第24話 週明けの異能テスト

 土日を終えて、月曜日。一真はいつものように幸助と一緒に登校する。寮は学園の敷地外なので歩かなければならないが、大した距離はないので苦にならない。


 しかし、やはり月曜日というものは学生や社会人などは憂鬱になるものだ。一真と幸助も例に漏れず溜息が多い。土日、沢山遊んだ分だけ月曜日がとても辛いのだ。


「はあ……。学校だるいな」

「ああ……。もっと遊んでいたかった」


 と、二人がそう話していると暁と太一が合流してくる。四人揃ったところで気分が上がるわけでなく、全員が月曜日の憂鬱さに溜息ばかり。


 だが、いつまでも溜息ばかりではいけないと四人は気持ちを切り替えて教室へ向かう。

 教室へ着いた四人は、それぞれの席に鞄を置いて四人の中心人物である暁の元へ集まる。それから他愛もない会話で盛り上がり、始業のチャイムが鳴るまで四人は談笑していた。


 朝のホームルームが終わり一真達は授業を行う。一真は必死に授業を聞いて黒板に書かれたものをノートへ書き写す。授業で聞いた内容がどこで役立つかは分からないが、少なくとも中間テストや期末テストには役立つ。

 異能学園の支援科は、滅多な事では留年などしないが、あまりにも座学の成績が悪いと留年はする。その辺りは普通の学校と同じだ。


 とにかく、一真は異世界での三年に加えて入院生活の三ヶ月もあり、他の生徒よりもかなりのブランクがある。だからこそ必死になっている。なにせ、四月の入学式から三ヶ月遅れの登校。

 既に、七月で次期の間に夏休みが始まろうとしているのだ。夏休みと言えば、学生にとっては多くのイベントがあるであろう。

 当然、一真も暁達と遊ぶ計画を立てている。だが問題があった。それは夏休み前にある期末テストだ。


 それの何が問題なのかというと、赤点を三つ取った者は夏休みに地獄の補習があるのだ。これが戦闘科の生徒なら実技テストで挽回出来るのだが、一真は支援科なので筆記試験しかない。だから、必死に頑張るしかない。


 午前の授業を終えて、一真は真っ白に燃え尽きており、机に突っ伏している。そんな一真の元へ、三人が近寄り、声を掛ける。


「お~い、一真。大丈夫か?」

「……もう無理。絶対、補習確定だ」

「まあ、そんなにメソメソするなって。赤点さえ回避すればいいんだから大丈夫だろ」


 暁は簡単そうに言うが、一真には難しい。勉強してなかった期間が長いため、今更挽回するのは厳しいのだ。


「とりあえず、苦手な科目は?」


 四人の中で一番勉強の出来る太一が、一真にアドバイスをするため、質問をした。


「英語、理科、数学……」

「それ以外は、どんな感じなの?」


 聞かれた事を答える一真に太一は次の質問をする。一真は、机の中に手を突っ込むと、いくつか行った小テストを三人の前に出した。


 三人がそれぞれ一真の小テストを手に取り、点数を確認すると、苦笑いである。


「うん。諦めよう」


 英、数、理、は三つの点数を足しても十点にも及ばず、他の科目はぎりぎり赤点だ。期末テストまで、残り時間は少ない。これから一真に勉強を教えたとしても赤点回避は難しいと判断した太一は笑顔で一真を見限った。


「あ~、これは確かに……」

「無理だな。一真、頑張ってくれ」


 暁と幸助も太一と同じ意見らしく、一真の小テストを返した。


「そんな! 俺達、友達だろ! 助けてよ!」


 ここで、三人に見捨てられると、いよいよ不味いと一真は泣き叫ぶ。最初の夏休みが赤点の補習で悲しいものになるのだけは避けたい一真は、必死に三人へ頼み込んだ。


「頼むよ! もう俺一人じゃどうにもならないんだ! だから、勉強教えてくれ!」

「そうは言っても、この感じだと難しいよ? それこそ、睡眠時間削ったり、休み時間も削ったりしないと……」

「そこをなんとか出来ませんか!?」

「無理だよ。一真が天才でもない限りは」


 冷たく言い放つ太一に一真は涙を流す。太一の言っている事は正しい。一真は天才でもなければ秀才でもない。頭の方は至って普通の人間なのだ。ならば、人並みに努力するしかないのだが、時間が足りない。

 太一の言うように睡眠時間や休憩時間を削ってようやくなのだ。もう、一真に残された手はない。


 どうしようもない現実を知った一真は、がっくり項垂れる。流石に、可哀想だと思った太一が、項垂れている一真に一つの提案を持ちかけた。


「間に合わないかもしれないけど、勉強会でもしてみる?」

「え、でも、さっきは無理だって」

「うん。そう言ったけど、流石に友達を見捨てるのもどうかなって」

「おお……おお!!!」


 感激の涙を流しながら、一真は太一の手を握る。


「ありがとう、ありがとう」

「お礼はいいよ。まだ、赤点回避したわけじゃないんだからさ」

「それもそっか」

「いや、切り替え早すぎでしょ!」


 あまりの切り替えの早さにツッコミを入れる太一。それを見て他の三人は笑っていた。

 その後は、昼食を取って朝同様に他愛もない話で午後の授業が始まるまで盛り上がった。


 午後の授業は異能テストで、それぞれ別の会場へ向かう事になる。一真は三人と別れて、自身の異能テストを行う会場へと向かう。

 そこで、一真は自身の番が来るまで目を瞑って待ち続けた。どうして目を瞑ったのかというと、単純に友達がいないからだ。周囲の生徒は、それぞれの異能の結果に一喜一憂している中、一真は一人だけ目を瞑り腕を組んで沈黙している。


(悲しい……)


 時折、聞こえてくる楽しそうな会話に一真も混ざりたかった。お互いの異能テストの結果を言い合って、勝った負けたの競い合いをしてみたかったと、一真は心の中で静かに涙を流した。


 それから、しばらくして一真の番がやってくる。名前を呼ばれた一真は試験官の元へ向かい、異能を発動させる。


「ふむ。八メートルか。前回より三メートルも伸びているな。素晴らしい結果だ」

「ありがとうございます。ところで、国防軍の選考基準を教えてもらいたいんですけど」

「む? 君は国防軍に志願する気か?」

「いえ、まだ分からないですけど、少し気になって」

「そうか。少し待っててくれ」


 そう言って試験官は、手に持っているタブレットを操作していく。言われたとおり一真が待っていると、試験官が一真の聞きたかったことを教えてくれる。


「置換は半径五百メートルが最低ラインだな」

「五百が最低ラインですか……」

「ああ。置換は有用性が認められているが、距離がなければ国防軍では使わないそうだ」

「なるほど」

「悲観することはない。君はまだ一年生だ。これから、どんどん伸びるさ」

「はい。ありがとうございます!」


 とは言うものの、置換持ちが国防軍に採用される可能性は低い。半径五百メートルの壁が高く、大体が三百メートル前後で終わるからだ。一真の成長率が高ければ、見込みはあるが、やはり可能性は低いだろう。


 異能テストを終えた一真は前と同じく会場を後にして、敷地内にあるベンチに座って休憩していた。その時、ポケットに入れていた携帯が震えて、携帯を取り出した。

 取り出した携帯の画面には、幸助からメッセージが届いており、どこにいるのかと聞いているものだった。


 一真は、手早く幸助に返信して、携帯をポケットにしまい、ベンチでまったりしながら幸助が来るのを待つ事にした。


 ぼんやりと空を一真が眺めていると、そこに思わぬ客が訪れる。


「あれ~、皐月君だよね?」

「え? その声は木崎さん?」


 声のした方向に振り向くと、そこには恵がいた。実は戦闘科の恵も一真と同じく異能テストをしていたのだ。


「どうしてここに?」


 支援科と戦闘科の試験会場は別になっており、基本会うことはない。だが、なぜかそこにいる恵が気になった一真は、恵に訊いてみた。


「あ~、それはね。こっちに友達がいるの。それで様子を見に来たんだ。そしたら、たまたま通りかかった道で皐月君を見つけたんだよ」

「あ、そういうことか。てっきり、俺に会いに来てくれたんだと思ったよ~」

「あははは! それは、ないない」

「そ、そっすよね」


 ちょっとボケた事を言ったが、割と本気で否定されたので一真はショックを受ける。


「それで、皐月君はここで何してるの?」

「異能テストが終わったから、友達を待ってたんだ。もうそろそろ来るはずなんだけど……」


 キョロキョロと周囲を見渡すが、幸助の姿は確認できない。もう少し、時間が掛かるのだろうかと一真が思っていた時、着信音が鳴り響き一真は自分のではないと恵の方へ振り向く。思っていた通り恵の携帯だったようで、恵が携帯を取り出した。


「はい、もしもし」


 相手が誰かは分からないが、一真は聞き耳を立てるのもどうかと思い、少し離れる。少しの間、明後日の方を見ていた一真に恵が声を掛ける。


「ねえねえ、皐月君。これから香織ちゃんが来るって」

「え? 夏目さんが? なんで?」

「う~ん、わかんない。でも、さっき電話してた時に、皐月君の所にいるって話したら、話したいことがあるって」

「そうなんだ。なんだろ?」

「なんだろうね~」


 二人で考えるが、香織が一真に会いに来る理由は分からなかった。その後、二人はベンチに座って香織が来るのを待った。

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