第6話 いいパンチ、持ってるじゃん
一真達が浜辺から移動している頃、同じチームである桃子は
桃子は事前の調査でアリスが一真と親しい間柄だと知っており、彼女の人となりも知ってはいるが対面するのは今回が初めてであった。
「そういえば転校してきたんだっけ?」
「はい。第一の方から父の都合で」
「ふ~ん。こんな時期に大変だったね」
「まあ、大変でしたけど、クラスの皆さんが優しくしてくれましたので」
「そいつは良かったね。ところで、話は変わるんだけど、やっぱり第一の方は強い異能者が多いの?」
「そうですね。やはり、人口が多いですから、それなりに集まってきます」
「そっか~。まあ、人が多いとそれだけ異能者は多いってことだもんな。ちなみに、一年生の中で一番強かった奴とか知ってる?」
「すいません。詳しくは知らないんです」
申し訳なさそうに謝る桃子を見て、アリスは慌てて彼女へ謝罪の言葉を述べる。
「別にアンタを責めてるわけじゃないって! 頭を下げる必要はないよ。その、アタシの方こそ悪かった。変な質問しちまって」
「いえ、お気になさらず。私の方こそ、お役に立てなくて申し訳ありません」
「だから、別に謝る必要は……。ハア、もういいよ。これ以上は平行線だ。アタシが悪くてアンタは運が悪かった。それでいいだろ?」
つまるところ、変な時期に転校してきた彼女は運が悪く、彼女に答えられないような質問をした自分が悪いのだとアリスは締め括ったのだ。
「フフ、そうですね。分かりました。喧嘩両成敗ってことですね」
「アタシが言いたいこととは違うけど、アンタがそれで納得するならいいや」
その後、仲違いをして空気が悪くなる事もなく、二人は味方を探しつつ、市街地を歩き回るのであった。
それから、しばらくして、二人は市街地を抜けて海辺に出た。浜辺には人っ子と一人おらず、誰の気配もない。ここは外れだと踵を返そうとした時、桃子が偶然にも足跡を発見する。
「あ、宮園さん。あそこ、足跡があるわ」
「ん? どれどれ?」
浜辺の入り口に近寄って桃子が発見した足跡は二つ。両方とも同じ方向へと向かっており、市街地の方を目指していた。
「足跡は二つ。最初から浜辺にいた可能性が大きいな」
「市街地に向かってるみたいだから、もしかしてすれ違いになったのかもしれませんね」
「だな~。合流できたらよかったんだけど、仕方ないか。とりあえず、市街地エリアに戻ろうか」
「はい」
味方と合流は出来なかったが、近くに味方がいるかもしれないという収穫があっただけマシだろう。二人は浜辺から引き返して市街地の方へと戻っていった。
「そういえば聞いてなかったんだけど、東雲の異能はなんなんだ?」
「私の異能は透視です。でも、それほど役には立ちませんよ。精々、トランプ程度の厚さを透けて見えるくらいですから」
「じゃあ、壁の向こうに敵がいるとかはわからないのか」
「はい。お役に立てず申し訳ありません」
「気にしちゃいないさ。戦うのがアタシの役目だからね」
「心強い限りです」
などと二人が話していると、前方に人影が見えた。
数は一つ。同じチームなら二人一組のはず。しかし、前方にいるのは一人。
アリスは桃子を守るように前に立ち、戦闘態勢に入った。
「敵だったら、そこの車の陰に隠れろ。味方だったら、そのまま合流するが……多分、敵だわ」
その言葉通り、前方の人影もアリス達に気がつき、走り出していた。再会に歓喜した様子ではない。恐らく、標的を見つけて走り出したのだろうと、そう思ったアリスは拳を強く握り締めた。
「やっと、見つけたぜ」
「ハハ、そりゃこっちの台詞だ」
「ちっ。初戦が宮園とか勘弁してくれよな」
「そいつは光栄に思いな。アタシと戦えることをね! 覚悟しな、三浦!」
「ちくしょう! 当たって砕けろ!!!」
三浦と呼ばれた男子は玉砕覚悟でアリスに突撃する。真正面から堂々と向かって来る三浦にアリスは評価を上げつつも獰猛に笑い、対抗するように突撃した。
二人がぶつかり合う。同じ身体強化の異能者であるが軍配が上がったのはアリスである。彼女の方が僅かに上だった。
「ぐッ!」
「やるじゃん、三浦! 夏休みで腕を上げたね!」
「そりゃそうだろ! あんな事件があったんだ! いつまでも下を向いてばかりいられるかよ!」
あんな事件とは人型イビノム襲撃事件のことだ。あの時、寮に住んでおり、実家に帰省していなかった生徒達は学園の避難用シェルターにいた。
その際、人型イビノムと対面している。勿論、最初は自分も戦うのだと意気込んではいたが、イビノムの圧倒的な強さを見て多くの者は逃げ出した。
彼はその一人である。将来、国防軍に入隊し、イビノムから国民を守るヒーローに憧れていたが、現実に打ちのめされてしまったのだ。
しかし、その時見たのだ。自分が逃げている中で勇敢に立ち向かう先輩達を。それを見て奮い立たない生徒はいない。負けると分かっていても、死ぬかもしれないと理解しても逃げる事なく戦った先輩達を見て三浦は変わることを決意した。
「うおおおおお!」
「んなッ!?」
完全に勝敗は決まっていたはずだったのに三浦は最後まで諦めなかった。アリスを押し負かして、マウントポジションを奪い取ったのだ。
これでどちらが勝つかは分からない。マウントポジションを取られたからと言ってアリスはそう簡単には負けない。だが、夏休みを経て一皮剥けた三浦もまた一筋縄では倒せない相手であった。
「おらあああああッ!」
「このッ!」
手をハンマーのようにして振り上げた三浦はアリスの顔面に向かって容赦なく振り下ろした。
女性相手にそれはどうかと思われるが、これは訓練であると同時に実戦でもあるのだ。戦場に立てば老若男女などありはしない。
アリスは三浦の攻撃を受け止める。体勢が不利なアリスだが彼女はそう簡単には負けない。
攻撃を受け止めたアリスは上に乗っている三浦の背中を足で攻撃し、退かせる事に成功した。
「ぐッ……」
「今のは危なかったね。次はアタシの番だ!」
素早く立ち上がったアリスが三浦へ仕掛ける。レスリングで鍛えた彼女の高速タックルが三浦へ向かって放たれた。
それを三浦は彼女の肩に手をつき、宙返りをして華麗に避けてみせた。当たると確信していたアリスもこれには驚き、動揺の声を上げる。
「そんなバカな!?」
「もらった!」
「あぐぅッ!」
背後へ回っていた三浦はがら空きになったアリスの脇腹に蹴りを放った。
動揺に固まっていたアリスは防御も間に合わず、三浦の蹴りを受けて横に倒れる。痛みこそ感じないが、アリスは蹴られた脇腹を抑えながら立ち上がった。
「く……。ハハ、やるじゃん。三浦」
「結構、本気で蹴ったんだけどな……」
「まあ、ここは現実じゃないからね。今のじゃ死亡判定にはならないんだろうさ」
「内臓くらいは破裂しててもおかしくないんだがな」
「じゃあ、続きやろうか」
苦しい表情を見せていたアリスだったが、グッと飲み込むように笑うとファイティングポーズを取った。
それを見て三浦は苦笑い。だが、すぐにアリスと同じように笑うと、三浦は今度こそアリスを戦闘不能に追い込むと意気込んで駆け出した。
「(若いっていいですね~。いやいや、勿論、私もまだまだ若いですけど……あの子達と四つも離れてますから、年を取ったように感じてしまいます)」
その戦闘シーンを物陰から隠れて見ていた桃子は学生らしく、まだ青く、そして瑞々しい二人に対して思わず年寄りのような事を考えていた。
桃子もまだまだ若い部類に入るが、確かに学園の生徒に比べれば老けてはいるだろう。しかし、制服を着ていても何の違和感も抱かれないので桃子は複雑な気持ちであった。
「「はあああああああああ!!!」」
桃子が静観している一方で、二人の戦いは佳境に入っていた。
両者互いに力を出しつくし、腹の底から雄叫びを上げて自身を鼓舞し、相手を打破せんと懸命に戦っている。
「これでラストォッ!」
「負ぁああああけるかあああああッ!」
これで最後。もうこれ以上の力はないと二人は同時に悟った。
ゆえに最高の一撃を、最強の一撃を、今放てる最大の一撃を同時に放った。
「へ、へへ……いいパンチしてるじゃねえか、三浦」
「お前にそう言われると頑張った甲斐があるってもんよ……」
と、同時にノックダウンする二人。戦闘不能に陥った二人は死亡判定を受けて、仮想空間から姿を消す事になる。
「東雲、悪い。アタシはこれで退場するよ」
「宮園さん!」
駆け寄るがアリスは光の粒子になって消える。桃子の伸ばしたては虚しくも空を切り、彼女は守り手を失うのであった。
「(これ敵に見つかったら詰みなのでは?)」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます