第31話 期末テストの結果は如何に

 勉強会を終えて一真はついにテスト当日を迎えた。

 支援科は戦闘科と違って実技がないので午前の筆記試験だけだが、その分戦闘科よりも厳しい。赤点が戦闘科よりも高くなっているのだ。公平さを期すために設けられた措置だが、今はそれが憎いと思う一真であった。


「(分かる……分かるぞッ!!!)」


 そう心の中で叫んでいるがテスト用紙は空欄が多い。では、何が分かっているのかというと、自分が赤点を取る未来だ。


「(このままでは赤点だということがッ!!!)」


 鬼気迫る顔をして一真は問題用紙を見詰めていた。勉強は怠ってきたわけではなかったが、一真の想定以上に試験が難しかったのだ。ただ、それだけの話。一真の努力は決して無駄ではない。


「(きえええええええええッ!!!)」


 異世界で魔王を倒し、世界を救った勇者である一真は期末テストの前に散るのであった。


 終業の鐘が鳴る。その音を聞いた生徒たちは、やっとテストから解放されたと喜びに満ちている。ただ、その中で一人真っ白に燃え尽きており、口から魂が抜けだそうとしている男がいた。


 そう一真である。彼は最後の最後まで粘り続けた。少しでも赤点を回避しようと必死に。しかし、現実は非情である。彼の努力を嘲笑うかのように時は過ぎていったのだ。


 屍のように椅子へもたれ掛かっている一真の元へいつもの三人が近づいてくる。三人は彼の姿を確認して察してしまった。恐らく、いいや、十中八九テストは散々だったのだろうと。

 戦闘科との実践訓練でさえもケロッとしていた一真がここまで燃え尽きているのだから、相当なものだったのだろうと察した三人は一真を誘って遊びに行くことにした。


「一真、生きてるか~?」

「…………」

「返事がない。ただの屍のようだ」

「あう……あー」

「ゾンビになったぞ」


 もはや、正気を失ったゾンビである。一真はテストにより脳を破壊され、心が壊れてしまった。もう元に戻ることはないだろう。哀れな最後である。


 可哀そうな生き物を見る目で暁、太一、幸助の三人は一真を叩いた。とりあえず、痛みでも与えれば覚醒するだろうと思って。しかし、そこは一真。並外れた耐久力の所為で多少の攻撃ではビクともしない。


「殴ってもダメなんか……」

「どうする? このまま放置しておくのは流石に可哀そうだし……」

「おい、一真! 向こうに水着姿のグラビアアイドルがいるぞ!」


 何度か頭を叩いて起こそうとした三人だが一向に反応のない一真に困惑する。幸助は頭を悩ませ、太一は何か方法はないかと考え、幸助はとりあえず嘘を吐いてみるが一真は反応しなかった。


「こりゃ重傷だな」

「みたいだね」

「仕方ない。こうなったら最後の手段だ」

「何か案でもあるのか?」

「まあ、見とけ、暁。これから、面白いのが見れると思うから」


 と、自信満々な幸助はズボンのポケットから携帯端末を取り出すと、どこかへ連絡をした。

 しばらくすると、廊下を走る音が聞こえてきて、一真達のいる教室の扉が勢いよく開かれた。


「皐月~~~ッ!!!」


 現れたのは宮園である。そう、幸助が連絡を取ったのは以前勉強会で交流した戦闘科の宮園であった。

 幸助は一真がテストが散々だったことを宮園に報告して彼女を呼んだのだ。勿論、呼んだ内容は一真が腑抜けているというもの。その内容を呼んだ宮園は折角勉強を教えてやったのに、どういうことだと憤慨してやってきたというわけだ。


「アンタ、この前面倒見てやったのに、テストは散々だったってどういうことだ!」

「うげえ~~~ッ!」


 幸助の連絡を受けてやってきた宮園は廃人になっている一真を持ち上げて首と足の付け根へ手を回し、アルゼンチン・バックブリーカーを決めた。

 流石にこれは効くと一真は呻き声を上げる。その光景を見ていた三人は小さな悲鳴を上げていた。やはり、彼女は恐ろしい。絶対に怒らせてはいけないと誓うのであった。


 それから、少しすると楓や香織がやってきた。彼女達は宮園が飛び出したのを追いかけてきたようで、一真が宮園にプロレス技を掛けられているのを見て驚いていた。


「何してるの、宮園さん!」

「ん? あー、夏目か。さっき連絡来てな。皐月の野郎、私達が勉強を見てやったのに散々だったらしい」

「だからってそれはやりすぎなんじゃ……」

「さっきまでゾンビだったんだ。これくらいは問題ないさ。それに皐月は頑丈だし」

「あが~~~ッ!」

「フフ、面白いね」


 技を決められているが一真は割と余裕である。まあ、当たり前だろう。彼は異世界で何度も死にかけたこともあるし、数え切れないほどの修羅場を潜り抜けて来たのだ。遊び半分のプロレス技など痛くもかゆくもない。


「もう、槇村さんも笑ってないで止めてよ」

「わかった」

「お? 念力か」

「うお~~~?」

「はい」

「あいたぁッ!」


 楓の念力により救出された一真は床に落とされる。大した高さはなかったが尻から落とされた一真は立ち上がる時にお尻を擦っていた。


「いてて……。乱暴なんだから」

「でも、目が覚めたでしょ?」

「まあ、それは確かに。てか、ここにいてもいいの? 戦闘科は午後から実技テストでしょ?」

「大丈夫。今、昼休みだから。支援科は午前で終了だけど、私達は昼からもあるからね」

「ああ、なるほど」

「それよりも後ろ」


 そう言って楓が指を指すので後ろへ振り向く一真は渇いた笑みを浮かべる。


「アハハハ~……。宮園さん、そんなに拳をバキバキ鳴らしてどうされたんです?」

「勿論、余裕そうなお前にもう一回お灸を据えてやろうと思ってな」

「け、結構です」

「そう遠慮するな。アタシとお前の仲だろう?」

「昨日の友は今日の敵だったか!」

「逃がしはしないよ!」

「ぬうッ! 流石、身体強化系の異能者! 速い!」

「そう言うがお前こそやるじゃないか! 一瞬でもアタシを出し抜くなんて、本当に支援科の生徒かい!?」

「ふッ! 俺は支援科最速の男だ!」


 全くの嘘であるとは言えない。恐らく、身体能力で言えば間違いなく支援科一だろう。というか、世界一かもしれない。それこそ、一真が本気を出せばだが。


「悪いが俺は本気で逃げるぜ!」

「はっ! アタシがそう簡単に逃がすとでも?」


 鬼ごっこが始まろうかとした時、二人の眉間にチョークが飛んできた。一真は察知して避けるがチョークは追尾性能が付いていたのか、避ける一真の方へ方向転換して眉間を打ち抜いた。


「ぐはァッ!」

「いった!」

「お前達、教室で何をやっている。それに、どうして戦闘科の生徒がここにいるんだ!」


 額を押さえる一真と宮園は痛みに悶絶している為、答えることが出来ない。まあ、一真は痛がっている振りだが。

 そんな二人に代わって香織が先生の疑問に答えた。


「えっと、支援科の皐月君に用があってですね」

「その用とやらは教室で暴れ回ることか?」

「いえ、違います……」

「はあ、まあいい。テストが終わって浮かれているのだろうが、赤点を取ったら覚悟しておくように。それから、支援科の生徒は速やかに下校し、戦闘科の生徒は自分の教室へ帰りなさい。それではな」

「はい。わかりました」


 説教というほどではないがお叱りを受けた香織はシュンと肩を落とし、額を押さえて蹲っている二人の方へと歩み寄る。


「もう! 二人の所為で怒られたじゃない! 全く」

「そう言われても……」

「言い訳しない! 皐月君もあまり宮園さんを挑発するような事しないでね」

「ウッス……」


 香織に怒られた二人は反省するのであった。

 それから、戦闘科の生徒である香織と楓と宮園の三人は午後からの実技試験に備える為、自分達の教室へと戻っていく。残された支援科の四人は、テストも終わった事なので気分転換に街へ遊びに行くのであった。


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