っていき、帰宅する生徒達は部活動や委員会へと向かっていく。


 一真はというといつもの面子と遊びに行こうかとした時、教室のドアから戦闘科の女子が顔を出した。


「やっほー、一真」


 呼ばれた一真は、そちらを振り向くと楓がフリフリと手を振っていた。珍しい客人に一真はビックリするも彼女の方へと近づいた。


「珍しいね。槇村さんがこっちに来るなんて、どしたん?」

「今日は部活もないから遊びに行かない?」

「マジ? ちょっと待って。友達に聞いてくる」


 と言う訳で一真は暁達に一緒に遊びに行かないかと聞いてみた。


「えーっと……槇村さんだけ?」


 気になった暁は一真に質問するが、彼もその事は知らない。


「すまん。ちょっと、聞いてくる」

「おう」


 一真は一旦楓のもとに戻り、他に誰かいるのかと訊いてみた。


「他? うん。友達が二人来るから、私含めて三人だよ」

「ちなみに俺の知ってる人?」

「う~ん。訓練で一緒になったことある?」

「いや、俺に聞かれても分からんって」

「とりあえず、会ってみたらいいんじゃない?」

「そうするか~」


 なんとも軽いノリであるが、他の人達からすれば堪ったものではない。ほぼ初対面であるのだから、いきなり遊ぶとかは辛いだろう。

 ただ、一真と違って暁達は三か月先から訓練をしているので顔くらいは知っているかもしれない。勿論、きちんとコミュニケーションを取っていれば知り合いレベルにはなっているはずだ。


「聞いてきたけど、向こうは槇村さん含めて三人だって」

「三人か~。こっちは四人だしな」

「幸助。合コンじゃないんだぜ?」

「分かってるって。でも、選択肢が減るのは確かだろ?」

「まあ、そうかな?」


 奇数なのでチーム分けが必要な遊びは厳しいだろう。とはいえ、戦闘科の女子なので支援科の男子より強い。だから、少々数の不利があっても問題はないのだ。


「それで、どうするの? 僕はどっちでもいいけど、暁と幸助はどうするの?」

「ああ、俺もどっちでもいいよ」

「俺はオッケーだ!」


 太一、暁はどちらでもいいらしく特に文句は言わなかった。

 幸助は女子と遊べるならオールオッケーだ。ただ、幸助にも苦手な女子はいる。暴力的であったり、口が悪かったりするような女子は苦手である。

 もっとも、そのような人間は男子であろうと女子であろうとほとんどの人間が苦手であろう。ストレスの溜まるような相手は生き物として受け付けないのが普通だ。


「とりあえず、オッケーだって」

「ん、りょ。じゃあ、友達呼んでくるから少し待っててくれる?」

「電話とかでよくない?」

「あ、そっか」

「もしかして、忘れてた?」

「あんまり使わないから」

「なるほど。ついでに言うけど、俺と連絡先交換してるのも忘れてる?」

「ん? そっちは覚えてるよ。でも、直接言った方が早いかなって」

「いや、電話の方が早いって……」

「一真に会いたかったから」

「せめて、もう少し感情の籠った声を出して。めっちゃ無機質な声やん。音声ガイドかな?」

「似てる?」

「う~ん……割と」

「イエイ」


 一真に向かってピースサインをする楓だが、やはりその表情は固い。ほぼ能面である。怖くはないが不気味であった。


「じゃあ、友達呼んでくるね」

「分かった。ここで待ってる」


 楓は友達を呼びに戦闘科の教室へと戻っていき、一真は楓が友達を呼んでくるという事を暁達に伝えた。


 その様子を見ていた桃子はどうするかと迷う。一真を監視するならついて行くべきなのだろうが、流石に怪しまれる。友達でもない只のクラスメイトがいきなり一緒に遊びに行きたいなどと言えばそうだろう。


「(どうするべきか……。ただ遊びに行くだけみたいですし、私が行かなくても問題はなさそうですが……)」


 仕方がないかと桃子は溜息を吐き、いつもの報告へと向かう。

 その後ろ姿を見ていた一真は監視任務はいいのだろうかと疑問を浮かべたが、桃子がそうしたのならいいのだろうと放置することに決めた。


 どうせ、怒られるのは自分ではないし、関係ないのだから。


「お待たせ」


 それから、少しして楓が友達二人を引き連れてやってきた。後ろにいた二人は一真も知らない。新たな出会いに一真も少しだけ期待を膨らませるのだった。


 ◇◇◇◇


 いつもの報告へ向かった桃子は一真が遊びに行ったことを伝えた。


「ふむ……。少々問題ではあるが大丈夫だろう」

「そうね。変に近づきすぎると怪しまれるし、それくらいの距離感でいいんじゃないかしら?」


 二人にそう言われたので桃子も少しは気が楽になった。これで、何故ついていかなかったのかと怒鳴られたら、どうしようかと思っていたのだ。これで一安心である。


 今日もぐっすり眠れるだろう。無論、今夜の一真が大人しくしていればの話だが。

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