第14話 味方と合流

 近づいてくる香織に一真は労いの言葉を掛けようとするが、それよりも先に香織が一真の肩を掴む。いきなり、肩を掴まれて動揺する一真は香織に声を掛ける。


「え、えっと、夏目さん?」

「怖くなかったの?」

「え? 怖い? どうして?」

「ッ!?」


 香織の言葉に純粋な疑問を浮かべる一真に、香織は鳥肌が立つ。確かに、先程の一真が見せた行動は見事なものだったが、それ以上に支援科の生徒・・・・・・が何故、戦闘科の生徒に襲われても、一切動じなかったのか。それが不思議で堪らなかったから、香織は問い質したのだが、一真は質問の意図が全くわかっていなかった。

 しかし、香織は思い出す。一真は最初に狙われた際に悲鳴を上げていたことを。つまり、恐怖心がないわけではないはず。だが、最後に見せた動きは、どう説明されてもわからない。最初は確かに怯えていたはずなのに、何故、最後は動揺することなく動けたのだろうか。


「ねえ、もしかしてだけど、事故で後遺症とかあるの?」

「え? 特にないけど、なんで?」

「そう、特にないのね……」


 香織は一真が事故の後遺症で、脳になにかしらの問題があるのではないかと推測した。そこで、質問をしてみたのだが、一真は特にないと言うので、香織の推測は外れてしまった。そのせいで、ますます訳がわからなくなる香織。支援科の生徒が、戦闘科の生徒に襲われて、あのような動きは可能なのだろうか考える。

 しかし、いつも戦闘訓練で見ている支援科の生徒は一真という例外を除いて、ほとんどがパニックを起こして逃げ惑う姿しか見せない。ならば、やはり、おかしいのは一真で、正常なのは香織だ。


「あの〜、さっきからずっと何か考えてるけど、何かありました?」

「あ、い、いえ、なんでもないわ」

「そ、そうすか? じゃあ、早くここから、離れたほうがよくないですか? 結構、派手に戦闘音が響いてましたから」

「あ、そ、そうね! そうしましょ! 早く味方に合流しなきゃね!」


 一旦、香織は思考を切り替えて訓練に集中することにした。これ以上、考えても仕方がないだろう。一真が異世界に転移して、三年間も生死を掛けて戦い続けた人間だと、誰も思いつきはしないだろうから。

 一方で一真は、香織が挙動不審な反応になったので、見当違いな心配をしていた。まさか、香織が自分を怪しんでいるとは思いもしていないだろう。


 それから、妙に気まずくなった香織は、一真の方を何度もチラ見するが、声を掛けようとはしない。そんな香織を見て一真は勘違いしてしまう。


「(はっ! まさか、さっきの俺がカッコよくて惚れたのでは!?)」


 断じて違う。香織は一真が、支援科らしくない反応を怪しんでいるだけで、一真に対して恋心が芽生えたとか、そういうのではない。もし、このまま一真が勘違いをしたままなら、近い内に大惨事を引き起こすことになるだろう。主に一真だけだが。


 二人がすれ違いを起こしていると、人の気配を一真は感じ取る。どうやら、今度は味方かもしれない。一真達と同じく二人組の気配を感じたのだ。これで、敵だったら完全にアウトだが。


「(頼む! 味方であってくれ!)」


 ちなみに香織の方はまだ気がついていない。一真は先程と同じように教えようかと考えるが、アホな勘違いをしているので、香織を迂闊に刺激してはいけないと判断した。それが、吉と成すか、凶と成すか。


 そして、どんどん近づいてくる二人組の気配と、もうすぐ遭遇する所まで来ていた。一真は天に祈る。味方であってくれと。その祈りが通じたのか、曲がり角から姿を現したのは、髪をボブカットにした女の子だ。しかも、香織と同じように味方の証である青い腕章を巻いていた。


「(ひゃっほう! 女の子が増えたよ〜!)」


 さらに、その彼女の後ろには一真と同じく支援科の生徒がいる。偶然とはいえ、一真はハーレム状態となってしまい、舞い上がった。


「香織ちゃん!」

めぐみ!?」


 曲がり角から現れた女の子は香織の姿を確認すると、一直線に香織へ向かって飛びついた。飛びついてきた恵と呼ばれる女の子を香織は受け止める。


「よかった〜。最初に合流できたのが香織ちゃんで」

「私の方こそ、恵で良かったわ。他の誰かには会ってないの?」

「うん。ずっと、歩きっぱなしで、味方を探してたんだ。それより、そっちの子は? 支援科の生徒だけど、見かけない顔なんだけど……?」

「あー、彼はほら、不幸君よ」

「えーッ! 彼があの有名な不幸君? 入学式初日に交通事故で入院してた、あの不幸君?」

「ご丁寧な説明どうも。皐月一真って言います。よろしく」

「あ、ごめんね! 別に馬鹿にしているわけじゃないんだよ?」

「いや、それはわかりますって」

「わかってくれて、ありがと! 私は木崎きさきめぐみ! 香織ちゃんと同じ戦闘科だよ! よろしくね!」

「よろしく」


 なんとも、ふんわりとした恵に一真は癒やされる。香織はキリッとしたクールビューティーで、恵はほんわかとしたキュートな印象だ。一真は今だけは神に感謝した。最高の出会いをありがとうと。なんとも現金な男であるが、得てして男とはそういうものだろう。


 しかし、忘れてはいないだろうか。恵の他にもう一人いることを。しかも、一真と同じ支援科の生徒だ。


「あ、あの……」

「あっ! ごめんね! 京子きょうこちゃん! 私達だけで盛り上がちゃって」

「い、いえ、別に大丈夫です。怒ってるわけじゃないので……」


 恵は自身の守るべき相方である瀬戸せと京子きょうこに謝る。ただ、京子は別に怒っていないので、謝罪は不要だと恵に気を使う。そんな京子はどちらかと言うと、一真の方を気にしていた。先程から、一真の方を何度か見ている。一真も、その視線に気がついていたが、声を掛けようとはしない。

 なにせ、一真と同じクラスなのだが、三ヶ月遅れで登校してきたので、お互いにどう接すればいいかわからないのだ。なので、気まずい。本来なら、支援科でクラスメイトなので互いの無事を喜ぶべきなのだろうが、一真のせいで話しかけ辛いのだ。


「ん? どうしたの、二人共? なんだか、おかしいけど……?」


 二人の気まずい雰囲気を感じ取った恵が、一真と京子を見回す。恵に心配されてしまい、二人はなにか言おうとしたが、言葉が思い浮かばない。そうこうしていると恵が、とんでもない勘違いを引き起こす。もしかして、二人は告白した、された関係なのではと。

 だから、先程から気まずい雰囲気を漂わせているのだ。そう勘違いしてしまった恵は、どうしようと慌ててしまう。二人がギクシャクしているとチームの雰囲気は悪くなってしまう。そう考えた恵は香織に協力してもらって、二人に仲良くしてもらおうと決めた。


「香織ちゃん、香織ちゃん」

「ん? なに、恵?」


 恵は身長が香織より低いので背伸びして、香織の耳元に小さな声で話しかけた。香織は恵を気遣って、耳を寄せて話を聞く。


「もしかしたら、あの二人って告白したかされたかの関係なんだと思うの! だけど、今は戦闘訓練だから、仲良くしてもらわなきゃ! だから、私に協力して二人の仲を良くしよう!」

「……ねえ、恵。皐月君はついこの前まで入院してたんだよ。それはないんじゃない?」

「そんなことないよ! 一目惚れして、その日に告白することもあるよ!」

「いや、そうかもしれないけど……」


 恵の言い分も、確かに可能性としてはあり得るかもしれないが、あの二人はどう見てもそういう関係ではないと香織は踏んでいる。実際。香織の推測は正しい。二人はクラスメイトだが、お互いにどう接すればいいかと気まずい雰囲気になっているだけで、告白云々は間違いである。


「ねえ、恵。私が皐月君から話を聞いてみるから、恵は瀬戸さんと話してみて」

「そうだね! まずはお互いの事情を知らないといけないもんね!」


 若干、暴走ぎみではあるが恵は香織の意見に賛成して、京子の方へ向かう。香織は、一応、恵の勘違いが正しいのかもしれないので、念の為に一真へ確認するのだった。

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