第3話 ストレスで死にそう
表面上は雑談、内心では高度なというよりは下品な思念を桃子に送り続ける一真。学園内を案内している間、桃子は一真のセクハラ思念によって精神的ダメージを負いながらも、懸命に任務を遂行した。
「か、一真……。なんで、お前、東雲さんと一緒なんだ!」
教室に戻ってきた二人を見て幸助が開口一番にそう叫んだ。
一真は幸助に勝ち誇ったような笑みを浮かべて、桃子と一緒だった理由を話す。
「へへ。まあ、東雲さんが転校してきたばかりだから案内してたわけよ」
「う、羨ましい~! どうして、いつもお前ばっかりそんな美味しい役なんだ!」
「日頃の行いかな~」
「嘘だッッッ!!!」
教室内にいた他の生徒がビックリするくらいの声量で叫ぶ幸助。
幸助を哀れに思った一真は、彼を慰めるように優しく肩を叩く。
「まあ、元気出せ。東雲さんと一緒に遊べるようセッティングしてやるからさ」
「それは
「嘘じゃないなりよ」
「おお~! 心の友よ~!」
目の前で繰り広げられている茶番に桃子はこめかみを押さえていた。
「(この二人、ほとんど本心から話してる!? あっちの伊吹幸助は若干嫉妬の声が混ざってるけど……。でも、ほとんど本心と一致してる。これが男子高校生の普通なの? だとしたら、凄い辛い環境なのですが……)」
読心の能力はオンオフが出来るのだが、監視対象の一真がいるので基本はオンにしたまま。一応、特定の対象を絞る事も出来るので大した問題はないのだが、延々と一真の下ネタが聞こえてくるので耐えられるか分からない。
その上、監視対象の友人にも使用すれば、さらに下ネタが加速するので桃子は近い内に過労で倒れるかもしれないと不安を抱くのであった。
「これで帰りのHRを終わりにする。初日から違反行動とかして他人に迷惑をかけたりするなよ~」
そう言って田中は教室を出て行く。HRも終わった一真達は鞄を持って集まり、これからどうしようかと話し合う。
「どっか遊びに行くか?」
「まあ、久しぶりだし、いいんじゃないかな?」
「いいぜ! カラオケでも行くか?」
「俺はなんでもいいよ。遊びに行くなら」
暁の提案に太一が賛同した。
カラオケでもどうだろうかと幸助が提案し、一真は積極的な態度ではあるが、少々面倒臭そうな事を言っている。
それを横で見ていた桃子は四人の心の声を読む。ほとんど、心の声と一致しており、特に怪しい点は見当たらない。その中で相変わらず一真だけ下品な思考をしていた。具体的には帰って自家発電したいだのと言っている。
「(チンパンジーの方がマシな気がします……)」
その時、桃子の視線に気がついたというよりは、見られていることを知っていた一真が彼女に話しかける。
「東雲さん。さっきからこっち見てるけど、どうしたの?」
まさか、話しかけられるとは思っていなかった桃子は少し焦った表情を見せた。
「あ、いえ、私、転校してきたばかりで友達いないからいいな~って思っちゃって……」
「((ヒュ~! 焦ってる、焦ってる~!))」
嘘である事を見抜いている一真は心底楽しそうにしていた。
桃子の話を聞いた一真以外の三人は普通に哀れんでおり、どうにかしてあげたいと思っている。しかし、相手は女子なので男子ばかりの自分達にはどうすることも出来ないと申し訳なさそうにしていた。
「(どうにかしてあげたいけど、流石に男子ばっかりのグループに誘うのはな……)」
「(この時期に転校だと、友達は難しそうだよね。力になって上げたいけど、下心丸出しって思われるのもね……)」
「(女友達を仲介した方がいいのかな? でも、余計なお世話かも……)」
「(おっぱいッッッ!!! うおおおおおおおお!!! ちんちん!)」
「(一人、ホントに高校生なのでしょうか? 竹下暁、不動太一、伊吹幸助の三人は転校生である私に対して気遣ってくれてるのに……)」
一真の心の声だけを聞いていると眩暈を起こしてしまいそうになる桃子は目頭を押さえた。法律が許してくれるなら、今すぐにでも目の前の変態を張り倒したいと桃子は真剣に考えていた。
「じゃあ、東雲さんも一緒に遊ぶ? 男ばっかりで不安なら女子も呼ぶよ?」
思考を遮るように一真が一緒に遊ばないかと誘ってきた。
桃子は突然のお誘いに驚いたが、彼女はなるべく失礼のないように断る。
「お誘いありがとうございます。でも、すいません。今日は荷物の片付けとありますのでお先に失礼します。また今度お誘いしてください」
「そっか。わかった。じゃあ、お疲れ~」
「はい。それでは、皆様、さようなら」
桃子は軽く頭を下げて別れを告げると、教室を出て行った。
彼女が教室を出て行ってから、すぐに三人は一真を取り囲む。
「おい、さっきのはどういうことだ! なんで、あんな親しそうなんだよ!」
「一真、お前、凄いな! 普通、誘えないだろ」
「いや~、一真ってある意味大物だよね」
幸助が信じられないといった表情で怒鳴り声を上げて、暁が無神経な一真を褒め、太一は眼鏡をくいっとしながら皮肉を言っている。
「ハハハ。まあ、どうでもいいし、遊びに行こうぜ」
「どうでもいいって……」
あっけらかんとしている一真に暁が呆れたように息を吐くと彼の肩を叩いた。
「まあ、一真らしいって言えば一真らしいけどな」
「そんな事より、さっさと遊びに行こうぜ。俺、夏休みの間に格ゲー練習してたから、今度は負けねえ!」
「ハハ! それなら、今日はゲーセン、カラオケだな!」
そうして、四人はお馴染みになっているグランドワンへ遊びに行くのであった。
◇◇◇◇
東雲桃子は国防軍が皐月一真を監視するために送り込んだ
その能力を買われて彼女は国防軍に入隊したのだが、現在は学生に成りすまし、学園に潜入していた。
「はあ……」
「どうしたの? 溜息なんて吐いて?」
「この任務、やめたいんです」
「それはどういうことだ?」
今、桃子は自分と同じく一真を監視するために潜入している二人。相葉麻奈美、小野田雅文と防音仕様の施された部屋にいた。
「言葉通りです……。この任務、思っていた以上に辛くて……」
「辛いって、たかが学生の監視でしょう? そんなに辛そうには思えないけど?」
「それは貴女が知らないからです。男子高校生のバカみたいな心の声を」
「……まさか、皐月一真はよほど酷い妄想でもしているのか?」
「そんなところです。というか、四六時中下ネタです! どうなってるんですか! 他の生徒も試しに心を読んでみましたけど、彼ほど酷い生徒は一人もいませんでした。確かに、男子高校生はそういうものだと学生時代に学びましたけど……彼は想像の斜め上ですよ」
当然、桃子も異能学園に通っていた時期はある。その時にクラスメイトである男子の心を読んで不愉快な思いは何度もしてきたが、一真は異常なほど下ネタのことしか考えていない。
学生時代と違って任務なのでシャットアウトすることも出来ない桃子はストレスが溜まっていた。
「う~ん。力になってあげたいけど、私達は専門外だからね……」
「ああ、そうだな。俺達は監視が目的だからな」
相葉麻奈美と小野田雅文の任務は桃子と同じであるが、教師という立場なので一真には、あまり接触することがない。
麻奈美の異能はマーキング。犬が縄張りをするアレではなく、単純に対象の行動を把握するためのものだ。ゆえに一真が彼女の能力の範囲から出ない限り、その居場所を補足することが出来る。
そして、雅文の異能は捕縛。万が一、一真が紅蓮の騎士との関係が発覚した場合、逃げられないよう即座に捕縛するようになっている。ただし、一真自身が紅蓮の騎士だった場合は何もしないように言われている。
もっとも、既に敵対行動と見られることをしているので一真はあまりいい感情を持ち合わせていない。
「これから帰って報告レポートを作りますが……ほとんど下ネタばかりですよ?」
「ご愁傷様」
「ま、まあ、いざとなったら力になろう」
「どうやって力になるって言うんですか……」
憂鬱そうに呟く桃子の姿は二人から見ても相当参っているように見えた。今年、二十歳になる桃子はこれから先、上手くやっていけるのだろうかと嘆息するのであった。
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