第2話 喰らえ! これが思春期男子高校生の心の声だ!

 心理戦を繰り広げていた二人だが、異能テストで一真の順番が回ってくる。名前を呼ばれた一真は桃子に「それじゃ、お先に」と言って試験会場へ向かった。


「(うう~ん! ここにもいたか~!)」


 試験会場には新任教師の相葉麻奈美がいた。彼女は今回の異能テストの試験官になっており、手元にはタブレット端末がある。それに目を落として彼女は顔を上げると、一真の名前を呼んだ。


「皐月一真君。これから異能テストを始めます。準備はいいですか?」

「はい。いつでも大丈夫です」


 今の所、麻奈美に怪しい点は無い。普通に教師として試験官として振舞っている。桃子のように露骨な態度もない。

 もっとも、桃子は生徒であって麻奈美は教師なので、それも関係しているかもしれない。教師の身でありながら、生徒に擦り寄っていればあらぬ誤解が生まれるだろう。それを恐れて麻奈美は近付いていないだけかもしれない。


「(まあ、害がないならいいけども……)」


 桃子のように近付いてこなければ特に問題はないと判断した一真は異能テストを始めるのであった。


 一真の異能は置換。国防軍に入隊することも出来る異能であるが、国防軍が定めている基準を満たさなければならない。

 将来を考えれば国防軍に入隊するのが一番だと言われているが、一真は異世界で散々戦い続けて来たので魅力に感じないのだ。


 それゆえか、置換の性能はそれおほど向上していなかった。


「移動距離は10m。前回よりも1m伸びてないけど、何かあったのかしら?」

「え?」


 異能テストは終わって、採点も出たのに麻奈美は一真を引き留めて質問を投げ掛けた。

 思わぬ質問に一真は戸惑う。どう答えるべきかと悩み、曖昧な笑みを浮かべて頬をかく一真は適当に答えた。


「夏休み、遊んでばっかりでしたから。その所為じゃないですかね」

「学生あるあるね。ダメよ、もっと頑張らなくちゃ。そんなんじゃ国防軍に入れないわよ?」

「ういっす。頑張ります」

「よろしい。それじゃ、貴方はこれで試験を終わります」

「お疲れさまでした~」


 やたらと話しかけてくる麻奈美に一真は辟易するが、顔には出さないように努める。変に勘繰られても困るし、余計に話が拗れても面倒なので一真は必死に取り繕うのであった。


 異能テストが終わった一真は適当に学園内を散歩していると、戦闘科の香織と出会う。


「あれ、皐月君じゃない。こんなところでどうしたの?」

「あー、テストが終わったから暇つぶしに散歩してたんだ。そっちは?」

「私も同じ。一応、支援科に行ってる友達待ってるんだけどね」

「そうなんだ。じゃあ、俺は行くよ」

「うん。また合同の時はよろしくね」

「敵だったら手加減してね」

「アハハハ。皐月君には手加減できるか怪しいな~」

「ハハハ。勘弁してよ~」


 ヒラヒラと片手を振って一真は香織と別れる。その際、一真は夏休みに聞いた香織の好きな人について教えてもらおうとしたが、下手に刺激して嫌われるのも嫌なので、そのまま振り向かずに歩いていく。


 香織と別れて、一真は自動販売機の前にいた。

 喉は渇いていないが、なんとなく欲しくなったので、ポケットから端末を取り出し、電子マネーの部分に翳してジュースを購入した。


 ガコンと音が鳴り、取り出し口に一真が購入したジュースが出てくる。それを取って一真は、すぐに蓋を開けて一気飲み。ゴクゴクと喉を鳴らし、缶ジュースを一気に飲み干した一真は大きく息を吐く。


「プハァッ…………。そろそろ戻るか」


 異能テストは終わったら、基本的に自由行動だ。数も多い上に異能の数だけ種類があるので時間がかかる為である。おかげで早い順番で終わると、かなりお得。最後の方でも自分の順番が来るまでは自由行動なので不満はそこまでない。


 一真は割と最初の方なので、こうして散歩しているのだ。決してサボってるわけではない。


「(…………つけられてるな)」


 空き缶をゴミ箱に捨てる時、一真は人の気配を感じ取る。それと同時に視線も感じたので一真はつけられていることを確信した。

 心当たりはある。むしろ、ありすぎて困るくらいだ。


「(あっちの世界だったら油断させて奇襲仕掛けるんだけど……。多分、普通に監視してるだけなんだろうな。ご苦労様です、ホント)」


 さりげなく視線を感じてきた方向へ顔を向けると、そこには東雲桃子の姿があった。どうやら、一真を追いかけてきていたのは彼女だったらしい。

 もうこれでほぼ彼女が国防軍からの諜報員だという事が確定した。


「(那由多の一の確率で俺に惚れたストーカーとかない? ないよね~)」


 一真は自身の容姿が優れているとは思っていない。普通だと自覚している。もっとも、他者の意見は知らないが。

 それゆえに一真は彼女が自分に惚れているはずはないと決め付けていた。もしかしたら、その可能性もなくはないが、残念ながらそれはない。


「(追いかけてみたのはいいけど、特に怪しい動きはしてませんね)」


 物陰から一真の動向をチェックしていたが、特に怪しい動きはしていない。何か紅蓮の騎士につながる決定的な証拠でも見つけてやろうと意気込んでいた桃子は肩透かしを食らった。


「(監視だから対象に接触した方がいいのだけれど……正直、あんな下品な思考を繰り返している人と二人っきりになりたくありませんね)」


 やはり、任務とは言え、彼女には辛いものがあった。

 読心で監視対象の心を読んで探っているが、基本スケベな事ばかり。女性である桃子にとっては苦痛以外感じられないだろう。


「(正直、誰かに代わってもらいたい……)」


 憂鬱ではあるが任務なので彼女は仕方なく一真の前に姿を見せる。


「あれ? 一真さんじゃないですか。こんな所で会うなんて奇遇ですね」


 偶然、散歩をしていたら遭遇したかのように話しかける桃子に対して一真は内心呆れていた。


「(わ~お。ストーキングしてたくせに偶然装うなんて……大変だな~)」


 一真は心を読まれないようにプロテクトを掛けているので彼女には別の音声が届いていた。


「(ええッ!? 東雲さん! こんな所で会うなんて……もしかして、これは運命なのでは!?)」

「(何が運命ですか。勘違いも甚だしい! なんで、こう男の人はすぐに調子に乗るんでしょうかね!)」


 桃子は内心憤慨しているが表情には出さない。流石、監視員として選ばれたプロである。

 しかし、プロといっても完全には隠しきれていなかった。僅かばかりに引き攣りそうになった頬の筋肉の動きを一真は見逃さなかったのだ。


「((ん? さっきの妙だったな。少し怒ってる? 透視の異能って言ってたけど、もしかして読心か? だとしたら、怒ってるのは俺の所為か。プロテクト張ってるのと同時に変な思考してるからな~))」


 一真には読心術もなければ鑑定の魔法も持っていない。だから、自分で相手を分析し、解析するしかない。おかげで、異世界では何度か毒物を口にして死に掛けていたりする。

 もっとも、そのおかげで毒耐性や麻痺耐性が取得できたのだから、人生どう転ぶかはわかったものではない。


「東雲さんか。こんな所で何してるんだ?」

「散歩です。私、まだ転校してきたばかりなので校舎の中を見て回ってたんですよ」

「へ~、そうなんだ。よかったら俺が案内しようか?」

「え? いいんですか?」

「いいよ。どうせ、この後、教室に帰るだけだしね」

「それじゃ、お言葉に甘えてもいいでしょうか?」

「オッケー。じゃあ、色々と見て回ろうか」

「はい。よろしくお願いします」


 一真の提案により桃子は彼の案内の元、学園内を見て回ることに。

 当然、その間も心を読んでいた。


「(うひょ~。これって実質デートじゃん。ラッキー!)」

「(…………ホント、男の人って単純ですね)」

「((呆れてる。これは読心能力者で確定だな。うっかり本音がバレないように気をつけようっと))」


 彼女の些細な変化も見逃さない一真は桃子が読心能力者だと確信し、今後はより一層気を引き締めるのであった。

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