第19話 くず二人
戸惑う一真に二人は優しく語り掛けて、三人で一緒に観戦をする事になった。一真は俊介の横に座りモニターに映る香織達の戦いを観戦する。
◇◇◇◇
一真が仮想空間から退去した事を知らずに、香織達は他のメンバーと合流する為に街を歩き回っていた。しかし、彼女達の表情はどこか優れない。何かを気にしているように見えた。
「……皐月君。大丈夫かな」
「……多分、平気よ! 皐月君って普通の支援科らしくないもの! だから、きっと、あの二人がビックリしてるはずよ!」
不安そうに恵が一真を心配して、香織が励ました。時間にしてみれば、ほんの僅かな付き合いではあるが香織は一真が普通の支援科ではないこと知っている。
それは勿論、恵も知ったはずだ。楓と戦っている時、一真が己の身を省みないで飛び出してきたのを見たのだから。
「そうだよね! うん、きっと、そう! 香織ちゃんの言うとおり、皐月君って普通の支援科らしくないもんね! だから、大丈夫だよね!」
「ええ、そうよ。だから、私達も早く味方に合流して皐月君を助けに行ってあげましょう!」
一真が既に死んでいるとは知らずに二人は盛り上がる。この戦闘訓練では通信機器もなければアナウンスもない。だから、味方が何人残っているか、敵が何人脱落したかなどは分からないのだ。
これには理由があって、生徒の緊張感をなくさないためだ。昔は、敵味方問わず、脱落者が出ればアナウンスで伝えていたのだが、そうすると終盤辺りで、生徒は気を抜いてしまうことが多くなったのだ。
敵が一人になれば、戦わなくてもいいと考える者や、味方が誰もいないとなると諦める者がいたりして、最後まで緊張感を持って訓練をする事が出来なくなった。だから、現在は緊張感をなくさない為に敵味方から脱落者が出てもアナウンスはしない。
そのおかげで敵が何人残っているのか、味方はいるのかと緊張感を持ち、最後まで諦めることなく訓練を全うする生徒が増えたのだ。
とは言っても、一部の生徒は訓練だからと言って手を抜く者はいるが。
それはさておき、三人は気持ちを切り替えて仲間と合流する為に街中を歩き回る。香織が先頭を歩き京子が真ん中で恵が最後尾だ。
残念ながら、京子の異能は支援系ではあるが索敵には向いていないのでただ守られているばかりだ。さらに付け加えるなら、一真が二人を助ける為に己の身を犠牲にしたこともあるので少々負い目がある。
同じ支援科の生徒なのに、一真と違いすぎて二人は落胆しているのではないだろうかと京子はネガティブ思考になっていた。
勿論、そのようなことはない。一真が異常なだけで京子が支援科として普通なのだ。だから、二人は特に気にしていない。だが、京子は二人の考えている事がわからないので罪悪感を抱いたままだ。
二人と対照的に暗い表情で俯いたまま京子は歩いていると、香織が立ち止ったことに気がつかずにぶつかってしまう。
「きゃっ」
「あ、ごめんなさい。大丈夫?」
「だ、大丈夫です。こちらこそ、気付かなくてすいません」
京子は慌てて頭を下げて謝る。自身のせいで二人に迷惑を掛けてはいけないと考えているせいで、京子は今まで以上に縮こまっている。
「香織ちゃん。もしかして、敵?」
最後尾にいた恵は、香織が立ち止まったので近くに人がいることを察した。敵かもしれないし、味方かもしれない。何にせよ、恵は戦闘態勢を取った。
「足音が二つ聞こえたの。私が見てくるから、二人はここで待っててくれる?」
「え、でも、一緒に行った方が安全なんじゃ?」
「そうだけど、もし、敵だったら、私一人の方が逃げやすいわ」
香織の言うことは正しい。香織は身体強化の異能者なので、単独で行動した方がいいのだ。それに、香織のペアであった一真もいないので、香織か恵は自由に動ける。二人のどちらかが京子を守ればいいのだから。
「じゃあ、香織ちゃん。もし、敵だった場合は何か大きな音でいいから合図を出して。それで、味方だったら迎えに来て」
「ええ、わかったわ。それじゃ、行ってくるわね」
「うん。気をつけて」
香織は二人に手を振って、一人駆け出した。残された二人は香織の背中を見送り、待つだけとなる。ただ、待たされている間に、敵が来てもおかしくはないので恵は、今まで以上に周囲を警戒しだした。
先ほどまでは、香織という心強い味方がいたので、安心感はあったが、今は完全に二人きり。もし、襲われれば、相手によっては苦戦するだろう。そうなれば、護衛対象である京子の身はどうなるかわからない。
「安心してね、京子ちゃん! 私が絶対守るから!」
「は、はい……」
兎にも角にも、二人は香織次第となった。運がよければ味方が増えて有利になり、運が悪ければ香織とはお別れ。つまり、最初の状況に戻るわけだ。恵と京子の二人だけに。もっとも、最初に戻るだけなのだが、京子の方は精神的に辛くなる。護衛が二人から一人になれば仕方がないことだろう。
一方で、二人と別れた香織は、足音の聞こえた方へ向かっていた。なるべく、足音をたたせないように、そして迅速に。敵だった場合は最悪戦闘になるかもしれないが、味方だった場合は最良の結果だ。
しかし、こればかりは運なので香織は足音の方へ近付きながら神に祈っていた。どうか、味方でありますようにと。
その祈りが通じたのか、香織が足音の聞こえた方へ向かうと、そこには味方の証である青い腕章をつけている男子生徒と護衛対象である支援科の生徒が周囲を警戒しながら歩いていた。
二人を見つけた香織は、歓喜に震えて、すぐに建物の陰から飛び出した。しかし、周囲を警戒していた戦闘科の男子生徒が香織を敵と間違えて迎撃する。
「ふんッ!」
「ちょっと!? いきなり、何するのよ!」
「む? 夏目か! 敵かと思ったぞ」
「あ、ごめん。声掛けるべきだったわね」
「ああ、そうして欲しかった。いきなり、飛び出してくるもんだから、敵と間違えても仕方ないだろ」
「う……。ごめん」
「まあ、いいさ。それより、一人か? 護衛対象がいないようだが?」
「それについては、後で話すわ。少し離れた所に恵と瀬戸さんが待っているの。合流してから、詳しいことは教えるわ」
「そうか。わかった。味方は多いほうがいいからな。早速、合流するとしようか」
運よく、味方と合流できた香織は、二人の下へ戻る。
その時、恵達の方は危機的状況に陥っていた。
「へへっ、ラッキー。まさか、こんな所で会えるなんてな」
「ようし、早速殺そうぜ」
香織からの合図もなかった二人は、建物の陰に隠れていたのだが、運悪く隠れている場所が見える位置から井上と田村が出てきたのだ。
おかげで、二人はすぐに見つかってしまい、危機的状況に陥った。
「……皐月君はどうしたの?」
「あん? 皐月って誰だよ?」
「あんた達が追っかけてた人よ!」
「あー、あいつか」
「そいつなら殺したぜ」
「なッ!?」
「アレは傑作だったよな〜」
「おー。俺の土操作で足グチャグチャにしてよぉ〜。そんで、こいつの火で炙り殺してやったんだぜ〜」
田村の発言に恵は息を呑む。一真が殺された。しかも、目の前にいるのは頭のおかしい二人組み。同い年なのに支援科の生徒を同じ人間と考えていない、はっきり言って最低の部類に入る人間だ。
「許さない……ッ! あんた達、絶対に許さないから!!」
「何、キレてんだよ〜」
「たかが訓練じゃん。それに俺らテロリスト側だからさ。なんも悪くなくね? むしろ、弱い奴が悪いだけじゃん」
「ふっざけんな! 私達は、皆を守ってくれる国防軍に憧れて、そうなりたくてここに来たの! あんた達みたいに弱い者いじめばかりしてる奴なんて相応しくない!」
「ぷっ、何言ってんの? 俺らは選ばれた人間なんだよ。だから、多少のことは許されて当然なのさ」
「そうそう。つーか、お前は何様なの? さっきから、説教臭いこと言ってさ。お前にそんな資格あんの?」
「ない! けど、許せないことはある! だから、ここで私が教えてあげる! あんた達は特別でもなんでもないってことを!」
激昂した恵は、風の異能を発動して空へ舞い上がる。敵は二人。されど、空中を自由自在に動ける恵の方に圧倒的なアドバンテージがある。
恵は怒りに支配されており冷静ではなかった。それが仇となる。
「土操作!」
「きゃあッ!」
「しまった! 京子ちゃん!」
「ぎゃははははッ! 護衛のくせに守るべき市民を忘れるなんて、とんでもない馬鹿だな」
「ッッッ!」
田村に指摘されるとは、なんという皮肉だろうか。恵は何も言い返せず、ただ悔しそうに歯を食いしばるのが精一杯だった。
「おら、さっさと降りてこい。さもなきゃ、わかってんだろ?」
「うぅ……!」
空に浮かんでいる恵に向かって、井上が脅し文句を言う。それと同時に田村が土操作で拘束している京子の拘束をキツくする。拘束している力が強くなり、京子が苦しそうに呻き声を上げるのを見て、恵は異能を解除して空からゆっくり降りる。
しかし、降りる際に恵は冷静さを取り戻して、近くの建物に風の大砲を放った。大量の窓ガラスが割れて、大きな音を立てた。突然、訳のわからない恵の行動に、二人は理解できずに笑い声を上げる。
「はははははは! 頭がおかしくなったか? それとも、怒ったら物に当たるタイプか?」
「はっはっはっは! そんなのどうでもいいだろ。さてと、それじゃ、何もすんなよ? これから、お前は的だ。さっきの奴よりは楽しませてくれよな」
愉しそうに顔を歪めさせて舌なめずりをする二人は恵に異能を向ける。これから、始まるであろう残虐な行為に京子は心配そうに恵を見つめる。絶体絶命の状況だ。もう、恵が助かる道はない。
だが、恵は諦めていなかった。そう最後に放った、風の大砲は怒りをぶつけたわけでも、威嚇をしたわけでもない。近くにいるであろう香織達に伝えるためだ。勿論、香織達だけでなく敵も来るかもしれないが、それでも確実に香織達には伝わった。
ならば、後は耐えるだけ。恵は覚悟を決めて二人からの異能を受けるのだった。
****
モニター室の一真達
一真「なあ、あれ、ホントにクラスメイトなの?」
俊介「いや、まあ、あいつらは、15歳で覚醒したから、ほら……アレだよ」
楓「厨二病だね!」
俊介「言葉を濁した意味!」
一真「それにしても酷い。もう犯罪者じゃん」
俊介「クラスメイトが申し訳ない」
楓「今度、敵になったらお灸を据えておくね……」
一真「いや、二人が謝らなくても……」
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