第二章 熱戦、激闘、大乱闘、チキチキ学園対抗戦
第1話 え!? モテ期なんですかぁッ!?
不穏な二学期が始まりの幕を開けて、一真は内心冷や汗ものである。新任教師に転校生。どう考えても国防軍が一真を監視するために送り込んできたとしか思えない。
当然、一真の心情など知ったことではない田中は転校生の桃子に用意している席へ座るように促した。
言われた通りの席に着く桃子。仕組まれていたかのように一真の横へ座った桃子は彼に向かって微笑んだ。
「これからよろしくお願いしますね」
「よ、よろしく」
もっと自然に振舞えなかったのかと後悔している一真は頬が引き攣ったままであった。
「(うおおおおおおッ! やばい! 可愛いけど、どちゃくそ怪しい!!)」
恐らく、この教室内で一番かわいいと言っていい。それくらい桃子は容姿が優れているが、一真は靡いたら終わりだと思っていた。
紅蓮の騎士と疑われているので、彼女に惚れてしまえば間違いなく踏み込んでくるだろう。紅蓮の騎士とはどういう関係なのかと。
勿論、それはまだ憶測に過ぎないのだが可能性は高い。なにせ、新学期に転校してきたのだ。怪しくないわけがない。
かといって露骨に距離を取るわけにもいかないのだ。そんな事をしてしまえば、余計に怪しまれるだけ。
「(どうするか……。適度な距離感を保てばいいのか。それとも……闇に紛れて暗殺か!?)」
焦って思考回路がショートした一真はとんでもない事を言い出した。
雷魔法で周囲の電子機器をショートし、幻影魔法を駆使すれば完全犯罪は可能だが、流石にやり過ぎである。
確かに国防軍も個人のプライバシーを侵害してきているが、それでも暗殺は不味い。そんな事をしてしまえば、お先真っ暗、アンダーグラウンドへレッツゴーである。一真の平穏な生活はグッバイだ。
「(とりあえず、様子見するか……)」
まだ桃子が黒だと決まったわけではないので一真は、ひとまず様子見をする事に決めた。
ただし、黒だと判明すればどうなるかはわからない。最悪、本当に口封じとして暗殺を実行するかもしれない一真であった。
転校生の紹介が終わり、次は異能テストの時間である。動きやすい格好に着替えてから、異能テストの行われる会場へと生徒達は移動する。
その道中、当たり前のように桃子は女子に囲まれており、質問攻めにあっていた。
そして、関係ない所で一真は幸助から嫉妬の言葉を聞かされていた。
「いいよな~、一真は! あんな可愛い子が隣の席に来るなんてよ~」
「日頃の行いじゃ。神様はきちんと見てくれとったんやで」
「ふざけんな! それなら俺だって何かご褒美があってもいいだろ!」
「たとえば?」
「美少女が空から降ってくるとか」
「今のご時世ならあり得そうだけど、幸助なら受け止めきれずに死ぬんじゃね?」
「リアルな事、言うなよ!」
叫ぶ幸助に一真は可笑しくて腹を抱えていた。その後も、くだらない会話で盛り上がり、試験会場へと向かった。
異能テストの会場へと辿り着いた生徒達はそれぞれの試験場所へと別れた。
一真は以前、異能テストを受けたブースへ向かい、順番を待つ。すると、そこへ桃子が見計らったかのようにやってくる。彼女の姿を見て、一真は僅かに口角を下げてしまった。
「(うへぇ……。なんでこっちに来るんだよ。まだ、確定したわけじゃないけどさ……流石にこんな露骨だと疑っちゃうよな~)」
待機している一真の横に並ぶ桃子は人の良さそうな笑顔を浮かべて、彼に話しかける。
「奇遇ですね。お隣さん」
「ハハ、そうですね。東雲さん」
「
「いや~、そんなことしたら他の男子に刺されそうなんで遠慮します」
「そう言わずに、私とお隣さんの仲じゃないですか」
「転校初日に仲も糞もないと思うんですけど? それに俺の名前も知らないのに、そんな風に言われても困りますわ」
「あ、私としたことがうっかりしてました。お名前を教えて頂いてもよろしいですか?」
「一真。皐月一真って言うんだ。よろしく」
「一真さんと言うのですね。素敵なお名前です」
「そりゃ、どうも」
「なんだか、冷たくありませんか? 私、何か気に障るようなことしてしまったでしょうか?」
うるうるとつぶらな瞳を向けてくる桃子に一真は頬が引き攣りそうになるのを必死に耐えた。
「そんなことはない。ただ、その……どう話せばいいか分からなくて」
「それでしたら、もっとフレンドリーにお願いします。私達、これからはクラスメイトなのですから」
「善処します~」
適当に切り上げて逃げたい一真であるが、残念ながら今は異能テストの真っ最中。この場を離れるわけにはいかない。トイレにでも行けばいいのだが、いちいち試験管に報告するのが面倒なので、少々行き辛い。
かといって、ずっとこのままだと息苦しくて仕方がない。桃子にどのような思惑があるのかは知らないが、異常な距離感に一真は精神的に疲れていた。
「(もう、これクロでしょ? 国防軍が俺に対して送り込んできた諜報員でしょ? 断定は出来ないけどさ。こんだけあからさまに近寄ってくるって、それしかないじゃん! 万が一、億が一の可能性で俺に惚れたガチの転校生っていうこともあるけど……ないよな~!)」
ほぼあり得ないような事を考えるが、やはり無理がありすぎる。一真はほぼクロだと断定して桃子と会話を続ける。
「ところで、東雲さんはどんな異能なの?」
「ふふ、興味ありますか?」
「(いえ、全く。これっぽちも)」
そもそも一真は桃子が本当の異能を話すと思っていない。国防軍からの諜報員だと思っているので、平気で嘘を吐くだろうと想定していた。
「う~ん……。もしかして、俺と一緒で置換とか?」
なるべく自然な感じで話を振る一真に桃子は微笑む。
「ぶぶー。残念、違います」
「(ぶん殴りて~)」
可愛らしく手でバッテンマークを作って笑う彼女を見て、苛立ちを覚える一真は思わず拳を握り締めてしまった。
「え~、じゃあ、正解を教えて欲しいな~」
「正解は~……透視です!」
「透視!」
ありきたりな異能ではあるが、ある意味で男子の欲しがる能力の一つ。なにせ、文字通り透視は服や壁を透けて見ることが出来るのだ。男子諸君が欲しがるのも納得する能力であろう。
「あ、もしかして、何か変なこと考えてませんか~?」
一真の反応に桃子は意地悪そうな顔をして、彼の顔を覗きこむ。
「そ、そんなことはないって!」
必死に誤魔化す一真に桃子は怪訝な目を向ける。
「本当ですか~?」
「ホントだって!」
ここだけ見ればごく自然なやり取りであるが、どちらも内心では高度な心理戦が繰り広げられていた。
「(透視とか最高じゃん! 女子の下着が見放題とか天国かよ~!)」
「(ふむ。やっぱり、普通の男子高校生みたいな思考してますね……)」
「((くそ。何で態々、読心対策しなきゃならんのだ))」
「(監視は続けるにしても……毎回、毎回、下らない事ばっかりで嫌になりますね、これは。本当に彼が紅蓮の騎士と関係があるのでしょうか?)」
「(ずっと、こっち見てるけど東雲さん……まさか!)」
「(気付かれたッ!?)」
「(透視で俺の体見てるんじゃないのか! この変態め!)」
「(……はあ。この任務、辛いですね)」
「((とりあえず、これからもプロテクトはしておくか~))」
一真の予想通り、桃子は国防軍が送り込んできた諜報員である。彼女の異能は書類上では透視と表記されており、学園にもそう伝えているが、真の異能は読心。
彼女は上層部からの命令で学園に潜入し、一真に近付き、紅蓮の騎士について探っているのだ。その為、一真の心を読んでいるのだが思春期の男子高校生らしい、下品な事ばかり考えている一真に鬱屈していた
勿論、それはわざとである。一真は異世界で読心術の相手と戦い、敗北したのを切っ掛けに対読心術を賢者から学んだのだ。そのおかげで読心術は彼には通じない。
これが普通の学生であったなら容易な任務であっただろうに。可哀想な桃子であった。
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