第27話 神様、仏様、一真様

 一通りゲームセンターを満喫した一真達は場所を移して、ファーストフード店で談笑していた。フライドポテトをつまみながら一真が携帯を触っていると、香織から連絡が来た。突然の連絡に驚いた一真だが、すぐに勉強会の件だと思い出して電話に出る。


「はい、もしもし」

『もしもし、皐月君。今いい?』

「うん。大丈夫」

『勉強会の事なんだけど、私達は実技試験があるから放課後とかは訓練で厳しいの。だから、今週の土日とかどうかな?』

「全然大丈夫。こっちは四人参加だけど、そっちは何人くらい?」

『えっと、こっちは私と恵、それから槇村さんに宮園さんの四人だよ』

「わかった。じゃあ、詳しい時間とか決めたら、また連絡するね。都合が悪かったら教えて」

『ん、了解。それじゃ、またね』


 ピッという電子音が鳴り、香織との電話を終えた一真はポテトを食べようとしたら無くなっていた。まだ食べ始めたばかりなのでなくなるはずはないのだが、現になくなっている。これはおかしいと一真は三人へ目を向けると、忙しそうに口を動かしていた。


「お前ら、俺のポテト食べただろ!」


 と言って、三人を睨みつける一真。対して三人の方は、食べてないと必死にアピールをしている。だが、どう見ても食べているようにしか見えない。恐らく、女子から連絡来たことに嫉妬してのことだろうが、流石にお金を払って買ったものを勝手に食べられるのは許せない。


 怒った一真は三人がそれぞれまだ手を付けていないハンバーガーやジュースを置換の異能を使って、ゴミと入れ替えた。


「あっ! 俺のハンバーガー!」

「ちょ、それ僕のシェイク!」

「おい! 俺のチキンナゲット返せよ!」

「やだね! 勝手にポテト食ったんだ! これくらいいいだろ!」

「良くねえよ! ポテトとハンバーガーじゃ釣り合わねえだろ!」

「そうだよ! 流石にシェイク一本とポテト数本じゃ割に合わないよ!」

「そうだそうだ! 度が過ぎるぞ!」

「お前ら好き勝手言ってるけど、先に仕掛けてきたのはそっちだからな!」


 食べ物の恨みは怖い。一真は割と本気で怒っており、一歩も譲らない。流石に三人も一真が本気で怒っていることを察して引き下がった。


「わ、悪かったよ。流石にやりすぎた……」

「ご、ごめん」

「すまん。でも、女子と電話してるお前が憎たらしかった」

「幸助は正直だな! まあ、謝ったなら許すけどさ。でも、聞いてたと思うけど、女子四人と勉強会出来るようにしてやったのに、この仕打ちはマジでないと思う」

『うッ……』


 三人の気まずそうな声が重なる。一真の言うとおりで折角、一真がお膳立てしてくれているのに恩を仇で返すようなことをした三人は罪悪感に苛まれる。

 反省しているようなので一真も、それ以上は怒ることなく三人から奪ったハンバーガーやジュースをぺろりと平らげた。


「それでさっきの話の続きになるけど、土日が空いてるらしいから勉強会は土日にしようと思うんだが、何時からがいいと思う?」


 新しく買ってきたポテトを食べながら一真は三人に土日の勉強会について相談する。三人は一真の話を聞いて考える。どのようにすれば女子と楽しく勉強会を過ごす事が出来るのだろうかと。


「朝からやって昼飯食って解散とかでいいんじゃね?」


 暁の無難な提案に太一と一真はそれがいいかと頷いたが、幸助だけは違った。幸助は暁の提案も悪くないが、それだと折角の女子との勉強会がつまらないものになってしまうと主張する。


「それだとダメだ。折角、女子も四人、男子も四人いるんだ! もっと交流を深めるべきだろう。たとえば、昼食後にカラオケとかボウリングとかして遊ぶべきだ!」


 それは一理あると首を縦に振る太一と一真の二人。そんな二人に反して暁は幸助に反論する。


「でも、それだと勉強に実が入らないだろ? 勉強会って名目なのに、目的が遊びじゃ不審に思われるって」

「うっ……。それはそうかもしれんが」


 暁の正論にたじろぐ幸助は視線を彷徨わせるばかりで、何も言い返せない。これは決まったかと傍観していた二人が思ったとき、幸助がなにか思いついたかのように真っ直ぐ暁を見据える。


「だが、そうでもしないと俺達は一生女の子に縁がない人生になってしまうぞ!」


 流石にそれは言いすぎではあるが、幸助の凄まじい気迫に暁も思わずうろたえる。


「んぐ……。だからって相手の好意に付け込むような真似は不味いだろ?」

「そんなだと彼女できんぞ! 恋は奪い合いだ! 俺の方が先に好きだったのにと後悔する羽目になるぞ、そんなんじゃ!」

「言いたい事はわかるけど、今回は勉強会だし……」

「バカめ! そこから更に仲良くなるには行動に移すしかないだろ! 暁、お前は彼女が欲しくないのか!」

「それは……。俺だって欲しいけど戦闘科と支援科じゃ釣り合わないっていうか価値観とか違ってくるし」

「確かに戦闘科と支援科じゃ色々違って大変だろうが、その先を見据えるんだ。戦闘科の子と仲のいい支援科の子を紹介してもらったりするんだよ!」



 なるほど、その手があったかと理解する暁はポンと手を叩いた。見事に納得させられた暁は幸助を褒める。


「負けたよ、幸助。今回はお前の勝ちだ」

「ふッ……」


 勝ち誇る幸助は鼻で笑う。そんな二人を見ていた一真と太一は賭けをしていた。


「幸助がドン引きされるにアイス一個」

「僕は幸助が盛大にやらかすに賭けるよ」


 といった具合で話は進み、土曜日の午前に勉強をして午後から遊びに行くという話しになった。一真はそれらの詳細を香織に問題ないかとメールを送る。


 それからしばらく、一真達が談笑を続けていると一真の携帯にメールが届いた。早速、メールを読んでみろと三人に催促された一真はメールを開いてみた。


 ざっと目を通して一真は携帯をポケットにしまう。三人は一真が目を閉じて、何も言わないので不安な気持ちで一杯になる。もしかして、勉強会は断られてしまったのではないかと。もしくは、こちらの思惑を見抜いて断ったのではと、不安な気持ちで一杯になる。


 そして、三人が不安そうに一真を見詰めていた時、一真が目を開いた。


「問題ないってさ」


 その一言を聞いて三人はガッツポーズで喜んだ。入学してから初めての出来事である。三人はクラスの女子とは話す程度だが遊んだりすることはなかった。しかし、今日一真のおかげで初めて女子と遊ぶ約束をしたのだ。しかも、相手は同じクラスの女子ではなく戦闘科の女子。これを喜ばずにはいられないだろう。


 さらに言えば一真が約束を取り付けた相手は美少女。幸助も確認済みなのでテンションは爆上がりだ。よって、幸助は一真にお礼だといってデザートのアイスを奢った。


「おお、サンキュー!」


 奢ってもらった一真は上機嫌にアイスを食べる。その一方で女子と勉強会という名の合コンを必ず成功させようと三人は意気込んだ。そのように三人が意気込んでいる事を知らない一真は幸せそうにアイスを食べていたのであった。


 その後、四人は解散してそれぞれの帰路へつく。一真は幸助と二人で寮へ戻り、自身の部屋へ戻る。

 部屋へ戻った一真はシャワーを浴びてから一人勉強に励む。


 勉強会があるからといって一真は怠る事が出来ないくらい成績が酷い。異世界から帰ってきて痛感したが、学力は中学生以下にまで落ちている。元々、成績は人並み程度であったので三年も勉強しなければ人並み以下になるのは当たり前だ。


 だからこそ必死に追いつこうと自主的に勉強をしているのだが、やはり一人では厳しいものがある。いっその事諦めてしまった方がいい。


 だが、それは出来ない。一真は人生でたった三年しかない高校生生活を灰色にしてはならないと奮起する。夏休みを補習で減らすわけにはいかないのだと、一真はひたすらに数学の問題集を解いていく。


「ふう……」


 少し休憩でもするかと一真が時計を確認すると、すでに0時を過ぎようとしていた。どうやら、かなり集中していたようだ。一真は問題集を閉じると、部屋に備え付けられている冷蔵庫の方へ向かい、冷蔵庫から水を取り出す。

 ゴクゴクと喉を鳴らしながら水を飲んだ一真は、そのままベッドへダイブする。


 ベッドに転んだ一真は携帯を取り出して、SNSやニュースを見る。特に面白そうな情報はなく、一真は大きく欠伸をしてから携帯を充電器に挿して眠りに就いた。

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