第18話 死んだ者達
仮想空間から出た一真は、VRマシンから降りて、死んだ人間というのはどうかと思うが、仮想空間で死んだ人間がいる部屋へ向かう。
すると、そこには一真を襲った男子生徒と、香織と恵の二人を相手に善戦していた女子生徒がソファに座りながら、壁一面にあるモニターを見ていた。
しかし、そこへ一真が来たので、二人はモニターから一真へ顔を向ける。二人から顔を向けられた一真は、曖昧な笑みを浮かべながら、軽く会釈する。
そして、一真もソファに座って、モニターでも見ようとしたら男子生徒の方が一真へ歩み寄ってきた。
「よう」
「え……! あっ!」
「その、さっきは悪かったな。ビビらすようなことを言っちまって」
一真の下に近づいた男子生徒は、軽く手を上げて一真に挨拶すると、すぐに謝った。先程の訓練の最中に、男子生徒は一真を襲った際に、物騒な発言をしていたのだ。彼は、その事を気にしていたようで、後頭部をかきながら、一真に謝っている。
その様子に一真はキョトンと固まってしまう。まさか、謝ってもらえるとは思ってもいなかったからだ。つい、先程、戦闘科の生徒に酷い目に合わされたばかりなので、少し勘違いしていた。戦闘科の生徒は、普通ではないと。
しかし、そんなことはなかった。彼はちゃんと、自分の言動が支援科の生徒に恐怖を与えるものだと理解していたのだ。だから、一真に謝ったのだ。
それが分かった一真は、目の前でバツが悪そうに目を逸らしている男子生徒を許すことにした。
「いいよ。気にしてないさ」
「そうはいかねえよ。俺は国防軍を目指してるんだ。いずれ、守るべき人達を怖がらしちまった。しかるべき、罰は受けるべきだ」
「真面目だな~。ホントに気にしてないのに。むしろ、テロリスト側らしかったと思ってるよ。迫真の演技だった」
「そこを褒められても嬉しくねえよ。てか、今更なんだが、お前見ない顔だな? 名前はなんて言うんだ?」
「不幸君。みんなからそう呼ばれてる」
「はあ!? お前が、あの入学式初日に事故った不幸君か! そうか。だから、顔知らなかったのか……」
「はは、やっぱり有名なんだな」
「まあ、一年で知らない奴はいないだろ。それで、本当の名前を教えてくれよ」
「ああ、いいよ。一真、皐月一真って言うんだ。えっと、君は?」
「あー、悪い。まだ、名乗ってなかったな。俺は俊介、
「いきなり、下の名前で呼ばれるとは思わなかった」
「ん? ダメだったか? 皐月って呼ぶのもいいかと思うんだが、ちょっと女っぽくてな」
「ああ、なるほど。そういうことか。まあ、呼びやすいように呼んでくれたらいいよ。よろしく、速水君」
「おう、よろしく!」
二人は互いに名前を呼び合って、握手を交わした。一真は意外と気遣いの出来る俊介と知り合えて良かったと思った。そして、戦闘科にも友達が出来た事に喜んだ。
「そうだ。思い出したんだけど、一真の異能はなんなんだ? 俺が最後に一真を攻撃した時、車のドアが一真の前に出てきただろ? あれは一体なんの異能を使ったんだ?」
一真と握手をした俊介は、思い出したかのように一真へ質問をした。
「あれは置換の異能だよ。夏目さんと速水君が戦ってる時に、念のために、その辺の石ころを拾って、車のドアと入れ替えるように準備しておいたんだ」
「おお、マジか! 凄いな! でも、よくあの時、動けたな。自分で言うのもなんだけど、結構怖かったと思うぞ?」
「あー……、はは、まあ、確かに迫力あったけど、夏目さんのおかげで割と余裕あったから」
「なるほどな。確かに、夏目が味方なら心強いもんな。まあ、それでもお前も凄いよ。普通の支援科ならビビッて動けなかったはずだし」
「ふっ、一度死に掛けた事があるからな!」
「ははははははは! そりゃ、説得力あるな!!!」
バシバシと一真の背中を叩く俊介は大笑いした。一真の自虐ネタは、俊介のツボにはまったようだ。
「いやー、面白いな。一真は。今度、組む事になったら頼むわ」
「任せろ! ただし、トラックは勘弁ね」
「だはははははははッ! やっぱ、最高だわ!」
俊介は一真の自虐ネタにはまったのか、大絶賛である。さっきから、ずっと笑いっぱなしで、目尻には涙が溜まっていた。
「ホント面白いな、一真は!」
今も、お腹を抱えて笑っている俊介は、目尻の涙をふき取って、一真の背中を叩いた。
「よし、じゃあ、観戦でもしてようぜ」
そう言って、俊介は一真を連れて、一緒にモニターの前に移動していた時、今まで黙っていた女子生徒が立ち上がった。急に立ち上がった女子生徒へ目を向ける一真は、女子生徒と目が合う。
目が合った女子生徒は、俊介と一真の方へ寄って来る。そして、ズイッと一真に近付き顔を寄せる。一真は思わず仰け反り女子生徒から離れようとしたが、見えない力で引き寄せられる。
「うわッ!」
「やっほー。話すのは初めてだよね。私は、
「おい、槇村。いきなり、念力使ってんじゃねえよ。一真が驚いてるだろ」
「えー、だって、逃げようとするから」
「それは、お前がいきなり顔を寄せるからだろ! 普通、驚いて離れようとするわ!」
俊介が一真の心情を読み取ったように、楓に説教をした。それを聞いていた一真はまさにその通りだと言わんばかりにコクコクと首を縦に振っていた。
「そっかー。ごめんね。どうしても、気になっちゃってさ。ほら、私が戦ってた時、二人を手助けしようと飛び出してきた支援科なんて珍しすぎて、話したくなるよね?」
「え? マジ? 一真、そんなことまでしてたんか!?」
「そうそう。私、ビックリしちゃってさ。それで、負けたんだよね」
「それが原因だったのか! ずっと、モニターで観戦してたけど、分からなかったんだよな、槇村が負けた原因が。でも、その話聞いて、納得だわ。確かにそれなら、槇村も負けるわ」
「音声入ってたでしょ? 分からなかったの?」
「叫び声しか聞こえなかったからな。誰なのかわからなかったんだよ。でも、まあ、一真だってんなら納得だな。それにしても、ホント支援科らしくないな、一真は」
「うんうん。私も支援科が戦闘科を助けに入るなんて予想もつかなかったし」
「あのー、お二人で盛り上がってるところ、悪いんだけど、槇村さんって、もしかして有名なの?」
「あ、そうか。一真は知らなかったな。こう見えて、こいつは一年の戦闘科ではトップスリーに入るくらい、強いぞ」
「えっへん。私こそが、一年生最強の念力使いなのだーッ!」
胸を張ってドヤ顔をする楓に一真は唖然とする。香織と恵が二人掛りで戦っても倒せなかった人物が、まさか学年でトップスリーに入る人物とは思いもしなかった。しかし、あの戦いを見ていた一真は、すぐに納得した。目の前にいる人物は、紛れもない強者だと。
「でも、残念だったね、皐月君」
唐突に、残念扱いされる一真は首を傾げる。一体、なにが残念だったのだろうと一真は、楓に尋ねてみた。
「えっと、なにが?」
不思議そうな顔をしている一真に、今度は楓が首を傾げた。
「え、あれ? ほら、皐月君って井上と田村にやられちゃったじゃん。しかも、結構エグイ目にあって」
「ああ、うん」
「あれ? 私がおかしいの?」
楓は一真の反応が支援科の生徒らしくないので、自分がおかしくなったのかと俊介を見た。しかし、俊介も一真の反応に困っているようで楓と目が合っても首を横に振るだけであった。
「えっとさ、普通あんな目にあったら、怖がらない?」
「あー! そういうことか……」
一真は、二人がどうして困惑しているのかを察した。恐らく、二人はモニター越しに一真が、井上と田村によって酷い目に合わされていたのを見たのだろう。だから、一真がトラウマを抱えてしまったのではないかと心配しているのだ。
その事が分かった一真は誤解を解くべく説明することにした。
「いや、確かに怖い部分はあったけど、仮想空間で死なない上に痛みも感じなかったから、そこまで怖くはなかったよ」
「でも、思い込みで痛みを感じるときはあると思うけど……」
「よっぽどの事なら、多分あると思うけど、あの二人のはそこまでじゃなかったかな」
一真のそんな発言を聞いて、楓と俊介は顔を見合わせる。先程の光景は、どう見ても酷いものであった。両足をぐちゃぐちゃにされて、片腕を炭にされ、最後は全身火だるまだ。果たして、どれだけの人間がそれに耐えられるのか。恐らく、支援科どころか戦闘科でさえトラウマになってしまうだろう。
二人はもう一度、一真の顔を見て無理をしていないかを確かめる。しかし、一真は不思議そうに首を傾げているだけで本当に恐怖を感じていない様子だ。そんな一真を見て二人は一旦、一真から離れる。
そして、一真に聞こえないように小さな声で話し合う。
「なあ、どう思うよ?」
「演技じゃないと思う。多分、事故の後遺症とかかも」
「あー、それだ。そうでもなけりゃ、普通の人間があんな拷問じみたことされて、怯えないわけがない」
「だよね。多分、戦闘科の生徒でもあんなことされたら、普通にトラウマだもん」
「ああ。間違いない」
二人は一真が事故の後遺症で、脳になんらかの問題があるのだと納得して、一真の下へ戻った。何故か、生暖かい眼差しを向けてくる二人に一真は戸惑うのであった。
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