第41話 質疑応答

 目が覚めた一真は微睡む視界を擦りながら、机の上に置いていた携帯を手に取る。画面を見てみると、そこには学園からメッセージが表示された。

 はて、これは一体何なのだろうかと、メッセージを読んでみると、驚愕の内容に一真は眠気が吹き飛んだ。


「え? 政府からの呼び出し?」


 学園に来るように書かれているが、最後の一文にしっかりと政府からの呼び出しがあったことを書かれていた。


「マジか……。もしかして、正体がバレたとか? いや、もしそうなら、こんな回りくどいことしないはず。だったら、何故?」


 考える一真だが、結局何も分からない。残念ながら一真の頭脳では答えを導き出すことが出来なかったのだ。悲しいが、そこまで考えられる頭があったなら、もう少しうまく立ち回れることが出来るだろう。


「ダメだ。考えても仕方がない。とりあえず、みんなに教えとこ」


 現代人ゆえか、それとも頭が緩いせいか、一真はあまり深く考えずに政府から呼び出しがあったことを友達に教えるのであった。


『なんか、政府から呼び出された』

『は?』

『どういうこと?』

『痴漢したんか?』

『いやいや、よくわからんけど、呼び出された。明日、担任の所に行く予定』

『結構ガチそうなやつじゃん』

『この前のイビノム襲撃事件の取り調べかな?』

『もしかして、どさくさに紛れて痴漢したんだろ!』

『一旦、痴漢から離れろ! 心当たりは……ありすぎて困ってる』

『あ、察し……』

『まさか前科持ちが幸助じゃなく一真だったとは……』

『おい!!! 俺は紳士だから犯罪なんてしないぞ!』

『まあ、そう言うわけで明日は遊びに行ってきます』

『それが最後の言葉になるのかー』

『後で詳しく教えてねー』

『可愛い子がいたかどうか教えてくれ!』


 面白可笑しな会話に一真は笑って、トークアプリを閉じてから風呂へ向かった。


 さっぱりした一真は情報収集を行う。まとめサイトや掲示板など見て回って、紅蓮の騎士について探し回るが、特にこれといった情報はない。

 であれば、やはり、政府は独自の情報網で調べたのだろうと一真は、そう判断するのであった。


「はあ。とにかく、明日分かる事か」


 今更、どうこう考えても解決できることではない。それなら、どっしりと構えて明日を迎えればいいだけだ。


 そう考えた一真は食事を取り、軽く運動してから、眠りに就くのであった。


 ◇◇◇◇


 翌日、制服に着替えた一真は職員室ではなく学園長室にいた。高級そうなソファーに腰かけるのは一真と保護者の代わりとして担任こと田中たなか奏太かなたが青白い顔をしながら座っていた。


「おい、皐月。お前、何したんだ」

「さあ、分かりませんよ」

「分からないって、お前! 政府から学園長に通達が来たんだぞ! それがどれだけ不味い事か分からないのか!」

「いや、わかりませんて。そもそも、この間のイビノム襲撃事件で結構取り調べ受けたじゃないですか」

「それはそうだが……だからと言ってどうしてお前なんだ?」

「それがわかってるなら苦労しませんよ……」


 しばらく、二人が話していると、学園長が二人の男性を引き連れて戻ってきた。

 恐らく、学園長の後に入ってきた二人が政府の関係者なのだろうと一真は横目で見つめる。


 学園長が二人に挨拶するように言うと、田中が立ち上がり、それに倣って一真も立ち上がり、頭を下げて挨拶をした。

 それから、二人が席に着いたのを確認して、一真達も座る。一真の目の前にはニコニコと微笑んでいる胡散臭そうな男と眉間に皺を寄せている厳格そうな男がいた。


「初めまして。私、こういう者でして」

「は、はあ。これはご丁寧にどうも」


 微笑んでいた男は名刺を田中に渡した。名刺を受け取った田中は、名前を見た後、所属部署でギョッと目を見開く。


「こ、国防軍第十三部隊……」

「へ?」


 横で聞いていた一真もその名前は当然知っていた。


 国防軍は一から十二の部隊が存在している。しかし、特殊な部隊が他に二つある。それが零番隊と十三番隊だ。

 この二つは存在こそ知られているが、基本表舞台に出て来ない。なにせ、国内の守護神と執行者なのだ。


 零番隊は国内各所に隊員が配置されており、海外からの犯罪者やイビノムに対応している。そのため、かなりの実力を求められるのだ。その強さは国内外でも屈指の実力者とも言われている。

 ただ、秘匿されている存在なので、名前も隊員の数も発表されていない。


 しかし、それだけ強いのなら、どうして人型イビノムが出現した時に駆け付けなかったのか。大人の事情もあるのだが、一番は国内最強と名高い『侍』がいたからという理由が大きい。

 彼がいれば、問題はないと判断したのだが、結果はご覧の通りだ。それで、何が守護神だと一部の者達には馬鹿にされていたりする。


 そして、十三番隊の執行者というのは、単純に彼等が対人に特化しているのが由縁である。どうしても手に負えない異能者が相手の場合に彼等は動く。


 つまり、今回、十三番隊が出てきたのは一真を警戒しての事だった。


「(おいおい、マジか~! ほぼ俺の正体看破してるんじゃね!?)」


 焦る一真だが、その表情は崩さず、至って冷静に努めていた。その様子をずっと二人が見ている。一真が少しでも妙な動きを見せれば拘束出来るようにじっと見詰めていた。


 残念ながら彼等の努力は意味を成さないだろう。もしも、一真が本気を出せば、たとえ対人のスペシャリストであろうとも押さえることは出来ない。一真を取り押さえたいのなら、それこそ魔王を呼ぶほかない。

 もっとも、この世界に魔王など存在しないが。


 その後、軽く説明を受けた一真と田中は二人が乗ってきた黒塗りの高級車で国防軍基地へと連れて行かれるのであった。


 ◇◇◇◇


 基地へとやってきた一真は田中と別れて、別の部屋へと案内される。どうして、田中と別れる必要があったのかを一真は質問したが、返って来たのは無難な回答。

 今回、呼ばれたのは一真だけ。ただ、一真はまだ未成年なので保護者の同行が必要だという事で田中が代わりに来た。同行者である田中は別の待合室で待機という訳である。


 そして、一真が連れて来られたのは小さな取り調べ室。ただし、全面がマジックミラーのようになっており、多くの人間が見ていた。


「ふむ、見た目は普通の少年だな」

「鑑定結果はどうなっている?」

「異能は置換と表示されております」

「隠蔽されてる形跡は?」

「分かりません。ですが、身長、体重、年齢、生年月日、血液型と資料に載っている通りの表示です」

「う~む、限りなく白だな……」

「とりあえず。これから質疑応答していきましょうか」


 そう言うと男は手元のマイクで一真の近くにいる男へ指示を出す。


「さあ、そこに座ってくれたまえ」

「あ、はい」

「じゃあ、まず君の名前と生年月日を教えてくれるかな?」

「わかりました――」


 それから、一真は個人情報を答えていく。特に疑うような点はないので一真は一つ一つ真面目に質問へ回答していくのであった。


「では、あの映像を彼に見せてくれ」


 そう指示を受けた男はポケットからリモコンを取り出して、一真にイビノム襲撃事件の映像を見せたのだった。


「脈拍異常なし、脳波異常なし、心拍数異常なし、発汗機能にも異常は見られません……」

「動揺していないのか……。彼がこの時、何をしていたのか詳しく聞いてみてくれ」


 決定的ともいえる証拠を突き付けられても一切動揺していない一真に男は質問をする。


「君はこの時何をしていたのかな?」

「パニックになって隠れる場所を探してました」

「ふむ。何故、みんなと一緒に逃げなかったのかね?」

「全員と一緒に行動していたらイビノムに襲われると思ったからです」

「なるほど。では、君がトイレに駆け込んでからすぐに、この紅蓮の騎士が出てきたのだけれど、何か知らないかな?」

「知りません。怖くて蹲っていましたから」


 その様子を見ていた者達は一真の落ち着き具合に疑問を抱いていた。


「一介の学生がこうまで落ち着いて質問に答えられるか?」

「私がこの歳なら無理ですね。多分、動揺はすると思います」

「おい、彼の心は読んでいるのか?」

「はい。読んでいますが……」

「なんと言っている?」

「早く帰りて~、飲み物欲しい~、です……」

「バカなのか、それとも豪胆と言えばいいのか……」


 嘘発見器や読心の異能者を配備して、一真を見極めようとしているが、全て無駄である。


「(うへ~。めっちゃ見られてる。しかも、心まで覗こうとしやがって悪趣味な。向こうで読心使いの対策を学んでおいてよかった)」


 一真は部屋に入った瞬間から自分が疑われていることに気が付いた。周囲の壁もカモフラージュで見られていることに気が付いた一真は異世界で学んだ技術を使い、平常心を崩さないようにしたのだ。

 そして、心が読まれることに気が付いて、どうでもいいことを呟き、誤魔化すといった対策もしていた。


「致し方ない……。奴を呼べ」

「もう導入しますか?」

「ここまで何の手掛かりもないとな」

「わかりました」


 勿論、国防軍も切り札は用意している。それが一真に効くかどうかは分からないが。

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