第43話 おのれ、女狐めッ!!!
輝夜がいなくなって一人残された一真は頭を抱えた。
突然の行動に彼を監視していた者達は一言一句聞き逃さないようにスピーカーへ耳を傾ける。
「ああ、やっちまった~……」
何かを後悔している声に一同首を傾げて、読心の能力者に一真の心を読んでもらった。
「えっと……あんな美人と話す機会なんて滅多にないんだから、もっと話しておけばよかった。あと、さりげなく連絡先でも交換しておけば何かしらの発展があったかもしれないのに~、です」
「普通の男子高校生だ……」
「思春期あるあるだ……」
特に怪しい点はないのだが、やはり気になる。一真は輝夜と話している最中も動揺していたりと普通な反応を見せていた。
勿論、その際にも心を読んだが、内容は至って普通。はっきり言えば思春期の男子である。「エロい、胸でかい、痴女なんですか!」とか言っていたりしていた。
「しかし、どうしますか? 詳しく調べた所、怪しいところはいくつか見当たりましたが、紅蓮の騎士に繋がる決定的な証拠や証言は出てきませんでしたよ」
「う~む……。一旦、彼女の報告を聞いてから考えようか」
「虚偽の報告をしなければいいのですが……」
「人を欺く事には長けているからな……」
「あの人、何考えてるか分からなくて怖いんですよ」
というわ訳で、一真への質疑応答は終了し、解放となる。
部屋に残っていた一真の元へ、別の男性が現れて、取調べが全て終わった事を伝える。それを聞いた一真は、どうにかなったようだと胸を撫で下ろすのだった。
基地から学園へと帰ってきた一真は、これで帰れると寮へ向かおうとした時、担任の田中に呼び止められる。一体、自分に何の用があるのかと振り返る一真。
「皐月。基地ではどんな事を聞かれたんだ?」
「秘匿義務があるので黙秘します」
「な! それだけ重要な事を話してたのか!」
「いえ、嘘です」
「お、お前なぁッ! 心臓に悪い冗談はやめてくれ」
「はは、すいません。今日、話してたのは当たり障りの無い質問ばかりでしたよ。紅蓮の騎士についてのことがほとんどでしたけど」
「そうだったのか。そういえば、お前も避難所は学園になってたもんな。あの日、どうしてたんだ?」
「なんてことはありませんよ。ビビッてトイレに隠れてました」
「ハハハ、そうか。そうだよな。俺もあの場にはいたけど、逃げ出したくて堪らなかったからな」
「良く逃げませんでしたね」
「大人だというのもあるし、何よりも教え子達が懸命に戦ってたんだ。逃げ出すわけにはいかないだろ?」
「……先生は立派な人ですね~。それじゃ、俺は帰ります」
「ああ。わかった。気をつけてな」
フリフリと手を振って一真は田中と別れて、帰路につく。その後姿を見ながら、田中は今日の出来事を振り返り、一真について思い出していた。
「そういえば、紅蓮の騎士が学園のトイレから出てきたのを監視カメラが捉えてたんだっけ。もしかして、国防軍が一真を呼んだのは……まさかな! あいつが紅蓮の騎士だったらトラックに撥ねられて死に掛けるはずないもんな! ハハハハ!」
何かの間違いだろうと田中は自身の考えを否定して職員室へと戻っていくのであった。
◇◇◇◇
一方で国防軍はというと、洗脳の異能を持つ輝夜に一真の印象や不審な点を問い質していた。目隠しをした状態の輝夜とスモークガラス越しで。
「今日、洗脳してもらった皐月一真少年についてなのだが、お前はどう見た?」
「特に変わった点もない、至って普通の男子高校生ね」
質問をしている男性の傍には読心の異能者が控えており、彼に耳打ちをしている。
「嘘は言ってません。ただ……」
「ただ?」
「からかい甲斐のある面白い子だと心の中で言ってます」
「ふむ……。まあ、長い間、囚人生活をしていたんだからそう考えても不思議ではないか?」
「しかし、彼女がそのような気持ちを抱くのは滅多に無いのでは?」
「確かに。あの女狐がただの男子高校生に興味を抱くか?」
「むむ、言われてみれば……」
唸る国防軍を見て輝夜は笑う。実に愉快であると。心を読まれたところで問題は無い。なにせ、考えてることは本当にそれだけなのだから。面白い玩具を見つけた、それ以外に表現の仕方がないのである。
「囚人番号0044、
「ええ、そう言ってるじゃない。私の洗脳がどれだけのものなのかは貴方達が良く知ってるでしょう?」
「……そうだな。嫌というほどにな」
苦虫を噛み潰したように顔を歪める男の脳裏にはとある事件が過ぎっていた。
世の中には数多くの凶悪事件がある。ただ、その中でも一部の事件は世間には公けにされず、ひっそりと闇に葬られていることもある。その一つが、初音輝夜こと夢宮桜儚が巻き起こした洗脳事件だ。
国防軍どころか国にとっては忘れたくても忘れられない忌まわしい事件だ。なにせ、国家を揺るがすにまで発展したのだから。しかも、それがたった一人の女性の手によってなのだから、余計にだろう。
かつて、三つの国を騒然とさせた、かの大妖怪、白面金毛九尾の狐の再来とも言われている。
そんな彼女の職業はキャバ嬢であった。
その時、働いていたキャバクラでの名前が初音輝夜。所謂、源氏名である。
桜儚が輝夜として働いていた時、彼女は異能に目覚めていない無能者であった。
しかし、彼女はその美貌と知略を持って数多の男を篭絡。たちまち、ナンバーワンキャバ嬢にまで登りつめた。
それだけで済めばよかったのだが、彼女の欲望は止まらない。ある意味、自分の意のままに操れる男達を見て、彼女は思ったのだ。
面白いことがしたいと。
残念ながら彼女は異能を持たない無能力者。彼女に惚れた男をある程度は操れても、大したことは出来ない。
彼女に惚れた男の中には
ここらが自分の限界だろうと彼女が諦めかけた時、奇跡は起きる。ついに目覚めたのだ。桜儚の異能が。しかも、彼女が喉から手が出るほどに欲しかった能力、洗脳だ。
そこから、桜儚の欲望が爆発した。面白いことがしたいというだけで極道を洗脳し、戦争を始め、国防軍を巻き込んだ。さらに、そこへ政治家を操り、国家を混乱させるといった大立ち回り。
まさに混沌。その中心にいたのが桜儚。
一連の騒動を治めようと動き出した国防軍。まさか、一人の女によるものだと予想も出来ずに苦戦を強いられた。それに、騒動を起こした者達は洗脳されているが、見た目では分からないといった特徴がある為、余計に捜査は難航したのである。
しかし、そう長くは続かなかった。捜査の中で浮かび上がった一つの共通点を元に桜儚は逮捕されたのである。その共通点とは、事件の騒動を起こした者達がとあるキャバクラに通っていたこと。それが事件解決の切っ掛けとなった。
その後は、たった一人の女性に好き勝手されていたなどと世間に公表できるはずもないので、国は彼女が起こした事件を秘匿するのであった。
「うふふふ。まあ、精々頑張ってちょうだいな」
「……協力には感謝する」
それを最後に彼女は再び幽閉される。国内で最も厳重な刑務所へ。
牢屋に戻された彼女は、国防軍の依頼の元、出会った不思議な少年のことを思い出す。
「ふふふ、いつか貴方ともう一度会えることを心から祈るわね。皐月一真君。いいえ、
桜儚は一真が紅蓮の騎士であると確信していた。どういう理由があって彼が正体を隠しているかは知らないが、面白いことになりそうではあると桜儚は笑うのであった。
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