第26話 放課後遊びに行く

 異能テストも終わり、一真は幸助と一緒に教室へ戻る。教室には、すでに着替え終わった暁と太一が、二人を待っていた。帰ってくるのが遅かった二人に、暁と太一はどうして帰ってくるのが遅かったのと尋ねた。


「幸助、一真。遅かったけど、なにかあったのか?」

「あー、それが」


 一真は恵と香織の件を二人に話すと、話が長くなりそうだと思い、誤魔化そうとしたが、一真が喋るよりも先に幸助が遅れた理由を話した。


「聞いてくれ、二人とも! 一真は俺達に黙って戦闘科の可愛い女子と連絡先を交換していたんだ! しかも、二人とな!」

「な、なんだってーっ!?」

「それ本当? 幸助の見間違いじゃなくて?」


 あまりの衝撃に驚きの声を上げる暁に、信じられないという目付きで幸助に事実確認をする太一。嘘ではない事を証明する為に、幸助は一真に近付き、携帯を差し出すように命じる。


「一真! 携帯を出すんだ!」

「ええ、なんでだよ」

「勿論、俺が嘘をついてないってことを二人に教えるためだ」

「……はあ、わかったよ。言っておくけど、連絡先は教えないからな?」


 今は何を言っても無駄だと分かった一真は、二人の連絡先は教えないことを条件に、携帯の連絡先一覧を三人に見せた。

 暁と太一は幸助の言っている事が本当だったという事を知り、愕然とする。まさか、三ヵ月も遅れて登校してきた一真の方が先に女子と連絡先を交換するとは思わなかったからだ。


 しかも、相手は戦闘科の女子。同じクラスメイトを飛び越えて、戦闘科の女子から連絡先を聞いた一真は、三人からすれば尊敬に値する人物になりつつあった。


「おお、すげえ……」

「嘘じゃなかったんだ……」

「くそぅ……。何回見ても羨ましい!」


 三者三様の反応を見せて、一真は優越感に浸ることもなく、携帯をポケットにしまう。それから、一真は三人にある提案を持ちかける。


「で、遅れた理由はわかったと思うんだけど、重要なのはここからだ。太一が勉強会するって話あっただろ?」


 一真の言葉を聞いて、頷く三人は何かあるのだろうかと一真の言葉を待つ。


「その勉強会に、さっきの二人と友達を呼ぼうと思ってるんだ」


 次の瞬間、幸助が一真に抱き着いた。


「ありがとう。心の友よ!」

「都合のいい奴だな、お前は。言っておくけど、さっきのこと完全には許してないからな?」


 意外と根に持つ一真は、変わり身の早い幸助に冷たい目を向ける。


「それは、ほんとごめんって!」

「ようし、暁と太一だけの参加にしておこうかな」

「やったぜ! 流石、一真様だ!」

「まあ、教えるのは僕だしね。当然かな」

「えっ、俺は? 俺は?」

「知らぬ存ぜぬ」

「なあ、頼むよ、マジで! ホント謝るからぁ!」


 泣いて縋りつく幸助を尻目に、一真は話を続ける。


「まあ、日程に関しては向こうからの連絡待ちだから、待ってほしい。決まったら教えるよ」

「了解」

「わかったよ」

「ねえ、一真様! 私目にもお慈悲を!」

「う~ん、どうしようかな~」

「ホント、お願い! マジでお願いします!」


 土下座でもしそうな勢いで、床に両膝をつけて一真に縋る幸助に、他の二人は可哀想なものを見る目を向ける。本人は自己紹介で彼女募集中というほど女性に餓えているのだから、必死になるのも当然だろう。


「はあ、仕方ないにゃ~、幸助君は」

「へ? 許してくれるのか?」

「次の機会があったら呼ぶわ」

「嫌だーッ!!!」


 絶叫を上げる幸助を見て、一真は鬱憤が晴れたかのように笑う。そして、これ以上は流石に可哀想だから、許してやろうと幸助の肩を叩く。


「まあ、これくらいで勘弁してやるよ。ただし、次はガチでこっちも殴り返すからな?」

「え? それってどういうこと?」

「許してやる。そう言う意味だよ」

「おお、おお! すまねえ、ありがとう、一真!」


 涙を流し、幸助は一真に謝罪と感謝の言葉を告げる。一真が、なぜ、幸助だけに厳しかったのかは知らない二人だが、幸助が許されたのを見て、よかったよかったと拍手を送った。幸助も二人の拍手を貰って、ありがとうと笑顔を見せる。


 そんな四人を見ていたクラスメイトは、一体何がしたかったのだろうかと、困惑に満ちた表情を浮かべるのであった。



 ◇◇◇◇



 それから、放課後。一真達は街へ遊びに出かけた。つい最近、テロに巻き込まれたが、そう何度も起こる事ではないと楽観的に四人は考えている。

 もっとも、四人だけでなく多くの人間が同じような考えだ。テロに巻き込まれるなど、そうそう起こることではない。


 学生達の遊び場として定番になっているグランドワンにやってきた一真達は、カラオケではなく、ゲームセンターで格闘ゲームで遊ぶ事にした。


 アーケードコーナーに向かい、一真達は有名な格闘ゲームで遊ぶ。丁度、人数も四人いるので二対二のタッグマッチで遊ぶ事にした一真達は、それぞれキャラ選んでいく。


「おい、一真。何でカンガルーなんだ! そこは、こっちのお姉さんキャラだろ!」

「うるせえ! 俺はカンガルーこそ最強だと思ってるんだよ!」

「でも、お前、ダウンした時、パンツとか見えんぞ!」

「パンツ見たさに選んでんじゃねえよ! 負けたら、ゲーセン代奢りなんだぞ!」

「わかってるわ! 見た目だけじゃないって事を教えてやんよ!」


 一真と幸助の寮住みペアと暁と太一の実家住みで別れており、一真は何十というキャラクターの中から動物のカンガルーを選んでおり、幸助にダメだしを喰らっている。

 対して幸助は、ミニスカのギャルを選んでおり、一真に言っている通り、パンツが見たいのと、単純に好みで選んでいる。そこを一真に指摘されるが、幸助は実力で示すつもりでいた。


「太一も結構ムッツリだよな」

「なんでだよ。別に普通じゃないか」

「いや、だって、そのキャラ、ドSな性格じゃん。武器に鞭使ってるし」

「はあ? 別に鞭なんて普通じゃないか。そっちこそ、おかしいと思うけど? なんで、女子小学生みたいなキャラ選んだんだよ」

「え? 強いからに決まってるからじゃん」

「前もそう言って、同じキャラ使ってたよね。もしかして、ロリコン?」

「いや、ロリコンじゃねえし! 何言ってんだよ、ぶっ飛ばすぞ、お前!」


 こちらもこちらでひと悶着起こっていた。お互いの性癖が露骨に反映されているようなキャラを選んでおり、お互いに罵り合っている。なんとも悲しい喧嘩だ。


 くだらないやり取りを終えた四人は、いよいよゲームが始まり、気を取り直した。

 異能もなく、ただ純粋に己の技術だけで戦うゲームは、意外と盛り上がり、四人は白熱の戦いを繰り広げる。


 そして、五度目の戦いを終えて、勝ったのは太一と暁ペアだった。


「おい、一真」

「……俺のカンガルーは最強無敵なんだ」

「お前、四敗一分けってどういうことだよ! せめて、一勝くらいはしろって! お前、俺にパンチラで文句言ってたけど、お前の方が酷いじゃねえか!」

「うぐ……、面目ない」


 幸助は宣言していたように実力を示したが、残念なことに一真が足を引っ張った。幸助が白星を上げても、一真が黒く塗りつぶすので、幸助の頑張りは全て無駄になる。

 おかげで、勝負に負けてしまい、本日のゲーセン代は二人の財布から出る事になった。そのため、幸助は一真を責めている。


「約束覚えてるよな~?」

「僕たちの勝ちだから、よろしくね」

「くっそ~~~!」

「つぎはコアラにするかな」

「まずは、プレイヤースキルを磨け、一真は!」

「あ、はい」


 悔しがる幸助を置いて一真は、カンガルーではなくコアラで戦おうと決めた。が、口に出ていたようで、幸助に怒られてしまう。


 その後、レーシングゲームやシューティングゲームなどで遊び回り、四人はゲームセンターを満喫するのだった。

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