第33話 無謀
暑い日差の中、一真は補習を受けていた。気だるい時間が続き、集中力も続かない一真は窓の外を眺める。窓の外には雲ひとつ無い真っ青な空と身体を溶かす暑く燃え上がる輝く太陽が見えた。
「はあ……」
そして、何よりも憂鬱なのがSNSである。暁、太一、幸助のSNSが更新されており、中身を見てみると、皆で楽しそうにしている写真が沢山掲載されていた。
夏休み前にラーメンを奢ってもらったが、やはり寂しいし悲しいものがあり、なによりも妬ましい
一真に見せびらかしているというようなことは一切無い。ただ普通に人生を謳歌し、楽しんでいる光景を写真として残しているだけだ。そこに一真を貶めようという悪意は一切ないのだ。
だが、本来であればそこには自分の姿があったかもしれないと考える一真にとっては、やはり複雑な思いはあった。
「いいな~……」
「皐月。確かにお前は赤点を回避し、補習を受けなくてもいい立場だったが、流石に携帯を見るのはどうかと思うぞ?」
「あ……」
一真の見上げる先には呆れたように顔を顰めている教師の姿がある。そして、周囲には一真と同じく補習を受けている生徒の姿もだ。彼等は補習中に携帯を触って怒られている一真を見てクスクスと笑っていた。
「すいませんでした!」
「今回は見逃してやるが、次に見かけたら補習中は没収するからな!」
「はい!」
という訳で、補習が再開される。一真は元気よく返事をしたが、やる気になったわけではない。退屈な時間ではあるが、三ヶ月も遅れた分を一真は取り戻すように頑張ったのだった。
「ふい~……」
補習は午前中のみである。一真は補習が終わり、いつものように寮へと帰る。特にこれと言った用事も無いので一真は真っ直ぐに寮へ戻った。
冷房を効かせた部屋で一真は携帯を触る。動画サイトで面白い動画でもないかと漁るが特に収穫はなし。
そのまま、SNSで情報収集。友達の三人が夏休みを堪能している写真を見て、溜息を何度も吐いていた。
あまりにも暇なのと夏の魔物に頭でもおかしくされたのか、一真は香織へ電話をかけた。無謀にも相手は女子である。一応、知り合いではあるが夏休みに遊ぶほどの仲かと問われたら答えられないだろう。
数回のコール音がした後、彼女は一真の電話に答えてくれた。
『はい、もしもし』
「あ、もしもし、夏目さん。今、何してるの?」
『友達と遊びに出てるところだけど、何か用事でもあった?』
「あ~、いや、その暇だったので」
『あ、そっか。皐月君って補習してたんだっけ。でも、午前中だけだよね?』
「うん。まあ、そうなんだけど……」
そうして、一真は香織と話していると彼女の電話越しから声が聞こえてくる。どうやら、香織を呼んでいるようだ。流石にこれ以上は邪魔であると理解した一真は一言謝ってから電話を切った。
「ごめん。友達と遊んでいる最中に電話しちゃって」
『ううん、別にいいよ。気にしてないから』
「ありがとう。それじゃ」
ベッドで横になった一真は大きく溜息を吐いた。自分は一体何をやっているのだろうかと欝気味になる一真は気を取り直して、外へ出かけることにしたのだった。
◇◇◇◇
一真が外へ出かけている頃、とある場所で物語が動き始めていた。
イビノムの巣で見つけた謎の球体をどうするかを国防軍は決めかねていた。なにせ、前代未聞の事であり、破壊不能ときた。それではどうするかと話し合ったのだが、意見は分かれたのだ。
一つは未曾有の脅威と捉えて破壊するという意見。一つはイビノムの生態を知るチャンスだと研究対象として保護するという意見だ。
「だから、何故分からない! 未知のものだぞ! 今後、どうなるか分からないものをいつまでも放置しているわけにはいかないだろう! 即刻、破壊するべきだ!」
「そうは言うが、これは人類にとってもチャンスでもあるのだぞ。前例にないことが起きているのだ。詳しい原理を知るためにも保護するべきだ」
「仮に保護したとして、どうするつもりだ! まさか、ペットとして飼うと言うんじゃないだろうな!」
「ハハハ、それもいいかもしれんな」
「笑っている場合か!」
もうずっとこの調子である。破壊するか、研究対象として保護するか決まらないのだ。どちらの意見も正しいが間違っているとも言えよう。
しかし、国民の安全を考えるのならば、やはり破壊するのが最善と言えよう。
とはいえだ、国防軍も一枚岩ではない。残念ながら国民の安全など二の次という輩は結構いたりする。それが国益に繋がるものなら尚更だ。
「破壊、破壊と言うがね。現存している兵器では傷一つつかず、炎の異能でも氷の異能でも歯が立たないわけだが、どうするつもりだね? まさか、『侍』にでも頼むつもりか?」
「無論、やむを得ない場合は頭を下げましょう」
「そんな事をすればどうなるかわかっているのか! 国防軍の信頼はがた落ちだぞ! 民間企業の異能者に劣るなどあってはならんことだ!」
「そのようなプライドを守るよりも国民を守るのが我等の義務でしょう! その為ならば頭などいくらでも下げれましょうや!」
平行線というよりはぶつかり合いである。お互いに引かず、自分の主張を曲げない。これでは、いくら経っても問題は解決しないだろう。
そうこうしている間に事態は深刻なことになっていた。
イビノムの巣にある球体を調査していた研究チームがある違和感に気が付く。よく見たら、ヒビが入っていたのだ。
もっと、よく見ようと研究者の一人が近づいた時、球体が割れて中から人の手に似たようなものが出てきて、研究者の頭を潰した。
それを見た研究チームが悲鳴を上げて我先にと逃げ出す。護衛として来ていた兵士が無線で応援を呼び寄せて、球体から出てくる今まで見たことのないイビノムと対峙するのだった。
「昆虫? いや、これは――」
その後の言葉は続かなかった。兵士の頭が球体から出てきた
その場にいた兵士は一気に警戒を最大限にまで上げて、人型のイビノムに攻撃を仕掛けた。
しかし、結果は無残なものである。
調査に来ていた研究者及び護衛の兵士は一人残らず全滅。生き残りは一人もいない。残っているのは通話状態であった無線機だけである。
「研究チーム及び護衛班が全滅。通話
「……すぐに増援を出せ! 事態は急を要する。すぐに上へ報告しろ!」
「はッ! 承知しました!」
イビノムの巣の近くに簡易基地を立てていた国防軍は無線機から聞こえてきた最後の言葉を上層部へと報告するのだった。
この報告を聞いた上層部は大慌てである。想定していた中でも最悪の一つであったイビノムの進化。そして、それが人型という考える中で最も危険な存在。
なにせ、知能があると予想されているのだ。勿論、通常の個体にも知能はあるだろうが所詮、獣や昆虫といった人間には劣るものばかり。
しかし、今回現れたのは人型。ならば、人と同様の知能を持っていると推測される。その場合、どのような能力を持っているか分からないが一つだけはっきりと言えることがある。
それは、人類では太刀打ち出来ないかもしれない脅威だということだ。
「すぐに増援を向かわせろ。必ず、仕留めるのだ! 防衛線だけはなんとしてでも死守しろッ!」
「了解ッ!」
すぐさま、国防軍の精鋭チームが出撃することになる。編成されたのは国内でも有数の実力者だ。すでに何百というイビノムを倒している彼等ならば、たとえ新種のイビノムが相手であろうとも引けは取らないだろうと誰もが思っていた。
僅か、数時間後に彼等が全滅したという報告が国防軍の上層部に届いたのであった。
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