第23話 終わった後

 仮想訓練は香織達の国防軍チームが勝利を収めて、終了した。仮想空間に残っていた者達は、全員仮想空間から退去して、一真達がいるモニタールームへ向かう。

 モニタールームで訓練の行く末を見守っていた一真達の元へ、香織達がやってくる。支援科の生徒に戦闘科の生徒が合わさって、合計十五人もの生徒がモニタールームに集結した。


「香織ちゃん! 最後凄かったね! 私、ビックリしちゃった!」


 恵は宮園に負けて、すぐにモニタールームへ走り、香織と宮園の戦いを見守っていたのだ。


「ふふっ、ありがと。でも、あれは私だけの力じゃないの」


 そう言って香織は、恵から離れて、一真の方へ近付く。なぜか、こちらに近付いて来る香織に、一真は戸惑う。どうして、こちらに来ているのかと戸惑っていた一真は、もしかして自分ではなく、近くにいる他の誰かではと推測して、周囲を見渡す。


 しかし、一真の推測は見当違いで、香織は真っ直ぐに一真の下へ。一真は、自分の下へやってきた香織に驚き、焦って動揺していた。

 そんな一真の動揺を落ち着かせるように、香織は一真の手を取り、笑顔を見せる。


「ありがと、皐月君。最後に勝てたのは、皐月君のおかげだよ」

「え、え、え?」

「何言ってるかわからないと思うけど、皐月君が見せてくれた勇気ある行動に、私も負けてられないと思ったの。だから、最後は勝てた。ホントにありがとう」

「ど、どういたしまして?」


 なにがなんだか良く分からない一真だが、お礼を言われていることだけは理解できた。しかし、感謝されている理由がよくわかってないので、疑問系である。


「へえ~、あんたが皐月ってやつか?」


 そこに、香織と最後に戦っていた宮園が割り込んでくる。宮園は、香織が最後に言っていた皐月という人物に興味を示していたようで、一真の顔を興味深そうに覗きこんだ。なにせ、勝利を確信していたのに、香織が皐月の名前を上げてから見せた力に、宮園は負けたのだから、興味を持つのは当然の事。


「あ~、はは。どうも」

「ふ~ん」


 愛想笑いを宮園に向ける一真に、宮園はジロジロと一真の身体を見回す。


「ちょっと、失礼」

「へ?」


 一真の身体を見回していた宮園は、一真の腕を掴んだ。いきなりのことで驚く一真を無視して、宮園は一真の腕を撫で回す。


「意外と鍛えてるね。身体付きもいいし。うんうん、なるほどね。こりゃ、確かに夏目が気にしてたわけだ」


 喉につっかえていたものが取れたかのように、宮園は納得した。


「えっと……?」

「あー、悪いね。勝手に身体を触るような事しちまって」

「あ、それは別に。ただ、理由が知りたいなーと」

「ん? 理由? まあ、それは単に夏目が言ってたからだよ。それだけさ」

「あ、なるほど」


 モニタールームで一真も二人の戦いを見ていたので、宮園の理由も納得できた。しかし、少々恥ずかしいと一真は思っている。香織が、まさか自分の名前を呼ぶとは思いもしなかったからだ。


 香織の方は恥ずかしくなかったのだろうかと、一真は目を向けるが、香織は首を傾げているだけで、その心はわからない。どうしても、知りたくなったが本人が気にしていないようなので、一真もこれ以上を考えるのをやめた。


 それから、しばらくすると監督をしていた教師がやってくる。その手には、タブレットが握られており、今回の訓練内容の詳細が入っていた。


「全員、揃っているな。訓練、お疲れ様。今回は大変面白い結果になったな。見ていて楽しかったぞ。特に、支援科の皐月一真。君には驚かされてばかりだ。それは勿論、私だけでなく多くの者も同じだろう」


 教師の言葉に、香織や恵がうんうんと嬉しそうに頷いている。


「さて、今回の評価だが、国防軍チームは満点と言えるだろう。テロリストチームは、もう少しといった所だな。後ほど個人評価は、端末に送信しておく。今回、評価が低くても凹むことはない。君達は、まだ入学したばかりだ。これから、もっと成長するはずだ。なので、慢心することなく精進するように」


 と、教師の言葉により締め括られて実習は終わりを告げる。それから、教師は部屋を出て行き、残された十五名の生徒は、余った時間を利用して、一真へ質問攻めをするのであった。


 やがて、終業の鐘が鳴り渡り、解散となる。週末の金曜日なので、待っているのは土日という休日。ウッキウキの一真は、教室へ戻ると、そこには惨状な光景が広がっていた。


 終業の鐘が鳴ったのにも関わらず、多くの生徒が机に倒れ伏せており、ぴくぴくと震えていた。一体、何事かと一真は、一番近くにいた幸助の元へ駆け寄る。


「おい、幸助! 一体、何があったんだ?」


 机に伏せている幸助に駆け寄った一真は、焦ったように幸助に問い質す。幸助は、一真の声を聞いて、顔を上げるた。


「むしろ、お前はなんでそんなに元気なんだ?」

「え? そうか? 別に普通じゃないか?」

「バカ、お前、見てみろ。みんな、訓練のせいで死に掛けてるんだよ」

「あっ……」


 そこで一真が、思い出したのは朝の会話だ。支援科にとっては、仮想訓練は拷問みたいなもので、一真以外の生徒は嫌そうにしていた。それもそのはずで、戦闘科のいい的にされるからだ。

 支援科の生徒達が、机に伏せているのも、恐らく訓練の最中に怖い目にあったからだろう。一真は異世界で戦い慣れてたおかげで、大したことはなかったが、普通の感性を持つ彼ら彼女らには酷であった。


 そうだと分かった一真は、困ったように笑う。


「いや~、はは。俺は訓練で、そんなに酷い目には合わなかったからさ」

「ああ、そうか。初実習で、それは運がよかったな」


 幸助は一真と話してて、メンタルが回復したのか立ち上がり鞄を取った。


「まあ、暁と太一を起こして帰るか」

「それがいい。俺が太一を起こすよ」

「じゃあ、俺が暁を起こすわ」


 二人はそれぞれ分かれて、暁と太一を起こしに向かう。一真は太一を、幸助は暁を。


「おーい、太一。帰ろうぜ~」

「うぅ……、一真かい? もう終わったの?」

「とっくに終わってるよ。早く帰ろうぜ」

「わ、わかったよ」


 ヨロヨロと立ち上がった太一は、机の横にかけてある鞄を担いで、一真と一緒に幸助の下へ向かう。幸助は暁を起こしているのだが、暁は中々起きない。何があったのかを聞くと、暁はどうやら相手が悪かったらしく、仮想空間で散々痛い目に合わされたらしい。


「うう、わりい。みんな、俺ちょっと今日は真っ直ぐ家に帰るわ」

「僕も一緒に帰るよ。暁」

「すまん、太一。助かるよ」


 流石に一真も、引き止めるわけにもいかず、二人を見送って幸助と顔を見合わせる。


「これから、どうする?」

「まあ、俺らも帰るか」

「そうだな。幸助も辛そうだし、早く帰るか」


 幸助も平気そうに見えているが、やはり少し疲れているのだろうと一真は気遣って、真っ直ぐに寮へ帰ることにした。

 帰り道で、他愛もない話をしながら、寮へ帰った二人は、後ほど食堂で会おうと約束して、自身の部屋へ帰った。


 自室のベッドに寝転んだ一真は天井を見ながら、瞑想する。しばらくの間、瞑想を続ける一真であったが、セットしていたアラームが鳴り、ベッドから跳び起きた。


「うし、飯を食いに行くか!」


 食堂へ向かった一真は、幸助と合流して、豚のしょうが焼き定食を美味しそうに食べるのであった。

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