第40話 迫る、その正体に!
イビノムを倒した一真は、これからどうしようかと考えた。
今は魔法の効果で紅蓮の騎士となっているが、魔法を解除してしまえばすぐに正体が露見してしまう。
かといって、ずっとこのままというわけにはいかない。そんな訳で一真はどうしようかと頭を抱えるのだが、ここでようやく思い出す。
そう言えば、先程の戦闘中に周辺の電子機器を破壊したのだと。
それなら、監視カメラも壊れてるだろうから、学園に戻っても問題はないだろうと結論付けた一真は、一旦、上空へと姿を消した。
その後、雲の中で光魔法を使って光学迷彩のように消えると、学園へと戻っていく。トイレの中に戻って一真は何食わぬ顔で、寮へと帰るのであった。
◇◇◇◇
人型イビノム襲撃事件から数日が経過した。街はいつもの平穏な雰囲気に戻りつつあったが、やはり一番の注目は紅蓮の騎士こと一真であった。
マスメディアはイビノム襲撃事件の際に現れた紅蓮の騎士について報道していた。SNSに投稿されていた動画をテレビ、ネットで放映し、情報提供者にインタビューを行い、そして現場に最も近かった第七異能学園にも彼等はいた。
しかし、残念ながら今は夏休みである。生徒もほとんど来ていない。自主的にトレーニングルームを利用する者や部活動で来ている者だけで、その数は少ない。数日前にイビノムに襲撃されたのだから余計にだ。
「手掛かりは一切なしね……」
「ダメみたいですね~。学園の監視カメラも全部壊れてたそうですし」
「ええ。しかも、壊れる以前のデータは全部政府が回収! ホント、こういう時だけは素早いんだから」
「まあまあ。それより、どうします? シェルター内にいた関係者はほとんど当たりましたけど」
「そうね。これ以上の情報は無さそうだし、帰るしかないわね」
「わかりました~」
第七異能学園から踵を返して背を向ける女性リポーターとカメラマン。
「紅蓮の騎士。絶対にその正体を暴いてやるんだから!」
去り際に校舎を見ながら呟くのであった。
その一方、国防軍では紅蓮の騎士について会議を行っていた。
「さて、今回新たに現れた人型イビノム。そして、謎の異能者『紅蓮の騎士』。イビノムについては死骸すら残っていないので資料は戦闘データしかありません。『紅蓮の騎士』についても同文です……」
「正体は掴めそうなのか?」
「現在、調査を進めているのですが最重要人物は絞り込めました」
「ほう! それは期待してもいいのかね?」
「それはどうでしょうか。呼び出して尋問を行うつもりですが、期待に沿えるような結果が出るかは分かりません」
「ふむ。そうか。では、その最重要人物について聞かせてくれるかね?」
「はい。今からお配りする資料に記載していますので、その資料を元にご説明いたします」
会議に集まっていた上官達の手元にとある資料が配られる。その資料を手に取って中身を読んでみると、そこには最重要人物であると言われた少年の顔写真と名前が記載されていた。
『皐月一真』
そう記載されていたのだった。
「皆様の手元に資料が配られたと思いますので、これから『紅蓮の騎士』に関連する最重要人物として皐月一真少年についてお話します。まず、手元の資料に書いてある通り、彼は第七異能学園支援科一年生です。異能は置換。特にこれといった特徴はありませんが、入学式当日にトラックに撥ねられて三か月ほど入学が遅れています」
そこで説明をしていた男性が一旦区切って水を飲んで喉を潤す。
「しばらくの間、生死の境を彷徨っていたそうですが奇跡的に回復したそうです。そして、次に家族構成ですが捨て子で施設育ちの為、両親はいないも同然。一応、調べて両親は判明しています。母親は
関係ないので男性は一真の両親について詳しく説明していないが、資料には二人が息子を捨てた経緯まできちんと書かれていた。
なんということはない。ただの屑である。二人は望んで結婚したわけでもなく、久美子は学生の頃からパパ活をしており、賢人は借金まみれのギャンブル依存症。
二人の出会いはたまたま大勝ちした賢人が久美子を買春。その時、出来たのが一真である。勿論、久美子の方はピルを服用していたのだが運悪くか、運良くか出来てしまったのだ。
当然、墜ろすことにしたのだがお金がない。なので、父親である賢人に責任を追及し、費用を出すように迫ったのだがあるはずもなく断られてしまう。
途方もなくなった母親の久美子は出産を決意。一真を生んだ後、捨てることにしたのだが最後の良心が残っており、施設の前に捨てた。
その結果、母親の方は監視カメラに映っていたので、すぐに警察が動き、一真のDNAから父親も特定。
その後、二人は逮捕され、一真は施設で育てられることになった。
現在は置換の異能が覚醒したので国からの補助金と支援金を受け取り、寮生活である。
「それでは続けていきます。この皐月一真少年は、第七異能学園に入学後、二つの事件に巻き込まれております。まず一つ目がイヴェーラ教によるテロ事件。そして、今回のイビノム襲撃事件。これだけであれば彼は不運な少年という肩書きで片付けられていたのでしょうが、いくつか不可解な点があります」
「ふむ。資料には載っていないが?」
「はい。これから、第七異能学園で録画されていた監視カメラの映像を流しますので、そちらをご覧ください」
部屋が暗くなり、プロジェクターから映像が流れ始める。そこには一真がイビノム襲撃事件の際に部室棟で挙動不審な動きをしており、トイレに駆け込んでいる姿だ。
「なッ!?」
「お分かり頂けたでしょうか? 彼がトイレに入ってから僅か数十秒後に『紅蓮の騎士』が出てきたのです」
「これは彼で確定なのでは?」
「これだけでは彼と断定することは出来ませんが、皆様覚えておいてでしょうが一つ目の事件、イヴェーラ教によるグランドワン占拠で国防軍を名乗る不審な人物がおりました」
「まさか、『紅蓮の騎士』と同一人物だと?」
「その可能性は高いかと。事件当時イヴェーラ教によって監視カメラは破壊されていましたが、当事者の証言から見て、『紅蓮の騎士』と国防軍のスパイを騙った男は同一人物であると思われます」
「つまり、その人物が彼、皐月一真少年である可能性があるということだな?」
「はい。その通りです。そして、最後に補足となるのですが、皐月一真少年が退院後、学園にイビノムが侵入したのですが、その時の映像は管理が甘かったせいで障害物により映っておりませんでした。しかし、イビノムに襲われた生徒の証言から若い男性ということは、判明しており、学園内の生徒である可能性が高いと思われます」
「ますます、怪しいな」
「既に学園へ皐月一真少年を呼ぶように通達しております」
「そうか。では、今後の報告に期待しておこう」
こうして、一真は国防軍に呼び出されることが決定した。果たして、国防軍は一真の正体を見破ることが出来るのか。
◇◇◇◇
夏休み、真っただ中、一真は冷房の効いた部屋で動画を見ていた。
「う~ん。めっちゃバズってるな、俺の動画」
一真が見ていたのは自身の戦闘シーンである。イビノムを圧倒する姿に数多くのコメントが寄せられている。勿論、国内だけでなく海外からもだ。その人気っぷりは凄まじく、すでにグッズまで出されている。
「許可した覚えないんだが……」
他にも偽物のアカウントが複数存在していたりと、一つのブームになっていた。嬉しいか嬉しくないかで言えば嬉しいのだが、流石にやりすぎ感がある。
「まあ、いいや。俺だってバレなきゃどうでもいいし」
そう言って一真は携帯を机の上に置いて、ベッドへと倒れこむ。フカフカの布団に包まれて夢の世界へと誘われる。
「やば、ねむ……」
欠伸をした一真は襲ってきた眠気に勝てず、眠りに就くのであった。
一真が寝てから、携帯に通知が一つ。
それは学園からのメール。その内容は、至急学園に来ること。
学園を通して呼び出されてのだ。国防軍に。
ついにやってきたのだが、一真は呑気に寝ているだけであった。
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