第29話 午後の遊び

 順調に進んでいた勉強会も一区切りついた。一真は苦手な所を徹底的に教えてもらい、これでテストも安心という感じだ。勿論、赤点を回避するのが確定したわけではない。あくまでも赤点を取らないかもしれないというところだ。


「じゃあ、勉強も終わったし昼飯ついでに遊びに行こうぜ」


 腕を伸ばしながら一真は他のメンバーに提案した。今回、勉強会は午前までと決まっていたので一真の提案どおり、勉強会に集まったメンバーは問題集や教科書を片付けて外へ出かける準備をする。


 準備を終えたメンバーは飲み終わったジュースや食べ終わったお菓子のゴミを集めてゴミ箱へ捨てた。パーティルームの片付けも終わったので一真達は外へ出る。


 外へ出た一真達は何を食べようかと話し合う。


「何食べる?」

「これだけいるんだからファミレスとかでいいんじゃない?」

「それなら、食べ放題のある焼肉とかは?」

「いや、昼間から焼肉はキツイ。それにお菓子とか食べてるし」

「じゃあ、ハンバーガーとか?」

「それが無難かな~」

「え~、どうせならもっと別の食べようよ」

「どうせならって、たとえば何?」

「お寿司とか?」


 ワイワイガヤガヤと盛り上がって、何を食べようかと話し合った結果、男女合わせて八人もいるのでハンバーガーに決まった。ファミレスでも良かったのだが、お菓子を食べていたので却下となったのだ。この事に関して一部の女子はがっかりしていた。なにせ、身体強化系の異能者は良く食べるので、もっとガッツリとしたものが欲しかったらしい。


 それから八人は街へ向かい、昼食をとった。戦闘科の女子が豪快にハンバーガーを食べる光景を見て、支援科の三人は唖然としていた。その中で一真だけは懐かしさを感じていた。


(ふふ、向こうの世界でも肉にかぶりついている女達を良く見たな)


 妙に優しい目をしている一真にハンバーガーを頬張っていた香織と宮園は不思議そうに見ていた。一体、どうして一真は父親が昔を懐かしんでいるような目をしているのだろうと二人は首を傾げていた。


 昼食をとり終えた八人はボウリング場へ向かった。最初はカラオケとどちらにしようかと話していたのだが、まずはボウリングからということになったのだ。というのも、身体を動かしたいという理由が大きい。午前はずっと勉強で座っていたから。


 もっとも、一真と宮園だけはプロレスをしていたが。


「では、チーム分けをしたいと思います! 男子と女子二人ずつに分かれようと思うのでじゃんけんをしよう!」

「じゃあ、男子はこっちでやろうぜ」

「それじゃ、女子はこっちね」


 ボウリング場に着いた一真達は、まず最初にチーム分けをすることになった。四対四で分ける事になる。男子二人と女子二人の混合チームになる。それぞれ別れてから、グーとパーで二人組みを作る。二人組みを作ったら、グーかパーでチームを作った。


 そして、決まったのは一真と太一ペアに宮園と恵ペアの四人。それと、暁と幸助ペアに香織と楓ペアの四人。これで四対四となった。チーム分けが済んだので受付へ向かう。一真達は受付用紙に名前を記入しようとした時ふざけて変な名前を書こうとしたが、女子に白い目で見られたので普通の名前にした。記入を終えた一真達は用紙を受付に渡した。


 受付を済ませた後、八人は渡された札を元にレーンへ向かった。靴を借りて、自分に合ったボウリングの玉を選んでいく。準備を終えた八人は、さあこれからボウリングを始めるぞといった所で宮園がストップを掛けた。


「まあ、待ちな。ただボウリングをするだけじゃつまらない。だから、ここらで一つ賭けをしようじゃないか」

「賭けって何を賭けるの?」

「ここのボウリング代だよ。合計スコアで負けた方が奢り。どうだい?」


 獰猛に笑う宮園に他のメンバーはどうしようかと悩む。彼女の言う通り賭けをするかどうか。楽しそうではあるが負けた場合は結構リスクが大きい。まだ学生の身で相手チームのボウリング代を全額負担というのは財布的に厳しいものがある。特にお小遣い制の者にとっては。


 しかし、魅力的でもあった。勝てば無料になるのだから。一行はどうするか迷った結果、宮園の提案に乗ることにした。


「よし、やろう!」

「そうでなくちゃね!」


 こうして八人は賭けを始めるのであった。四対四に分かれて、お互いに作戦を練り始める。四人の合計スコアで勝負する事になったので、まずはチーム内の実力を確かめ合う。


「アタシ、最高スコア190近くあるけど、あんた達はどう?」

「ごめん。僕はあんまり……110くらい」

「ごめん。私が一番低い。100ちょっと……」


 宮園が太一と恵の最高スコアを聞いてしかめっ面を浮かべる。思ったよりも低かったようで宮園は負けるかもしれないと思っていた。しかし、まだ分からない。一真がまだ言っていないのだ。その結果次第では勝敗が決まってくる。


「皐月はどう?」

「ふっ。200オーバーだ」

「おっ! マジか! これなら勝負になるかもね!」


 一真の最高スコアが200オーバーだと聞いて宮園の顔は明るくなる。これで勝負になるかもしれない。如何に一真と宮園がハイスコアを出すかが重要となってくる。


「ようし、これなら勝ち目が出てきたね! 後は順番決めだね。アタシと皐月は三番か四番だね」

「え、なんで?」

「後の方が緊張感あるだろ? 前の二人がやらかしても後ろでフォローするんだよ」

「なるほど。それなら、俺はどっちでもいいよ」

「じゃあ、アタシが三番で皐月が四番ね」

「えっと、じゃあ、僕が一番行くよ」

「じゃあ、私が二番目だね。二人とも足引っ張っちゃったらごめんね」

「僕も先に謝っておくよ」

「まだ始まってもないのに謝ることなんてないさ。それに最悪アタシと皐月が頑張るから任せなって」


 宮園の心強い発言に太一と恵はホッと息を吐いた。どうやら安心したようで緊張がほぐれたらしい。


「さあ、それじゃあ、始めようか」


 パンと手を鳴らしてやる気満々の宮園。その音を合図にというわけではないが、ゲームが始まった。まずは太一が第一投を投げた。その結果は残念なことにガーターで終わった。続く恵も大して取れず3という結果である。


「まあ、軽くストライクといきますか」


 そう言って宮園が投げたボールは見事に真ん中のピンを弾き飛ばした。が、残念ながら端のピンが残ってしまい9となる。そのピンを狙って投げたボールは虚しくガーターである。


「くう、惜しい。じゃあ、次はあんたの番だよ」


 投げる準備をしていた一真の肩を叩いて宮園はベンチに戻っていった。一真は軽く首を鳴らして第一投を投げた。吸い込まれるように真ん中の方へ向かっていき、爽快な音を立ててストライクを出した。


「しっ!」


 ストライクを出してガッツポーズを見せた一真はベンチに戻り、チームメンバーとハイタッチをする。


「イエーイ!」

「すごいね、一真! いきなりストライク取るなんて!」

「イエーイ! ほんとだよ! 皐月君すごいよ!」

「ナイス! これで向こうにプレッシャー与えれるな」


 全員とハイタッチを終えた一真はベンチに座って、対戦相手の様子を見てみた。暁と幸助が8と9と高いが女子の方が酷い。楓はガーターで0、香織はガーターと1であった。どうやら、注意すべき相手は暁と幸助の二人であると一真は判断した。


「まあ、ここからどうなるか分からないけど気を引き締めていくか」


 たかがボウリングではない。ボウリング代がかかった大事な勝負だ。もう一度言うが学生にとってボウリング代はバカにできない。それを二倍払うというのは本当にキツイのだ。


 その後も一真は一切手を緩めることなく本気を出した。魔法こそ使わなかったが向こうの世界で培った身体能力を遺憾なく発揮したのだった。

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