第4話 これが俺の本心やで(ニッコリ)
その一方で寮に戻ってきた一真は椅子に座りながら、桃子のことについて考えていた。
「(今頃、作戦会議とかしてるのかな? それとも度し難い変態だとでも思われてるかな? まあ、どっちでもいいけど、流石に下ネタのオンパレードだと逆に怪しまれそうだから明日は……AV女優の名前でも羅列するか!)」
完全に楽しんでいた。一真は心を読まれることを逆手にとっている。桃子にとっては恐ろしい戦法であろう。
このままだと本当に桃子はストレスで倒れてしまうかもしれない。可哀想な桃子。相手が一真でなかったらここまでストレスは溜まらなかっただろう。
一真は明日の準備をするために携帯でAV女優の人気ランキングを検索していく。一位から順に名前を憶えていき、明日の桃子対策を着々と進める。
しかし、調べていくうちにムラムラし、悶々とする。悲しい事に監視カメラを仕掛けられているので自家発電も出来ない一真は、国防軍に対して恨みを募らせていった。
「(おのれ、国防軍めェ……!)」
どう考えても悪いのは一真であった。
◇◇◇◇
翌日、一真は幸助と共に学園へと向かう。道中、いつものように他愛もない話をしながら二人は歩いていく。
教室に辿り着いた二人は一旦、自分の席に鞄を置いてから集まる。適当に話をしながら、時間を潰していると暁と太一の二人が登校してくる。
四人が集まって雑談をしていると、桃子が登校してきた。
「おはようございます」
「おはよう、東雲さん」
挨拶してきた桃子に一真は挨拶を返す。そのついでに彼はワザとらしく心配するような素振りを見せた。
「あれ? 東雲さん、なんだか眠たそうだけど、昨日ちゃんと眠れた?」
「(ッ……。どこかの誰かさんのせいで、あまり眠れませんでしたが?)」
一瞬だけ眉が跳ね上がり、不機嫌そうなオーラを出した桃子は極めて冷静に一真へ向かって口を開く。
「はい……。その、転校初日だということもあって緊張してたみたいで」
「そうなんだ。大変だね」
「(ええ、全く!)」
呑気な一真が恨めしくて桃子は内心苛立っていた。
「((お~、多分、昨日の下ネタ攻撃が大分効いてたっぽいな。今日はAV女優人気ランキングだが、果たして耐えられるだろうか?))」
先程のやりとりで一真は桃子が昨日の下ネタ精神攻撃で大分参っていることを見抜いた。
今日は、先日夜遅くまで調べたAV女優の名前を羅列することになっている。果たして、桃子はその攻撃に耐えることが出来るのだろうか。
その後、桃子は自身の席に着いて読書を始める。その近くで一真達は雑談を続けていた。勿論、桃子は能力を発動しているので一真の心の中を読んでいるが、当然のようにプロテクトが掛かっているので本心は読めなかった。
「(深田ここみ、おっぱいが大きくてムチムチしててエロいよな~)」
「(誰なんでしょうか? クラスメイトに深田ここみという生徒はいませんが……)」
一真、最大の誤算である。桃子がAV女優を知らないということだった。
「(もしかしたら、紅蓮の騎士につながる人物でしょうか? 後で、相葉さんと小野田さんに報告しておきましょう)」
あまりにも
それから、朝のHRが始まり、連絡事項を伝えて田中は教室を出て行く。今日から、いつも通りの授業に戻るので大半の生徒は気怠そうにしていた。
「(だる、かゆ、うま)」
「(何を考えてるのでしょうか?)」
桃子は横で暑さにやられた柴犬のように蕩けている一真の心を読んだが、内容が全く分からなかった。ただ、一つ言えることは下ネタでないだけマシだという事。
そのような考え事をしている間に一時限目の数学が始まる。教師が入ってきて、始業のチャイムが鳴ると、教師は開口一番、生徒達を地獄に叩き落す。
「あー、では、夏休み明けという事で今日は抜き打ちテストを行う」
『えええーーーッ!』
この時、生徒達の思いが一致した瞬間であった。
「(抜き打ちテストですか。懐かしいですね……。まだ覚えてるでしょうか)」
少し不安な桃子をよそに抜き打ちテストは始まった。
テストが始まり、教室内はしんと静まり返る。響いているのはペンを走らせる音だけ。後は生徒達の呼吸音くらいだろう。不満や文句はあれど生徒達は真面目に取り組んでいた。
「(ちくしょう! こんなことならAV女優なんか調べずに予習でしておくんだった!)」
「(ぶッ!!!)」
テスト中でも気を抜かずに心を読んでいた桃子は一真の爆弾発言に噴出しそうになる。間一髪でテスト中に噴出すことはなかったが、彼女は内心怒り狂っていた。
「(まさか、先程の女性はAV女優だった? ど、どこまでこの男は!)」
思わずペンを握る力が強くなり、へし折ってしまいそうな程、桃子は怒りに震えていた。テスト中なのも勿論なのだが、なによりも横に座っている男の下劣さに桃子は激しく怒りを抱いている。
「(くッ……殺せ!)」
その一方で一真は心のプロテクトを外しており、本心を桃子に曝け出していた。今は思考を分離する必要もなく、心にプロテクトを張っていてる必要もないので一真は大暴れである。
「(駄目だ! 公式が思い出せない! AV女優の名前は次から次に出てくるのに! なんということだ! オーマイガッ!!!)」
「(く……! うるさすぎる! しかも、時折、AV女優の名前を出すのが鬱陶しい! これじゃ集中できない!)」
「(π! おッπ!!! イェイ! イェイ!)」
「(法律が許してくれるなら今すぐにこの男を殺したい)」
一真は横で肩を震わせている桃子が心を読んでいるだろうと察していた。それゆえに彼女の心をかき乱してやろうと大騒ぎしていた。
桃子は一真の術中に嵌り、見事に心をかき乱されていた。怒りに支配されており、一真をどうやって牢屋にぶち込んでやろうかと桃子は必死に考えるのであった。
「はい、そこまで~」
教師の一言によりテストは終了する。これで一真の支離滅裂で下品な心の声から解放される桃子は感極まって泣きそうになっていた。
「(ああ……。やっと、終わった)」
「(それでも!!!)」
「(ッ!? まだ何かあるの!?)」
「(回収されるまで空欄を埋めるんだ!)」
「(…………胃薬と頭痛薬を常備しましょうか)」
当然、横にいた一真は桃子の安堵した表情を目にしたので、トドメと言わんばかりに彼女へ精神攻撃を行った。その甲斐あって、彼女は心身ともに疲れ果て、病院通いが決まったのだった。
「((ふっ……勝ったな! ガハハハハハハハハッッッ!))」
横でこめかみを押さえて重苦しい息を吐いている桃子を見て一真は己の勝ちを確信した。これで、彼女はしばらく自分には近付いてこないだろう。そう思った一真は大笑いする。
残念ながら、これが個人であったのなら桃子は一真に近付くのを躊躇っただろう。しかし、彼女は国防軍。組織の人間なので上層部から言われない限りは任務を続行するのだ。つまり、これからも桃子は一真を監視する為に何度も接触してくることは間違いない。
数学の授業はテストだけで終わり、十分休憩を挟んで次の授業となる。
十分休憩で仲の良い生徒達が集まり、雑談を始める。その中には当然一真達もいた。
「テスト、どうだった?」
暁が最初に口を開き、先程のテストについて話題を出す。
「特に問題はなかったかな。課題で出てきた内容だったし」
「俺も普通だったな」
太一、幸助の二名は抜き打ちテストだろうと特に不備はなく、そこそこの出来だと自覚している。その横で青い顔をしているのが一真である。
「お、おお俺も余裕だったかな~」
「嘘だな」
「嘘だね」
「嘘だろ」
「うぐぅ……」
信じられるはずもなく一真の言葉は三人によって一蹴されるのであった。
◇◇◇◇
皐月一真に関する報告レポートから一部抜粋
○月×日
監視対象である皐月一真はチンパンジーである。
訂正、チンパンジー以下である。
彼の心の声は基本下ネタで埋め尽くされていた。思春期の男性ならば多少は理解出来るが皐月一真は異常である。
本当に彼が紅蓮の騎士となんらかの関係を持っているのか、非常に怪しい。
個人の意見で言えば彼は性犯罪者一歩手前なので拘束し、収容した方が世の為だと思いました。
以上。
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