第44話 断罪、断罪、断罪! 死刑ッッッ!

 国防軍からの呼び出しから数日後、一真は照りつける太陽の下、煌くビーチにやってきていた。勿論、一人ではなく友達とである。

 いつものメンバーで、暁、太一、幸助の三人と一緒に夏の浜辺へ来ていたのだ。目的は遊ぶ事だが、当然他にもある。


「夏といったら海!」

「海といったら水着!」

「そう! 水着のお姉さんをナンパだ!」

「解放的な夏! ひと夏の思い出を作るんだッ!」


 幸助と一真のテンションは最高潮である。二人は肩を組んでノリノリ。

 見渡すビーチには数多くの女性。よりどりみどりな光景に二人の妄想は止まらない。


「あの二人は元気だな~」

「まあ、僕達の年齢だと、むしろ普通かもね」

「う~ん、そうか?」

「そうだよ。実際、暁も少しは期待してるでしょ?」

「まあな! そういう太一もだろ?」

「ほんの少しね。でも、正直あの二人がいると……」


 太一の視線の先にはアホ二人。ただし、肉体は無駄に引き締まっているので、筋肉フェチのお嬢様方には好評だろう。特に一真は凄い。脱いだら別人なのではないかと疑ってしまうレベルだ。


「あ~、確かに一部の人達には需要ありそうな体してるよな。特に一真は」

「一体、いつ鍛えたんだろう……」


 謎は深まるばかりである。

 一真達はひと夏のアバンチュールを目標に海水浴を楽しむのであった。


 ◇◇◇◇


 一真達が夏休みを満喫している中、とある者達は学園からの呼び出しで教室にやってきていた。

 全員、一年生の戦闘科で男女問わずである。彼等彼女等は何故、自分達が呼ばれたのかは知らない。


「なあ、今回なんで呼ばれたか知ってる奴いるか?」

「さあ?」

「知らな~い」


 と、誰も見当すらついていない。

 はて、それでは一体何の用で夏休みという学生の中でも、多くのイベントがあるであろう時間を遮ってまで呼ばれたのだろうかと考える。


 すると、教室のドアが開かれる。入って来たのは戦闘科の教師だ。彼はタブレットを片手に教壇に立つ。

 質問をしようと集まっていた生徒達が口を開くが、それを遮るように教師が口を開いた。


「さて、これより点呼を取る。呼ばれたものは返事をするように」


 そう言ってタブレットで名簿を確認する教師は一人一人名指ししていく。

 全員の出席を確認した教師は満足そうに頷いた。


「うむ。素晴らしい。欠席なしとは実に有難い」

「あの、先生~。これなんなんですか?」

「何とは?」

「いや、なんで俺達呼ばれたのかと思って」

「ああ。その事か。それはこれから説明しよう」


 ワザとらしく咳ばらいをした教師は部屋を暗くして、教室に取り付けられているプロジェクターを起動した。

 壁一面に映し出されるのは、ある映像。教室にいた生徒達は、それを見てざわめきだした。


「おい、アレって……」

「嘘……なんで!?」

「はあ!?」


 ほんの十数分程度流された映像は生徒達を震え上がらせるには十分なものであった。


「これで分かったと思うが……君達は些か素行に目が余る。普段からの言動、支援科への過度な暴言、暴力、恐喝。そして、シミュレータ内での訓練内容。どれも酷いものばかりだ。はっきり言おう。お前達は犯罪者だ」

『ッッッ……』


 犯罪者、その一言に生徒達は息を呑む。先程の映像は彼等彼女等が行った悪行の数々。そのどれもが鮮明に記録されていた。


「そこで学園は君達のような素行の悪い生徒を更生させる特別なカリキュラムを実施することを決定した。勿論、拒否権はない」

「そ、そんなの保護者が許すわけないだろ!」

「安心したまえ。国防軍と保護者から許可は貰っている」

「は、はあッ!? そんなの横暴だ! 大体、俺達の意思はどうなる!」

「戯けたことを抜かすなッ!!!」

「ひッ!!!」


 温厚に話していた教師が突然、豹変して一喝するので反論していた生徒は驚いて小さな悲鳴を上げた。


「横暴だと? お前達がよくもまあ、ぬけぬけとそのようなことを言えるな。一体どれだけの罪を重ねて来たかも知らずに。どれだけの罪なき生徒が泣かされたと思う? どれだけ多くの生徒が傷ついたと思う? 散々、注意してきたはずだ。あまり、目に余る行動は取るな、と。それを無視したのはお前等だろう!」


 当然、学園側は何度も彼等彼女等を注意している。ここは教育機関。将来は国防軍やサムライといった企業に就職し、国民を守る戦士を育てる場所だ。

 それなのに、彼等彼女等は教師からの忠告を無視して、理不尽に振舞った。許されるはずがないだろう。


 確かに力を持ったら威張りたくなる気持ちは理解できよう。しかし、それを抑制し、正しきことの為に使うことが大事なのだ。


「本来ならばすぐに矯正するべきだった。しかし、いつかは気が付いてくれるだろうと見守っていたが、お前達は増長するばかり。これ以上、見過ごすことは出来ない。よって、本日より特別カリキュラムを実施するのだ。そのための講師も呼んでいる」


 一通り話し終えた教師が「入ってきていいぞ」と言うと、教室に数名の講師が入ってくる。

 教壇に立っている教師の横に並んだのは、なんと戦闘科の制服を身に纏った上級生達である。


「彼等がお前達を指導してくれる講師だ」

「はあ? せ、先輩じゃん!」

「そうだ。一つ付け加えておくと、彼等もお前達同様に過去罪を犯した者ばかりだ」

「ど、どういうことですか?」

「そのままの意味だ。彼等は一年前、お前達と同じ場所にいた。そして、お前達と同じように先輩方に優しく指導してもらって心を入れ替えたのさ」

「よろしく。出来るだけ優しくしてやるから、すぐに壊れるなよ?」


 ニッコリと笑っているが、その笑顔はとても怖い。彼のセリフも相まって余計に恐怖心を煽られる。


「さあ、そう言うわけで移動するぞ。シミュレータルームへ」

「く、くそッ! ふざけんな!」


 どう考えても嫌な予感しかしない生徒が後ろのドアから逃げ出そうとする。

 しかし、残念ながら逃げ出すことは出来ない。講師である先輩に先回りされてしまい逃げ道を塞がれてしまったのだ。


「で、どうする?」

「こ、こうなったら……」

「言っておくがここで異能を使ったらどうなるか分かってるよな?」

「うるせーッ! 俺は最強なんだ!」

「ふッ……まるで昔の自分を見てるみたいだ」


 異能を発動しようとしている生徒に彼は近寄り、巧みな動きで拘束したのだった。


「んな!?」

「覚えておけ。お前程度、異能を使わずに圧倒できることを」

「そんな……」


 簡単に制圧されてしまった生徒は、その後、成す術もなくシミュレータルームへと連行される。


 強制的に着替えさせられ特別カリキュラムを受けることになった生徒達は、仮想空間へとダイブする。基本は授業と同じ仮想空間を用いた実践訓練なのだが、一つだけ違う点がある。


 それは痛覚機能をオンにしていること。


 普段の授業では痛覚機能をオフにして遮断をしているので、どれだけ怪我ダメージを負っても痛みはない。ただし、一真のように修羅場を潜り抜けていなければ精神的に辛いものがある。


「全員、揃ったようだな。では、これから特別カリキュラムについて説明する。まず、お前達は何の力も持たない市民という設定だ。そして、講師達は市民を襲うテロリスト。要は授業と一緒だが、二つ違うのはお前達を守る人間はいないということ、そして痛覚機能がオンになっていることだ。さあ、存分に逃げてくれたまえ」


 時間は無制限。全員死ぬまで終わらないということだ。

 教師の説明を聞いた生徒達は我先にと逃げ出す。その様を見ていて講師達は懐かしそうに笑っていた。自分達も昔は同じように逃げていたな、と。


 その後は言うまでもない。

 講師達の蹂躙である。逃げた生徒は自分達がこれまで行っていたことを講師達からされる側になった。

 おかげでトラウマものであるが自業自得、因果応報である。


 勿論、このやり方は学生にとっては辛いものがある。その為、最終的に耐えられずに学園を自主退学する者も後を絶たない。

 ならば、中止すればいいのだが、その程度で辞めるような人間はイビノムを相手に戦うことは出来ないと負け犬の烙印を押されるのだ。


 彼等彼女等の末路は二通り。反省し、改心して成長するか。挫折し、逃走の果てに小悪党になり果て収容所行きだ。

 どちらへ転ぶかは彼等彼女等次第である。


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